1036.事件について、国へ報告はしないと行けませんよね。
今回の国王陛下からの呼び出しは、先日の魔導船略奪未遂事件の報告を、魔物の繁殖を含む定期報告の予定日も近いので、今回纏めてで構わないから一度城に顔を出すようにとの事。
ただ、最近は文章の最後に……。
家族との予定があるのであれば、そちらを優先して構わない。
と、この文言が入るようになってきたので、気を使って戴けるなぁと思う反面、普通、国王陛下に顔を出せと手紙が来たら、身内優先なんて出来る訳がないって、いい加減に分かろうよと言いたくなる。
陛下が会って下される日時を、幾つか入れてくだされば、その中でこちらも時間を合わせた日を連絡出来るので、王妃様達との手紙の遣り取りはそうやっているよ。
と言うか、普通はそういうやり方が一般的だからね。
空間移動の魔法を使えると思って、私を雑に扱ってません?
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「─────と言う訳で、そう言う困った方が父子揃って居られるので、この後に王妃様達に御相談に乗って戴こうと思うのですが、王妃様方のお時間を戴いても構わないでしょうか?」
名前を出さずに、婉曲でありながらも当事者からしたら、誰の事か直ぐに分かるような内容にして、雑談の中に挟み込んでみました。
言うまでもなく、目の前にいる三人の中の二人なんですけどね。
「ぁぁ……そうだな、妻も忙しいはずだから、今日の所は止めて置いた方が良いだろう」
「そうだね、私の妻も今日は確か予定が入っていたはずだ」
「……、……はぁ」
目を逸らす何処かの王族二人に、その王族二人の態度に呆れ果てたと言わんばかりに重い溜め息を吐く、宰相閣下であられるジル様。
と、その辺りはどうでもよい話なので横に置いておくとして、肝心のインシュウシンカン国内における魔導船略奪未遂事件の報告は普通に済んだ。
一応は報告書として同時に提出したので、何かあれば後から質問状が届くだけの事。
大雑把な流れと、ジル様から上がっている報告との差がないかの確認なのだろう。
国としては大切な事だと言えし、此処で双方の報告に大きな差違があれば、質問状ではなく詰問状にもなったりするので、あまり迂闊な事は書けないので注意が必要。
序でに向こうから謝罪の品としていた抱いた物も、その半分を国へ献上。
本当は税金分だけ払えば良いのだけど、そこは王侯貴族としての柵もあるし、こうして国のトップに煩わしい思いをさせたのは事実ですから必要な事。
元は戴き物なので自分の腹は痛まないし、税金の物納と思えば、換金する手間がない分だけ楽になるので、文句など有るはずもない。
という訳で、納品一覧をお渡ししておくと同時に、元となる謝罪品一覧も同時にお渡ししてあるので、税金を誤魔化してませんよぉ〜、ちゃんと国への献上分も含まれていますよぉ〜と言う事になる。
そもそも謝罪品一覧に関しては、ジル様付の文官の方が写し取っていたので、誤魔化しようがない。
「異国情緒溢れる物となれば、欲しがる者もいよう。
有り難く受け取っておく」
平民だと遠い異国の物って意味不明で使いづらい物だけど、貴族だと意外に人気がある。
国外の物を取り寄せれる力があるし、教養があるというステータスにもなるからね。
布類や装飾品は、王妃様経由で下賜向けに使う事をお勧めしておく。
と言うのも、冬の王家主催の舞踏会で私が着た和服テイストのドレスは、彼方の服を取り込んだ意匠のドレスに思われているはずだから、向こうの生地や装飾品を使う方が意匠に合わせやすいと思ってくれるはず。
「先程から交易を勧めるような事を口にしているのだが、君はそれで良いのかね?」
別に勧めてはいないけれど、反対もしていないのは確か。
「アレが国の意思でないのであれば、気にするだけ無駄です。
と言うか、アレを国の意思だとしたら、随分とお粗末な内容ですよ。
他人の事は言えませんが、場当たり的だとしても酷い内容です。
流石に他国の事とはいえ、アレが国の作戦だったと言うには失礼が過ぎるかと。
それならば必要以上に関わる必要もなければ、必要以上に拒絶する必要もないと言うだけです。
生憎と私の領地の方では、以前からあの国の船は嫌われていますけど、此方の方ではそうではないですので、私の領地の事情を押し付けるのは、国に不利益を齎すだけだと考えての事ですが、いけませんでしたか?」
