ミッション99 密会するヒーロー達 その2 続
「―――さて・・・それでは全員集まったようなので、そろそろ今回の本題、つまり渡辺光君の居所についての話をしましょうか」
「・・・あ~、すまない向井。その話の前に一つ確認させてくれ。ラッセルと羽澤の二人が此処にいるってことは、もしかしなくてもこの二人もあの子を探してくれていたってことでいいんだよな?」
向井が話を始める直前、待ってくれという感じに御城が軽く手を挙げ、「色々と情報共有する予定だと聞いたが」と呟きながら、その視線をラッセルとヴィルマリアの二人に向けた。
そう、彼は二人が渡辺光の捜索をしてくれていることを知らなかったのだ。
ラッセルに関しては以前事情を話していたので、友人であり、長い付き合いのよしみで渡辺光を探してくれていたとしても不思議ではない。だがそれにヴィルマリアまでもが加わっているというのが、御城には分からなかった。
一応彼女ともそこそこの付き合いはあるが、しかしそれは飽く迄職場の同僚としてであり、友人としてではない。協力を要請していないのに彼女が手を貸してくれているという現状に、御城は疑問に思っていた。
「おう、その通りだぜ御城。俺もお前とは別ルートであの子のことを探っていたんだよ。ついでに近くにいた羽澤も誘ってな」
御城のその疑問に答えたのは向井ではなくラッセルであった。
彼は片手を軽くヒラヒラさせながら言う。
「アイツと親交があったのはお前だけじゃないんだぜ。大なり小なり俺達はアイツに助けられてきた口だ。だったら、その借りを返すために動くのは何もおかしいことじゃないだろう?」
「それは・・・お前や向井ならまだ分かるが、それで何故彼女まで・・・?」
「ちょっと、私があの男の為に動くことの何処がおかしいってのよ!?」
「いや、その・・・何時も喧嘩腰だったから、アイツのことを嫌っていたのかと・・・」
不思議そうに首を傾げる御城。なにせ彼の記憶では自身の親友と仲良くしているヴィルマリアの姿を一度として見たことがなかったからだ。
「うっ・・・!?そ、それは・・・」
「ああ、そりゃあれだ。恥ずかしがってたんだよコイツは」
「・・・ッ!?」
「恥ずかしがっていた?」
その疑問に対して答えたのはまたもラッセルであった。
そうなのか?という感じに御城がヴィルマリアの方へと顔を向ければ、彼女は顔を真っ赤にして俯かせていた。
「ああ。羽澤にとっちゃあアイツは年の離れた兄貴みたいなもんでな。顔を合わせると恥ずかしがって強がったり反発するような態度を取っていたんだよ」
「そうなのか?・・・というか、何でお前そんなことを知ってるんだ?」
「そりゃあれだ。アイツから離れた後、人目のつかない所で嬉しそうに口許をニヤニヤとさせたり、酷い事を言ってしまったと落ち込んだりするコイツの姿を隠れてこっそり見ていたからだよ」
「・・・ッ!?!?」
「まあ、羽澤のそういう所はアイツも分かってたぽかったから、然程険悪な雰囲気になることはなかったがな。寧ろ微笑ましいと笑ってすらいたぞアイツは」
「・・・ッ!?・・・ッ!!?」
「ええ、確かに。あの時の彼女は年頃のお嬢さんといった感じで本当に微笑ましかったですからねぇ」
「へぇ・・・そんなことが・・・」
つまり、俗に言うツンデレとかいうやつなのだろう。そう思った御城は、確かにそれは微笑ましかっただろうなと頷いて―――そこでふと、おや・・・?と首を傾げた。
「・・・って、ん・・・?何で向井まで知ってるような口振りなんだ?」
「そりゃあれだ。そん時はコイツも一緒になって隠れて見ていたからだよ」
「・・・ッ!?!?」
「ちょっとラッセルさん、その話は内密にと言ったじゃないですか」
「バッカお前。さっきの言い方だと自分から白状したもんじゃねぇか。だったら隠しとく意味なんてねぇだろうが」
何言ってんだ、という感じに呆れたような口調で言うラッセル。
その言葉に向井は、これは一本取られた、という感じに「おお・・・!」と声を漏らした。
「・・・ふふ、ふふふふふ・・・!」
「は、羽澤・・・?」
―――その時だった。何やらヴィルマリアから不穏な空気が流れ始めたのは。
「消しなさい・・・!その記憶を今すぐ頭の中から消しなさい・・・!!というか私が消してやるぅぅ!!!」
ビュオンッ!!
