ミッション102 密会するヒーロー達 その2 続々々々
「―――ほら、しっかりしなさいよ、御城。要はしっかりと休んでればいいってだけのことでしょう?何をそんなに落ち込んでるのよ」
「いやだって、皆が動いているっていうのに、俺だけ何もしないでいるというのはさぁ・・・・・・」
「そんなの、しっかりと休みを取っていなかった自分の自業自得だろうが。・・・ああ、向井。情報提供ありがとな。それじゃあ俺等は行ってくるぜ。朗報を期待して待ってろよ」
そう言いながら店を出ていく御城、羽澤、ラッセルの三人。
それを向井は薄っすらとした苦笑を浮かべながら見送った。
「・・・・・・」
「お客人は帰られましたか、ご主人様」
そしてパタンと扉が閉まり、暫しの沈黙の時間が流れた後、店内の奥の暗がりから向井に声を掛ける人物が現れた。
その人物は長い黒髪に透明感のある水色の瞳、そして額から伸びている二本の黒い角が印象的な女性であった。
身に纏っている衣服は、丈が膝上までと短い水色の睡蓮を模した花柄が描かれた黒い着物を一枚羽織り、両手にはエナメル製のグローブ、両足には網目状のタイツソックスとヒールのある靴を履いている。
その見た目はまるで忍者、それもくノ一を連想させるもの・・・・・・なのだがしかし、着崩した着方をしているせいで露出度が際どいくらいに高くなっていた。
肩どころか上半身のほとんどを露出させ、着物の下に着ていた水色のビキニを隠すことなく思いっきりさらけ出している肌色面積過多なその姿は、はっきり言って目に毒だし、青少年の情操教育に悪いと言えるもの。その格好のまま町中を出歩こうものなら、まず間違いなく「うわっ、痴女だ!痴女が出た!?」からの「お巡りさんこちらです!」からの「◯◯時◯◯分、現行犯逮捕」となるのは確定だろう。
まあ、普通ならそうなるリスクを警戒して、誰にも見られないように人気のない所を選んで行動する筈―――
「ああ、『濡葉』さんですか・・・というか、貴女はまたその格好で外に出ていたんですか?何度も言っていますが、きちんとした服装をしてください。そんな薄着、というか裸に近い格好で出歩いたら不特定多数の人々に見られることになりますし、最悪捕まりますよ?」
「申し訳ありませんが、如何にご主人様の言うことであろうとも、私はこうした格好で外を出歩くのをやめるつもりはありませんよ。だって―――その不特定多数の人々に見られるのがめっっっちゃくちゃ興奮するからです!!むしろもっと見てほしいと思ってますよ!!私の体を隅から隅まで!それこそ舐め回すように!そんでもってその不特定多数の人々が、特に女に飢えたむくつけき男共が頭の中で私のことを、あんな事やこんな事をして(性的に)苛める事を妄想しているかと思うと、もう最っっっ高に滾るってもんです!!!」
―――訂正。既に表を思いっきり出歩いていたようであった。
しかも全然反省もしていなければ後悔もしていなかった。むしろめっちゃ嬉々として、ハァハァ・・・!!と自らの体を掻き抱きながら興奮していた。
その姿はもう完全に末期な露出狂のド変態と呼ぶに相応しいそれ。彼女が浮かべている表情は健全な青少年には見せられないくらいに情欲にふやけきり、崩れまくった表情をしていた。
その姿を見た向井が、うわぁ・・・と思わずドン引きしながら『110』を何時でもできるようセットしてしまうほどに。
・・・まあそれは、向井が携帯端末を取り出したことに気付いてハッ!?と正気を取り戻した濡葉が、「あっ待って待ってちょっと待って通報しようとしないで!?」と必死こいてストップさせたが。
「やれやれ、まったく貴女という人は・・・・・・以前はあんなにも凛々しく聡明な女性だったというのに、いったい何がどうしてこんなド変態になってしまったのやら・・・・・・」
片手で自らの額を押さえながら、嘆かわしい・・・!と呟く向井。
