1037.社交命令と酒屑製造のお話。
謝罪のための使節団って、また面倒臭い物をと思いつつも、国の対応としては比較的真面で、此方に譲歩した物だとも冷静に判断する。
唯ね、国同士の遣り取りだから、私、要らないやんと思うものの、一応は発端の当事者だからお断りが出来ない案件。
だってねぇ、おそらくは一言二言話すだけで、後は案山子状態で一日で終われば良いのだけど、下手をすると数日潰される事になるんだよ。
面倒臭いと思って当然じゃない。
「面倒臭そうだな?」
「正直に言えばですが」
「僕も同じ気持ちだ。
だが我慢して付き合いたまえ、元と言えば君の所の案件だ。
事が大きい事態だったため、僕等の方が巻き込まれたと言える以上、君だけ逃げれるだなんて叶うと思うなよ」
「ですよねぇ……」
でも、陛下の言うとおり、私の領の事情に国が巻き込まれたのも事実なんですよね。
仕方ないのでお詫びの気持ちとして、芋から造ったお酒を蒸留して更に楢の木で作った樽に入れて五年寝かせた酒を、こそっと人数分だけ瓶をお出ししておく。
寝かすのに樽に使われている木の種類によって味や風味が変わるから、気候や寝かす環境も合わせて考えると、中々に奥深いんですよね。
楢の木と一言に言っても色々な種類があって、その中でも味や香りが変わるのに内部を殺菌を兼ねて焼くのだけど、その焼き加減でも香りや風味が変わる。
まだそこまで出来ていないけれど、使い終わった樽を再利用した際に樽に染みこんだ香りが更に味わい深い香りを生み出すと前世で効いた記憶があるから、お酒造りは世代を超えて時間を費やす仕事だと言える。
だから、本当の蒸留酒はある意味高くて当然なのよね。
そして、たった五年物ではあるけれど、特上のお酒を一瓶づつしっかりと確保する陛下達。
「「「ふふふ」」」
顔がニヤけているのを隠そうよ。
いい歳した大人が気持ち悪いよ。
あと、そんなに大事そうに抱えなくても誰も取りませんって。
と言うか、もしかして過去に取合いがあったとか?
そうなると一番疑いが掛かるのは、この場で一番お偉い陛下となるのだけど……。
ジト目で見つめると、此方の言いたい事を察してか、咳をして誤魔化す始末。
うん、これは間違いなく、一度や二度はやってるな。
まぁいいや、その辺りは酒屑同士で、勝手に取りあって下さい。
「それにしても春とは、随分と早いですね」
「魔報による通信事業のおかげだ」
「正式な魔導具名は・」
「魔導具による通信事業による連絡及び報告、故に【魔報】で良かろう、長々と言っていられん。
あと君の魔導具への名前の付け方はどうにかならんのかと、苦情が上がっているのだが」
「開発者の権利です」
因みに、魔導具【小人達の囁き】は世界諸国王会議の時に議題に上がったものの一つで、現在では各国にあるシンフォニア王国の大使館に設置されている。
多少、その事で一悶着あったみたいだけど、六十年後に基幹技術を公開する事を条件に認められたそうだ。
長い年数だけど、その長い年数を独占する事が許されたのは、技術を開発したのがシンフォニア王国だと言う事と、その恩恵を各国が使えると言う事。
ようはシンフォニア王国にバレても構わないような内容なら、シンフォニア王国の大使館にある通信事業部を通して、遠い他国との遣り取りを瞬時に出来ると言う事が、かなり魅力的だったみたい。
国外だと一文字銀貨一枚と、ぼったくり価格ではあるけど、連日使用希望者の列が作られるそうです。
ちなみに開発元である我が家は文字数制限など関係ない。
なにせ自前ですから。
「取り敢えず予定は空けておくように。
それと待たされている間は、きちんと王都で社交もしておく事」
「別にしなくても……」
「王命だ。
夏までに最低でも二回は王都邸で茶会なりを開き、六件は王都内の君の後ろ盾ではない他家の催しに赴きたまえ」
横暴君主っ!
