ミッション100 密会するヒーロー達 その2 続々
「先程も言いましたが、渡辺光君についての情報を集めている最中、僕は彼に関する記録や記憶を消して回る黒服の集団に出会いました。そして色々あってその全員をブッ飛ばして捕縛して尋問した結果、その集団がヒーロー連合協会上層部の小飼である特殊工作部隊『ドッグナンバーズ』であったことが判明しました」
「『ドッグナンバーズ』・・・・・・聞いたことがある。確か、情報収集やヒーローの活動を裏でサポートする事を主に専門としている部隊じゃなかったか?」
特殊工作部隊の名前を聞いた御城がそう問い掛けると、向井は「ええ、その通りです」と頷く。
その後で彼は、以前ラッセルにも話した彼等―――『ドッグナンバーズ』の活動していた内容について話した。
ヒーロー連合協会の上層部から依頼で、元ヒーロー連合協会上層部役員であった『西条睦月』と共に渡辺光の戸籍情報や出生記録、通っていた学校の成績記録などといった様々なデータを抹消したこと。更には彼の事をよく知っている筈の人間の記憶までもを抹消していたことを。
気付いた時には既に大半の情報が消された後だったため、渡辺光についての情報はあまり得ることができなかったが・・・しかし、数ヵ月前に犯罪者として捕縛した西条睦月を拷も―――もとい、尋問して聞き出した様々な情報と照らし合わせた事で、渡辺光が『コード:A』という事件と何らかの関係性があることを突き止めたのだと向井は語った。
その過程で無茶しすぎて、西条睦月をうっかり壊してしまったということもついでに。
「・・・なるほどな。通りでここ最近あの男の姿を見掛けなかったわけだ。気に食わなかったし、色々と黒い噂が絶えなかった奴ではあったが、向井に目を付けられたのが運の尽きというか、心底同情する」
「それはいったいどういう意味でしょうか、御城さん?」
いっそ憐れみすら覚える、といった風に言葉を漏らす御城に、向井は薄らとした笑みを浮かべて見せる。
しかし、その瞳は温かさなど一切感じない冷ややかなもの。それを目にした御城は背筋にヒヤリとするものを感じ、「そういうとこやぞ」と言うかのようにジト目を返した。
「それで?『コード:A』という事件について知る限りの事を教えていただいてもよろしいでしょうか、御城さん?」
「・・・ああ、いいだろう。あの事件については上層部から箝口令が敷かれてはいたが・・・こんな状況だ、義理を通して従う必要はないだろう。・・・ただ、光君と『コード:A』の関係性については聞かれても答えられないぞ。それに関しては俺も知らないんだ」
「構いません。それについては『コード:A』という事件を紐解いて行けば自ずと分かることですから」
向井のその言葉に「そうか・・・」と呟いた御城は、少しの間を置いてから『コード:A』という事件について話し始めた。
「『コード:A』という事件が起こったのは向井が言っていたように約十六年前。丁度悪の組織や秘密結社が世界中に数え切れない程無数に存在していた時期だ」
「所謂悪党共の全盛期の時代であり、ヒーロー連合協会が発足されて数年が経過した頃ですね。なんでも、当時は世界規模で同時多発的に犯罪やテロが横行していたのだと聞いたことがあります」
「その通りだ。実際あの頃は大量殺戮に大量破壊、人身・臓器売買、その他にも数え切れない数の様々な犯罪が引き起こされ、全世界規模での社会問題になっていた」
その被害のせいで、世界の人口が半分近くにまで減少してしまったのだと、御城は話を補足する。
「当然、その問題を解決しようと、ヒーロー連合協会は各地にヒーローを派遣した。その頃から既にヒーローとして―――まあ、当時はまだ新人だったんだが―――活躍していた俺と、当時『ビースト・オブ・ライト』というヒーロー名を名乗っていた俺の親友も参加していた。悪党共から人々を守り、皆が笑って暮らせる世の中にするんだ、なんて青臭い理想を掲げながらな」
その時の事を思い出してか、懐かしそうに何処か遠くを見やる御城。
だがその後すぐに、その表情を顰めっ面へと変えた。
「・・・だが、理想と現実は違った。倒しても倒しても次から次へと湧いて出てくる怪人怪物や犯罪者達。そんな連中の対応に俺達は追われ、忙殺された。まともな食事や睡眠なんて取ることが出来なかったこともあったし、数日もの間眠れない夜が続いた、なんてこともあった」
それは例えるなら、さながらブラック企業で働いているような感じと言った方が近いだろうか。
