ミッション101 密会するヒーロー達 その2 続々々
「・・・このタイミングで言うんだ。向井、お前が言うその捕まえてきてほしい人物達ってのは、何か光君に関係しているんだろう?」
「ええ、ご推察の通り。実は調査の過程で、とある人物達が僕達が知りたくて堪らない渡辺光君の秘密を知っている事を突き止めたんです。しかもそれだけでなく、あの人が隠していた秘密をも知っている可能性がありそうでして・・・」
「アイツの秘密も・・・?それ本当なのかよ?」
「はい。情報の精度としてはほぼ百%。確実に何かしらを知っている筈です」
そう答えながら頷いた向井は、片手の指を一本、二本と立てて見せた。
「皆さんに捕まえてきてほしい人物は二人。一人は宝堂文三。もう一人は西条睦月です」
「・・・おいおいおい、それはいったい何の冗談だ?」
指を立てながら捕まえてきてほしい人物達の名前を言う向井。
だがその名前を聞いた瞬間、ラッセルが呆れた声を出した。
「そいつら、とっくの昔に捕まってるだろうが。前者は半年程前に。後者に関してはお前自身の手でだ。・・・もしかして逃げだしたとでも言うつもりか?それで俺達に捕まえてきてほしいとか・・・・・・」
「はい。そのとおりです」
「・・・・・・へっ?」
ラッセル本人としては、半ば冗談混じりに言ったつもりだったのだろう。だからこそ、それが向井に肯定された瞬間「え、マジで?」という感じに呆けた声を漏らした。
「ちょちょちょ、ちょぉぉぉと待て向井。逃げ出したのか?本当に?」
「はい。本当にです。宝堂文三はつい一、二ヶ月程前に刑務所から脱獄し、西条睦月は半月程前に何者かの手によって僕の所有していた収容所から拐われました」
ラッセルの質問に向井がそう肯定すると、向井以外の三人は「うわぁ・・・」という感じに一歩引いた。
「その宝堂って奴の脱獄の件は、本当は良くないんだけどありえないことじゃないからまあいいとして・・・・・・アンタの収容所に襲撃を仕掛けた奴がいるって本当なの?そいつ、どんだけ命知らずな奴だったのよ」
そう言ったヴィルマリアの脳裏には、以前見せられたことのある向井の所有している収容所の光景が浮かんでいた。
それはまさに要塞とも言える場所であった。無数に設置された強力かつ無駄に凶悪な武装や罠でもって許可無く侵入しようとした者を情け容赦なく撃滅し、脱出しようとした者を一切の慈悲なく這いつくばらせて絶望を味合わせる、そんな色々な意味でヤバイ所だ。
正直ヴィルマリアは、例え招かれたとしても絶対に行きたくはないと思っていた。腹黒い所がある向井の性格的に、行った先でどのような目に遭うか分かったものではないからだ。
だからこそ彼女は、向井の収容所を強襲し、更には西条睦月をも拐って行った侵入者に、「凄い、いや冗談抜きで本当に凄い」と思わず称賛の声を上げたくなった。
その気持ちはラッセルも同じであったらしい。彼も向井の要塞の事は知っていたので感嘆の声を上げた。
「あの要塞に襲撃を掛けて、しかも西条を連れて脱出まで成功させるなんて、絶対並みの実力者じゃねぇな。・・・なあ、向井。西条を拐ったのはどんな奴だったんだ?」
「・・・・・・それが分からないのですよ。その時僕は情報収集の為に外に出ておりまして、収容所に襲撃を掛けられたことを知ったのは戻った後の事でした。・・・一応、襲撃者の姿は監視カメラに映っていたのですが、しかしノイズや砂埃が酷くて詳細な姿を見ることは叶わず、唯一分かっているのは獅子の様な鬣を持っているということだけです」
「獅子の様な鬣・・・それだけじゃ、ちと情報が足りないなぁ」
「まあ、似たような姿の奴は結構いるものねぇ」
獅子の鬣という事からライオンの姿をイメージすることができるのだが、しかしそれを模した姿をしているヒーローや怪人は結構な数存在している。それこそ片手の指では数えきれない程に、だ。
