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月界最強の姫は人間界に遊びに行く〜魔法学園で規格外扱いされるが隣の公爵子息にだけ勝てない件〜  作者: おもち
第一章

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第18話 学園生活五年目 ⑤



男子の予選は、なんというか壮絶だった。


先生の「始め」の合図でバラけていた男子たちは近くにいた敵の班の子に襲いかかった。魔法が使えないのだ。当然手段は素手である。


「な、なんだこれ……」


バッジを取られないように身を守りながら、カウンターのように反撃して相手のバッジを狙う。それを避けて、またバッジを狙う。


やっていることは理解できるんだけど、理解できない。素手しかないから、ほぼ殴り合いみたいになってるし。


ほんとになんだこれ。


しかも更に私たちに混乱を与えているのが男子の行動だった。バッジを奪われても班全体で2個以上奪われていなければ試験はまだ終わっていない。当然のように奪い返すのだが……。


「なんかさ、バッジというより、服狙ってない……?」


予選を見ていた私は思わずと言ったように呟いた。それを拾ったエリナが隣で頷いた。


「狙ってるわね。なんなら、バッジを取られた男子は意趣返しのように相手の服を脱がしてやろうと思ってるのかもしれないわ」

「なにやってんの……??」


いや、普通にバッジを狙いなよ。なんでそこで服を狙うの!? これはアリなのかと思い、先生を見てみるが先生は何も言わない。


確かに魔法を使うなと言われただけで、それ以外は禁止されていない。だからバッジを奪い合うときの殴り合いも見逃されているし、身ぐるみを剥がす行為も黙認されている。


「ちょっと男子! ユリウスさまになんてことをしているの!!」


既にバッジを2個以上奪われ、失格となった班は気絶し、その上で下着を残して放り投げられている。なんか可哀想なありさまだ。


しかも異様に平民出身の男子の熱意がすごい。貴族への今まで鬱憤でもぶつけてやろうかと考えているのかと思うほど、執拗に貴族男子を狙っていた。しかも狙っているのはバッジではなく、服である。


「……まあ、時間が過ぎるまでに奪ったバッジを一個以上持っていたら合格なんだろうけど、ここまでする?」


もちろん貴族男子だって黙っていない。必死にバッジより服を守っている。守るものが違いすぎて、本当になんだこれ。


「きゃぁぁぁ、ユリウスさま!!」


しかも、さっきからエルヴァレンが服を脱がされそうになると貴族の女の子たちが手で顔を覆い、チラチラと指の隙間からそれを見ていた。淑女として見ないようにしているみたいだが、丸分かりだ。


淑女の仮面はとっくに剥がれてしまっているよと教えてあげたい。


「エルヴァレンは必死ね。まあ、こんな公衆の面前で服なんて脱がされたくないだろうけど」


ミラはしみじみと呟く。いや、エルヴァレンじゃなくても普通に嫌だと思うよ。


まあ、エルヴァレンはレオン殿下と同室だから、一つは確定で奪われることはない。流石にレオン殿下に手を出す生徒はいないようだし。しかもレオン殿下は他の班からバッジを奪っている。


けれど、エルヴァレンのもう一人の同室の子は既にバッジを奪われている。だからエルヴァレンはこれ以上バッジを奪われないように守りに徹するのだが、普段の彼のキラキラ具合を気に食わないと思っていた男子生徒はそれを晴らすべく、エルヴァレンの服だけを狙っている。


しかも、それに加わっているのは平民出身の男子だけでなく、貴族出身の男子もだ。女の子に優しくするのはいいと思うが、優しくしすぎると男子から恨みを買うらしい。


「何やってるのよ、コラプス!! もっと左よ左!」

「やっておしまいなさいな!!」


いつの間にか女の子たちもエルヴァレンの裸が見たいらしく、服を脱がそうとしている男子たちに指示を飛ばしている。逞しすぎないか??