「ノオオオオッ!?」
顔を真っ赤にしたヴィルマリアがラッセルと向井の二人に向けて強烈且つ超高速の蹴りを放つ。
その一撃をラッセルはまさに紙一重といった感じにギリギリで躱し、一方向井は手を出されることを予想していたのか、比較的余裕そうに躱した。
「ちょっ!?お、落ち着け羽澤!こんな所で暴れるなって!?」
「うるさいうるさいうるさい!!アンタも記憶を失いなさい御城ォォ!!!」
「な、なんで俺までぇぇぇーーーッ!?!?」
錯乱したように暴れるヴィルマリアを止めようとした御城だったが、しかし彼女の標的には彼も入っていたらしい。クルンと体を回転させると強烈な回し蹴りを放ってきた。
それを持ち前の高い反射神経でもってなんとか躱した御城だったが、それが余計に彼女の怒りの炎に油を注ぐことになったらしい。その後もヴィルマリアは半泣きのまま暴れに暴れまくり、ようやく状況が落ち着いたのはそれからしばらく経った後のことであった
「―――えー、他に聞きたいことはありませんか?ありませんね?・・・それでは本題に入らせていただきます」
フゥ・・・と、若干疲れた感じの溜め息を吐いた後にそう言う向井。その後ろには椅子に括り付けるように簀巻きにされて拘束されたヴィルマリアが、ブッスゥーと不満げに頬を膨らませていた。
どうしてそんな状態になっているのかと言えば、それは先程の話の途中で羞恥心が堪えきれなくなった彼女が暴れだしてしまい、話をするどころではなくなってしまったので、御城と向井とラッセルの三人で一旦拘束した為だ。
ちなみに、彼女の体を縛っている物は縄とかではなく鎖だったりする。
女性と言えど彼女もヒーロー。その身体能力は常人より上であり、縄くらいならヒーロースーツのアシストなしに素の腕力で引き千切ってしまえるからだ。
やれやれと言いたげな視線をヴィルマリアに向ける向井。その後で彼は、ようやく今回自分達が集まった本題に入れるといった感じに口を開いた。
「では、皆さんが知りたがっている。渡辺光君についての調査報告ですが・・・事前に軽く説明していたように、どうやら彼は今とある悪の組織の下にいることが分かりました」
そう言いながら向井は懐から四角い板状の物を取り出し、コトリとテーブルの上に置く。
そしてそれの角の部分をカチッと押した瞬間。様々な映像―――所謂ホログラムディスプレイと呼ばれるモノが空中に出現した。
どうやら向井が取り出したそれは映像を投影するデバイスであったらしい。空中に映し出されたディスプレイには幾つかの事件の―――ヒーロー連合協会で『近藤食品生産機材取り替え事件』『鉄拳小学校崩壊事件』『坂之上動物園狂騒事件』と名前が付けられた事件の映像が流れていた。
「その名前は『アンビリバブル』。皆さんには『AB』と言った方が分かるかもしれません」
「『AB』・・・というとあれか?以前日本支部の会議で議題に上がった例の色々と不明な組織のことか?」
「ええ、それで間違いありません。規模としてはかなり小さめで、人数も然程多くはありません。確認されているだけでも十人以下で、正直クラブとか愛好会レベルの組織ですね。・・・ただ、残念ながらその本拠地が何処にあるのかまでは未だ判明していません。主な活動範囲が日本国内なので、もしかしたら国内の何処かにあるかも、というレベルです」
「組織の規模が小さいくせにいっちょ前に隠蔽技術とかは高いのね。・・・・・・いえ、規模が小さいからかしら?」
ラッセルが質問し向井が答える。更には未だ縛られている状態ではあったが冷静さを取り戻したのか、ヴィルマリアが溜め息を吐きながらそう言葉を零す。
「・・・・・・」
「おや?何処へ行くつもりですか、御城さん」
ザッ、と踵を翻し、無言で出入り口の扉に向かおうとする御城。
その姿を目にした向井は、何処に行くつもりかと声を掛けた。
「・・・・・・そんなの決まっているだろう。あの子を、光君を助けに行く」
肩越しに目線だけ振り向かせて答える御城。
そんな彼に、ラッセルとヴィルマリアが落ち着けという感じに声を掛ける。