だが、そんな彼に濡葉はちょっと不満げに口を開いた。
「そんなの、ご主人様のせいに決まっているではないですか。私はご主人様の尋問という名の拷問を受けたことで新しい扉を開く事が出来たんですから!」
「・・・・・・それを言われると正直言葉に詰まりますね」
濡葉のその返しに向井は苦々しいと言いたげな表情を浮かべていた。
なお、濡葉が言った尋問という名の拷問という言い方は別に間違いなどではなかったりする。
ちなみに、この手のセリフを聞くと同人誌とか薄い本を嗜んでいる紳士淑女はエロい展開を想像してしまうかもしれないが・・・・・・残念ながら向井が行ったのはそういう方面ではない。エロ系要素なんて欠片も存在していないガチの拷問であった。
どんな事をやっていたのかを具体例に説明するとしたら、一番ソフトだと思える例で、対称を椅子に座らせ、拘束して強い電流を流す『電気椅子』や、十露盤板と呼ばれる三角形の木を並べた台の上に正座させ、その膝の上に石を置いていく『石抱き』といったモノが挙げられる。
この他にも多種多様な拷問方法を用い、最終的には屈強な男ですら泣いて謝ってやめてくれと懇願するようなレベルのモノすらも行っていたのだが・・・・・・しかし、そこで向井すら想定していなかった事態が起こった。
濡葉という女性はその姿から分かる通り怪人だ。それもただの怪人ではない。戦闘力だけなら下手な組織のボスなんて優に越えるレベルの凄腕だ。
故にか、その実力に比例するように体はかなり頑丈であり、生半可な攻撃では傷が付かないくらいに耐久性が高かった。―――向井の想像以上に。
なにせどれだけ激しく残酷な拷問で責め立てようが、その頑丈さ故に録なダメージを与える事が出来なかったのだ。
だからと言うか、もう最後にはヤケクソ気味に衣服を全部剥ぎ取り、対怪人専用のロープでもってグルグル巻きにした後、森の中に一日吊し上げて放置した。もちろん逃げ出した時に直ぐに気付いて対応できるよう監視も付けてだったが。
肉体的な責めがダメなら屈辱と羞恥心を覚える揺さぶり、つまりは精神的な責めを試してみよう、といった感じのノリで行った事であったのだが―――まさかそれが彼女をドMな露出狂のド変態に目覚めさせてしまう事になるとは、当時の向井は本当に、まったく、これっぽっちも予想していなかった。
・・・というか、誰がああなるなんて予想できるか!?と当時の彼は頭を抱え、頬を引き攣らせながら思いっきり叫んだ。
それ以降、濡葉は向井の事をご主人様と呼び始め、今まできっちりかっちりしていた服装を盛大に着崩して肌を露出させ始めた。
それだけだったら、まあ個人の性癖の変化ということで流す事ができたのだが、しかし彼女はよりにもよってそのままの格好で公衆の面前に突撃しようともし始めたのだ。
流石にその行動は彼女を拘束している立場の向井としては見過ごすわけにはいかなかった。濡葉の存在は当時のヒーロー連合協会も知っていたので、下手をすれば彼は〝女怪人を調教してド変態へと変えるヒーロー〝だなんてレッテルを貼られかねなかったからだ。
故に、生来のサディスト的な気質はともかく性癖は至ってノーマルだった向井はそんなレッテルは御免被ると必死になって彼女を止めた。
それはもう無駄にハイテンション状態で脱走からの町中オールウェイを繰り返そうとする濡葉を様々な策を労して連れ戻したのだ。
なお、その策がどのようなものであったかについては彼の名誉のために語らないでおく。
ただ一言付け加えるのであれば、彼女を十分に満足させていたとだけ言っておこう。
「はぁ・・・まあいいです。その点については今は置いておきましょう。・・・それで?お願いしていた例の物は手に入ったのですか?」
「はい。少々時間は掛かりましたが、ご主人様がご所望になられていた品―――渡辺光とアリスティーゼの遺伝子情報のデータはこの中に」