実際のブラック企業と違うところは、忙しかったのは末端だけでなく上層部ですらも〝立っているモノは親でも使え〝、〝猫の手も借りたい〝といった状況であったことだろうか。何人も過労でぶっ倒れることもあったくらいだったので、その事を鑑みれば、ある意味全体的に切羽詰まっていたと言えた。
「正直、焼け石に水といった状況だった。本当に当時は何時その体制が崩壊してもおかしくなかった。―――そんな時だったこの世界にあの怪人が現れたのは」
「それが『コード:A』という事件を引き起こした怪人・・・」
「ああ、そうだ。そいつは自分の事を『アリスティーゼ』と名乗り、世界中に存在していたありとあらゆる組織に宣戦布告してきたんだ」
御城のその言葉にヴィルマリアとラッセルが驚いたように目をパチクリとさせたり、ツインアイを明滅させた。
「はっ!?ありとあらゆる組織に宣戦布告!?」
「おいおい、てことは何か?ソイツはヒーロー連合協会だけじゃなく、当時の色んな悪の組織や秘密結社にも喧嘩を売ったってことかよ?」
「ああ。・・・その後、その怪人は宣言通りに様々な組織に襲撃を掛けた。しかもたった一人でだ。―――そして見せつけたんだ、世界中に自分の強さを」
当時の事を思い出してか、御城は右拳を左手で包むようにギュッと握る。
「常識外れ、規格外。奴の強さはまさにそう言っても過言ではないくらいに凄まじいものだった。数多くのヒーローや怪人、その他腕に覚えのある者達が次々に挑み、しかし誰一人として勝つことができなかった程に。・・・・・・その結果、この星に存在していた約八割もの悪の組織や秘密結社が奴の手によって壊滅させられた。当然それはヒーロー連合協会も例外じゃなかった。本部以外の全ての支部が壊滅、もしくは機能不全の状態に陥ったんだ」
「マジかよ・・・」
まさかそれほどの被害が出ていたとは知らなかったらしいラッセルが驚き、唖然とする。
驚いていたのはヴィルマリアも同じであったが、しかし彼女は同時に疑問も覚えたらしく、御城に問い掛けた。
「でも、それっておかしくないかしら?そこまでの大事件ともなれば新聞やニュースで報道されてもおかしくないし、ネットにも多少なりとも話が広がる筈よ。・・・けど、私は今までそんな話を見たこともなければ聞いたこともないわ」
ヴィルマリアはヒーローという職業柄、過去の事件を調べたりすることもある。それは同僚であるラッセルや向井も同じだろう。
だというのに、三人共が御城が話した事件の事を知らなかった。自分だけならともかく、探偵ヒーローと名乗っている向井ですらもだ。これは明らかにおかしいと言えた。
「ああ・・・それは向井も言っていたが、悪党共の全盛期の時代だったというのが関係しているんだ」
ヴィルマリアのその問いに当然の疑問だなと頷いた御城は、その理由を話し始めた。
「ヒーロー連合協会が情報統制をしていたというのもあったが、その当時は何処ぞの武装勢力に支部が襲われるというのはある意味日常茶飯事の事だったし、破壊されたのも一度や二度じゃなかった。だからというか、そのせいで奴の襲撃もその一つだと流されて注目されなかったんだ」
襲撃してきたタイミングが他の組織とブッキングしていた時もあり、それが余計に隠れ蓑のようにもなって、奴に関する情報が隠れることになったのだと御城は話す。
「ただ、それ程までの被害が出たとなると流石に放っておくわけにはいかなくなった。最初こそ大言壮語なことを言う自身の実力を過信した怪人だと誰もが思っていたがしかし、その実力が知れ渡るようになると、どいつもこいつもなりふり構わず奴を倒そうと躍起になったんだ。―――それこそ敵対していた組織と一時的に手を結んでも、だ」
「・・・!!おい、それって・・・・・・」
「そうだ、ラッセル。お前が話した『コード:B』の事件と状況的にはほとんど同じだと言えるだろう。違いがあるとすれば規模の大きさくらいだな」
なにせ当時生き残っていた世界中の勢力がたった一人の怪人を倒そうと数多の戦力を集めたのだ。当然ヨーロッパ地方の中でだけだった『コード:B』の事件と比べれば規模の大きさがまるで違うのは言うまでもないだろう。
「所謂数の暴力ってやつね。でも、それだけの戦力で攻め立てたのなら勝つことが出来たんじゃ・・・・・・って、ちょっと待ってまさか・・・!?」
そこでヴィルマリアが何かに気付いたようにハッとした。
「・・・状況的には『コード:B』の事件と似通っているって、アンタさっき言っていたわよね。てことはもしかして・・・・・・」