「おいおい、御城。助けに行くって言うが、肝心のアンビリバブルっつう組織の本拠地が何処にあるのかまだ分かってないんだぜ?」
「そうよ。闇雲に探したって無駄な時間と手間が増えるだけよ。まずは情報を集めないと・・・・・・」
「・・・それこそ無駄な時間だろう。向井の情報収集能力は探偵ヒーローと名乗っているだけあって相当に高い。なのにまだ分かってないってことは、そのアンビリバブルというのは組織の規模に見合わない高い隠蔽技術か能力があるということになる」
「っ、それは・・・・・・」
ヴィルマリアは御城の返答に思わず言葉を詰まらせた。何故ならそれは、彼女自身も内心では彼と同じことを思っていたからだ。
ヴィルマリアにとって向井という男は、生け好かない、気に食わない人物ではあるが、しかしその情報収集能力の高さだけは一目置いていたし、自分以上であるとも認めていた。
だからこそ、そんな彼が悪の組織の、それも弱小とも言える規模が小さい所の本拠地を見つけられないということに、声には出さないだけでその実「嘘でしょ!?」と驚いていたのだ。
「じゃあ、お前はどうやって見つけるつもりなんだよ?・・・まさか手当たり次第に片っ端から、だなんて考えてるわけじゃないよな?小中規模の悪の組織や秘密結社がどんだけあると思ってんだ。今までお前が潰してきた大規模の所とは数が比較にならないくらいに多いんだぜ?・・・それにあの子が行方を眩まして半年経つ。もしかしたらあの子はもう・・・・・・」
黙ってしまったヴィルマリアに代わるように御城にそう問い掛けるラッセル。
それに対して御城は、フンッと鼻を鳴らした。
「だからどうした。それで光君を探さないという理由にはならないだろう。それから、彼がもういないという確証もあるわけじゃない。生きている可能性がある以上、俺は探すことを諦めるつもりはない」
それに、と御城は話を続ける。
「日本国内に存在する小中規模の悪の組織や秘密結社は、外国のそれに比べれば甘い所がある。拐われたとしても、少なくとも命の危険はない筈だ」
「・・・まぁ、下働きの仕事とかはやらされているかもしれないが」と、付け足すようにそう言葉を零す御城。
その言葉にラッセルとヴィルマリアは「・・・あり得る」と内心で思った。
実際御城の言う通り、日本国内に存在する小中規模の悪の組織や秘密結社は外国のそれに比べてかなり甘い。・・・いや、悪の組織や秘密結社らしく犯罪行為や破壊活動をしてはいるのだが、元々日本以外の国でヒーロー活動をしていた経験のある二人からすれば、「何だこの生温い連中は?」と思ってしまうくらいなのだ。
人情がある、とも言えるのかもしれない。なんというか、それぐらい非情になりきれていない感があるのだ。
完全に信用できる・・・というわけではないがしかし、その傾向を鑑みれば御城の言う通り渡辺光という少年が生きている可能性は高いだろう。
「悪の組織や秘密結社というのは以外と横の繋がりが多い。幾つか小中規模の所を締め上げれば、情報の一つや二つくらいは快く提供してくれるだろう。・・・なに、これまでとやり方が変わる訳じゃない。狙う対象の規模が変わっただけだ」
そう言って、今度こそ出ていこうとする御城。
しかし、その背中に「待ってください」と声が掛けられた。
「逸る気持ちは分からなくもありません。・・・ですが、これ以上貴方が動いた場合、渡辺光君の身が危険に晒されます。最悪、命を狙われるかもしれません」
「・・・・・・なんだって?」
声を掛けたのは向井であった。
真剣な表情を浮かべる彼に、どういうことだ?という感じに御城は振り返る。
「おい、向井。コイツが動くと光君の身が危険になるってどういうことだよ?」
「・・・・・・もしかして、私達が調べていたことと何か関係があるの?」
疑問に思ったのはラッセルとヴィルマリアもだったのだろう。二人は何か知っているのかと向井に問い掛けた。
