ミッション16 魅せろ!女幹部の必殺技・・・!
「・・・・・・不幸な事故が起こってしまったようだが、もうあれは放っておくとしよう。あの様であればいつでも始末できるからな。」
倒れ伏したサンフラッシュから視線を外し、こちらに顔を向けるバスタートータス。
その瞳から伺える感情は同志の仇である筈のヒーローの無様な姿に、嘲りよりも憐みの感情が強く感じられた。
しかしそれも、一度瞳を閉じて開いた時にはこちらに対する強い敵意へと切り替わった。
「それでは今度こそ貴様達を片付けるとしよう。覚悟せよ!」
宣戦布告を告げるバスタートータスだが、それに対して俺達は未だに建物の影に隠れていた。
「イイッ、イー。イイー?」(どうします、ディーアルナ様。アイツと戦いますか?)
「イー、イイーイー?」(あの甲羅凄く固そうだし、甲羅の中に引っ込まれでもしたら倒すのは難しいんじゃない?)
ようやく体を動かせるまでに回復してきた戦闘員達が声を掛けてくる。
彼等は戦うのであれば、今度こそ役に立つと意気込む様子を見せるが、俺はそれに対して横に首を振る。
「いや、戦わずに秘密基地に帰るぞ。このまま隠れながらひっそりと転移座標地点まで移動しよう。」
正直言ってわざわざ相手をするなんてこと面倒くさいことを俺達がする必要はない。
当初の目的であった動物達に特製饅頭を食べさせるという作戦は完遂済みであり、あとは秘密基地に変えるだけの状態だからだ。
・・・・・・・・・ただ、動物達がどうしてあのような姿に変貌したのかの疑問はあるので、帰ったらブレーバーを問い詰めるつもりであるが。
「どうした!出てこないつもりか!そっちがそのつもりならば、こちらも考えがあるぞ!」
「だから戦うつもりなんて・・・・・・え?」
戦うつもりはないのだと零そうとして振り向いた時、そこで目に入った光景に思わず瞠目した。
「うぉぉおおっ!バーストガンナーモード!」
バスタートータスがそう口にした瞬間、彼が背負っていた甲羅の溝から光が漏れ出し、薄く丸みを帯びて出っ張っていた甲板が蓋が開かれるようにパカリと開いた。
そしてその中から数多くの重火器やロケット砲、小型ミサイル兵器などが固定アームと共に飛び出してきた。
「・・・げぇ!?」
「イイー!?」(あの甲羅の中ってそうなってたの!?)
「イーイー。イッ、イイイー。」(多分さっきのミサイルもあそこから発射したんだろうな。ああ、だからバスターなんて名前が付けられたのか。)
「イッ!?イイッ、イー!イイー!?」(いやいや!?感心してる場合じゃないって、二号!これかなりヤバいよ!?)
物陰から様子を伺っていた俺達は多種多様な重火器が甲羅から飛び出してきたことに驚き困惑した。
目に見える銃器の大きさとか数量的にどう見ても甲羅の中に入らないと思えるものも存在しており、それ程の大量の武器をどうやって甲羅の中に収めていたのと内心で首を傾げる。
しかし、現在の状況はそんなことをのんびりと考えていられるほど穏やかではなかったが。
「ハチの巣にしてくれるわぁー!!」
「うわぁああああっ!?」
「イイーッ!?」(ぎゃぁあああああっ!?)