インシュウシンカン国の船は、港街オルディーが女領主が治める街だと舐めているからね。
でも、他のルシード、フォルス、ポンパドールのシンフォニア王国三大港街では、普通に受け入れられて取引を成されている。
逆に言えば、インシュウシンカン国からの船に嫌われているのは、オルディーの港街だけ。
だから略奪に遭いそうになったからと言って、インシュウシンカン国との交易を控えろだなんて国に訴えませんよ。
国にとってどれだけの損失になると思っているんですか。
そもそも馬鹿をやったのは上のごく一部の人達であって、他の人達は関係がないもの。
一緒くたにして巻き込んだら、此方が悪者にされるだけですよ。
「いや、構わない。
君が国を重んじる気持ちは良く判った、その事は嬉しく思う。
だが、君の所はそれで済みはすまい。
一緒に連れて行った者達から、噂として広まるのも時間の問題。
不満を抱える者が出て来る事は避けられん」
でしょうねぇ。
我が家からしたら不意打ちで喧嘩を売られて、相手は勝てそうもないと分かった途端、適当な謝罪でお茶を濁してきた相手ですからね。
遠方過ぎて得る物もないし、面倒なだけだから此方もそれに乗ったというだけでしかない。
「先程も言いましたが、私の所ではあの国からの船は嫌われていますので、多少不満を持つ者が増えた所で今更かと」
男尊女卑が色濃い癖に深酒が当たり前だから、同じ男尊女卑が色濃いトライワイト王国の船と比べても、港で問題行動も多いのよね。
無茶な値引きの要求ぐらいならまだしも、無理矢理給仕の女性に酌をさせようとするだけでなく、抱きつきや胸やお尻へ手を回す事なんて日常茶飯事。
食べカスなどは専用の壺かお皿の中にと注意しても、酔っ払っているから言う事を聞かない。
おかげで彼等が使った机の周辺には、食べカスやこぼれ落ちた酒や飲み物が床に散乱しているだけでなく、まだ火の残っている煙草を床に捨てるから、板張りの床が焦げていたりと、色々なお店から苦情が上がっている。
中にはその煙草が原因で、小火が出たお店や宿だってある程。
以前はギアス国の人間の方が不満の声が大きかったのだけど、あの国は潰れた事もあって、今ではインシュウシンカン国の船が一番嫌われている。
トライワイト王国も最近は良くなっている事もあって、尚更に目立っている。
そろそろお店の出入口に……。
『インシュウシンカン国からのお客様、入店お断り』
とか張られるんじゃないかな、とか思っていたりする。
無論、そういうお店が出ても止める気はない。
差別とか言い出すかもしれないけれど、そうなるまでの理由があるし、そもそもお店にだって客を選ぶ権利がある。
まぁインシュウシンカン国の人間だからと不当に扱ったりする事は、流石に止めさせて貰うけれど……、あの国の人達、本当に嫌われているんだよなぁ。
向こうからしたら商売の邪魔をされてばかりだから、余計に大柄な態度になるのは分かるけれど、だからと言って魔薬や麻薬の輸入を認める気は欠片もない。
領民だって、元々薬が原因で身を持ち崩して、流れ着いたのが貧民街だった人達もいるのよ。
あの手の薬って直接売買される事も在るけれど、大抵は腹黒い貴族や金持ち達の下部組織が、あの手この手で無理矢理に薬に手を出させて中毒にし、そのまま借金漬けにされたり、良いように利用されたりする人達が多いのよ。
せっかく薬が持ち込まれない環境で安心して生きているのに、再びそれで薬の被害にあって今の生活を失いたくないでしょうね。
だと言うのに、禁止しているのに何度も持ち込もうとして、その度にそれなりに騒動になっているのを、領民達が知らない訳がない。
彼等にとっては、麻薬で港街を壊そうと言う敵である以上に自分達の敵だからね。
『港の検査が厳しすぎて、手間と時間と人件費が掛かりすぎます。
もう少し簡略化しなければ、利益を減ずるばかりか、商機を失いかねますので、どうか現監査体制の見直しを』
その反面まぁごく一部で、こんな寝言を言ってくる輩がいるけれど、門を通過するだけの何処が手間なのかと一蹴しているし、門形特定禁止物検知用魔導具の破壊工作や不正操作を目論む輩は問答無用に捕まえている。
そしてその大半があの国の船の関係者と、あの国と取引している商人や貴族の関係者なんですよね。
