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月界最強の姫は人間界に遊びに行く〜魔法学園で規格外扱いされるが隣の公爵子息にだけ勝てない件〜  作者: おもち
第一章

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第23話 学園生活六年目 ⑤



* * *



あのあと、私はリリアーヌにも褒めちぎられた。けれど、私はメイクも髪型も終えたリリアーヌが目に入り、いつもとは違った雰囲気のあるリリアーヌに惚れ惚れしていた。


「ラベンダー色のドレス、とても似合ってるね。貰った耳飾りもきれい。相手の人はリリアーヌのこと、よく知ってるんだね」

「セレナに言われると照れますね」


頬を僅かに赤くしたリリアーヌは恋をする女の子の顔をしていた。とても可愛くて、キラキラしている。思わず褒めていると、リリアーヌが話を遮ってきた。


「んんっ、私のことは今はいいです。それより、セレナの準備をしないといけません。グランド・マギア開始の時刻が迫ってきています」


リリアーヌはそう言うと、私を鏡の前の椅子に座らせた。そして、メイク用品を手に持つと、私に言ってきた。


「今からメイクをしていきます。注意はしますが、念の為目を開けず、口も閉じていてください」

「わかった」


私は指示に従い、瞳を閉じて、唇も閉じた。そこからは周りの動いている気配や触られている感覚からくらいしか何をされているか分からなかったけど、たぶんみんなすごい集中しながら準備してくれていたと思う。


柔らかな筆が目元や頬を撫で、リリアーヌが素早く侍女さんたちに指示を出している。髪の方も上半分と下半分に分けられて、上側だけ結われたんだと思う。ハーフアップかな?


でも下側の髪の毛がなんか熱持ってる気がする。これはあれかな。私は使ったことないけど、コテという髪を巻くやつなのかな?


とにかくみんな必要なこと以外誰も話さないから、この空間はとても静かだ。


でも、お世話されるモード突入中だから、あんまり気にならない。普段なら静かすぎて気になってるだろうけどね。


誰も話さないので、こうやって考えごとをしていたら、耳を突然触られて少しビクッとしてしまった。耳が僅かに重くなり、耳飾りを付けてくれたんだろう。


「完璧です!」


リリアーヌは声を上げた。


とても満足だと言葉の雰囲気からも読み取れる。私はゆっくりと口を開いて、リリアーヌに尋ねた。


「リリアーヌ、目を開けてもいい?」

「あっ、ちょっとお待ちください」


そう言われたので、私は口をもう一度閉じて待つ。すると、唇に何か付いた。口紅かな?


「もう大丈夫です」


許可を貰ったので、私はゆっくりと目を開けた。ちょっと光が眩しく感じたが、目を開けると鏡に映る私の姿が目に入った。


「すごい……」

「やはり、私の目に狂いはありませんでした。完璧すぎます。大満足です」


侍女さんたちもとてもやり切った顔をしている。鏡に映る私が私じゃないと思うくらい、リリアーヌたちのおかげで綺麗にメイクされていた。


髪型もやはりハーフアップで、下側を緩く巻かれている。髪には飾りを特につけていないから、代わりに髪を巻くことにしたんだろう。


全体で見ても派手じゃないし、そもそもドレスに無駄な装飾がないため、華美ではない。けれど、今の私の姿はほんの僅かな華やかさが見え隠れしていた。


「セレナは清楚な雰囲気が似合います。絶対に、それは壊したくありませんでした。なので、ドレスは基本刺繍のみで勝負し、色も月白という柔らかみのある白にしました。露出も控えめにしたことで、セレナの清楚は引き立たされ、その中にある可憐さと美しさが思わず息飲む気品を生み出しているのです」


なんかすごい話してくれているけど、珍しく早口でちょっと後半聞き取れなかった。けれど、リリアーヌが褒めてくれているのは分かるし、私も《月の姫》のころを思い出して、ちょっと気分が上がっている。