ドガガガガガ!ドカンドカン!ババババババババ!バシュゥバシュゥ!と、バスタートータスの甲羅から出ている重火器が一斉に火を噴き、大量の鉛玉やロケット弾、小型ミサイルなどを撃ち放ってきた。
「ふははははははッ!!どうした!いつまで隠れているつもりだ!早く何とかしなければ、隠れるところなどすぐになくなってしまうぞ!」
「くそっ!好き勝手言いやがって・・・・・・!?」
大量重火器攻撃を行いながら挑発してくるバスタートータスに対して悪態を吐く。
出て行けるものならすぐに出て行って何とかしたいのだが、それを行うことは難しかった。
面制圧力も凄まじいものであったが、何より恐ろしかったのはその威力であった。
弾の一発一発が園内の地面や建築物を削るように、抉るようにして破壊していく様を見て、下手にあの中へ飛び出そうものなら数秒も経たずに体中が穴だらけとなり、ミンチになってしまうのが簡単に想像できた。
弾切れを期待しようにも、それよりも先に遮蔽物となっている壁が全て削られる方が早いだろう。
「弾幕が厚すぎて思うように動けない・・・!せめてあの重火器の一部だけでもどうにか出来れば、攻略の目処が出せるのに・・・!?・・・・・・・・・ん?」
打開策すら思い付けない現状に、悔しさを感じながら状況を伺っていると、バスタートータスの後ろでユラリと動く影が見えた。
坂之上動物園の飼育員である山田は怒っていた。
自身が働き、愛着のある動物園が破壊されている様を見て怒り狂っていたといってもいい。
飼育員の山田は子供のころから動物が大好きであった。
将来は動物に携わる仕事に就きたいと思い、そうして今は動物園の飼育員という仕事に就いた。
大好きな動物達と関わり、触れ合うことが出来、彼は幸せの絶頂期であったと言える。
しかしそれは今日までの話であった。
ディーアルナ達が動物園で飼育されている動物達に何か怪しい物を食べさせた時には、何変なものを与えようとしているだと思い、またそれによって動物達の姿を変貌させて狂暴化させたことは許せないと感じていた。
だが、ディーアルナ達以上に許せないのが、今自身の目の前で重火器を放ちながら大暴れしているカメの怪人であった。
現在進行形で園内で破壊活動を行っている姿を見て、山田はひどく憤慨していた。
見た目は自身が大好きな動物の一匹であるリクガメの姿をしていながら、そのリクガメが自身にとって愛着のある動物園を破壊していく光景に山田は我慢がならなかった。
「――――――ッ!!」
「――――――んなっ!?な、何をする!」
バスタートータスの背後から迫った山田は拳を振るう。
狙いは甲羅から飛び出した重火器を固定しているアーム。
「――――――オオォォォオオオオォオオオオオッ!!!」
腹の底から響くような雄叫びを上げながら、これ以上動物園を破壊させないと、的確且つ迅速に固定アームを破壊していく。
「グオッ!?ガッ!・・・こ、この!邪魔をするのならお前も消し――――――ブヘッ!?」
飼育員山田の攻撃により次々と己の武器を破壊されていくことに焦ったバスタートータスは、これ以上好きにさせるかと振り向いて飼育員に対して銃口を向けようとしたが、あまりにも苛烈且つ面の圧力の壁と化した拳の連打によって阻まれ、それどころか余計に被害を受けていた。
「・・・・・・グッ!これ以上武器を破壊されるのはまずい・・・!ならば!!」
バスタートータスは外へと出していた重火器を甲羅の中へと戻す。
さらに自身の手足と尻尾、そして頭部を甲羅の中へと引っ込め。
体の各所が完全に甲羅の中へと入るとその出入り口に、まるでシャッターが閉まるような動きで強固そうな壁が展開され、生身と思える部分が完全に見えなくなった。
『フハハハハハッ!!これが完全防御形態だ!この姿になった吾輩に生半可な攻撃など効きはせん!なにせ核シェルター並みの固さだからな!』
まるで馬鹿にしたように山田の事を嘲笑うバスタートータス。
しかし、山田はその声をまるで聞いていないかのように、雄たけびを上げながら強固な甲羅へと拳を振るい続ける。
「――――――オオオォオオオォォォッ!!」
ドドドドドドドドドドドッ!
殴る、殴る、殴る。
無心にただ一点に向かって拳を振るい続ける山田。
『無駄だ無駄だ!この甲羅の強度は核シェルター並みだと言っただろう。その程度の攻撃などビクともせんわ!』
「――――――オオォォォォラァァァアアアアッ!!」
ドガガガガガガガガガガッ!!
バスタートータスのバカにするような声を無視して、狙いを定めた場所に集中的に攻撃を続ける。
『・・・・・・だ、だからそんな攻撃など効かないと言って、・・・おい!話を聞いているのか!?』
「――――――オオォォォオオオオオッ!!」
ゴガガガガガガガガガガッ!!・・・・・・・・・ビキッ!
