ミッション104 登場”最強の女幹部”・・・!!
突如として鳴り響いた爆発音。その発生源は、甲板と船内とを繋ぐ通路であった。
その場所には大きな分厚い扉があった筈なのだが、しかし今はそれが無くなっていた。周囲に舞っている黒煙と粉塵、それから先程の爆発音から察するに、おそらく爆弾かそれに類する物によって吹き飛ばされたのだろう。甲板の上に落ちているひしゃげた扉だった物を見るにたぶん間違いない。
いったい何が起こったんだと甲板にいた全員が警戒していると、通路の奥からカッカッカッカッ、という硬質感のある足音が聞こえてきた。
そして漂う黒煙と粉塵を切り裂くようにして姿を現したのは、腰まで届く程の青く長い艶めかしい髪をポニーテールに纏め、ブルーサファイアの様に輝く瞳を持つ、見た目二十歳前後の美女であった。
その体には所々に金の装飾が施された流麗さを感じさせるアーマーが取り付けられた体型にピッタリと密着するタイプの蒼いボディスーツを身に纏い、その右手には金の刃と青い装飾が施された刺突剣が握られていた。
加えて、額に様々な本等で登場するユニコーンを思わせるようなメタリック感のある輝きを放つ水色の一本角が存在しているのを見れば、彼女が怪人だということが分かる。
・・・分かるのだがしかし、その女怪人が何故完全武装と思しき格好でこの場に現れたのかが俺達には分からなかった。
「この場にいる紳士淑女の諸君!武器を捨て、両手を上げなさい!この船は我々、悪の秘密結社『グレイスフル・ブルー』が占拠しました!!」
ヒュオンッと刺突剣を振るい、黒煙と粉塵を切り払いながらそう声を張り上げる女怪人。
それを聞いた俺達は、そこでようやっとこの船がハイジャックされようとしている事を理解した。
「抵抗しても構いませんが、その場合は容赦なく痛めつけて海へと放り捨てさせてもらいます!その覚悟がある者だけ名乗りを上げ、私の前に出て来なさい!!」
再び口を開き、そう宣告する女怪人。揺れる程の胸を張ってそう語る姿からは、己の強さにかなりの自信があるように見えた。
「侵入者だ!総員、戦闘態勢!侵入者を迎撃せよ!!」
そこへ、彼女の宣告に応える様に何処からともなくガードマンと思われる銃火器を装備した黒服の男達が姿を現した。
女怪人を囲むように駆け込んで来た彼等は、その手に持つサブマシンガンをガチャガチャガチャと一斉に構える。
「ほう?まだガードマンが残っていたのですか。数は一人、二人・・・・・・七人程か。どうやらこれで最後のようですね」
ガードマン達に囲まれた女怪人は慌てる様子を見せず、静かに刺突剣を両手で持つと、チャキリッと霞の構え―――刺突剣を顔の横に添え、切っ先を相手に向ける構えを取る。
「撃てぇ!!」
次の瞬間、その一言と共にガードマン達は一斉にサブマシンガンの引き金を引き、連続で弾丸を発射する。
逃げ場も避ける隙間もまったく無い弾幕の嵐。・・・だが、それ等が女怪人に当たる事は無かった。
無数の弾丸が迫る中、彼女は瞬きするよりも早く一瞬の内に姿を消し、ガードマン達の上空へと移動していたからだ。
「【ブルースプラッシュ】!!」
ドドドドドパァッ!!
『ぐわああああああーーーっ!?!?』
空中で体を横に一回転させながら落下していた彼女は刺突剣を水平に構えると、それを思いっきり横薙ぎに振るった。
瞬間、剣先から放たれる大量のエネルギー。流れる水の様な動きをするそれは、さざ波のような現象を起こしながらガードマン達へと襲い掛かり、彼等を物凄い勢いで押し流した。
「つ、強い・・・!」
「こ、この強さ、並みの怪人なんかじゃないぞ・・・!」
「い、いったい・・・何者、なんだ・・・!?」
押し流され、甲板の床の上を転がっていたガードマン達の内、まだ意識を保っていた何人かが、這いつくばり、呻くような声で呟く。
それを耳にした女怪人は、まるで意外とでも言うかのようにピクリと眉尻を上げた。
「おや、私の事をご存じではないのですか?昔起こった例の騒動の事もあって結構有名だったと自負していたのですが。・・・まあ、知らないと言うのであれば答えてあげましょう」
女怪人はそう言うと、刺突剣の柄を両手で握り、胸の前で掲げるように構えた。
「―――我が名は『ブルーナイトメア』。悪の秘密結社グレイスフル・ブルーに所属する怪人にして四幹部の一人です!」
彼女がそう名乗りを上げた瞬間、甲板にいたほとんどの者がざわめいた。
「イッ!?」(な、何ッ!?)