「順を追って説明します。・・・まず、どうして渡辺光君の身が危険に晒されるのか?という点についてですが、その理由は二つあります。・・・一つは悪の組織アンビリバブルを率いるボスです。僕の独自の調査と協力者の情報網により判明したのですが・・・どうもかの組織のボスは、今から十年程前にヨーロッパ地方で暴れに暴れていた怪人のようなんです」
「・・・十年前?そんな事件があったなんて話は聞いたことがないが・・・・・・」
その問い掛けに対し、順を追って説明すると言って話し始める向井。
それを聞いていた御城は、そんな話は聞いたことがないと首を傾げていたが、そこでラッセルが「・・・あっ」と声を上げた
「その話は俺も聞いたことがあるぜ。確かヒーロー連合協会ヨーロッパ支部で『コード:B』という名称が付けられた事件だったよな?」
「・・・流石は序列上位のヒーローと言ったところでしょうか。ええ、その通りです。どうやらかの組織のボスは十年程前に突然ヨーロッパ地方に現れ、当時そこに存在していた多数の悪の組織や秘密結社を壊滅させ、更にはヨーロッパ支部の機能をほぼ停止状態に陥らせる程の被害を与えていたようなのです」
「・・・読めてきたわ。つまりはあれね。そんだけの被害を受けたとなると信用問題になるから情報が秘匿されていた、ってところかしら?」
「はい。その事件については箝口令も敷かれていて、僕が調べた限りで詳細を知っているのは、ヨーロッパ支部と上層部、後は関わっていた関係者くらいだったんですが・・・・・・まさかラッセルさんがあの事件について知っていたとは予想外でした。いったい何処でその話を?」
「いやな、実は俺の師匠筋に当たる人から昔聞いたことがあってさ。なんでも、当時のヨーロッパ支部に所属していたヒーローの大半が戦いを挑んでまるで歯が絶たなかったとか。その当時敵対していた悪の組織や秘密結社と協力体制を取ってまで再度挑んだけれど、それでも勝てなかったらしいとか。・・・酒の席での酔っ払い話みたいな感じで話してたんで、正直半信半疑だったんだが、まさかあの話が本当だったとはなぁ・・・・・・」
「ヒーロー連合協会のデータベースにそんな記録は無かったから、与太話の類いだと思っていたわ」とラッセルは呟く。
彼の話を聞いた御城は、なるほどと一つ頷いた。
「・・・・・・多分、当時敵対していた悪の組織や秘密結社と協力体制を取った、ってところが情報が秘匿された一番の理由なんだろ。違うか?向井」
「ええ、その通りです。ヒーローが負けたということだけなら多少信用が落ちるだけで済みますし、まだ挽回するだけの余裕はあります。・・・・・・しかし、強敵を倒す為に敵対していた者達と一時的とはいえ協力したというのは、ヒーロー連合協会としてはあってはならない醜聞であり、黒歴史。そうまでして勝てたのであれば、まだ溜飲を下げることはできたでしょうが・・・・・・」
「・・・けれど、結局敵うことなく大敗を喫した。だから情報が隠された、ってことなんだな」
御城は納得するようにウンウンと頷く。
「・・・まぁ、そのアンビリバブルという組織のボスがとんでもなく強い怪人だということは分かった。・・・しかし、それの何が光君の身の危険に繋がるんだ?」
「・・・ありきたりだが、人質にされるとか交渉材料にするとかじゃないか?悪の組織らしくさ」
その後で御城は疑問を覚えたように呟く。
それに、こういう事じゃないか?と答えるラッセルだったが、しかしその答えを向井は否定した。
「・・・残念ながらそれは意味をなさないでしょう。おそらく・・・いえ間違いなく上層部は、かの組織のボスを人質ごと撃破することを決定する筈です」
「「「・・・は?」」」
思わずポカンとしてしまう御城とラッセルとヴィルマリアであったが、そのすぐ後に、「いやいやいや!?」と片手を横に振った。
「い、いくらなんでもそれはあり得ないだろ!人質がいるって分かってるのにそんな事をしたら、それこそ信用問題になるぞ!?」
「ああ。もしそれが世間に知られたりしたら、多くのヒーロー達の活動にも影響が出るだろうし、場合よっては大半が活動停止にまで追い込まれる可能性が高い!」