閑話休題。
まあそんなこんなあって、向井の部下(というか下僕?)になった濡葉だが、彼女は向井に命じられてとある任務に就いていた。
帰ってきたということは、その任務を達成したということなのだろう。そう判断した向井は彼女に向かって尋ね、濡葉もまた頷きながら着物の内側に存在していた内ポケットから指先サイズの記憶媒体を取り出して見せた。
「これが・・・・・・ありがとうございます、濡葉さん。おかげで彼に関する今後の調査を進展させる事ができます」
それを受け取り、口元に薄っすらとした笑みを浮かべながら濡葉に礼を言う向井。
その後で彼は小型の記憶媒体をデバイスへと挿入し、ホログラムキーボードを操作して、その中に納められていたデータの内、アリスティーゼのモノを展開する。
「は、ははっ・・・!ある程度予想はしていましたが、まさかここまでとは!・・・・・・流石にこんなの誰も想像できませんよ。たった一人の個体が持つ遺伝子情報の数がこれ程までに膨大なんてことは・・・!!」
その瞬間、向井の目の前に大量のアリスティーゼの遺伝子情報のデータが出現した。
その数はおおよそにして数百種類。それだけでも驚きだが、しかしそれ以上に驚いたことがあった。
それは遺伝子情報の変化だ。なんとアリスティーゼの遺伝子情報はある程度の時間が経過すると構成や配列が書き換えられ、上書きされているのだ。しかも全てが、だ。そのあまりにも現実離れ過ぎる光景に、これには向井も引き攣った笑みを隠せなかった。
「(書き換わる前と後の遺伝子情報を見比べると一見ランダムに見えるが、規則性やパターンがないわけじゃない。とは言え、こうも書き換わるとなれば解析にはかなりの時間が掛かるだろう。・・・だが僕の推測が正しければ、おそらくこれを解析することが出来れば渡辺光君に関する謎に一つの答えが出る筈だ)」
片手で口許を押さえながらそう考えた向井は、しかし同時にこの場で遺伝子情報を解析しきるのは無理だろうとも考えていた。
単純にマシンパワーが足りない。一応持ち込んでいたデバイスにも解析システムは組み込んでいたが、データ量が想定以上に膨大であるため、途中で処理しきれなくなってフリーズしてしまうのがオチだろう。
詳しい事は持ち帰ってからにしよう。そう思った向井は、ふぅ・・・と息を吐いて気持ちを落ち着かせた後にデバイスの電源を切って懐に仕舞い―――ふとそこで、そう言えば・・・という風に濡葉に声を掛けた。
「そう言えば濡葉さん、頼んでいた僕が言うのもなんですが大変だったでしょう?ヒーロー連合協会の本部に潜入してデータを盗み出すというのは」
濡葉にそう労い言葉を送る向井だったが、しかしそれに対して濡葉はあまり喜ぶ様子を見せず、困ったように眉尻を下げた。
「いえ、それが以外とそうでもなくて・・・・・・確かに潜入するまでは大変でしたが、データの入手に関しては内部協力者のおかげで然程苦もなく手に入れる事ができたのです」
濡葉の話を聞いた向井は、おや?と首を傾げた。
「・・・内部協力者?いったい誰です?」
「それが・・・私に情報を提供してくれたのはドッグナンバーズでした」
「彼等が?いったいどうして・・・・・・」
濡葉の言う内部協力者がドッグナンバーズであることを知り、何故?と今度は反対側に首を傾げる向井。
そんな彼の姿を見た濡葉は考え込むような仕草をしながら「・・・これは推測なのですが」と呟いた。
「おそらく、彼等は何者かの手によって洗脳状態にあるのではないかと。彼等の大半は嬉々として私にデータを渡していましたが、一部の者は渋る様子を見せていましたので・・・」
「ふむ・・・濡葉さん、貴女が接触した内部協力者達がどの部隊の者だったかは確認できましたか?」
「申し訳ありません。そこまでは・・・・・・ただ、先程お教えしました渋る様子を見せていた者が周りからドッグワンと呼ばれていたのは耳にしています」