それ故に、その中から件の襲撃者を特定するというのはそう簡単な事ではない。その事が分かっていたラッセルとヴィルマリアは苦い顔をする。
「こりゃあれだな。捕まえるとしたら西条の奴より宝堂文三の方を捕まえる方が楽そうだな」
やれやれ、という感じにそう呟くラッセルであったが、しかしそれを向井が首を横に振って否定した。
「残念ながら、そちらの方もそう簡単ではないと思いますよ」
「あん?そいつはどういうことだ?」
「これはある筋から入手した情報なのですが、どうやら宝堂文三という人物、ただの弁護士というわけではなかったんです」
そう言うと向井は、デバイスを操作してホログラムキーボードを出現させ、両手の指でピピピッと連続してボタン押し始めた。
「そもそもの話、彼が亡くなった後の対応について疑問に思いませんでしたか?どうしてヒーロー連合協会は彼の葬式の手配とか相続についての様々な手続きを、専門に雇っている弁護士ではなく、宝堂文三に依頼したのか」
「それは・・・確かに疑問に思っていたわ。どうして彼の場合だけ外部に委託したのか。でもそれは専門の弁護士会社が忙しかったからではないの?当時は『大量銀座誘拐事件』や『ヒーロー爆撃事件』と呼ばれる様になった事件のせいで一般人にもヒーローにも多数の死傷者が出ていたわ。その対応に追われて仕方なくだったんじゃないのかしら・・・?」
「それこそおかしいとは思いませんでしたか?彼の立場は曲がりなりにも序列一位のヒーロー。つまりはヒーロー連合協会の顔と言ってもいい。そんな彼に関する対応を専門に雇った弁護士ではなく、信頼も信用もないであろう外部の人間に普通任せたりするでしょうか?」
「それは・・・」
向井の返しに言葉を詰まらせるヴィルマリア。
そんな彼女と入れ替わるようにラッセルが前に出る。
「・・・そう言うってことは、お前は答えを知っているってことでいいのか?」
「ええ、もちろん。―――そして、これがその答えです」
ラッセルの問いに頷きながらピッと最後のボタンを押す向井。
その瞬間、彼がこれまで集めていた宝堂文三に関する様々な情報が展開された。
「宝堂文三、四十七歳男性、東京で有名なT大学を首席で卒業。卒業後はIT企業や金融会社、その他にも幾つもの会社を転々とし、そしてその十数年後に自身の法律事務所設立。つい半年前に様々な不祥事で逮捕されるその時まで運営していた。・・・・・・と、ここまでが表向きの経歴です」
そこまで語ると向井はホログラムキーボードのボタンをピッと押す。
するとホログラムディスプレイに映し出されていた宝堂文三に関する情報が裏返るように一新された。
「その正体は今から十六年前に壊滅した悪の秘密結社『黄金の鐘』のボス、『ゴールドフィンガー』です。」
「「「・・・はっ?」」」
向井の口から語られた内容と、映像に映し出された様々なデータを聞いて見た御城、ラッセル、ヴィルマリアの三人は、そんなまさかの答えに思わず体を硬直させた。
「・・・ち、ちょっと待て、待ってくれ。色々とツッコミたい所はあるんだがまず始めに―――何で悪の秘密結社のボスが弁護士なんてやってるんだ?」
一番始めに正気に戻ったのはラッセルであった。彼は「いやいやいや・・・!」と首を横に振ると何で?どうして?という感じに呟く。
「それに関しては推測になりますが、おそらく組織を再建するのに必要な資金を集める為でしょう。それと、調べた限りでは『黄金の鐘』の生き残りはどうやら彼だけであるらしく、多分組織のメンバーを集める狙いもあったのではないかと考えられます」
それに答えたのは当然向井であった。
推測、おそらく、多分という言葉を使っているが、彼の中では何かしらの確信を抱いているのだろう。断定するような口調で語っている。
「な、何でそんな奴が渡辺光君の弁護士をやる事になったのよ!?上層部の誰もソイツの正体に気付けなかったって言うの!!?」
