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私、お嫁になんていきません  作者: 歌○
第八章 〜親としては新米だけど頑張ります編〜
1015/1059

1015.とある小子爵の旅行記、その捌





【グラード・ウル・グットウィル小子爵】視点:




 妻が義妹に自重を覚えてほしいと悩んでいたが、まったくその通りとしか言えない。

 予想していたどおり、次の日に皆で街を案内された際、多くの物を買って戴いたが、まぁそこは覚悟していたし、予想以上と言う事もなく常識の範囲ではあった。

 私が心配していた子供達に対しても、ちゃんと親である私達が許可をしたのならばと、子供達を逆に嗜める場面も。

 只、子供達に良いと思える物に関しては、子供達と一緒になって私達を説得していた事には少々困ったが、冷静に話を聞いてみると本当に良い物なので、これまた仕方がない事だと言えよう。


『アナタ、妹の口車に乗せられて如何するのですか』


 まぁ……、妻の機嫌を損ねる部分はあったが、妻も妻で港街だけあって多くの珍しい物に目が落ち着く事なく、何だかんだと色々な物を購入して戴いていたので説得力はない。

 ないが……、指摘すると後が恐いので指摘はしない。


『宝石類に関しては、御義兄様が贈るべきです』


 あと私には厳しいのはどうかと思ったが、確かに妻に贈る装飾品に関しては私が購入すべきだと言うのは確かだ。

 その代わりとお勧めしてきたのが真珠を用いた装飾品で、これが輸入品ではなくオルディーネ産の代物だと言うのだから驚きだ。


『蝶貝やマベ貝やアコヤ貝等を主に養殖をして数を増やし、その中から真珠が出来た物だけをこうして加工して売り出しております。

 まだ母体となる貝を増やす事に注力していますので、数はそれほどではありませんが、将来的には我が領の特産品の一つになる予定です』


 真珠は、今、義妹が口にした以外にも様々な貝からも採れるものの、共通しているのが真珠が採れるのは稀で、数千個に一個、または数万個に一個と言われるぐらい採れる確率は低く、それだけに希少性が高く高価な代物。

 ましてやグッドウィル領のような内陸では、更に貴重で高価な代物だと言える。

 しかし真珠の養殖など聞いた事もないが、義妹の言葉通りだとしても希少故にとても元が取れるとは思えない。

 だが、義妹が勝算もなしに行っているとも思えない。

 とは言え、流石に真珠ともなればお値段がと思ったのだが……意外に安かった。

 色彩豊かではあるが、不自然なまでに大きさや色が揃っている真珠は、養殖物の特徴らしく、妹曰く、天然物との差別化で値段を敢えて抑えているのだとか。


『先程の理由でまだ数が少ない為、この店は本来は会員制で購入に関しても数量が限定されておりますが、御義兄様なら幾らでも構いません』

『いやいやいや、幾らでもなんて無理だからね』


 私が首を横に振るうのを余所に、義妹は店員に声を掛け。


『あっ、アレはまだ残っている?

 売り物ではないはずだから残っているはずよね?

 奥から出してお見せしてあげて、お義兄様への一番のお勧めになると思うの』


 そう言って店の者に置くから持ってこさせたのは、大粒の真珠を一つだけ遇ったネックレス。

 大粒の真珠を活かすように遇った金銀を用いた細工が見事ではあるが、やはりそれ以上に目を引くのは主役となる大粒の真珠だろう。

 真珠は白と黒が有名だが、その色合いは青や赤や緑など多彩な色がある。

 それだけに色を揃えた真珠のネックレスなど、大変に高価になりやすい代物なのだが、見せられた大粒の真珠は一粒であっても、その輝きと主張は大粒の紅玉(ルビー)蒼玉(サファイヤ)にも負けない、……いやそれ以上の代物だ。


『こ、これは本当に真珠なのか?』

『ええ、人工的に環境を作り上げたとは言え、正真正銘、貝から取り出した真珠である事は私が保証します』


 見事な輝きを持つ大粒の真珠、それだけなら高価で在っても無い訳ではない。

 ただ、その真珠の輝きが黒と白と綺麗に半分に分かれた真珠などあり得るのか?

 いや白ではあるが、僅かに赤みが帯びた色合いか?

