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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
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1052.王太子妃殿下の苦悩 その参〜彼女の交流関係を考察する〜。





 シンフォニア王国、王太子妃。

【セレスティナ・フォル・シンフォニア】視点:




 本人は自覚しておられないようですが、有り余る才能で様々な分野で問題を引き起こしては私達王族だけではなく、国の上層部を悩ます存在。

 まぁ彼女自身に悪意はなく寧ろ善良な人間で、周囲が勝手に問題を引き起こすのが本当の所ですが、彼女が原因で問題が起きている事には変わりありません。

 それでも私達王族が彼女を擁護し、それとなく助けるように根回しするのは、彼女の才能が国にとって有益である事と、彼女自身が恐ろしい力の持ち主だからです。


「いい加減に彼女に伯爵位を与え、辺境伯の任を任せたい」


 御父様である陛下がこう言い出すくらいにです。

 彼女の恐ろしいまでの力が世間に知れ渡り、取り返しの付かない程にまで問題が大きくなってしまう前にと、問題の出ない範囲で彼女の功績を幾らか公にして、辺境伯という国を守るための装置として国の最西方面を守護させる事で、彼女の畏怖の対象としてから目を逸らさせる事にしました。

 王家としても最悪な事態は避けたいため、彼女の本当の恐ろしさは伏せる事にしたのです。

 例え、畏怖の対象と見る者がいたとしても、真面な手段であれば船でしか足を運ぶ事が出来ない遠い地であれば、その畏怖も薄まるというもの。

 もしも彼女がその気になれば、空間移動の魔法を持つため、実際にはなんの枷にもなりませんけどね。

 そこは我々王族が、彼女の敵ではなく味方だと、上手く付き合って行けば済む事。

 恐ろしいまでの力を持っている事とは裏腹に、彼女自身は穏やかな人間ですからね。

 だと言うのに愚か者達が、よりにもよって彼女の逆鱗に触れたのです。


「たった一人で、三万人以上の敵軍を相手に手加減して全員を生け捕りにしたよ。

 しかも実質は四半刻も掛けずに決着が付くだなんて……、負ける事は無いとは思ってはいたが、この結果は想定外だった」


 ええ、主人であるカーライル様が、頭を抱えてながら愚痴を溢していました。

 その事に私も溜め息を吐きたい気分です。

 彼女がその気になれば、王都すら半日持たずに灰燼に帰するであろう事は、トライワイト王国の艦隊を一方的に壊滅させた時点で分かっていました。

 幸いな事に彼女は平和主義で……実際には面倒だからしないだけでしょうが、それでも強い力を見せびらかす事を好んでおりませんし、彼女の恩人の一人に魔導士がいる事からか、その事で魔導士の迫害が起きてしまう可能性を危惧して避けています。

 今回の件も陛下が機転を利かせてくださったため、最悪の事態は防げたのですが……、これをどう収拾しろと?

 王城中を恐怖のドン底に陥れただけでも事態の収拾に苦労したというのに、その戦果を持って、彼女が恐ろしい存在だと知らしめずに済ます方法など、どう考えても無理でしかない。

 では、考え方を変えるしかない。


「愚か者達の愚かしさと、その顛末の方に力を入れましょう。

 彼女の力だけではなく、天罰を受けた結果だという風に広めれば、少しはマシな形で広がるかもしれません」


 本当に苦肉の策でそう提案しました。

 愚か者達が愚劣極まりない手段を取ったのは事実ですし、国の定めた法律を破ったのも事実。

 聖オルミリアナ教会の一部の者達が、彼女を聖女と崇めている事はそれなりに知られていますので、本当に天罰が落ちたと話しが広がってもおかしくはありません。

 そして幸いな事に死者を出す事なく大敗を喫した事から、彼女の恐ろしいまでの力とそれに至るまでの過程よりも、愚か者達が売ってはならない相手に喧嘩を売ったと、大軍を率いながら大敗する能なしだと、面白可笑しく笑い話として広まりました。