「ありがとう、リリアーヌ。侍女の方たちも」


だから《月界》で民たちにお礼を言うときを意識しながら、私は柔らかく笑みを浮かべた。すると、リリアーヌたちは顔を一気に赤くさせ、口をパクパクとさせている。


「? 大丈夫、リリアーヌ?」


心配になった私は椅子から立ち上がり、リリアーヌの方へと一歩進んだ。すると、両手を私の方に突き出し、リリアーヌは「待ってください!」と大声でストップをかけた。


「今のセレナは間違いなく、私が持ちうる全てを注ぎ込んだ最高傑作! けれど、けれど……」


リリアーヌは唇をキュッと閉めたかと思うと、吐き出すように声を出した。


「こんなに刺激が強くなるだなんて、思ってませんでした!! 美しすぎます! ダメです、これはダメです。セレナに余計な虫がつく恐れが……っ!!」


突然どうしたんだろうとは思うけど、お世話されるモードと《月の姫》モードに突入している私はリリアーヌの手を包み込み、優しく語りかけた。


「大丈夫だよ、リリアーヌ。ほら、一度落ち着いて。これからパートナーの人とグランド・マギアを楽しむんでしょ? せっかく綺麗にしたのに、もったいないよ」

「せ、セレナ……」

「何か心配してくれてるんだろうけど、先生たちもいるんだから、何も心配ないよ。ほら、もうすぐ入場開始の時刻になるよ。パートナーの人と待ち合わせしてるんでしょ?」


なるべくゆっくりと、呼吸を落ち着かせるようにしながら話すと、リリアーヌは落ち着きを取り戻し、ゆっくりと時計を見上げた。


「あ……」

「入場開始の時刻から30分までは入場時間らしいから、私は少し遅れていくことにするよ。リリアーヌは先にパートナーの人とグランド・マギアを楽しんで」


私は侍女さんたちとリリアーヌを送り出した。


ちなみに、リリアーヌの心配ごとはあまりのセレナの美貌に引き寄せられる男子生徒たちがセレナに言い寄らないかという心配だったのだが、当然セレナはそれに気づくはずもなく。待ち合わせ場所にいたパートナーと共にグランド・マギアの会場に向かったリリアーヌは少しの心配を抱いていた。



さて、リリアーヌを送り出したし、私ももうそろそろしたら行こうかな。みんな大体入場しただろうし。


最後に鏡を見て、首飾りがきちんと付いていることを確認する。もう一種のお守りみたいなものだ。


「向かわれますか?」

「はい。あまり遅いと先生たちも心配するかと思うので。……ファーストダンス、踊ることになってるんです」


私がそう言うと、侍女さんたちは目を丸くして、私に賛辞を送ってくれた。


「お嬢さまは優秀な魔法使いなのですね! 学園の実践魔導演武会で優勝した方がファーストダンスを踊ることになっているとリリアーヌお嬢さまからお聞きしていましたが、才色兼備とはお嬢さまのことですね」

「お嬢さまのお相手の方が羨ましいです。こんなにも美しいお嬢さまと踊ることができるなんて!」


いや、エルヴァレンはちっともそんなこと思ってないですよ。なんかエルヴァレンのことだから、私のこの姿を見ても馬子にも衣装とか言って鼻で笑われそう。


いや、せっかくリリアーヌたちが綺麗にしてくれたんだから、そんなこと言ってきたらダンス踊ってる時にどさくさに紛れて足を踏んでやる。


「それではお嬢さま、グランド・マギアを楽しんできてくださいませ」


侍女さんたちは私に一礼をし、笑みを浮かべて送り出してくれた。


「はい! 楽しんできます!」


私は楽しみだという表情を浮かべ、グランド・マギアの会場に向かった。


コツコツと長い廊下をヒールの音を響かせながら歩いていく。なんだか会場に一歩一歩近づく度に、《月の姫》としての振る舞いが強くなっていく気がする。


けれど、エミリアにも言われたのだ。全力でパーティーを楽しみなさいって。それに私もちょっと本気でやってみようと決めたのだ。


大丈夫。何も緊張することなんてない。


なぜなら、私は《月の姫》なのだから。


グランド・マギアが開催される会場に着くと、私は扉を開けて、スっと姿勢を正して足を踏み出した。



* * *



ミラとエリナは入場開始の時間に合わせてグランド・マギアの会場に向かっていた。ミラはパートナーのリオと、エリナは隣のクラスの男子生徒とパートナーとして会場の中に入っていった。


