1032.あのオバハン、また遣りやがったっ、今回は許すけどね。
「愛しいラフェルよ、我が女神よ。
普段の君も素敵だが、これ程にまで綺麗るなど、神は私の君への想いを何処まで試すのかと疑心に捕らわれるほどに、今の君は輝いている。
話には聞いてはいたが、こんなにも素晴らしいものとは思いもしなかったのは、間違いなく我が罪であり、我が愛しき妻への裏切りだったのだと、私は痛感している所だ。
遠くから見ても分かるほど、滑らかで吸い付くような輝きを放つ肌は、まるで君と出会ったばかりの頃ではないか。
夜の帳を照らす月のように輝かしいばかりの君の姿が、唯の室内着などと誰が信じると言うのだろう。
今すぐに君に相応しい装いを見付けるために出掛け、店の品を全て買い占めたくなる衝動に駆られる罪深い私を、君は許して貰えるだろうかと思うと、心が張り裂けんばかりだ。
それでも私は口にしよう。愛すべき妻よ、愛しきらフェルよ、どうか私の罪を許して欲しい」
砂糖に蜂蜜を掛けたような甘い言葉を連々と並べるのは、ラフェルさんの夫であるハインリッヒ卿。
ラフェルさんに一目惚れして、ラフェルさんが平民だったにも拘わらず、その場で求婚した変わり者だけあって、非常に香ばしい人物なのよ。
しかも当初はラフェルさんは身分の違いもあって、遊ばれるのは嫌だとハインリッヒ卿を相手にもしなかったのだけど、ハインリッヒ卿は反対する両親や親戚筋を説得しつつ、一年近くラフェルさんさんに猛チャージし続けて、ついにラフェルさんの心を射止めた(ラフェルさん曰く、逃げ切れないと諦めた)だけあって、目の前の暑苦しい光景もある意味仕方がない事。
優秀な人物として、ドルク様やヨハネス様も信頼されている方ではあるのだけど、目の前でこう言う事をやられると、どうにも胡散臭く思えてしまうのは私が捻くれているからだろうか?
ただね、本人はいたって真剣で、ラフェルさんって平民出身なのに正妻なのだから、少なくともハインリッヒ卿の想いに嘘や偽りはなく、しかも側室も愛人も置かずにラフェルさん一筋なので、寧ろ疑うのは失礼だと言える。
「「……、……」」
うん、嫁二人から熱い視線が。
何を要求しているかなど聞かなくても分かるけど、無理だからね。
私にアレをやれと求められても、恥ずかしすぎて出来ません。
本当に……、本当に勘弁してください。
なので全力で視線を横に向けると、そこには同じく視線を愛すべき相手から逸らしたお義兄様が。
「「……、……」」
お互い他人の事は言えないはずなのに、『この、ヘタレ』と思ってしまうのは、罪なのだろうか?
少なくとも、お義兄様なら出来そうな気がするのだけどと思っていると、向こうもそれを察したのか……。
「勢いに任せて大声で叫ぶのならともかく、流石にアレは……」
納得の理由である。
だってねぇ、まだ続いているんだよ。
どうか君の肌に触れる事を許して欲しいとか、誰にも君を見せたくないとか、よく言葉が続くなと思うぐらい。
取り敢えずお義兄様、彼処までいかなくても、ミレニアお姉様の期待に応えてあげないと、後がややこしい事になりますよ、と視線でもって返すと、ようやく不器用ながらもミレニアお姉様に感想を述べはじめる。
お姉様はお姉様で、そんなお義兄様に笑みを向けながら、此方に視線を送り……。
ねっ、可愛いでしょう。
唇の動きだけで、そう伝えてくる。
まぁミレニアお姉様にはそうかもしれないけれど、私には無理。
そしてライラさんの旦那さんはと言うと……、うん、此方も不器用ながらもライラさんに賛美の言葉を贈っている。
ただ三人の女性に共通するのが、皆んな嬉しそうなのよね。
その姿に、後でちょっとだけ頑張ってみようと思ってしまう。
ヘタレの自覚はあるから、私なりの頑張りだけど……。
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女性陣がエステの結果が褒められた後は、男性陣にも賛美の言葉が贈られたのは良いのだけど、今回のエステの本当の効果が出るのは明日ぐらいのはずなので、明日もこれが繰り返されるのだろうか思うと、ちょっとだけ気が重くなる。
かと言って野暮な真似はしたくないので、笑みを浮かべながらこっそりと魔力の循環鍛錬。
お互いが落ち着くまで、放置しておくのが一番平和。
そして落ち着けば、当然話題に上がるのが、王都以外への出店の話。