「イッイー!?」(ブルーナイトメアだって!?)
「知っているのか一号、二号!」
そのざわめいた者の中には戦闘員一号と二号も入っており、二人の驚き様はまるで「バカな、何故此処に彼女が・・・!?」といったような感じであった。
そんな彼等にブルーナイトメアと名乗った女怪人の事を知っているのか聞くと、二人は冷や汗を流しながら教えてくれた。
「イッ、イイイーイーイー。イーイー、イイイー、イーイーイイー」(あ、ああ、俺達のような悪の組織や秘密結社の間じゃかなり名が知れ渡っている有名人だ。何よりも特筆すべきはその戦闘能力の高さで、〝最強の女幹部〝だなんて二つ名で呼ばれる程、他の幹部クラスの怪人よりも頭一つどころか二つ三つ分は抜きん出ているんだ)
「そ、そんなに凄い奴なのか、彼女は?というか、最強の女幹部って・・・えっと、じゃあお前等が驚いてたのは彼女が此処に現れたからなのか?」
「イッ、イイッ、イー。イイッ、イーイーイー。イイイッ、イーイイー、イイーイー。イッ、イイイーイー」(いや、俺達が驚いていたのは別の理由だよ、ディーアルナ様。実はここ数年の間、彼女は公の場に姿を現さなくなっていたんだ。知り合いと思しき連中にもまったく音沙汰が無い様子から、何かしらの理由で活動休止状態になっているか、この業界から足を洗ったんじゃないかのどちらかだと噂されていたんだ。だからこそ、この場に突然姿を現した事に俺達は驚いたんだ)
「俺達以外の甲板にいる奴等も、多分同じ理由で驚いていたんだと思う」と話す戦闘員一号と、同意するように首を縦に振る戦闘員二号。
彼等の話を聞いてなるほどと頷いていた俺だったが、そこでちょっと疑問に思ったことがあった。
「なあ、活動休止状態とか足を洗ったんじゃないかとか言っているけどさ・・・誰も、彼女が誰かに倒されたとか考えたりしなかったのか?」
そう尋ねてみると、二人は顔を見合わせた後で「ないない」と片手を横に振った。
「イーイーイイー。イイイーイーイー。イイッイーイー、イイー」(彼女の実力は相当なモンだぜ。なにせ過去にヒーロー連合協会のイギリス支部をたった一人で壊滅させたこともある程だからな。そん所其処らのぽっと出の連中なんかにやられるなんてのは誰も思わないというか、想像すらできないって)
「イッ、イイッ。イーイー、イイイーイー。・・・イイッ、イーイー、イーイイイーイー・・・」(それに加え、かなり優秀でもある。なにせ彼女が主導した作戦や事業は、その大半が大成功を納めているからな。・・・まあだからと言うか、おそらく彼女が今まで表に出てこなかったのは、”彼女が持つ彼女の能力に関わらない唯一の欠点”が理由ではないかと俺達は考えてたりしたんだが・・・)
「・・・?彼女が持つ彼女の能力に関わらない唯一の欠点って、何そのとんちの利いた様なのは・・・?」
戦闘員二号の口にした言葉に俺は、いや本当に何それどういう意味なんだ?と頭の上で幾つもの?マークを浮かばせながら首を傾げる。
「あ、あの有名な堕ちた青騎士がどうして此処に・・・!?いやそれよりも、いったい何が目的でこの船を占拠なんかするんだ!?」
「・・・ええ。それはこの船に乗船している客人である貴方方からすれば当然のように抱く疑問でしょう。―――なので今此処で、我々悪の秘密結社グレイスフル・ブルーの目的をお教えいたしましょう」
「・・・え、教えてくれるのか?」
そうしている間にも事態は進む。
甲板にいる者達の内の誰かが驚きと愚痴混じりの言葉を口にし、それを耳にしたブルーナイトメアが当然の疑問だと頷きながら、自分達がどうしてこの船を襲い、占拠したのかを語り始めた。
「我々の目的、それは―――悪の組織アンビリバブルのボス、ブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアを打ち倒す事です!!」
・・・なんですと?