「セレナはいつ頃来るのかしら」

「もうそろそろ来ると思うわよ。アスラム伯爵令嬢も来ていることだし」


先生たちが準備してくれた料理や飲み物を手に取りながら、二人はまだ来ていないセレナのことを話す。


「一体どんなドレス姿なのかしら。私、とても楽しみなのよね」

「私もそうよ。セレナが自分の容姿に無自覚というわけではないけど、自分が周りからどう見られているかあんまり分かっていないんだもの」


女子からも男子からもセレナは美しい容姿をしていると認識されている。勉強もエルヴァレンに続く成績を残し、魔法では実践魔導演武会で優勝するほどの実力を持つ。


エルヴァレンとファーストダンスを踊るということで一部の貴族令嬢からセレナに向けた妬みや僻みの言葉が聞こえてきたが、それらも結局はセレナの容姿や能力を羨んでのものだとミラもエリナもわかっている。


そして、その妬みや僻みの言葉は一切セレナの元に届かないように、他の誰でもないエルヴァレン自身が牽制のようなものをしていた。


「見て、あの令嬢たち。エルヴァレンに振り向いて欲しくて、きっと時間をかけて着飾ったのね。まあ、エルヴァレン自身が普段の倍以上のキラキラを振り撒いているから、それに負けないようと意識したのかもしれないけど」


飲み物を片手にミラがエルヴァレンに視線を向けながら言う。それに釣られて、エリナもそちらへと視線を向けた。


「ああ、本当ね。同い年か分からなくなるほど、こういう姿を見ると大人びていると感じるわよね。セレナがいるとそんなことないけど」


やはり、エルヴァレンも貴族として生まれたと分かるほど、こういうパーティーでの立ち居振る舞いに無駄がない。そして貴族令嬢に対する接し方にも隙がなく、一人一人のドレス姿を綺麗だと褒めるが、決してそれ以上のことは言わない。


相手に期待を持たせてしまうような、勘違いさせてしまうようなことがないように徹底していると言える。


「そういえば、コラプスはどこに行ったの? 飲み物取ってくるって言って、それっきりよね」


ミラと一緒に入場してきたリオがいないことに気づき、エリナはそう声をかける。すると、ミラはエルヴァレンから少し離れたところを指さした。


「あそこよ」


エリナもそちらに視線を向けると、なんとそこにはレオン殿下にだる絡みをしているリオの姿があった。一応無礼講とはいえ、リオは大物すぎる。


「……さすが、コラプスね」


エリナはそう呟くだけで精一杯だった。


入場開始が行われてから15分が経ち、会場内にもだいぶ人が増えてきた。そろそろセレナも来るだろうと思っていると、また扉が開いた音がした。


ミラもエリナも何気なく扉に視線を向ける。すると、入ってきたのはずっと待っていたセレナだった。


けれど、ミラとエリナはセレナの姿を見て、思わず息を飲んだ。


コツっ、とヒールの音だけが会場内に響く。不思議と会場で聞こえていた話し声が一斉に止んだ気がした。いや、皆がセレナの姿を見て、動きを止めてしまったんだ。


背筋はスラリと伸び、一歩一歩踏み出す度に緩く巻かれた茶色の髪が柔らかく揺れる。僅かに伏せ目になってる水色の瞳からは揺るぎない意志を感じる。


ふわりと舞うドレスの裾は美しく、セレナの美しい顔立ちをさらに美しくさせているメイクは楚々とした雰囲気の中にも僅かな色香を感じさせる。艶やかな唇に目が奪われる。


何よりも、セレナの醸し出している雰囲気に飲まれた。この会場にいる誰よりも気品に溢れ、神々しさすら感じさせる。


令嬢というよりも姫君だと言われた方が納得してしまうほどだ。


ミラとエリナはセレナはアスティエル侯爵令嬢にダンスを教わったと言っていたことを思い出した。そこで礼儀作法やマナーも教わったのかもしれないと思ったが、それにしても付け焼き刃のそれではないと感じてしまった。


教育により身につけたものではなく、生まれながらのものではないかと感じてしまった。


そんなことを考えながら、ミラとエリナはセレナの様子を少し離れているところから見ていた。そして、セレナと目が合うと、ふわりと微笑まれ、その笑みから目が離せなかった。




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