「そうなったら、間違いなく世界中が大混乱に陥るわよ!!」
今この星には様々な国や地域に数多の悪の組織や秘密結社が存在し、色々な悪事を働いている。それを同じく世界中に存在するヒーロー達が体を張って抑えている状況なのだが、もしそのヒーロー達の身動きが取れなくなったりでもしたら、抑える者が誰もいなくなってしまう。
・・・いや、一応各国にも軍隊とか傭兵とかは存在しているので、まるっきり対応できないというわけではないが、戦闘能力とかスペックの差で押し込まれる可能性の方が高いので、正直戦力という点では頼りない部分があるのだ。
だからこそ三人は、いくらなんでもそれはあり得ないだろうと言うのだが、しかし向井は「そうなる事が分かっていたとしても、上層部はやるでしょう」と答えた。
「かの組織のボスの戦闘能力は並大抵のヒーローのそれを軽く上回っています。対応するには相応の実力者を呼ぶ必要があるでしょうが、しかし各国に点在する支部が易々とその要請に応じるとは思えません。今でも治安を維持するのは結構ギリギリ。その状況で主力が抜けようものなら治安の崩壊は免れません。・・・・・・であれば、ヒーローに頼らない方法を用いて倒すしかない」
そう言いながら向井はデバイスを操作し、ある映像を写し出した。
「―――『アグニの炎』。強大な敵が出現した際に対抗するために作られた対怪人怪物用の武器であり、大量破壊兵器。上層部はかの組織のボスの撃破にこれを用いるつもりでしょう」
「「「――――――」」」
映像に映し出されたそれは、まるで槍のように先が鋭く尖った巨大なミサイルであった。
隣に映し出された別の映像にはスペックが表示されており、その威力はまさに核並み。実際に核は使われていないので放射能汚染の危険こそないが、しかしその一発で都市の一つや二つくらいは軽く焼き尽くす事が出来てしまえるのは間違いなかった。
「じょ、冗談じゃない・・・!そんな物が撃たれたらどれだけの被害が出ると思ってるんだ!!上層部は本気でこんなのを使うつもりだってのか!!?」
「・・・待って。そう言えば最近開発費が何処かに横流しされている、なんて噂を聞いたことがあるわ。もしかして・・・・・・!」
「ええ、その推測は当たっていますよ、羽澤さん。実際ここ十年程、本部が確保している開発費の半分以上がこちらに回されています」
「ホントに!?」
愕然とする向井以外の三人。
まさかヒーロー連合協会の上層部がそんな特級の危険物を用意しているとは、しかも守るべき町や一般市民すら焼き尽くそうと考えているなんて、まったく予想だにしていなかったからだ。
「僕の調べた範囲では現在三機分が既にロールアウトし、指示があれば何時でも撃ち出せる体制となっているようです。・・・・・・まぁ物が物ですし、撃った後のリスクも考えるとそんな指示は軽率に出せないようでしたが」
謂わば、本当の意味での最終手段であり兵器。これを使うという事はすなわち、自分達が守り維持してきた世界の秩序を崩壊へと向かうのを確定付けるということ。
とはいえ、上層部の面々もこれを用意はしたものの使うのは躊躇われたのか、かの組織のボスが見つからない現状では使うつもりはなさそうであり、また使用する際も過半数の了承が出た場合のみと決めているようだという向井の話しに、それなら早々に使われることはないだろうと、話を聞いていた三人は顔色を青くさせながらも小さく安堵の溜め息を吐いた。
「・・・たくっ、なんてヤベェもんを作ってやがるんだ、上層部の連中はよぉ・・・!」
「ホンットそうね。もうこうなったらあれよ。そんなのが使われてしまう前に渡辺光君って子を助け出した方がいいんじゃないかしら?御城に動くなって言ったのも、上層部の目が彼に集中してるからで、もし彼が『コード:B』ていう事件を起こした怪人の居場所を見つけだした時には、即座にその『アグニの炎』ってのを使われかねないからでしょう?だったら彼以外のメンバーで動けば問題ないんじゃないかしら?」
ジャラジャラジャラッ・・・!
