第二話:初来店はエルフさんだった件。
「ギギギィィ!!」
森の奥から、地を震わせるような不快な叫び声が響いた。
「……うわ、何だこの声。絶対人間じゃないだろ」
背筋がゾッとしたが、足は止まらない。
声のする方へ走ると──そこには緑色の小人の群れと、木にもたれかかって倒れ込む女性の姿があった。
「……女性? しかも血だらけじゃないか!」
銀色の長い髪。淡い青色の瞳。
そして──長い耳。
「エルフ……?」
状況を理解する前に、ゴブリンの一体がこちらを睨んだ。
「ギィ……」
(またニンゲンか。男はマズイから殺すだけでいいな)
「逃げてください!!」
女性が必死に叫ぶ。
「ゴブリンは男の人間は殺し、女性は攫って子を孕ませるんです!!」
「マジかよ……想像以上にヤバい世界じゃん!」
「あなた、早く逃げ──」
「死にたくないから、早めに決着つける!」
俺は震える足を無理やり前へ出しながら、頭の中でスキルを思い出した。
「……コンビニ展開できれば、避難できるかも」
女性の近くまで走り込み、叫ぶ。
《スキル──コンビニ展開!!》
ボォォォォン!!
森の中に、小屋サイズのコンビニが突然出現した。
「おいっ、そこの人!! 早く中へ!」
女性を見た瞬間、息を呑む。
銀髪、青い瞳、長い耳──絵に描いたようなエルフの美少女だった。
「……えっ!? あなた、今の建物を……?」
「説明は後! 入るんだ!」
「は、はい!!」
ガラガラ──自動ドアが開く。
中へ入ると、外観の小屋サイズとは違い、内部は普通のコンビニの広さに変化していた。
「な、何これ……空間が広がってる……?」
ガンガン!!
ゴブリンたちが扉を叩くが、入ってこられない。
そして──音が突然、完全に消えた。
「……えっ!? さっきまで叩いてたのに!」
「ふぅ……どうやら結界みたいなものがあるらしい」
「何なんですか、この家……?」
「家じゃなくて、コンビニっていう店だよ」
「コンビニ……?」
エルフの少女は耳をピクピクさせながら、明るい店内を見渡す。
「いろいろ商品があるんだ。食べ物もあるよ」
歩きながら、俺は重大なことに気づいた。
「あの……傷、痛くない?」
「ええ……痛みは……あれ? 痛く……ない!? 傷も……消えてる?」
服の汚れも、血も、傷も完全に消えていた。
「どういう仕組みだ……?」
すると、脳内に声が響く。
【スキルレベルが2になりました】
【初回店舗来店サービスでフルキュアを発動】
「フルキュア……全回復ってことか」
「あなた……回復術師なの?」
「いや、たぶん店のスキルだと思う」
「店の……スキル?」
彼女はまだ信じられない様子だが、興味深そうに商品棚を見ている。
「食べ物はあるの?」
「あるある。たぶんガッツリ食べたいよね」
俺はおにぎりコーナーへ向かい、シャケと爆弾おにぎりを選んだ。
「これは……?」
「おにぎり。米で作るんだ」
「米……ライスタに似ているわね」
「ライスタ……ライスっぽいな」
レジ裏へ向かおうとすると、彼女がついて来ようとして──
「きゃっ!」
半透明の壁に阻まれた。
「たぶん俺以外は入れない仕様なんだ。そこで待ってて」
「わかったわ……」
裏の部屋には、文明の象徴・電子レンジがあった。
「おっ、あった!」
数秒後──チン♪
「はい、どうぞ!」
温かいおにぎりを渡す。
「どうやって温めたの? 魔法じゃないのよね?」
「電子レンジっていう機械だよ」
(コンセントも配線もない……コードレス電子レンジって何だよ)
彼女は恐る恐るおにぎりを口に運ぶ。
モグモグ……
「……お……おいしい!!」
ふわふわの米、パリッとした海苔、ホロホロの鮭。
彼女の表情が一気に明るくなる。
「でしょ? おにぎりは俺の国のソウルフードなんだ」
その瞬間、脳内に新たな通知。
【リリア・ルル・リゾルテのバフが追加されました】
(リリア・ルル・リゾルテ……この子の名前か?)
「……ん?」
エルフの少女は、少し照れたように俺を見つめていた。