『・・・・・・・・・えっ?』
そしてようやく、今までの努力が実を結んだ。
甲羅の一部が硬質な音を立てて亀裂が走ったのだ。
その大きさは小さな罅程度であったが、核シェルター並みと豪語していた甲羅にそれが出来たことで壊せないわけではないと証明され、そしてその罅を見逃す飼育員の山田ではなかった。
「――――――オオォォォォオオオッ!オラオラオラオラオラオラッ!!」
『・・・ちょっ!?待って、本当に待って!?嘘!?壊される!?』
「――――――オォォラァァァアアアアアッ!!!」
バッキャンッ!!!
『ボォェエエエエエッーーー!?』
飼育員の山田はその罅に向けてより集中的に拳を振るい、それをより大きく広範囲のものにしていく。
そして最後に渾身の一撃を放つことで強固であった甲羅を砕いて見せたのであった。
『――――――ゼァァアアアアアッ!?』
「――――――ッ!?」
飼育員山田の拳が自慢の甲羅を砕き、生身にまでその攻撃を届かせて見せたことに危機感を感じたバスタートータスは手足部分を塞いでいたシャッターの壁を開き、そこから炎を噴かせた。
飼育員山田はそれに驚き、炎が体に当たる前に大きく飛び退いて後退した。
甲羅の穴から出て来た炎はまるでバーナーのような勢いで噴出し、甲羅そのものをその勢いを使って高速回転させながら、こちらも飼育員山田から大きく後退した。
「お、おのれ!何というやつだ!?吾輩の甲羅を素手で砕くとか、本当に人間か貴様!?」
頭と尻尾、両手足を甲羅から出して地面に着地するバスタートータス。
その表情は飼育員山田を見て戦慄し、恐怖しているように見えた。
「――――――もう、こうなれば自棄だ!貴様等を道連れにしてくれる!」
自身が保有している重火器のほとんどは目の前にいる飼育員の山田に破壊され、残りの武器を取り出そうにも、武装コンテナとしても使用していた甲羅をこれまた飼育員の山田の手により破壊されて使用不可能の状態となってしまった。
だが、まだたった一つだけバスタートータスには残された兵器が存在していた。
バスタートータスの甲羅の側面の溝からプシュウゥゥゥゥッ!!と空気が漏れる音と共に勢いよく蒸気が噴き出した。
その勢いを利用してバスタートータスが立ち上がって仁王立ちとなると、続いて甲羅が後ろにスライドするように動きだして生身の部分から離れる。
そしてそれによって出来た隙間から固定アームに連結された細長い黒い棒状のものが出てきて、バスタートータスの左右にドスン!という音を立てながら地面に突き刺さった。
「こいつは吾輩特製の超強力な爆弾。その威力は周囲一帯を消し飛ばして焦土に変えるほどで、爆破範囲はこの動物園がすっぽり入る!」
クハハハハハハッ!と狂ったように笑うバスタートータス。
「最早吾輩に残された武器はこれだけ・・・!作戦も達成することも不可能・・・!ならば吾輩が最後に出来ることは、我等獣解放戦線の邪魔になる存在を吾輩共々排除することのみ!一緒に滅んでもらうぞ、貴様等ァァーーー!!!」
バスタートータスがそう叫んだ瞬間、ピッ!という音が鳴り、黒い棒状爆弾の表面に青い光の線が走りだし、ピッピッ!と音が鳴っていく度に青から黄色へ、黄色から赤へと色彩が変わっていく。
「――――――ッ!?」
爆弾に走る色が変化している様子を見て、ようやくそれが爆弾であることに気付いた飼育員の山田はなんとかして止めようと走り出そうとするが、しかしその直前に自身の視界の端に一つの人影が走るのが見えた。
その人影を目にした飼育員の山田は、それがバスタートータスと戦う前に自身と殴り合っていた人物であることに気付いた。
バスタートータスが立ち上がって見せた時から嫌な予感を感じ、甲羅の中から出て来た細長い黒い棒を見て、直感でそれが危険物であることを理解したディーアルナは、それが地面に叩きつけられる前に彼の怪人に向かって走り出していた。
一目見ただけでどうしてそれが何故危険物であると分かったのかについては、ディーアルナ自身も上手く言葉にすることは出来ない。
ただ本能で自分達を脅かすものだと理解し、排除するべきだと体が無意識に動き出したとした言いようがなかった。