「そうだな・・・って、羽澤。お前、何時の間に鎖を解いたんだ?」
「ああ、これ?こんなの冷静になりさえすれば簡単に解けるわよ。私を捕まえておきたければもっと頑丈なのを用意しておきなさいな」
「マジかよ・・・」
何時の間にやらヴィルマリアが自身の体を拘束していた鎖を解き、ジャラジャラと落としながら立ち上がっていた。
地面に落ちた鎖は所々で真っ二つにされていた。まるで鋭利な刃物にでも斬られたかのようにだ。
それを目にした御城は、刃物なんて持っていない筈なのにどうやって切ったんだ?と首を傾げた。
「・・・渡辺光君の救出の件に関してですが、それもやめておいた方がいいでしょう。今そんな事をすれば余計に彼の身が危険に晒される事になります。むしろ今はその組織にいた方が安全ですらある」
「・・・は?」
「・・・え?ちょっと待って、それってどういう事?」
―――そこで、渡辺光を助けに行くのはやめたほうがいいという言葉を向井が口にした
それを耳にした御城とヴィルマリアはどういうことだと聞き返す。
「これが渡辺光君の身が危険に晒されるもう一つの理由なのですが、どうやら彼は今、ヒーロー連合協会の上層部に命を狙われているようなんです」
「「はぁっ!?」」
その答えに、二人は思わず驚きの声を上げた。
「ち、ちょちょちょ、ちょっと待ちなさい!上層部の連中が子供一人の命を狙ってるって、何よそれ!ホントにどういう事よ!?」
「ああ、こう言っちゃあなんだが、流石に信じらない。何か根拠でもあるのか?」
「当然です。僕はこれまで渡辺光君に関係するモノも含めた様々な情報を洗いざらい調べていました。・・・そしてその過程である名前に行き着きました。―――今から十六年程前に起こったという『コード:A』という事件の名前に」
「・・・ッ!」
そう淡々と語る向井に、御城は息を飲んだ。
「な、なんでお前がその事件の事を・・・!」
「貴方を呼んだのは渡辺光君に関して調べた事を教えるのともう一つ、貴方が参加していたという『コード:A』という事件について聞きたかったからなんです」
そう言うと向井は御城に対して真剣な表情を浮かべて見せる。
「お願いです、御城さん。『コード:A』という事件について貴方が知っていることを教えてください。僕が調べた限り、どうやら渡辺光君と『コード:A』という事件には何かしらの関係性があるようなのです。でなければ、上層部が彼に関する記録や記憶を消していくなんて事をする筈がないんです」
「彼に関する記録や記憶を消す・・・?待て、待ってくれ。それはいったいどういうことだ・・・?」
困惑気な表情を浮かべながら、待ってくれという感じに掌を前に出す御城。
そんな彼の内心を察したのか、向井は彼の疑問に答えようとゆっくりと口を開いた。
次回投稿は7月4日の予定です。