続いて、壊滅したとは言え悪の秘密結社のボスが知り合いの子供の弁護士をやっていたという事を知って驚きを顕にするヴィルマリア。
「連中の目は節穴か!?」と衝動的に荒げた声を出す彼女であったが、そこで向井が「その事なのですが・・・」と口を開いた。
「これは西条睦月から引き出した情報なのですが、どうやら上層部は彼の正体に気付いてはいたようです。ただ、脅しを掛けられていたが為に彼からの要求を断る事ができなかったとか・・・」
「脅し・・・?上層部は脅されていたっていうの・・・?」
「ええ。・・・ただ、残念ながらその脅しの内容については西条睦月も知らなかったらしく、確認することができませんでした。・・・ですが、要求の内容の方は知っていたようで、そちらに関しては知ることができました」
〝自身を渡辺光の弁護士として就けること〝。それが宝堂文三の要求であったらしい。
その理由を聞いた向井を除いた三人は「ん?」と首を傾げた。
「光君の弁護士として就く?なんだってそんなことをソイツは要求したんだ?」
「確かさっき組織の再建の為に金を集めてるって言っていたわよね?ということは遠回しな金の催促ってこと?」
「いや、それだったら普通に金を強請った方が手っ取り早い。多分、その要求をした時の宝堂文三の目的は金じゃなくて別の何かだ。・・・そうだろう、向井」
「はい。これは飽く迄状況証拠と彼の経歴を洗い直したことによって立てた推測なのですが・・・彼がその様な要求をしたのは、おそらく怨恨によるものではないかと考えられます」
「怨、恨・・・?怨んでたっていうのか?光君を?・・・いや、だが、それはいくらなんでも無理がないか?だって宝堂文三と光君が初めて会ったのはアイツの葬式の手配やら手続きやらをする時の筈だぞ。二人の間に接点なんてない筈だ」
少なくとも自分は知らないと言う御城。
ラッセルとヴィルマリアも同様なのか、その後ろでウンウンと頷いている。
「直接的にはなくとも間接的には接点があると僕は考えています。・・・というのも、宝堂文三は酒の席で事あるごとに〝あの女〝とやらに対しての恨み辛みを、それはもうネチネチネチネチとしつこいくらいに語っていたそうなんです」
「あの女・・・?光君の父親であるアイツじゃなくてか?」
「ええ。証拠映像も入手していますよ」
「ほら、これです」と言いながらデバイスを操作して、証拠映像とやらを自身の正面に持ってくる向井。
その映像には口許のチョビ髭がトレードマークの、ヒョロリとした体型の中年男性が何処かのバーで顔を真っ赤にさせ、酔っ払いながら管を巻いている様子が映し出されていた。
おそらく彼が宝堂文三なのだろうと、向井以外の映像を見ていた三人は思った。
『ちくしょう、ちくしょう・・・!今思い出しても腹立たしい・・・!あの女のせいで俺はなぁ、以前まで築きあげてきた色んなもんを失う羽目になったんだ・・・!全部パーだぞ、パー!・・・おかげで一時は無一文の宿無し・・・所謂ホームレスだな。そこまで落ちぶれちまった』
『だが、だがだ・・・!俺はそこから再び這い上がってきた!コツコツとだが資金も集まってきたし、色々と伝も出来た。ここまで来るのに十年は掛かったが・・・なぁに、土台さえ出来れば後はこっちのもんよ!この俺の天才的な商売の手腕ならそう時間を掛けずに以前のような、いやそれ以上の富と名声を築く事ができるだろう。ジャンジャン稼いで稼いで稼ぎまくってやんよぉ・・・!!』
『フヒヒヒッ・・・それについ先日の事だが、少し前に新しく出来た伝から面白い話を聞いたんだぜ?なんとあの女の縁者がいるって話をだ。・・・・・・あん?どんな奴かって?・・・あ~、確か十四の餓鬼らしいぜ。写真も見せてもらったが・・・はん、憎たらしい程あの女と顔がそっくりだったよ』