何か冤罪とか言ってくるけれど、物が出てきているし現行犯なのに、何が冤罪なのかと言いたい。
こんな状態だから、双方共に嫌わない方がどうかしていると思う。
何度も言うけれど、そんな事は私の領地での問題であって国には関係ない。
「相変わらずそう言う所はどうかと思うが、君の事だ上手くやるであろう。
取り敢えず、君としては特に拘っていないと言うのであれば、それを確認したかっただけだ」
今回は無事に何事もなく済んだものの、普通に大事だったからね。
陛下が確認するのも当然なのだろう。
あまり自覚無いけれど、一応は私は辺境伯と高位貴族の仲間ですもの。
「陛下の深い心遣い感謝申し上げます」
「それでだが、あの国から魔報があってな。
我が国に謝罪のために使節団を送るとの事だ。
時期としては春の舞踏会辺りになる故、君も付き合うように」
ぅぁ……、付き合いたくねぇ……。
と言えたら、どれだけ良い事か。
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【双子ちゃん女中の、なぜなにコーナー】
〜 麻薬と魔薬とは 〜
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メアリー「お薬の嫌いな姉のメアリーと」
アンネ 「目が覚める薬は欲しくなる妹アンネの」
メ&ア「「なぜなにコ〜〜ナ〜〜〜♪」」
メアリー「取り敢えず不穏な事を言うアンネちゃんは、お茶でもガブ飲みしてください」
アンネ 「一向に減らない仕事が全部悪い。そしてその仕事をどんどん増やすメアリーお姉様が元凶」
メアリー「さて、アンネちゃんの人聞きの悪い虚言癖は放っておくとしまして、今回のお題は禁止薬物である麻薬と魔薬です」
アンネ 「何方も駄目、絶対っ!」
メアリー「正しい使い方をすれば、多くの人を助けるお薬ではあるのですが、乱用すれば何方も人を壊し、蔓延すれば国までも滅ぼすため、シンフォニア王国では厳正な使用方法と管理を求められ、それ以外では所持しているだけで厳しく罰せられます」
アンネ 「そのため冤罪で人を嵌めるためにも使われ、よく悪党が官憲や裁判官とグルになっている事も」
メアリー「こらこら、あまり危ない事を言わないの、文字通り消されちゃうわよ」
アンネ 「ガグブル、ガグブル」
メアリー「それで麻薬と魔薬の違いですが、麻薬は薬効成分がある植物や鉱石が主な原料で、それを生成したお薬を悪用すれば麻薬と称され、主に人間の中枢神経に作用して気持ち良〜くなっちゃう薬ですが、次第に身体と心を壊して行きます」
アンネ 「魔薬は特定の魔草や魔鉱を原料に魔法で生成した代物。本来は濃度を濃くして安楽死などに使われるのが主な使い方ではあるけれど、麻薬は心と身体を壊すというのに対して、魔薬は心と魂を壊すと言われている」
メアリー「麻薬は中毒になっても、解毒魔法と治癒魔法で身体を回復する事は出来ます」
アンネ 「だから一部の貴族や金持ちが娯楽として手を出すのだけど、だからと言って使用した事が無くなる訳ではない。心と体が麻薬の作用を覚えているため、身体は癒やせても中毒性と依存性が残る事には変わらない。時間を掛けて心も蝕むから手を出すのは愚か者だよ」
メアリー 「一方、魔薬は薄めて使う事で幸せな状態が続くとされていますが、解毒魔法や治癒魔法が効きにくく、更には聖オルミリアナ卿にて、過去に魂を破壊する薬だと神託があったとかないとか」
アンネ 「都合の悪い神託は、政治的な判断でなかった事にされるのは良くある事。我が家で昼間からお酒を飲んでいる某老人曰く『忠告はした以上、後は人間どもの判断だ』と仰っていたので、神託の真偽は各自の御想像にお任せ」
メアリー「魔薬の末期中毒者は、幸せそうな笑みを浮かべたまま、自律的な行動は一切しなくなり、外からの単純な指示を熟すだけの生き人形になってしまいます」
アンネ 「初期症状の状態ならともかく、症状が進めば治療方法は一切なく、回復する事もない。なのに花街御用達のお薬として出回っている」
メアリー「ジュリエッタ様が、過去に某屑令息が己の快楽のために麻薬と魔薬の両方を無理矢理使用されていたらしく、オルディーネ領内ではユゥーリィ様が医療目的以外では一切の根絶を目指しています」
アンネ 「私もお姉様も、この薬が原因で仕込まれた扱いされた。ユゥーリィ様の方針には大賛成」