「流石は羽澤、気付いたか。・・・ああ、そうだ。勝つことはできなかった。奴を倒すために集まった連中のほぼ全員が、だ」
「・・・っ!」
「やっぱり・・・」
御城の答えにラッセルは息を飲み、ヴィルマリアはやはりそうだったかと息を吐く。
「ただまあ、完全に負けていたのかと聞かれると、そういうわけでもなかったんだが」
「・・・ん?」
「・・・・・・え?どういうことよそれ?」
だが、その後に続いた御城の言葉に二人は首を傾げた。
意味が分からないと言いたげな顔をする二人に、御城は順を追って話し始める。
「当時集まった勢力に名前はなかったんで、仮に連合軍と呼ばせてもらうが・・・さっきも言ったようにその連合軍に集まった連中のほぼ全員が奴に勝てず、逆に返り討ちにされた。だが、何人かは奴と渡り合うことができたのもいたんだ」
その何人かの中には自身と、親友である『ビースト・オブ・ライト』の姿もあったのだと御城は話す。
「特にアイツの、俺の親友の戦いっぷりは凄かった。なにせ、奴と完全に実力が拮抗していたんだからな」
どころか、僅かながらに優勢だったんじゃないかと、その時の事を振り返った御城は呟く。
「ふむ・・・?拮抗していたのですか?話を聞く限り、御城さんも含めてまだまともに戦える人が何人がいたんですよね?なら、戦力的にはそのアリスティーゼという怪人に勝つことができたのではないのですか?」
ただ、その呟きを聞いて疑問に思ったのだろう。向井は不思議そうに御城に問い掛ける。
それに対して御城は困ったように、言いにくそうに答えた。
「ああ、まあ、確かに戦力的にはそうだな。俺も含めた何人かが戦いに参戦することができたなら・・・向井、お前の言う通り勝つ事ができたかもしれない」
「そう言うということは、何か参戦できない理由があったのですか?」
「ああ、そうだ。語弊なく一言で言うのであれば、あれだ。―――味方に足を引っ張られたんだよ」
その言葉にラッセルはパチクリと瞬きでもするかのようにツインアイを明滅させた。
「味方に、というと一時的に手を結んでいた悪の組織や秘密結社の連中にか?」
「いや違う。それだったらまだ良かったし、仕方ないとも思えたんだが・・・・・・足を引っ張ったのは身内・・・つまりヒーロー連合協会の方さ」
「へ?そっち?」
不思議に思い質問をしたラッセルは、返されたまさかの答えに困惑する様子を見せた。いやどういうことだよ、と。
「各国の御偉方にせっつかれた上層部が通達や警告一切無しに核ミサイルをブッ放したんだよ。それも複数」
「oh・・・マジかよ」
「うわぁ・・・」
ラッセルが顔を片手で覆いながら天を仰ぎ、ヴィルマリアが呆れたような表情を浮かべながら「やっちまったなぁ」と言いたげな声を漏らす。
そんな二人の内心を察したのだろう。御城は思わず苦笑を零した。
「しかも予想された爆発の範囲内には、近くに存在していた大勢の人々が暮らしていた都市も入っていてな。下手をすれば甚大な被害が出ていたとしてもおかしくなかった。・・・まあ、その時は丁度ヒーロー側と怪人側の両サイドに核兵器を無力化できる能力持ちがいたおかげで最悪の事態は免れたんだがな・・・・・・」
続いて語られた御城のその言葉に、ラッセルとヴィルマリアは「良かった、何にもなかったんだ」という感じにホッとする。
「ただ、そのせいで俺達はアリスティーゼと親友の戦いの結末を見ることはできなかった。核ミサイルを無力化した後に急ぎ駆けつけたんだが・・・・・・その場所にはもう誰もいなかった。ただ荒れ果てた荒野だけが広がっていたんだ」
「「・・・・・・はっ?」」
御城のその言葉に、ラッセルとヴィルマリアポカンとした顔を浮かべた。
「え、ちょっと待って?誰もいなかったって、どういうことよ?その場所でアリスティーゼという怪人とあの人が戦っていたんじゃないの?」
「もしかして戦いの場を別の場所に移したとかか?そこで決着を着けたとか・・・」
「いや、残念ながらそういうことでもなかった。当時の俺もラッセルと同じことを考えてその近辺を探し回ったんだが、結局見つけることができなかった」
「エネルギーを観測しての捜索はしなかったの?戦っていたのであれば、そのエネルギーが『エマージェンシーレーダー』で観測できた筈よ?」
『エマージェンシーレーダー』とは、怪人及び怪物の出現を感知し、レーダー範囲内に出現した怪人の情報や出現場所などをヒーロー連合協会や警察機関などに迅速に伝える通信機器の事だ。ヒーローのエネルギーを観測することもできるので、見失うといったことは基本ない筈なのだが・・・・・・。