『あの女本人に復讐できないのは残念っちゃ残念だが・・・まあ、その餓鬼を不幸のドン底に叩き落としてやれば、幾らか溜飲が下がるってもんだ。・・・血を分けた親子なんだ。親が作った負債を存分に被ってもらおうじゃねぇか!ヒハハハハハッ!!マスター酒お代わりぃぃ!・・・・・・あれ、マスター?なあおい、聞いてるのかマスター?』
「・・・・・・と、この様に宝堂文三は〝あの女〝とやらに対して結構恨み言と言うか、愚痴と言うか、そういったものを話している様子が見られておりました。・・・そしておそらく、この〝あの女〝というのが、渡辺光君の母親の事を言っているのではないかと僕は考えています。というか、そう考えなければ何故宝堂文三が恨みを抱いているのか、どうしてそれをぶつける対象を渡辺光君に向けたのかの説明がつかないし、辻褄も合わない」
「・・・・・・」
「それでなのですが、御城さん。貴方は渡辺光君の母親について何かご存じではないでしょうか?あの人と親友であった貴方なら、何かしらの事情を聞いているのでは?」
「・・・すまないな。期待しているところ悪いんだが、そちらに関しては力になれそうにない。・・・俺も知らないんだ。光君の母親を、つまりはアイツの奥さんに当たる人物の事を」
問い掛けてくる向井に対してそう答える御城。その顔には困ったような、ほんの少し困惑しているような、そんな表情を浮かべていた。
「俺がさっき話した、光君がアイツの実子であることを確認する為にDNA検査を行ったという話を覚えているか?その時に一応彼の母親のものと思われるDNAが見つけられているんだが、それがいったい誰なのかを特定することができなかったんだ」
政府や各地の病院が保有しているであろうデータも探してみたが、それでもそのDNAに該当する人物はいなかった。既に故人となっている者達も含めてだ。
こんなに調べても何も分からないのであればもう本人に聞くしかない。そう思った御城は自身の親友に尋ねたのだ。光君の母親はいったい誰なのかということを。
「・・・まあ、何一つ答えちゃくれなかったんだがな。どんなに問い詰めてもアイツ、その事に関しては頑として口を割ろうとしなかった。最終的には殴り合いにまで発展したが、アイツは弱味の一つさえ零さなかったんだ」
そう語った後で御城は、数瞬間を空けてから再び口を開く。
「ただ一つだけ、なんとか引き出せた言葉がある。―――『光を、僕達の可愛い息子を守る為に、彼女の事を言うわけにはいかないんだ』っていう言葉をな」
その言葉だけで御城は、自身の親友が何一つ話そうとしないのが当時四歳と幼かった渡辺光を守る為だということを理解した。
その理由までは分からなかったが、おそらく何か彼等の立場が悪くなるような内容なのだろう。そう察した御城はそれ以上聞くことを止めた。
親友のことを心配していたが為の行動だったのだが、しかしだからといって苦しませるつもりは微塵もなかったからだ。
「だからこそ、俺はこれ以上は本当に何も知らないんだ」
そうして自身の知る範囲の話を語り終えた御城は、顔を軽く俯かせ、静かに黙り込んだ。
それ以降、暫しの間静寂が続いたのだが、そこでふとヒョイッという感じに誰かの手が上がった。
「・・・ねぇ、ちょっと思ったんだけどさ。もしかして、もしかしてなんだけど・・・渡辺光君の母親ってアリスティーゼとかいう怪人だったりしない?ほら名前が女性的だしさ。それに一対一の戦いの最後にはどっちも行方不明になっているんでしょう?もしかしたら戦いの最中にお互いに愛が芽生えちゃったりしたとか、考えられないかしら?」
手を上げたのはヴィルマリアであった。彼女は「前例がないわけじゃないし、可能性としてはあり得るんじゃないかしら」と呟く。
「・・・いや、それはない。断じてありえない。確かに奴の名前は女性っぽさがあるが、光君の母親である可能性はない」
だがしかし、その考えは「ないない、ありえない」という感じに真顔で首を横に振る御城によって否定された。