と心の内で思いっきり文句を言うけれど、陛下も言いたくないけど口にしていると分かるので仕方がない。
多分、彼方此方から言われているんだと思うんだよね。
そんでもって、私、二十歳を迎えたから、何時までも陛下達の庇護下に入っていないで、最低限は社交を行えって事なんだろうなぁ。
いえ、一応は自覚はしていましたよ。
数も少ないから、陛下なりに譲歩したのだと分かるし。
「その代わりと言うのもなんだが、君の秋祭りの際に各家に回るのは、少し減らすように命じた」
ん? どう言うことだと思ったら、私の誕生日会の催しの際に招待したお客様達の中で、私の知らない所で色々と話をしていたらしい。
で、その内容の中でお互い眉を顰めたのが、秋祭り期間の私の過密スケジュール。
彼方此方の家に誘われて忙しいというのは知っていたらしいのだけど、彼処まで忙しいと思わなかったんだって。
で、このままだと本当に社交嫌いで、領地に引き籠もりになりかねないので、毎年数件づつで年を跨いで持ち回り制にしようって事になったらしい。
招待を止めるって選択肢はないのね……。
いえ、数件程で済むなら本当に助かるので、文句は言いませんけど。
「後は君の誕生日に招かれる客だが、送るのは数日後に頼みたい」
「……何故、そこで私の誕生日が出て来るかお聞きしても?」
「あの顔触れが揃うのであれば、それを活かしたいと思うのは当然であろう」
毎回あの豪華メンバーが揃うとは思えないのだけど、陛下達の事だからその辺りは織り込み済みだと思う。
でも量産可能な魔導具ならともかく、個人の能力でしかない魔法ありきの政治体系は、その魔法を失った時点で崩壊するため良くないと思うのだけど、その辺りを確認したら。
「別にそんな大した事ではない。
単に無礼講で気にせずに呑みたいだけだ」
「……は?」
意味が分からなかったので、今一度お聞きしたのだけど、先程話していた私の知らない所での話し合いというのは、なんと会場を抜け出してお城で呑みながらだったらしい。
と言うのも、私がお誕生日会に出したお酒は、それなりに良い物を揃えてはあったけれど、何だかんだと私がお土産に渡した事のあるお酒が大半だったし、催しの内容が私のお誕生日会なのもあって、稀少なお酒は全員で回せば数杯づつしか用意できなかったのも理由の一つらしい。
それでもお客様の客層を考えても、十分に美味しいお酒を用意したものの、何処かのお酒大好きな酒屑がね
『君達が呑んだ事のない酒が沢山あるぞ』
とか、同じ酒屑に自慢したらしいのよ。
冬の初めの王家主催の舞踏会の後に、我が家の酒世話人の一人であるダートンを期間限定で陛下にお貸しした事をね。
お城にも我が家にあるバーカウンターの物を作りたいから、教えられる者を貸して欲しいって我が儘を言われたから、貸した甲斐があって喜んでくれているのは良いのよ。
確かにちゃんとした混合酒の概念がない世界だったから、呑んだ事のないお酒なんて、幾らでも出て来るでしょう。
二:一:一の基本となる黄金比率だけで作っても、かなりの種類になるし、その中から甘い混合酒を抜いても相当な数がある。
さらに魔導具【泡水姫】を使ったお酒も含めれば、その泡水の強さも好みも分かれてくるから、呑んだ事のないお酒が沢山ある事には違いない。
ただね、その中から自分の好みを探すのが大変だし、その時の気分によって呑みたい混合酒を見付けて行くとなると、それだけで酒屑の完成なのよ。
「つまり、定期的に飲兵衛の友の会を開催したいから、私に送迎しろと。
私の誕生日の後にやるのは口実にしやすく集まりやすいのと、その後に内々の打合せという名目があれば、互いに時間を作る言い訳になるからだと」
「……言い方はともかく、まぁそんな所だ。
カイルも自分達の世代でやりたいと言っていたからな」
「父上、信頼出来る臣下との信頼を深めるため、と言って戴きたい」
何方でも一緒でしょうが……、と呆れ混じりの感想を抱きながらも、実際には政治的な思惑があるのは確かだろうね。
飲み会というのは、個人の魔法に頼る事による周囲の不安を抑えるための方便って所かな?
