第三話:エルフさんは、おにぎりが好きな件。
「何だか……不思議なのよね」
リリアはおにぎりを食べ終えたあと、少し首を傾げた。
「どうしたの?」
「私、魔力が空になっていたはずなのに……今は満タンなの。しかも──え? いま、私の名前呼んだ?」
「あっ……」
(やばい。自己紹介してないのに名前呼んだら普通に怖いよな……俺)
「ごめん。名前が……分かっちゃったんだ。
どうやら俺の特殊スキルの影響みたいで……」
「つまり、私が隠蔽魔法で隠していたステータスを、あなたは勝手に見れたってことね?」
「名前だけだから! 本当にごめん!」
(隠蔽されてても見えちゃうのは俺のせいじゃない……はず)
リリアは少しだけ睨んだあと、ふっと肩の力を抜いた。
「なら、あなたも名前を教えるのがフェアじゃないかしら?」
「俺は……タツオだよ」
「タツオ……変わった名前ね。でも気に入ったわ」
(えっ……気に入られた? エルフ美少女に?)
リリアは小さく微笑んだ。
その笑顔は、さっきまで血まみれだったとは思えないほど柔らかい。
「それで……お代はどうすればいいのかしら?」
「お代か……」
リリアは銀貨を四枚、そっと差し出した。
「今はこれしかないの」
「ちょっと待ってね」
俺はレジへ向かい、おにぎりのバーコードを読み取る。
ピッ。
表示は──銅貨2枚。
つまりこの世界の換算は、
————
・金貨1枚 = 10,000円
・銀貨1枚 = 1,000円
・銅貨1枚 = 100円
————
「なら、お釣りは銀貨3枚と銅貨8枚だな」
ジャラン!!
レジから銅貨が飛び出す。
「はい、銅貨8枚と銀貨3枚!」
「安っ……本当に合っているの?」
「バーコードがそう言ってるから……たぶん合ってる!」
リリアは不安そうにしながらも、銅貨を受け取った。
◇ ◇ ◇
「魔力も体力も戻ったし……ゴブリンの魔石を回収してくるわ」
「わかった。俺はここで応援してる」
(どうせ戦力にならないし……)
リリアは自動ドアの前に立ち、軽く息を整えてから森へ飛び出した。
──数分後。
「ねぇ……おかしいの」
リリアは再びコンビニへ戻ってきた。
服は血まみれだが、本人はケロッとしている。
「大丈夫か!? また怪我──」
「これは返り血よ。平気」
「返り血……?」
「それがおかしいの。十数体のゴブリンの群れに初級魔法のウィンド・カッターを撃ったら──瞬殺したの」
「瞬殺!?」
「普段の数倍の威力だったわ。初級魔法で群れを一掃なんて……あり得ないのよ」
(……あ!)
俺は脳内通知を思い出した。
「それ……バフかも」
「バフ?」
「さっき、リリアの名前がステータスに追加された時に“バフ追加”って出てたんだ」
「……もう驚かないわ。あなたのスキル、常識が通じないもの」
「俺も自分で驚いてるけど……」
リリアはため息をつきながらも、どこか楽しそうだった。
◇ ◇ ◇
「魔石の回収を手伝ってくれると助かるわ」
「いいよ〜。その代わり、うちのコンビニを宣伝してくれたら嬉しいな」
「もちろん……と言いたいけど、それは危険かもしれないわ」
「どうして?」
リリアは真剣な表情で俺を見た。
「タツオ。あなたのスキルは……この世界では“危険すぎる”の」
俺はまだ、その言葉の重さを理解していなかった。