 何方にしろこの様な摩訶不思議な真珠があるなど、これまで耳にした事すらない。


『人工的な環境で作れるような代物なのかね?』

『そこは流石に秘密となりますので御勘弁くださいませ。

 これも試験的な試みの中で偶然に出来た代物です。

 確かにこの様に色が分かれるなど、真珠の中でも珍しいかも知れませんが、ロドズ帝国の国宝の中にあるとされている雫型の真珠は、上部四分の一が黒で残りの四分の三が白と、あまりものの美しさと珍しさ兼ねていた為、当時の皇帝であったプファル皇帝に献上され、【プファル皇帝の真珠】として今も引き継がれているそうですので、有り得ない代物ではありません。

 まぁ俗に言う珍品という奴ですね。

 先程申したように実験の中で偶然に生まれた代物で、技術的な見本として保管しているだけに過ぎませんから、御義兄様なら特別にお安くしておきますよ』


 本当……勘弁して欲しい。

 確かに提示された金額は少し無理をすれば買えなくはない金額ではあったが、どう考えてもその値段で買えるような代物ではなく、確実に桁が幾つも違うだろうし、そもそも金銭で遣り取りしてはいけない代物だという事くらい、装飾品に関しては門外漢の私でも分かる。

 こんな国宝級の凄い物を妻の胸に着けて社交界に出た日には、騒ぎになる事は間違いないだろう。


『ぁっ、因みにグットウィル家との今後の発展と変わらぬ友好の証として贈られるのと、ラルガード様が引退されて若き後継者がグッドウィル家を継ぐ際のお祝いとして贈られるのと何方が良いですかね?

 それでもこれ程の物となると名目があった方が良いでしょうから、王族の何方かの名で贈られる事になるかも(・・)知れませんね。

 表向きの理由としては、不本意ながら私の抑止力になっている為となるでしょうね。

 あぁぁ、でも此処で御義兄様が男らしさを見せて戴けるのであれば、国や王家の方の手を煩わせる事なく終わるのですが……、如何します?』


 私にだけ聞こえるような声量での会話が続くのは、妻の前で金額の話をするなど無粋だからかと思っていたら、これだよ。

 どう考えても、脅しだろうが。

 可愛らしく首を小さく傾けられても、やっている事は少しも可愛らしくない。

 おまけに義妹の立場と付き合いを考えれば、実行出来る内容と来ている。


『そうそう、我が家は王都にある街屋敷を解放したのですが、来年はグッドウィル家に招待状をお送りしようと思っておりますの。

 現子爵であられるラルガード様は、時折王都に足を運ばれておられるようですし、招待状を送りしてもおかしいと思われる事もまず在りません。

 それに我が家の付き合いのある方々を御紹介するのは、グッドウィル家にとって小さくない事柄ではないでしょうか?

 何より御想像してご覧になられては如何ですか、この真珠の仄かに赤みを帯びた部分はお姉様、そして黒く何ものにも染まらない力強い黒は御義兄様、二つが一つとして表されたネックレスは、きっとお姉様の美しさと共に輝く事は間違いないと思いません?』


 挙げ句に逃げ道など最初から防がれている状態。

 ええ、買わせて戴きましたとも。

 恐れ多くも王族の方を巻き込んで贈られた物を妻に贈るよりは、自分の力で購入して贈った方が遥かにマシだと判断したからだ。

 こんな端金で買えるような代物ではないとは言え、自分の力で買った事には違いない。

 という訳で、少し離れて子供達の相手をしていた妻に、さっそく身に付けて貰う。

 こうなったら、一刻でも早く妻の新しい姿を見て心を癒やされたい。


『う、嬉しいけど……、こんな凄い物、アナタ、無理をしていない?』

『まさか、星々よりも輝く愛しい我が妻の胸を飾る為なら、これしきの事はなんの苦にもならないさ。

 幸い、君の妹さんのおかげで今回の旅行での出費など無いも同然だし、此れも少々勉強して戴けた。

 私の君への気持ち、受け取って貰えるかね?』

『ふふふっ、ええ、喜んで。

 アナタの気持ちに負けないように、私もいっそう励むわ』


 正直、流石に義妹の前でやるのは恥ずかしかったが、妻を喜ばせる事が義妹への最大の返礼になると分かっている為、やらない訳にはいかない。

 いや、息子と娘が物凄く燥いでいたが、変な誤解をしていない事を祈るのみだ。

 本当……これで終わったら、まだ良かったのだけどね。


『うわぁぁ、綺麗っ!』

『す、凄いっ』


 その日の夕食は、庭での食事という事になった。

 まぁこれは良い。

 何かバーベキューだの聞いた事のない言葉ではあったが、肉を焼きながら楽しむなど貴族に相応しくない気がするが、食い意地が張……もとい、美食家だと噂される義妹の場合は、どんな形であれ食事の内容には信頼が置ける。