「ドッグワン・・・『アルファ部隊』か!十分な装備があれば序列上位のヒーローにも劣らない実力の持ち主達と言われている、あの・・・!まさか、彼等が外部の者の手に堕ちるとは・・・・・・」
内部協力者の正体を知った向井は驚きの声を上げる。
「濡葉さん、彼等を洗脳した者が何者か確認することはできましたか?」
「一応は。私も気になったので確認したところ、なんでも彼等を洗脳したのはメドラディという女怪人だと、ドッグナンバーズのメンバーは言っていました」
「言っていましたって・・・え?教えてくれたんですか?洗脳されている彼等が?・・・普通そこは隠したりするところじゃ・・・?」
「えっと・・・彼等の大半はご主人様の言う通り答えることなく隠そうとしておりましたが、先程お教えした一部の者、ドッグワンという方が答えてくれました。どうやら情報を探り、送るよう命じられた事を強要されてはいるものの、その自我にまで制限は掛かっていなかったようでして・・・・・・こう、恨み辛みを込めたような、憎々しげな感じで教えてくれました」
「そ、そうだったんですか・・・」
「あれは本当に怖かったです。〝今度会ったら絶対にあんにゃろうの首をとってやるぅぅっ!!!〝・・・的なのをヒシヒシと感じました」と呟く濡葉。
如何にドMで露出狂なド変態である彼女といえど、その時の事は流石に許容範囲外だったのだろう。顔色は青醒め、若干涙目になっており、それを目にした向井はつい反射的に「それは、その・・・本当にご苦労様でした」と優しい声音で労りの言葉を掛けてしまっていた。
「しかし、メドラディ・・・メドラディか・・・・・・やはり聞いたことのない名前ですね。最近現れるようになった怪人でしょうか?」
向井は顎に手を当てながら考え込む仕草をする。それから「ふむ・・・」と一つ頷くと、濡葉に視線を向けた。
「濡葉さん。貴女には任せている例の任務と平行してメドラディという怪人の情報を集めてきてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「問題ありません、ご主人様。ご用命承りました」
スッと床に膝を着き、頭を垂れる濡葉。
本人の格好や性癖はともかくその姿はまさに主人に付き従う従者然としていてとても様になっていた。
・・・ただ、その後で何故か向井の顔を伺うようにチラチラと見始めたが。
「・・・あの、ご主人様。報告の件とは別にお伺いしたい事があるのですが、聞いてもよろしいでしょうか?」
「ふむ?構いませんが、何を聞きたいのですか濡葉さん?」
「その・・・西条睦月についてです。何時ものご主人様であれば、私のような例外を除いて用が済んだモノは処分なさっている筈です。なのに、何故あの男は処分なさらなかったのですか?」
「・・・・・・」
「・・・ご主人様?」
しっかりと処分していれば拐われるなんて事態は起こらなかった筈だ、と言外に語る濡葉。
それに対して向井は、暫しの沈黙を続けた後にゆっくりと口を開いた。
「・・・西条睦月についてですが、別に処分しようとしなかったというわけではありませんよ。―――しようとしても出来なかったんです」
「・・・?それはいったい・・・?」
どういう意味だろう、と首を傾げる濡葉。
そんな彼女に、向井は人指し指を一本立てて見せた。
「・・・濡葉さん。貴女はこんな噂を聞いたことがありますか?僕達ヒーローという存在がこの世に産み出されるその前に、プロトタイプと呼ばれる存在が作られた、という噂を」
「えっと・・・はい、その噂は聞いたことがあります。ですがそれは、根も葉もない都市伝説の類いの話だと世間一般では認識されているとも聞き及んでおりますが・・・」