「いやに断言するわね。根拠はあるの?」
「ある。何故ならアリスティーゼの性別は男だからだ。素顔を見たことがあるから間違いない」
「顔の造形もそうだが、体つきの方も完全に男のそれだった」と言い切る御城。
なるほど、確かに男同士では生殖機能的に子供を作ることはできないだろう。
これにはヴィルマリアも、「あぁ、そうなの・・・」と一度は挙げた考えを下げざるを得なかった。
「・・・・・・ふむ・・・やはり僕達が知りたい情報を得るためには、件の人物達をとっ捕まえて知っている事を聞き出す必要があるということですね」
現状での聞きたいことを聞くことができたと判断したのか、向井はそう結論を出すと顎に手を当てながら「う~ん・・・」と考え始めた。
「そうですね・・・さしあたってまずは宝堂文三の方を先に捕まえるとしましょうか」
「うん?西条の方を先に探さなくていいのか?」
「ええ、彼の状態を考えるに現状表に出てくることはまずないでしょうし、仮に出てくるとしてもそれなりの時間が掛かる筈です。・・・それに彼を拐った襲撃者とその襲撃者を寄越した黒幕の詳細がまだ分かっていませんからね。だったら居場所が判明している宝堂文三を先にした方が効率がいい」
「え?居場所がもう分かっているの?」
「はい。宝堂文三は現在此処、太平洋沖の赤道付近に存在している人工島に潜伏しているようです」
コクリと向井は頷くと、デバイスを操作してホログラムの地球儀を展開。更に宝堂文三が潜伏しているであろう場所―――メガフロートを使用して人工的に作られた島の映像を展開した。
「名前を『スパランティス島』と言うこの人工島は、表向きは一大テーマパークを謳って運営しておりますが、その裏では様々な兵器を売買取引している場所でもあります。どうやら宝堂文三はこの場所で二度目の再起を図ろうと色々と準備をしているようなんです」
「二度目の再起って・・・どんだけ諦め悪いのよそいつは・・・」
「普通挫けたりするもんじゃないの?」という感じに呟くヴィルマリア。その横では御城とラッセルが同意するように頷いていた。
「しかしテーマパークの裏で兵器を売り捌いているっていうのは、ある意味ありがちなというかテンプレというか・・・・・・むしろなんでヒーロー連合協会は見逃してたんだ?」
「ああそれは、兵器の売買は副業扱いで年に数回しか行ってないから、というのが理由の一つですね」
「副業!?え、そっちがメインじゃないの!?」
「ええ。メインは完全にテーマパークの方です。売り上げもこっちが多いですし。そもそも、その島の所有者兼テーマパークの経営者でもあるオーナーは裏の方に関しては元々やるつもりはなかったらしいのです」
「そうなの!?・・・えっと、じゃあなんでやってんの?もしかして不景気のせいでとか?」
「いえ、景気は関係ないですよ。むしろすこぶる良い方らしいです」
「良い方なんだ」
ボソリと呟くラッセル。その声音には、じゃあ本当になんでやってんだ?という疑問の色を滲ませていた。
「やっている理由はそっちではないんですよ。外部から要請を受けてしょうがなくやっている感じです」
「外部・・・?ってどこから?」
「国です。しかも複数」
「国!?え、そっちなの!?」
まさかの答えに驚くラッセル。
声には出さなかったが、御城とヴィルマリアも驚きの表情を浮かべていた。
「そっちなんです。まあ、売買する予定の兵器を展示したりもしているそうなので、安全面と危険性を考えて裏の方をやる時は表の業務をお休みしているそうです。・・・とはいえ、スペースを提供する際に場所代やら何やら色々払って貰っているらしいので赤字にはなっていないみたいですけどね。むしろ黒字になっているみたいです」
「い、以外と強かなのね・・・」