「実はありがたい事に、多くの方から協力をしたいという申し出は受けています」
唯ね、他の事業にも言える事だけど、協力という名の乗っ取りだったり、技術と共に従業員を引き抜こうとする方々が非常に多く、頭の痛い所なのよ。
今の所は王妃様を始めとする、私の後ろ盾の御婦人方が協力して守ってくださってはいるものの、その後ろ盾の皆さんも自分達の領地に出店して欲しいと強く要望しているから、重い溜め息も出るというもの。
一度ね、別に似たようなお店を御自分で作られれば良いじゃないですか、って言ってみたのよ。
使っている薬品の基礎的な調合方法も、話によっては有料でお教えしますからとも。
そもそも新たな事業を始めた場合、二十年前後の保護期間があるものの、エステサロン自体が貴族が行っている事を平民向けに展開した商売だった訳だから、無茶を言っている訳ではないと思うの。
『花の滴の時もそう仰っていましたが、他の商会が作った物とでは、随分と効果に差があるように思えるのですが』
『魔導具の質の面でも、貴女が作った物と他の魔導具師が作った物とでは差があるというのに、あれらで使っている魔導具に差が生まれないとはとても思えません』
『忙しくなって面倒だから、とか思っていませんわよね?
事は女性にとって重大な事なのですよ』
とまぁ、何故か信頼がないんですよね。
だいたい、使う薬品類や道具をより良い物へと改良を加えて行くのは当然の事だし、それを馬鹿正直に全て公開するのは商売として如何なものかと思う。
何の苦労もなく、最小の苦労で最大の効果を手にしようとするのは、一見最善のように思えるかもしれないものの、それは自分達の成長を放棄するのも同義。
基本的な調合法と言う名の出立点に立てるのであれば、後はそこから自らの努力によって歩み続ける事が大切。
でなければ、更なる進化など求める事など出来ない。
技術というのは日々の積み重ねによって生まれると同時に、高い技術を維持出来る代物だからね。
「それと責任問題に発達恐れがある事を考えますと、安易に展開する訳にもいかないのです」
ぶっちゃけ、此れが一番の理由。
商品の品質には気を使ってはいるし、前もって肌に合わない方もいるかも知れないと、お断りを入れてはあるものの、絶対に安全と言う事はない。
前世の妹がそうだったように、普通の人は何でもない物であってもカブレたり、体調を崩したりするって事はあるからね。
これでも貴族だから、多少の事は何とでもなるのだけど、相手が増えれば増えるほど問題も大きくなるし、王族が関わってくると本当に洒落にならない。
エステサロン【朝霧の滴】は、今の規模だから何とかなっているのよ。
可能性は低いものの、肌に合わない事があると知りながらも、お客様が望んで施術を受けているって形になるからね。
これが大規模展開になると、その言い訳も通用しなくなってくる。
王族や高位貴族が束となって責任追及してきたら、私みたいな新興貴族なんて簡単に潰されてしまうもの。
その辺りは私の後ろ盾の御婦人方も分かっていたらしく、力業を使ってきたのよ。
「エステ事業に限りですが、第三王女であられるフェニシア様を筆頭に外部から役員をお迎えする事になりました」
王族が事業に関わっていたら、そりゃあ文句を言う人間は早々いない。
しかも名前だけではあるものの、渉外担当。
おまけに私に話が来た時には、既に決定事項で議論が終わっている時点で、色々とおかしいけれど、上の方々……特に御婦人達が結束した力を見せ付けられた結果とも言えるので、この程度の事では逆らわない。
因みに筆頭と言うだけあって、他にもいるんですよ。
そちらで対応出来ないと判断された相手を、フェニシア様が対応されるって形でね。
『王族を相手に文句など言える訳がなかろう!』
と言うのが狙いなんですよ。
更に地方支店の支店の役員と言う事で、私の後ろ盾である古き血筋の五公爵六侯爵から血縁者や奥様方が就く事に。
因みに最初に出来る男性用エステサロンに関しては、サリュード王子のお名前をお貸し戴ける事になってしまっている。
何方にしろ実務としては渉外くらいなので、お名前をお貸し戴いた皆様は、事実上不労所得を得る事になる。
但し報酬はお金ではなく、エステサロンの一定回数の使用する権利だったりするけれど、そもそも王族や高位貴族が出てきたのは、施術を受けたいからこそ。