「確かに世間一般ではそうでしょう。・・・でも火のない所に煙は立たないように、そう噂されるということは元となる何かは存在しているんじゃないかとは考えられませんか?・・・・・・まあ、僕自身も実際にその存在を目にするまでは半信半疑だったんですが」
「ご主人様、それはどういう・・・・・・いえ、まさか」
濡葉が何かに気付いたようにハッとする。
その様子を見ていた向井は、彼女の考えている事を肯定するように頷きながら口を開いた。
「そう。西条睦月、彼こそが僕達ヒーローの前身、プロトタイプと呼ばれ噂される元となった存在だったんですよ」
そう答えながら苦笑を浮かべる向井。その後で彼は肩を竦めて見せた。
「本当にプロトタイプとはよく言ったものでしたよ。なにせどれだけ切っても焼いても潰しても溶かしても、その度にすぐさま肉体を再生させていたのですから」
生命維持が不可能なレベルの事も幾つか試してみたが、それでも西条睦月を処分することは出来なかったとも向井は語る。
話を聞いた濡葉は「うわぁ・・・」と引く様子を見せるも、それと同時に頬を赤く染めてハァハァ・・・!と鼻息を荒くしていた。
どうやら自分がもしその立場だったらどんな感じになっていたんだろうと想像・・・否、妄想して興奮を覚えたらしい。
おそらく自身の身体の頑丈さがどれ程かを理解した上で十分に耐えられるだろうと判断したが故だと思われるが、しかしそれで興奮されると本当に筋金入りのドMと言わざるを得ない。
「処分出来ないと判断した後、仕方なく僕の所有する収容所に入れていましたが、とは言え面倒を見続ける事は難しかったので、最終的に昔受けた仕事で知り合ったホモォな人達に面倒をお願いしました」
向井は「目に涙を浮かべながら用意した部屋へと彼等に連れ込まれた後、ブヒィッ!?と汚い悲鳴を上げていましたよ」と言いながら、遠い目をしながら苦笑を浮かべるのであった。
『では任務の件、よろしくお願いしますね』
『はい。お任せください、ご主人様。それでは失礼いたします』
ザッ、ザザザッ、と暗がりの部屋の中に響くノイズ混じりの会話。それを耳にした長い金髪をサイドテールに纏め、赤縁の眼鏡を掛けた女性―――ウィップティーチャーはニヤリとした笑みを浮かべた。
「ふーん・・・仕事でもなさそうなのにこんな所にいるから怪しいと思って探ってみれば、まさかそんな事をしていたとはねぇ」
ウィップティーチャーは髪先を指でクルクルと弄りながら呟く。
事情を知らない者からすれば、どうして彼女が向井達の会話を盗み聞きしているのかと疑問に思うことだろう。
その理由は二つあり、一つはウィップティーチャーが子供達を救出した後、偶然にも町中を歩いている向井の姿を目にしたからだ。
探偵ヒーローシルバリオンという名前を名乗っている彼は、数いる日本のヒーローの中でも序列上位に位置している。そんな人物が普段の活動場所とは違う遠方の都市で、しかも人気の無さそうな路地裏へと向かう様子を見れば誰だって気になるというもの。
更には、なにやら夜のお店っぽい所に入っていくとなれば、ヒーローであり同僚でもある立場としては確認せざるを得ないだろう。
もう一つの理由は、ウィップティーチャーが向井の事を常日頃から怪しくて胡散臭い腹黒野郎だと思っていたからだ。
ウィップティーチャーが向井と知り合ったのは高校生の時であり、彼の幼馴染み件自身の友人経由でだった。
その当時から「こいつ、めっちゃくちゃ胡散臭そうなんですけど。腹に何か黒い物を抱えてそう」と思っており、後日なんやかんやあって思った通りの人物であると知って、仕事に関しては信用できても人間性に関しては信頼できないと判断していたのだ。
それは今も変わらず、それ故に向井が関わっているであろう事件を知ったときには優先的に調べるようにしていた。