「ちなみにこれはあの島のオーナーから以前聞いた話なのですが、最初要請を受けた時は渋々やっていたそうなのですが、回数を重ねる毎になんか段々面白くなってきたらしく、今ではノリで楽しんでやっているそうです。なんでもマニア心擽られまくったからだとか」
「・・・ノリで」
「ノリで」
思わずといった風に聞いたヴィルマリアに向井はウンと頷いて見せる。
「それでまあ、そのノリの延長でというか・・・なんでも近々『悪の組織、秘密結社合同スーパーロボットコンテスト!』なんていうイベントも開く予定であるらしく・・・・・・そのイベントに宝堂文三が出るという情報を入手しました。おそらくその大会で最低でも入賞するなりして資金集めの足掛かりにでもするつもりなのでしょう。一位から三位までは結構な額の賞金が出るようですし。・・・入賞出来なかったとしても好成績を修めていれば、それを評価した企業やら組織が売買契約を結びに来る可能性もありえます」
「実際、それで巨万の富を築いた企業もありますし」と話し終わりに付け足す向井。
彼の話を聞いた御城、ラッセル、ヴィルマリアの三人は、「なるほど、それが宝堂文三の狙いか」と納得するように頷く。
「よし、分かった。なら俺が今からその島に行って宝堂文三を捕まえてくる!」
そして御城が立ち上がり、宝堂文三を捕まえに行こうと踵を返すのだが―――
「いえ、御城さん。貴方は行ってはいけません。留守番です」
「えっ・・・!?」
―――しかし、それは向井によって止められてしまった。
「今の御城さんの立場は序列一位のヒーロー。そんな貴方がイベントが開催される日に行けば、その島で何かが起こるのではと周囲に思われます。・・・それに自覚がないようなので言わせてもらいますが、貴方の行動は上層部に監視されています。場合によっては邪魔をされ、情報を隠匿されてしまう可能性があります」
「監視!?え、俺って監視されているのか?」
「ええ、まあ。常にというわけではないですが・・・定期的には目を向けられていますね、厄介なことに」
「おそらく監視されている理由は、あの人と親友だったからではないかと」と苦笑しながら向井はそう語り、その後で彼は「ついでに言えば・・・」と言葉を続ける。
「僕もまた御城さんと同じく監視されている立場です。・・・まあ、僕の場合は御城さんとは違う理由でなんですけどね」
「やれやれ、人気者は大変だ」と肩を竦めて見せる向井であったが、そこに「・・・ちょっと待て」と声が掛けられた
「おい、向井。お前、今監視されているって言ったよな。・・・てことは何か?もしかしてこの集まりは上層部にバレてるってことか?」
そんな話聞いちゃいないぞ!?という感じに向井へと詰め寄るラッセル。
それに対して向井は落ち着いた様子で、どうどうという風に両手を前に出した。
「ああ、いえ。それについては安心してくれて大丈夫ですよ。僕の個人的な協力者に手伝ってもらって誤魔化せるよう色々と細工をしてもらってますから、バレる心配はまずありません」
「協力者?アンタに?一時的に雇った人とかじゃなくて?・・・・・・本当に明日何か降ってくるんじゃないかしら」
「二度も言われると流石に僕もイラッと来ますよ、羽澤さん?」
この腹黒探偵に協力者がいるとか信じられないと言外に言うように神妙な表情を浮かべるヴィルマリアに、向井は額に青筋が浮かんだ笑み(目は笑ってない)を見せる。
「・・・・・・まあ、話が進まないのでその辺に関しては一旦置いておきましょう。今は宝堂文三を捕まえに誰が向かうかを決めるべきです」
とは言え、それ以上追求するのは不毛だとも感じたのだろう。ふぅ・・・と溜め息を吐いた向井はホログラムキーボードをピピピッと操作する。
「・・・と言っても、僕も御城さんも監視されている立場なので、行けるとしたらラッセルさんと羽澤さんしかいないんですけどね。・・・・・・よし。お二人の携帯端末にスパランティス島の地図と宝堂文三に関する各種データを転送しました。これを参考に対象の確保をお願いしますね」