ただねぇ……、それってどう見てもオフサイトミーティングでしょうが。
根回しと言っても良いけれど、城で政治に関わる人達から見たらあまり良い顔しない事である事には違いない。
根回し大好きな貴族社会だと言っても、集まる人達が豪華メンバーすぎるし、もしも悪巧みをしていると考えたら洒落にならない、と誰もが思う。
おまけに、私が参加していなくても加担している扱いになる上、参加者の中で一番年下になる分、一番攻撃の対象になる。
あと何だかんだと高級食材や酒を持って行かれる事は、容易に想像が付く。
「利する物より害する物が多そうですので、そのお話はお断り致します」
人を飲み会のアッシーにしないで貰いたい。
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【双子ちゃん女中の、なぜなにコーナー】
〜 麻薬と魔薬が出回っている理由 〜
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メアリー「危ないお薬撲滅を謳うメアリーと」
アンネ 「そのための資料に埋もれる妹アンネの」
メ&ア「「なぜなにコ〜〜ナ〜〜〜♪」」
メアリー「良い事を言ったつもりなのに、アンネちゃんのせいで鬼畜の所業をしているような誤解を受けてしまう、可哀想な私はめげずに今日も頑張ります。前回、麻薬と魔薬が禁止されている主な理由をお話ししました」
アンネ 「なのに出回るのがあの手のお薬。人は愚かね」
メアリー「一応それなりの理由がありまして、麻薬と魔薬を幾つかの方法で調合すると、痛みを感じず、集中力が増して興奮状態になるため、一種の幸福状態を作り出します」
アンネ 「戦闘による恐怖と痛みによる志気低下を克服し、逆に士気向上をするため、戦闘中毒者と殺戮快楽者を作るのに持ってこい。戦闘を生業にする傭兵、冒険者、騎士、兵士、暗殺者と、禁止されてはいても色々な所で需要があるのが現実」
メアリー「あと前回に少しだけ触れましたが、別の調合方法によっては神経を敏感にさせた上で、半ば夢心地にする事で苦痛や不安を和らげるだけでなく、それらを快楽へと錯覚させる事が出来るため、花街で新人教育に使われているそうです」
アンネ 「屑ども曰く、更なる調合によって投薬した相手の具合が良くなって、反応が可愛くなるとの事。腐り落ちてモゲれば良いのに」
メアリー「一歩間違えれば廃人になってしまうものの、何度も投薬された女性は薬による快楽と性行為による快楽との区別が付かなくなり、花街に働くのに適した女性を作り出す事が出来るため、女性を食い物にするために、禁止されていても欲するお店の経営者や貴族は多いそうです」
アンネ 「そして屑は薬を使う人間だけに非ず」
メアリー「そもそも薬の需要があっても、流通と供給がなければ手にする事が出来ません。シンフォニア王国では、医療目的以外では単純所持すら罰せられる代物であっても、少量で高利益の得られる物であるため、密輸しようとする者が後が絶ちません」
アンネ 「国境沿いや各港街を所有する貴族も、薬物の流入には撲滅しようと力を入れているものの、実際には指の隙間から砂が零れ落ちるように、国内に持ち込まれている」
メアリー「最初からある程度は没収される事を計算に入れており、全体量から一定以上の割合が密輸に成功すれば、利益が出る価格設定になっているだけでなく、持ち込まれる薬が少なければそれだけ価格が高騰するため、やはり一定以上の利益が確保が出来てしまいます。という訳で、持ち込む麻薬や魔薬を持ち込む商人などは、残念ながら最初からある程度の損失は織り込み済みのため、薬を捨てて逃げ切れさえ知れば利益を得られて笑っていられる訳です」
アンネ 「その点、ユゥーリィ様が治める港街は、魔導具で港からの荷物は随時検査をするため、殆どが船から港に揚げた状態で発覚してしまいます。
更には何らかの方法で領内に持ち込んだ代物も、ユゥーリィ様が定期的に魔法で広域探知を掛けられるため、所持状態で踏み込まれたら言い訳が出来ない。おまけに領海内での瀬取りも禁止しているのを口実に、沖での取引すら撲滅しているため、麻薬や魔薬を持ち込んで利益を貪ろうとしている人達からすれば、ユゥーリィ様の所有する港街は自分達を受け入れない忌々しい存在。なにせ片手に握れる量があれば、金貨数枚を得られる利益があるのに、それを全て灰すら残らない状態で処分されたら、怒り狂う気持ちも分かる。そのまま狂い死ねば良いと思う」
メアリー「大抵の国の闇商人達は、早々にオルディーネ領における取引は諦めているのですが、インシュウシンカン国の船は遠い異国のせいか、情報が回っていないのかは分かりませんが、未だに麻薬や魔薬を持ち込む事を諦めていないようなんですよね」
アンネ 「因みにそのインシュウシンカン国は、麻薬や魔薬の使用に関しては厳しく禁止しているし、主要交易品にも入っていない。ただ製造して国外に販売する事は禁止していない」