なにせ彼が関わる事件は大抵、何処ぞの組織が企ている巨大な陰謀に繋がっていたり、遠い星々から密かに来襲していた宇宙人(プレデター的なの)との攻防戦を繰り広げる事になったり、はたまた超古代に作られた破壊兵器を目覚めさせた悪の天才科学者との死闘を演じる羽目になったりといった大事件に発展していくのだ。
何も知らなかった、気付かなかった周囲にとっては寝耳に水とばかりに突然甚大な被害という名の災難が降り掛かるようなものだ。
なお、全てウィップティーチャーの体験談であったりする。
「西条睦月が行方不明になったのもアイツの仕業だったとはね。・・・まあ、あの男に関しては昔から性根は生け好かない感じだったし、やり口も気に入らない事が多かったから、いい気味だと思うけどね」
フンッ、と鼻を鳴らしたウィップティーチャーは、その後で悩むような声を出しながら腕を組んだ。
「これまでの事もあるし、何かとんでもない事が起こった時のために、迅速且つ的確な対応ができるよう向井が関わっているであろう事件を調べたいとは思うんだけど・・・・・・今回の件はヒーロー連合協会の不祥事っていうのもあるけど、どうにも規模がワールドワイドっぽいのよねぇ」
「明らかに私が動ける範囲を越えているし・・・う~ん、どうしようかしら・・・・・・」と悩ましげな声を上げながら、どうにか向井が関わっている事件を調べる事ができないかと頭を悩ませるウィップティーチャー。
というのも、彼女は私立の小学校で教職員としても働いているので、立場的にあまり遠出をすることができないのだ。
都市一つ分くらいなら自身の能力的に問題ないと言えるのだが、それ以上となるとどうしても上司―――この場合は彼女が働いている小学校の校長でありヒーローでもある『鉄拳校長』―――の許可と外部による協力が必要になってくる。
前者に関しては、そもそも以前起こった『鉄拳小学校崩壊事件』と呼ばれるようになった出来事の後始末と、小学校の再建がまだ完全に終わってない忙しい時期に許可なんか降りるわけがなく、それに後者に関しては協力してくれる相手がそもそもいない。
ちなみに、ウィップティーチャーも所属している淑女同盟があるだろうと思う者がいるかもしれないが、彼女等に今回の件で協力を頼むのは無理だったりする。
子供達の誘拐事件では、淑女同盟少年の部に所属する同志達の興味と趣味趣向の琴線に触れたからこそ手伝ってもらえたわけだが、向井が関わっているであろう事件にはそういったモノが感じられないので、まず興味すら持たれることはないだろう。
よしんば協力してもいいという申し入れがあったとしても、盗み聞きして手に入れた情報を鑑みるに主に活動するのはおそらく国外となるだろうから、遠出をすることができない自分では十分に活用することは無理だ。
せめて自分の代わりに国外で動いてくれる人物が入れば、と思ったウィップティーチャーは、そこで何かを思い出したようにハッとした。
「―――あ、そうだ!彼女に頼んでみましょう!これから旅行に行くって言ってたし、確かその旅行先はスパランティス島だった筈!」
「そうと決まれば早速連絡しなきゃ!」と呟いたウィップティーチャーは懐から携帯端末を取りだすと、登録していた番号を呼び出し、目的の人物へと電話を掛けた。
「・・・・・・あっ、もしもし?うん、私よ。さっきぶり。実は貴女に頼みたい事があるんだけど、良いかしら?」
皆様、ここまで読んでいただきありがとうございます。この話で今回は本当に一区切りとなります。
次回の投稿予定につきましては、しばらく未定とさせていただきます。色々とやりたいことがあるのと、途中で止まってしまっている既存の作品の修正作業を進ませたいので。
・・・まあ折りを見てそれと平行して、ちょこちょこと続きを書いていくつもりでもありますが。
皆様には大変お待たせすることになるかもしれませんが、のんびりと待っていただけたらありがたいと思います。
それでは皆様、また次回で。