 国の影達は、相当に頑張ったようです。

 彼女が捉えた捕虜に対して、丁寧に扱うように厳命していた事も良い方向に働いたのも事実でしょう。

 先ずは湯に入れて汚れと埃を落とさせ、捕虜とは思えない程に内容が十分な食事をさせ、決められた敷地から出ない限りは自由にさせていたそうですからね。

 ですがこの愚か者達との一件が、彼女の力や功績をこれ以上隠すのは無理だと決断する事になりました。

 本人は静かな山奥で静かに過ごしたいとの事ですが……、まぁ無理ですね。

 自覚がないし、自覚を促しても理解していない以上、王家の力を以てしても無理です。

 そもそも本人の見た目は勿論の事、やる事はそれ以上に派手です。


「私、魔法がなければ、只の白いナニカですよ」


 当人からして此れですから、本当に頭が痛くなる。

 目立たないと言うのは、精々背が低い事くらいでしかありません。

 色なし(アルビノ)と言うだけで目立つ存在ですし、容姿もそれなりに整っています。

 将来的な事を鑑みれば、絶世の美女という訳ではありませんが、それでも王城に出入りする女性達の中では上位にいると言うのに、その自覚が欠片もないと来ている。

 現状では幼い見た目ではありますが、立ち居振る舞いなどの所作が綺麗なため、それだけに尚更人の目を引きます。

 なのに中身がアレですからね、御両親や教育係はさぞかし苦労された事は容易に想像が付きます。


 で、魔法がなければと言っていますが、貴女、魔法がなくても様々な事を成しているでしょうがっ!

 いい加減に自覚しなさいと、何度怒鳴りたくなった事か。

 政治に関わりたくないと言いながらも、どれだけ改善案や企画を出したと思っているのです。

 中には普通に叙勲ものどころか、爵位が無い者であれば、爵位を得るだけの功績をに匹敵したであろうものが幾つもあるし、陞爵しても当然の物まで。

 彼女が持つ商会の勢いなど、今更言うまでもない事。

 魔法がなくても、その勢いがやや大人しくなる程度でしかないであろう事は、国の調査でも出た結論でもあります。


 で、肝心の魔法と言えば、魔法そのものよりも魔法を使った都市開発や、魔導具による文化の急発展。

 どれも過去に類を見ない程の勢いです。

 これで派手でないなど、どの口が開くのですかと言いたい。

 確かに目立たないようにする努力は所々目に付きますが、結果が伴っていなければ同じ事です。

 それこそ幼子の後ろに逃げた馬が幼子の背中に顔だけ隠して、隠れきったと安心しているようなもの。




「あまり彼女ばかりを贔屓するのは如何なものかと思うのですが」


 相変わらず彼女の社交界での評判は良くない。

 私達を始めとする周囲の努力の甲斐があって、以前よりもマシになってきたとは言え、彼処まで成功している人間がいれば、その人間に対して妬み僻み誹りが生まれるのは仕方がない事ですし、彼女自身も社交を好まないため、悪評が収まらないのも無理もない話。

 誤解をしている者が多いようですが、彼女は社交が出来ない訳ではない。

 寧ろそこらの婦人達より余程巧くやっていると言って良い。

 ただ、当人の面倒臭がり屋の性分も手伝ってか消極的。

 そして消極的な事と見た目が幼い事から、どうしても彼女を下位に見て、彼女の成功を僻み、彼女に対して少しでも有利な位置に立つ事でその成功の甘い汁に預かろうとする者が出てしまう。

 そしてそんな相手に彼女は上手く躱せるものの、同じ事の繰り返しになるからと基本的に相手にしない。


『いい気になるなよ』


 と、相手にされないのであれば引けば良いものの、彼女の見た目が幼い事もあって引くに引けずに、尚更に己を弁えずに踏み込みすぎてしまう。

 彼女の力と本質を理解出来なければ、それも無理もないのでしょうが、あまりにも迂闊で稚拙な行動。

 大抵は相手個人で済みますが、中には家ごと再起不能になった事も何度かありますし、その有様があまりにも悲惨。

 素直に殺されていた方が、余程貴族としての面目が保てたでしょう。

 もう少し手心を加えてはどうかと思うものの。


「一線を踏み越えすぎた者を相手に手心を加えるなど、貴族の矜持として許されるのですか?」


 そう言われれば、確かに何をされても文句は言えない程に一線を踏み越えていますから、仕方ない事ではあります。

 寧ろ貴族として激高して見せなければならない事だと言えましょう。

 ですがその前に警告などして、そういう事態が起きる事そのものを……と思った時点で、そう言う事をする愚か者は、忠告をしようが彼女の幼い見た目で判断して一線を踏み越えない訳が無い事に思い至る。