「そこは普通、行ってくれるかどうか聞くところじゃないかしら」
「相変わらず仕事が早いっつうか、有無を言わせずにやらせるつもりかよ。いや、やるけどさ」
呆れと諦念の溜め息を吐きつつ、ラッセルとヴィルマリアは自分達の携帯端末を操作して転送されたデータを確認する。
・・・と、そこで御城が一歩前に出て向井に声を掛けた。
「向井・・・俺も、俺も何かしたい。何かやれることはないか?」
己が胸に手を当てながらそう訴える御城。
自分も何かできる事をしたい。その思いは分からないでもなかったがしかし、向井は敢えて首を横に振って見せた。
「申し訳ありませんが、現状で御城さんに動かれると僕達の行動に支障が出る可能性があります。僕の希望としては、しばらくの間は活動を控えていただきたいと思っています」
「・・・それは、やはり監視されているからか?」
「それもありますが、それだけじゃありません。実は近々上層部が御城さんに強制的に休暇を取らせようとしているという情報を入手しまして・・・・・・」
「・・・なんだって?まさか上層部が俺の行動に制限を掛けようとしているというのか?」
「まあ、ここ最近は色んな所で暴れまくってましたからね。そういった思惑もあると言えばあるのでしょうが・・・・・・どちらかと言うと今回のはあれです。法律的な問題です」
「・・・ん?ほ、法律?」
まさかの予想外の返しに戸惑いを見せる御城。
そんな彼に向井は何処か呆れているような視線を向けながら尋ねた。
「御城さん、貴方が最後に休暇を取ったのは何時でしょうか?」
「え、え?えぇっと・・・確か・・・ラッセルに誘われて海水浴場に行った時だったような・・・・・・」
目を横に逸らしながら答える御城。その瞳はまるで痛いところを突かれたとでも言うかのように、動揺していることがありありと分かる程めっちゃ震えていた。
「はっ??おいおい御城、あれからどれくらい経ったと思ってやがる。つまりはなにか?お前、二ヶ月以上もの間、休みを取ってないってことかよ?」
そしてそこに更なるツッコミをラッセルが入れた。
御城の答えを聞いて、まさか彼があれからまったく休んでいなかったとは思ってもいなかったのだろう。「どういうことだコラ」と訴えているかのような鋭い視線が御城に向けられた。
「ねえ、向井。もしかして上層部が御城に強制的に休暇を取らせようとしている理由って・・・・・・」
「はい。お察しの通り、まったく休みを取ろうとしないので労働法的にアウト判定が下ったらしく・・・しかも少し前、夏期の間に出された活動休止期間も実はまだ日数が残っていたそうですね?」
「ギクッ!?」
「それも含めて今回の活動休止期間は一ヶ月半。更にはしっかりと休暇を取っていると確認できるよう世話役という監視付きでだそうです」
「はっ!?ちょ、世話役って・・・!強制的とは言えただ休むだけなんだからそんなのはいらないと思うんだが!!?」
「その休むというのが出来ていないから付けられる事になったんでしょうが。所謂身から出た錆びというやつですよ、御城さん」
そ、そんな馬鹿な・・・!!??という感じに驚愕の表情を浮かべる御城に、休みくらいちゃんと取ってくださいよという感じの呆れた視線を向井は向ける。
「・・・そういうわけでラッセルさん、羽澤さん。行くことができない僕達の代わりに宝堂文三の捕縛を頑張ってくださいね。・・・あっ、何か必要な物があったら連絡をください、すぐにご用意しますので。支払い等に関しては気にしなくて結構です。今回は僕からの依頼という形になるので必要経費として全額負担するつもりなので」
両手両膝を着いて崩れ落ちる御城を尻目に、にこやかな笑みを浮かべて見せる向井。
そんな対称的な様子の二人を目にしたラッセルとヴィルマリアは「お、おう・・・」と答える他なかった
次回投稿は7月18日の予定です。