私が心配する問題も、リスクの分散してしまえば問題ないだろうという、力技によるの暴挙です。
「皆様、大変積極的で助かってはいるのですが、その分だけ圧も凄く……」
余程望んでいるのか、人手も先方が優秀な人を用意してくれるという。
研修をしっかりして、その上で本店で修行をしてから、という事にはなってはいるけれど、先方の要望で企業機密の保守に関しては神殿契約をしてまでって、正直どうかと思う。
神印まで刻む最上位契約だから、宗教色の強いこの世界だと、ほぼ覆す事の出来ない絶対契約だと言える。
「ユゥーリィさん、それって……」
「分かっています」
因みに、この話を影で動かしていたのはフェニシア様ではなく、毎度毎度美容関連でやらかしてくれる、某美容小母様ことジュシ様だったりするのだけど、彼処は我が家に対して色々とやらかしているので、本当に影でこっそりとね。
理由としては、このまま無駄に膨らむエステ事業の需要に対して、手助けをしようとしてなので、何時ものやらかしとは少しだけ違う。
多少、自らの欲望……もとい要望は含まれているであろうけれど、そこはあの方の凄まじい行動力の原動力でもあるのでしかたがない。
本当に私に対して迷惑が掛からないように、細心の注意を図っていたであろう事は窺えたので、そこは疑わない。
基本的にジュシ様って、お節介な所があるだけの良い方ではあるもの。
唯ね、今回の話ってどう言い繕おうが、結局は事業の乗っ取りなのよね。
「書面で約束をされたので、信じる事にしています」
そんでもって、カイル殿下と教会のラルフィード様を見届け人として、私が有利な内容で調印式までされたら、立場的に断れるだけの理由がなくなってしまう。
なにせ相手は次期国王になる王太子殿下と、世界最大の宗教団体である聖オルミリアナ教会の枢機卿ですよ。
見届け人という意味では最強に近い布陣。
そうなると後は突っ走るしかない訳で、もしも問題が起きたら、お約束通り全て責任持って対応して下さる事を信じるしかない。
支店数も制限してくれたのがせめてもの救いではあるけれど、単にそれは私が拒絶しない数を見極めてきただけの話だし、最初から需要を満たそうとは思っていないだけの事。
そこらに溢れる代物より、貴重で手に入り難い物だからこそ価値がある訳だからね。
実際に王都以外に置く支店は小規模な物になる予定なので、おそらく予約の半数以上は、政治的な思惑で遣り取りされるんじゃないかなぁと思っている。
「良く判らないけれど、ゆうちゃん、色々と大変なのね」
真面目な話、平民のライラさんに同情されるくらい、頭の痛い話なのよ。
どうしてこうなった、てね。
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【双子ちゃん女中の、なぜなにコーナー】
〜 神殿契約とは 〜
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メアリー「姉のメアリーと」
アンネ 「妹アンネの」
メ&ア「「なぜなにコ〜〜ナ〜〜〜♪」」
メアリー「今回は神殿契約について少しだけお話しします、言葉から想像されるように神に誓っての契約ですので、一般的に行われる商業契約より上位の代物になります
アンネ 「神の御名の下、契約料はタップリ、それもって契約を破った時は神の御名の下で罰せられる、恐い恐い」
メアリー「お金の大きさは契約内容の重要さ指し示す物ですので、金額の大きさその物が抑止力になりますし、神罰代行に関しても同じです。人を動かすにはお金が掛かるのは不変の法則ですから」
アンネ 「因みに最上位の契約は、神印を身体の一部に小さく入れ墨を施す。これは魂に契約を守る事を刻む行為だと信じられている。
メアリー「契約違反時には教会の名において正されますが、正す事が出来ない場合、契約内容によっては契約違反者に神罰が落ちる事となります」
アンネ 「神罰代理執行者による神罰執行がされるのは勿論の事、最上位の神殿契約ともなると、その神罰は違反者の親類縁者にまで及び、神罰は墨刑で在れば軽い方と言う、神殿の闇と言える」
メアリー「それだけ約束は大切ですよって事ですし、親類縁者の方に関しては多大な喜捨によって、生涯、神の下で奉仕する事で神の慈悲を戴ける事も出来ますので、けっして無慈悲という訳ではないですよ」
アンネ 「それ、奴れ……、いえ、なんでもありません」