 おまけに彼女は罠を張る事に長けているため、小物でありながらも警戒心の強い相手には、平気で自らを囮に罠を張る事を躊躇しない。

 無論、そう言う事をする相手は、彼女が敵だと判断した相手のみなのでしょうし、敵だと判断するだけの理由があるのだと信じられます。

 影からの報告書にもそのように書かれていますので、それは間違いないでしょう。

 あまりにも似たような事が起きるため、彼女にも相手にも自制を求めるのは諦めました。

 とにかく何かあれば相談するように、周囲から言い聞かせるのが一番被害を抑えられると判断したからです。


「此方が、今月の報告書です」


 そんな彼女にも社交界で受け入れる女性達はそれなりに出てきていますし、彼女の個人的な知人や友人も出来てています。

 王族であれば義妹のフェニシア様ですし、ヴォルフィード公爵家のレティシア様にアーカイブ公爵家のリューセリア様が若い世代の中での代表とされるでしょう。

 彼女達は家の方針と言うのもありますが、それ以上に彼女達自身が彼女を認め、彼女と友人である事を望んだ者達です。

 今渡された報告書には、彼女の現状の交流関係が示されています。

 色々と問題を引き起こす彼女ではありますが、以前に申したように彼女自身は温厚で善人として分類出来る人間です。

 社交界で弱い者虐めをする姿を見ればそれとなく助けますし、貴族女性の中には彼女と同じく刺繍や詩を読む事よりも技術に傾倒する方もおりますので、そう言った方とは話しが合うようで、楽しそうに会話をする姿を見るとの事。

 大抵はそう言った方は下級貴族の家の方が多いため、下級貴族の方に多く支持されていると言って良いのでしょうが、その下級貴族によく相手の事を知らないままに彼女を敵視する者も多いのが実情。

 彼女が原因で家の財政が傾いた家程その傾向が強いのですから、これはもうどうしようもない事。

 まぁ国側から見れば、商売敵が出たからと、その事に対応出来ないままに落ちぶれる家が悪い事になりますので、その事で味方をする事はありません。


「ふふふ、私のような老婆を相手に何時も気に掛けてくだり有り難いわ」


 当然、高位の貴族の中でも、彼女を理解する御年輩の御婦人方も増えています。

 家同士の相互利益という枠を超えて、彼女は彼女を守る人間を大切にしますし、困る事があれば相談に乗っている様子。

 高度な魔法を使う彼女からしたら、たいした労力でない事も多いからなのでしょうね。

 でもそういった力業だけでなく、多くの知識を得るために日々の努力によって手にした知識と見識が御婦人達の力になる事が多く、御婦人達も彼女がただ単に才能に恵まれただけの人間ではないと、彼女を認めているようです。

 何よりそれを成すのが、彼女の心優しい気遣いから来るものだと理解しているのでしょう。

 おべっかや胡麻擂りからの行動ではないと。

 人より隔絶した力がある彼女からしたら、そんな事をする必要が無いのですからね。

 そうして彼女は少しずつではありますが、理解者と味方を増やしている事が分かる報告書に、少しですが気持ちが温かくなっている事を自覚してしまう。


「彼女に力が無ければ、今とは違う関係だったかしら?」


 ふと出てしまった独り言に首を横に振る。

 有り得ない事だと。

 彼女に今のような力と才覚が無ければ、彼女は今頃生きてはいなかっただろうし、病に冒されてなかったとしても、そしたら彼女の名前を聞く事すらなかったであろう。

 そして彼女と同じ病に冒されたラードも、病が癒える事なく約束の地に旅立つ事になった事は間違いない。

 何より私は王太子妃であり、将来の国母。

 何も利害関係の無い友人を持つ、などと言った惰弱は許されない。

 きっと今ぐらいの距離感が丁度良いのよ。

 互いに信頼して利用し、利用される相手。

 彼女の友人にはなれなくても、彼女を陰ながら支えられる頼れる知人であればね。







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