 実際に美味いし、子供達に合わせたと思えば、それほど忌避感はない。

 昼間に取れたての海産物を調理して出すお店で少々食べ過ぎたため、食事の量を各自調整出来ると言うのも、この型式にした理由だそうだ。

 問題にすべきはその会場。


 巨大な温室。


 まぁこれは構わない。

 真冬の夜の冷える空気にさらされる事なく、暖かな食事が取れるし、温室その物も見事な物だった。

 王族や大貴族しか持ち得ないような珍しい物ではあるが、そこは義妹だし、辺境伯という身分を考えれば、おかしな事ではないと思える。

 だがっ、それでも全てを吹き飛ばすような存在が鎮座する前で食事など、どうかと思うぞ。

 いや、娘の生誕記念樹とか関係ないからっ!

 あれ、どう見ても宝石で出来てるよねっ!?

 見上げんばかりの巨大な花樹を宝石で作るって、正気の沙汰じゃないぞっ!

 だと言うのに、その事を口にすれば、帰ってきた言葉がこうだ。


『作ったら綺麗だと思ったので作っただけです。

 まぁ、実際に作り出してみたら物凄く面倒でしたので、二度と作ろうと思いませんが』

『君の手作りかいっ!』


 思わず突っ込んでしまったが、違うからっ!

 義妹の言葉も、私が突っ込んだ言葉も違うからっ!

 そう言う問題ではないからなっ!

 はぁ……、昼間、国宝級の真珠の事で悩んでいたのが馬鹿らしくなった。

 そりゃあ、こんな途轍もない物を気分で作れるようなら、あの真珠の真の値段など気にするまでもない事でしかないわな。

 流石に義理とはいえ、義兄としてお金の使い方に関して一言申しておかねばと口にしたら。


『内緒ですよ─────』


 と言って、本物の宝石ではなく人工的に作り出した宝石だとの事。

 只、模造品ではなく、人工的に作り出しただけで本物の宝石と何ら変わらず、制作費があまりにも安価に収まってしまうため、国より義妹の代では鉱物による宝石産業を興す事は禁止されており、製法は墓場まで持って行くようにと命じられているのだとか。

 そんな危険な機密なんぞ知りたくなかったってのっ!

 どう考えても、貴族間の揉め事では済まない話だろうがっ!


『そう言う訳ですから、下手な事に必要以上に踏み込むのは危険ですので、御義兄様はもう少しその辺りを気を付ける様にされた方が宜しいですわよ。

 妙な事に巻き込まれて、お姉様を守れなくなってしまう事態に発展する事もありますから。

 あっ、でも安心してください、その時はお姉様もお子さん達も、私が引き取ってしっかりと守りますから。

 お義兄様は好奇心が身を滅ぼす事になる事を実感して戴く事になるでしょうが……そんなのはお兄様もお嫌でしょう?

 私もお姉様が悲しみの日々を過ごすようになるのは嫌ですので、そのための御忠告です』


 ある意味安心出来る言葉ではあるが、しっかりと俺は見捨てると言っている辺り、実に貴族らしい。

 まぁ貴族間で諍いが起きれば、その対応も当然と言えば当然なのだが……、そこで今問題になった宝石で出来た花樹を見上げ、確かに過ぎた好奇心であり、多くの技術を持つ者に対して、踏み込みすぎた言葉だったと反省する。

 彼女程の人間ともなれば、表に出せない話しなど、幾らでも在ると思って当然の事だ。

 当然の事ではあるが……、本当に妻ではないが、お義父さん、義妹さんに自重と手加減を教えておくべきだったと思いますよ。


『お父様、このお肉もの凄く美味しいですよ』

『私、こんなに美味しいお肉は初めて』


 あと子供達よ、そりゃあ美味しくて当然だ。

 魔物の肉だなんて唯でさえ高級品なのに、戦災級や災害級のお肉なんぞ高位貴族ですらおいそれと食べれない代物を焼きたてで、更には掛かっているタレからして違うからな。

 家に帰った後、また食べたいと言われても無理だからな。

 今の内に、十分に食い溜めしておきなさい。







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