「かの者はその昔、我々悪の秘密結社グレイスフル・ブルーを壊滅一歩手前まで追い込みました。そのせいで我々は活動を休止せざるを得なくなり、再建が成される今日までかなりの苦労をしてきました」
ギシリ、と音が鳴るくらいに拳を握りながらそう語るブルーナイトメア。その声音には組織が再建されるまでの苦労を思い出してか、こう怨嗟というか、恨み辛みの感情が込められているような感じがした。
「苦節数年。色々な問題や障害が起こったりしましたがしかし、我々悪の秘密結社グレイスフル・ブルーは完全復活を遂げました!以前よりも強くです!・・・そしてその復活の狼煙として、我々の組織に甚大な被害をもたらした下手人であり仇敵であるブレバラント・アーユーカウス・レンテイシアを倒すことを我々は計画したのです!!」
バンッ!なんて擬音が聞こえそうな感じに刺突剣を降り、胸を張って言うブルーナイトメア。見開いた強い意思を感じさせるその瞳は、まるで炎のようにゴウゴウと燃えていた。
そんな彼女の様子を目にし、言った事を耳にした甲板にいる者達の内、先程とは別の人物が苛ただしげに口を開いた。
「そ、それで、どうしてこの船を襲って占拠するなんてことになるんだ!俺達もそうだが、そのブレなんとかとは無関係じゃないか!」
「その質問についてですが、我々は計画を実行するにあたり、まずはかの者の所在を確認しようと調査を行いました。その際に、近々スパランティス島で開催される『悪の組織、秘密結社合同スーパーロボットコンテスト!』というイベントに参加することを突き止めた我々は、その行程を調べ上げ、包囲網を敷き、海上という逃げ場のないフィールドでかの者を確実に仕留めようと考えたのです!」
そう語ったブルーナイトメアは口元にニンマリとした笑みを浮かべており、それはまるでこの計画が成功すると確信を持っているかのような、自信満々と言いたげなものを感じさせた。
「・・・だそうだが、どうするブレーバー。どうやらあの人狙いはアンタのようだが―――」
彼女の言い分が正しければ、つまり今回の件はブレーバーが行った事に対する復讐または報復だ。宣言した通りブレーバーを倒すか、もしくは彼女―――否、組織名を名乗ったことからおそらく複数人で来ているであろう彼女達を撃退しない限りは状況の改善は見込めないだろう。
巻き込まれた他の客にしたら堪ったものではないだろうなと俺は内心で思いつつ、隣にいるであろうブレーバーへと声を掛けながら振り返れば―――
・・・カポッ
『ブレーバー?そんな奴は知らないワン!オイラはフリーダムレインボーのマスコット、デパワンもといシプワンだワン!』
そこには犬の着ぐるみを着込んで別人の振りをしようとしているブレーバーの姿があった。
・・・おう、ちょっと待てコラ。
「何やってんだよブレーバー。この状況でしらばっくれるつもりか、ああん?」
『君が何を言っているのか分からないワン。僕はブレーバーなんて頭脳明晰で質実剛健なカッコ良い男じゃないワン!』
「いや、別人の振りしながら自画自賛してんじゃねぇよ」
『あ、やめて!頭を取ろうとしないで!!中身が、中身が出ちゃうワン!?』
こんにゃろう。着ぐるみなんか被りやがって、どうやら正体を隠すつもりであるらしい。
アンタのせいだろうがと額に青筋を浮かべながら着ぐるみの頭を外そうとするのだが、しかしブレーバーも外されて堪るものかと抵抗する。
「・・・?」
まあ、それだけ騒いでいれば当然気にする者も出てくるだろう。現にブルーナイトメアも、なんだろう?とこちらに視線を向けてきていたようだったし。
ただ幸いと言っていいのか、偶然にも俺達の前にいた群衆が壁の役割を果たしていて、こちらのやり取りは見えなかったらしい。一瞬だけ俺達の方へと視線を向けたが、すぐさま正面へと向け直した。
「・・・っで?あのブルーナイトメアって女怪人の言っていた事は本当なのか?彼女の所属する組織を壊滅一歩手前まで追い込んだってのは?」
結局着ぐるみの頭を外すことができず、諦めて手を離した俺は、その後でブレーバーにブルーナイトメアの言っていた事が本当かどうか尋ねてみた。
『あ、ああ・・・・・・たぶん?』
俺の問いに対して肯定するように頷いて見せたブレーバーだったが、しかしその首は若干傾いていた。
「たぶんってなんだよ、たぶんって」
『い、いやな?彼女が話していたのは、おそらく我がこの地球に来たばかりの頃、つまりは多数の悪の組織やヒーロー達を相手取って暴れていた時の話だとは思うのだが・・・・・・あの頃は敵味方入り乱れた乱戦状態の戦場にあえて突撃したということもあって、正直何処の誰と戦ったかなんてあんまり覚えていないのだ』
「戦いの中で互いに名乗り合うなんてこともしてなかったし」とも呟くブレーバーの話を聞いた俺は、顎下に指を添えながら「ふむ・・・」と声を零した。