「当然やったさ。だがそれでも見つけることができなかった。『エマージェンシーレーダー』で観測されていた二つのエネルギーがパタリと消えてしまったからだ」
しかし、それに対して御城は首を横に振った。
「それ以降、アリスティーゼは全く姿を現さなくなり、ビースト・オブ・ライトもまたMIA―――作戦行動中行方不明と認定された。・・・そして行方不明だったアイツに再開することができたのはその六年後。海上で遭難していた漂流者の親子として救助された時だった」
「漂流者の親子・・・ということは、その時点で光君はあの人と一緒にいたんですね?」
「ああ、最初は俺も驚いた。まさか行方不明の間にアイツが子供を作っていただなんて思っても見なかったからな」
その時にDNA鑑定も行っていて、光君が親友の実子であることが判明したのだと話す御城。
それを聞いた向井は、「ふむ・・・」と呟くと顎に手を当てながら考え込むように少し俯いた。
「・・・というか、あの人に関する話を聞いて色々と驚いていたけど、そもそもヒーロー連合協会が核兵器を保有してたなんて話、私初めて聞いたんだけど・・・・・・もしかして今も持ってたりするの?」
・・・と、そこでヴィルマリアがさっきから気になっていたんだけど、という感じに声を上げた。
それに答えたのは御城であった。彼はヴィルマリアに顔を向けると、どうしてヒーロー連合協会が核兵器を保有していたのかを話すために口を開いた。
「いや、保有してたのはその時だけだ。『コード:A』の事件が起こる少し前に、別件でとある秘密結社の怪人達が核兵器を強奪しようとした事件があったんだよ。・・・まあ、持ち去られる前になんとか取り返す事ができたんだが、その時に回収していた物を上層部は使ったんだ」
「そう、それなら良かったけど。・・・でも、なんで上層部は取り返した物をわざわざ使ったのかしら?『各国の御偉方にせっつかれた』って言っていたけど・・・・・・」
ヴィルマリアの知るヒーロー連合協会は、〝国の概念や垣根に縛られず、世界の平和と秩序を守る〝という事を理念に創設された組織だ。実際、過去これまでに何度か色々な国から様々な依頼を受ける事があったが、その中で理念に沿わない、もしくは反するモノに関しては全て受ける事を拒否し、はね除けている。
・・・だというのに、何故その時は拒む事をしなかったのかと、彼女が疑問に思うのは無理もないだろう。
「・・・・・・それは多分、当時のヒーロー連合協会の立場と陥っていた状況が関係しているんじゃないかと思う」
「どういうこと?」
「当時のヒーロー連合協会は設立されてまだ数年と日が浅かったのと、上層部の半分以上が各国に太いパイプを持つ者達で占められていた。そのせいで各国の要求を完全にはね除けるということは出来なかったんだ。・・・それに加えて、アリスティーゼの襲撃のせいで各国が保有していた軍隊も軒並み壊滅状態にされて危機感を感じていたというのもあって、速やかなる排除を!と訴える所が後を断たなかった。・・・当時職員だった俺の知り合いが言うには、あれはもう集団ヒステリーに近い感じだったらしく、場合によってはヒーロー連合協会の方に核兵器を撃ち込まれていてもおかしくなかったらしい」
「それ故に核ミサイルを発射せざるを得なかったそうだ。・・・まあ、後で知った話だがな」と、そう言葉の最後に呟く御城。
それを聞いたラッセルとヴィルマリアは、断りきれなかったヒーロー連合協会に呆れてか、それとも集団ヒステリーのようなものを起こしていた各国の御偉方を嫌そうに思ってか、「うわぁ・・・」と思いっきり顰め面を浮かべていた。
「・・・しかし、なるほどな。『コード:B』に関する情報も秘匿されることになったのは、『コード:A』という前例があったからなんだな」
『コード:A』という事件では世界中の戦力を集めてアリスティーゼという怪人に挑むも明確に倒したとは言えず、また規模こそ違えど内容は似通った事件である『コード:B』でも怪人―――悪の組織アンビリバブルのボスを倒すことはできていない。
だからこそ、ヒーロー連合協会としての面子もそうだが、掲げている理念にしてもそんなことは公表できない・・・いや、するわけにはいかないと判断して上層部は箝口令を敷いたのだろう。
・・・・・・だが、そうなるとどうしても疑問が一つ出てくる。