だが、そんな言語化できない行動が状況を好転させたと言える。
「――――――フッ!!」
「なにぃ・・・・・・!?」
一息の間でバスタートータスの懐に飛び込むディーアルナ。
バスタートータスは自身の目の前に突然ディーアルナが飛び込んで来たことに驚き、それ以上の行動を行うことが出来なかった。
「はあぁぁぁぁっ・・・!――――――」
驚きで動けないバスタートータスの目の前でディーアルナが腰だめに拳を構えると、構えていた拳から黄色状のエネルギーが涌き出るようにして現れ、拳を包み込んでいく。
エネルギーが拳の先から肘までを覆うと、キイィィィィン!と硬質的な甲高い音を響かせながら微細に波打ち始めた。
「――――――【超振動拳】!!」
半歩前に踏み出し、バスタートータスの腹に向けてアッパー気味に拳を繰り出す。
そしてディーアルナの拳が当たった瞬間、見た目固そうなバスタートータスの腹甲が爆散するようにして破壊された。
「グホォォォオオオッ!?・・・・・・バ、バカな・・・腹甲とはいえ、吾輩の甲羅を砕いた、だとぉ・・・・・・!?」
バスタートータスは驚愕に目を見開く。
背中の甲羅よりも硬度は幾分落ちるが、それでも相当に固い筈の腹甲を女の細腕で破壊されたのだから、その驚愕は飼育員山田の時よりも大きかった。
「グフッ!・・・だ、だが、吾輩を倒したところで、爆弾はもう止まらん!共に地獄へ落ちようぞぉぉっ!!」
血反吐を吐きつつ叫びながら、自由となっている両前足でディーアルナの頭を潰そうと動かすバスタートータス。
怪人としての強靭な怪力であれば、女の肉体など簡単に潰せるからであった。
だが、それが成されることはなかった。
「・・・・・・奥義、【竜牙昇断拳】!!!」
ディーアルナが技の名を叫んだ瞬間、拳に纏われていたエネルギーが膨張した。
まるで竜の頭のように変貌したそれは、鋭く尖っているように見える牙が並ぶ口でバスタートータスの体をガッチリと挟み込んだ。
「――――――な、なんだこれは!?」
「空の彼方へ、吹き飛べぇぇーーーっ!!!」
ディーアルナは、バスタートータスに密着していると言えそうなほどの超近距離の中で、半歩踏み出していた足をさらに前へもう半歩踏み出し、地面を強く踏みしめた。
そしてバスタートータスの腹部に当てていた拳を気合の掛け声と共に全力で振り抜いて上空へと殴り飛ばし、そして龍の形をしたエネルギーがその勢いのままバスタートータスの体をさらに遥か上空へと持ち運んでいく。
龍の形をしたエネルギーはバスタートータスの体を運んでいく内にどんどん体を伸ばしていき、まるで東洋龍の姿となる。
光り輝くその様は、まるで神話に出てきそうなほどであり、たまたま空を見てその光景を見ていた人々は、まさに龍が天に昇って行く様を見て呆然と見惚れていた。
「グ、グォォォオオオオッ!?」
しかし、その龍の咢に咥えられているバスタートータスには、目の前にいる龍に見惚れている余裕などなかった。
龍の咢はバスタートータスを空中に運んでいる間、彼の体を両断しようとしていた。
「お、おのれぇぇ!?離せ、離せぇぇっ!!」
龍の咢から逃れようと暴れるバスタートータス。
だが、どんなに龍の頭を叩いても手応えなく攻撃が通りすぎ、まるで霞でも殴っているかのようにバスタートータスには感じられ、顔色を青褪めさせた。
そしてギチギチと音を立てながら龍の牙が甲羅に食い込み始めているのを見て、最後には最早どうしようもないと諦めた表情となる。
「・・・・・・クッ、クックックッ、ここで吾輩はお終いか。だが、獣解放戦線は終わらんぞ!たとえ吾輩が倒れようとも、第二第三の同胞たちがお前達を打ち倒してくれるだろう!その時が来ることを先にあの世で待っているぞ!!ハハ、ハハハ、ハハハハハハ――――――」
そこでガチン!と龍の咢が完全に閉じ切り、バスタートータスの体は両断された。
そしてバスタートータスの体が両断された瞬間に、彼が取り出していた爆弾の光の線が赤色から紫色へと変わってピーッ!という甲高い音が発せられ、轟音が辺り一帯へと響き渡るほどの大爆発が引き起こされたのであった。