つまり、本当にブレーバーの手で悪の秘密結社グレイスフル・ブルーという組織を壊滅一歩手前の状態にまで追い込んだのかどうかは、本人にも分からないということらしい。
一応その戦いの後、ブレーバーも自身を取り巻く状況が落ち着いた時に当時の事を調べてみたことがあるらしいのだが、しかしどうやらあの戦いに関する記録はヒーロー連合協会によって大半が秘匿されてしまった為に、録に情報を得ることができなかったそうだ。
それ故にというか、ブルーナイトメア主張した事が事実かそうでないかの真偽の程は自分にも分からないのだ、とブレーバーは首を横に振った。
「―――ふざけるなよ、この売女めが!だれがお前の言いなりになどなるか!」
「・・・うん?」
―――と、そんな時だった。突如として怒声が上がったのは。
声を上げたのは甲板にいる者達の中でも一際体の大きい怪人であった。鬼を連想させる厳つい顔と筋骨隆々な肉体、そして一本の大剣を背中に背負ったその怪人は、ドスドスドスと重い足音を立てながら前へと出てくる。
「ほう?抵抗されると?」
「当たり前だ!」
「我々の邪魔をしなければ危害を加えるつもりはないと言っても?」
「くどい!」
ブルーナイトメアの再三の説得・・・いや、もうあれは警告だな。それを聞いてもかの怪人は矛を納めるつもりはないらしく、背中の大剣を抜き放つと両手で握り、構えた。
「はぁ、まったく・・・戦闘特化の怪人というのは、どうしてこうも血気盛んな者が多いのでしょうか。仕方がありませんね―――来なさい」
「行ぃくぞぉぉぉ!キエエエェェェーーー!!」
刺突剣を構えるブルーナイトメア。その姿を目にした筋骨隆々な体の怪人は、奇声を上げながら走り出した。
剣の構え方、そして奇声ということから、おそらくかの怪人が繰り出そうとしているのは薩摩示現流とかの剣技のそれだろう。
薩摩示現流とは、『二の太刀要らず』―――初太刀に全身全霊をかけ、電光石火の一撃のもとに敵を叩き斬るという剛剣を振るう事で有名な流派だ。戦場で使われていた時には、受けた刀ごと相手の頭を割ったり、体を真っ二つに切り裂いたり等の逸話さえある剛剣だが、それがかの怪人の豪腕によって繰り出され、振るわれるとなれば、その威力の程は想像に難くない。
現に大剣が振るわれる際に鳴り響いた暴音は、岩を砕き、真っ二つにすることが出来るのではと思わせるものであり、当たればかなりの大ダメージは必須、最悪はそのまま戦闘不能になる事は間違いないだろう。
―――まあ、当てる事ができればの話だったが。
「・・・・・・」
「なんだと!?」
上段から勢いよく振り下ろされる大剣。それに添えるようにブルーナイトメアは刺突剣を当てると横へと切り払い、シャオンッという澄んだ音と共に大剣の軌道を逸らし、流した。
まさか自身の剛剣が受けるでも避けるでもなく、逸らされ流されるとは思ってもみなかったのだろう。筋骨隆々な体の怪人は驚きに目を見張っていた。
「今度はこちらの番です。覚悟はよろしいですね?―――【ブルースプラッシュ】!!」
「ヌ、ヌオオオオオーーーッ!?!?」
お返しとばかりにブルーナイトメアから放たれる連続の刺突攻撃。薄っすらとしたエネルギーを纏って振るわれるその攻撃は、筋骨隆々な体の怪人に当たる度にバシャシャシャシャッ、と水音を響かせる。
だがしかし、かの怪人の肉体が見た目相応に頑丈であった為か、表面上は軽く傷を付ける事はできたものの、切っ先が深く刺さる事はなかった。
それでも衝撃までは防ぐ事はできなかったようであり、筋骨隆々な体の怪人は攻撃を受ける度にどんどん後ろへと下がっていく。
「これで―――終わりです!!」
「これは・・・なんと、美しい・・・!」
そして連続攻撃の〆として放たれる大斬撃。
下から上へと振るわれるブルーナイトメアの一撃を受けた筋骨隆々な体の怪人は、その言葉を最後に甲板の端の外側へと吹き飛ばされ、そのまま海へと落ちていった。
・・・というか、最後の言葉がそれでいいのか。
「・・・さて、これで我々の邪魔をしたらどうなるか、貴方方には分かって頂けたと思います。もう一度言いますが、おとなしくしていれば危害を加えるつもりはありません。先程の彼のような目に遭いたくなければ、おとなしくしていることをお勧めします。―――よろしいですか?」
バシャアアンッ、と鳴り響く水音。
それを尻目に俺達の方へと向き直ってニッコリとした笑みを浮かべるブルーナイトメア。
それは男であれば大半が見惚れるであっただろう可憐とも美しいとも言えるものであったがしかし、纏う雰囲気は「絶対に拒否は許さない。したら切り捨てる」と言わんばかりの重圧感を感じさせるもの。
それを目にした甲板にいる者達は、拒否した場合の自分達の末路を想像してか顔色を青く染め上げ、ただ静かに「はい」と揃って頷くのであった。
次回投稿は10月9日の予定です。