「でも、それならそれで不思議に思うわ。どうして上層部は光君に関する情報や記憶を消して回っているのかしら?昔はともかく今の上層部の大半は、私の知る限り西条のような奴を除いて理由や動機、目的はそれぞれ異なるけど、それでもこの世界の平和と秩序を守るために立ち上がったという点では嘘偽りのない人達よ。それがどうして・・・」
そう。何故ヒーロー連合協会の上層部が渡辺光に関する情報や記憶を消して回るのか、だ。
『コード:A』という事件の詳細を聞いて、おそらくビースト・オブ・ライトが行方不明となっていた六年間が何かしら関係しているのではないかと思われるが、しかし現状では情報が足りなくて答えが出せない。
色々と渡辺光に関する情報を集めていた向井もまたそうであるらしく、ヴィルマリアの疑問に言葉を濁しながら答えた。
「残念ながらそれについては本当に何も分かっていないんです。何故それほどまでに躍起になって上層部が彼を消そうとしているのか。それも存在していたという証明さえも残してたまるかと言わんばかりに徹底的に」
「そうなの。・・・う~ん、なんていうか・・・話を聞いていると、まるで何かに恐怖しているかのような感じよね」
「・・・恐怖、恐怖ですか・・・・・・なるほど、それは確かに言い得て妙ですね。その表現は以外としっくり来る。・・・そう考えれば上層部の行動も、そしてどうして『アグニの炎』なんていう計画を立てたのかについてもなんとなく想像できる」
ヴィルマリアの言った〝恐怖〝という言葉を聞いた向井は、ハッと何かに気付いたような反応をした後で納得するように頷いた。
「うん?どういうことだ?」
「実は『アグニの炎』という計画なのですが、その構想と設計自体は十六年前から既に存在していたんです。・・・ですが、この計画は一度凍結されています。そして再び開始されたのが約十年程前。丁度『コード:B』という事件が起こった時期と重なっています」
「おい・・・おいおいおい!つまりは何か?上層部が変な事をしているのは『コード:B』という事件に恐怖を覚えたからだって言いたいのか?」
「正確には振り返した、と言った方がいいかもしれません。『コード:A』という事件を引き起こした怪人アリスティーゼを彷彿とさせる行動を見て、過去に感じた恐怖や危機感が脳裏に蘇ったのでしょう」
「だからこそ、一時は凍結させていた『アグニの炎』という計画を再開させたのでしょう」と話す向井に、彼以外の面々はそれぞれありえると納得する様子を見せた。
・・・だが、続いて話された内容に三人は瞠目した。
「そして、おそらく上層部は渡辺光君にも何らかの恐怖を覚えているのでしょう。そう考えれば、彼等の行動の理由に幾つかの推察ができます」
「・・・恐、怖・・・・・・?上層部が、光君に?」
「いや・・・いやいやいや待て待て待て。いくらなんでもその考えは突飛過ぎやしないか?普通、いい大人が子供一人を怖がるなんてこと、ありえないだろう」
「ええ、そうね。それはちょっと考えすぎじゃない?」
「そうでしょうか?彼が抱える何らかの秘密、それが上層部を異常な行動に駆り出させたと考えたら、納得できると思いませんか?それとも、皆さんは他に何か理由が考えられますか?」
「それは・・・」
向井のその言葉に何も言えなかったのか、黙り込む三人。
「―――さて、そこでお三方に是非とも頼みたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
と、そこで唐突に向井がそんな言葉を口にした。
「頼み、たい事?お前がか?」
「普段人を頼ることをしない向井がそんな事を言うなんて、かなり珍しいな」
「ええ、そうね。明日は雹か槍の雨でも降るんじゃないかしら?」
「ははは、いやぁ皆さん僕に対して結構辛辣ですねぇ・・・」
「だって普段の言動が胡散臭いし」
「行動も怪しい時があるし、隠し事も多いしなぁ」
「ヒーローとして、そして友人の立場としても辛辣にならざるを得ないだろう」
「・・・・・・いやぁ本当に手厳しいですねぇ・・・」
ヴィルマリア、ラッセル、御城の順でそう口々に言う三人に思わず向井は一滴の汗を流しながら苦笑を浮かべた。
「―――ですがこの頼みを受けていただけたのなら、もしかしたら皆さんの抱いている疑問が一息に解決することができるようになるかもしれませんよ」
「・・・・・・どういうことだ?向井、お前はいったい何を知っている?」
訝しげに眉を潜める御城。
それに対し向井はニンマリとした笑みを口元に浮かべた。
「知っているのは僕ではありませんよ。知っているのは、これから貴方達に捕まえてきてもらう者達のほうです」
次回投稿は7月11日の予定です。




