第五話:隣町は獣人の町だった件。
「うおぉぉぉっ!!」
隣の窓ガラスに張り付いて興奮するエルフ──
そんな光景を誰が想像できただろうか。
否!! 俺だって無理だ。
「リリア……もうちょい落ち着こうか」
「だって! こんな速い乗り物、初めてなんだもん!」
「いや、張り付くと余計目立つんだよ……俺たち」
「気にし過ぎよ!」
実際、隣を走る馬車の人間と馬は、同じ顔でこっちを見ていた。
シンクロ率100%。
しばらく走ると、リリアが叫んだ。
「見えてきたわ!」
重厚な壁に囲まれた立派な町が視界に入る。
「うわ……高っ。何メートルあるんだこれ」
「この辺はダンジョンが近いから魔物がよく出るのよ。防衛のためね」
「魔物……」
(ゴブリンの群れを思い出す……)
◇ ◇ ◇
ピーィ、ピーィ、ピー!!
門の前で笛の音が鳴り響いた。
「えっ、なにごと!?」
「たぶん……この車に警戒してるのよ」
「大丈夫かな……」
「そこの白い魔物め!! 止まれ!!」
門から飛び出してきたのは──
モフモフの毛並み、犬耳がピクピク動く獣人兵士が二人。
「こんなの初めて見たボン!」
「刺してみるロン?」
「いや、どんな攻撃するか不明なうちは刺激しない方がいいボン」
(刺す気満々じゃねぇか……)
俺は誤解を解くため、車から出ることにした。
「ちょっと外に出てみる」
「うん。大事になる前に説明しないとね!」
ガチャッ。
扉を開くと、獣人兵士が槍を構えた。
「な、なんだボン!?」
「攻撃かロン!?」
リリアが先に降りて、二人の前に立つ。
「エルフ……だとロン!?」
「これは魔物じゃないわ。安心して」
「得体の知れない物体ボン……」
獣人たちは車を警戒しつつ、俺たちを観察していた。
「まずは自己紹介させてほしいボン!」
犬耳がピンと立ち、獣人兵士の一人が胸を張る。
「俺はモココ族の門兵、ボン太だボン!」
「俺はロン太だロン!」
(ボン太とロン太……語感が強い)
リリアが小声で囁く。
「モココ族は犬系の獣人よ。見た目通り、警戒心が強いけど根は優しいわ」
「なるほど……」
ボン太が車を指差す。
「この白い箱……動いていたボン。魔導馬車か?」
「いや、これは“キャンピングカー”っていう乗り物で──」
「キャン……ピング……カー?」
ロン太が首を傾げる。
「魔力で動くのかロン?」
「まぁ……魔導駆動式だから、そうなるのかな」
二人は目を丸くした。
「魔導駆動式!? そんな高級品、王都でも見たことないボン!」
「お前たち……何者ロン!?」
リリアが一歩前に出る。
「タツオは異世界人よ。私は護衛として雇われてるの」
「異世界人!? 伝説の……?」
ボン太とロン太は同時に耳をピンッと立てた。
「ならば、町長に報告する必要があるボン!」
「そうだロン! 町長は異世界人の来訪を歓迎するはずロン!」
(歓迎……? よかった……刺されなくて)
リリアが俺の袖を引く。
「タツオ、町長に会うのは悪くないわ。
この町は獣人の商業都市だから、コンビニの宣伝にもなるかもしれない」
「なるほど……商売のチャンスか」
ボン太が大きく頷く。
「まずは入門手続きをするボン! ついてくるボン!」
ロン太も尻尾を振りながら続く。
「町長は優しいロン! ただし、ちょっと変わってるロン!」
「変わってる……?」
リリアが小声で言う。
「モココ族の町長は“犬系の獣人”の中でも特に犬らしいのよ……」
「犬らしいって……?」
「……すぐ懐くし、すぐ吠えるし、すぐ喜ぶの」
(犬じゃん!!)
こうして俺たちは、獣人の町へと足を踏み入れた。