「なんでそんなにエルヴァレンの裸なんて見たいの? 見たところで何もなくない?」

「まあセレナはそうでも、好きな男の子が相手だったらなんでも見たいものなのよ」

「じゃあ、ミラもコラプスの下着姿見たいの?」

「そっ、そんなことは、ちょっとしか思っていないわよ!!」


思ってるんだ。ちょっとだけど思ってるんだ。


なんか思わぬ所でミラの性癖を知ってしまい、私は気まずくなって視線を男子たちに戻した。


そこでは必死に服を剥がされまいと抵抗しているエルヴァレンの姿があった。しかも今エルヴァレンの服を剥がそうとしているのはリオ・コラプスだった。


「いい加減、服くらい良くない……っ!? ほら、女子たちもユリウス君の下着姿見たいって言ってるし、さ!!」

「冗談じゃ、ない! なんで僕がこんな場所で服を脱がないといけなくなるのかな!? いい加減、鬱陶しいよ!」


力比べみたいなことをしながら、そんな2人の会話が聞こえてきた。


「何やってるのよ、コラプス! やってしまいなさいな!」


反対に私たちがいる見学席からは女の子たちのこんな声が聞こえてくる。


「……私たち、一体何を見せられてるんだろう」


そう呟いてしまった私は悪くない。



そんなこんなで、制限時間の10分が過ぎ、エルヴァレンは何とか服を死守して予選を終えることができた。私たちのほうも通過班は少なかったけれど、男子のほうはさらに少ない2班だけだった。


一つはエルヴァレンたちの班。もう一つがリオちの班だった。


2班は試験が終わるギリギリまで攻防しており、終わった今は肩で息をしながら先生の話を聞いていた。ずっと見ていた私は結局なにがしたかったんだろうと本気で思った。


「なんかお前らの予選、途中から見ていて面白かったな。通過したのはお前たち2班だ。本選出場おめでとう」


それだけ言うと、先生はそそくさのその場から離れた。残ったのは肩で大きく息をするエルヴァレンたちと気絶して伸びている男子たち。


そして見学席から見ていた私たち。


「なにこの状況」


小さく呟いた私の声はなぜか競技場に広く響いた気がした。



* * *




私は今、表彰台の上に立っていた。


「セレナ・エルシア、一位おめでとう」

「ありがとうごさまいます」


先生からの言葉を受け取り、私は頭を下げて感謝を告げる。一年生の頃から夢見ていた一位とは少し違うが、それでも一位になれたのは凄く嬉しい。


「ユリウス・エルヴァレンも一位おめでとう」


私の隣で同じように言葉を贈られるエルヴァレンはとてもにこやかな顔でお礼を告げていた。


お互い一位なのだから、勝負の行方は分からないな。いや、そもそも魔法では勝負しないと決めているけれど。



予選のあと、私たちは本選に進み、個人トーナメントで戦った。一回戦目で負ける気はもちろんなく、狙うは優勝だった。


けれど、5つの班が本選に出場したことで人数は15人。誰か一人がシードとして一回戦目は免除される運びとなった。


それに選ばれたのはなんと私だった。予選での魔法の実力と活躍により、満場一致でシード権を獲得したらしい。


おかげで私はみんなが戦っている一回戦目のときはその戦いを見ていたわけだけど、みんなが二回戦目のときは私は実質まだ一回戦目。負けるつもりはなかったが、シードのくせにこんなものなのかと思われるのもいやだったため、一回戦目は割と飛ばし気味で勝った。


その後、私は順調に勝ち進み、見事優勝したのだった。


ミラやエリナたちと戦ったときは流石に一筋縄とはいかなかったけどね。けれど、私の魔法のほうが結果としては上回り、こうして表彰台の上に立つことになった。


ちなみに男子のほうも白熱した戦いとなっていたが、決勝戦でエルヴァレンがレオン殿下を倒し、見事一位として君臨していた。


個人優勝ということで私たちには《月冠章》と言う優勝章が贈られ、それが胸元で輝いていた。中央に魔法学園の紋章があり、片側には三日月状の円章がある。


光に当たると柔らかくも青白く反射するため、とても目を引くデザインとなっている。一目で優勝章だと分かるものだ。


「―――それにしても、こんな機会なかなかないから、ちゃんとエルヴァレンと戦ってみたかったかも」


昨日も寝る前まで思っていたことだ。本気の魔法勝負はこれを逃すともうないかもしれないが、そもそも男女別のため、どうしようもない。


小さく呟いたつもりだったが、隣にいたエルヴァレンには聞こえてしまったようだ。


「ふうん、そんな風に思ってたんだね、君。でも、思えば君がいつも魔法勝負だけはやらないと子どもの駄々みたい言っていたんだけどね」

「子どもの駄々って。違うし、駄々じゃないし」

「そうかな。でも、魔法で勝負しても僕の勝ちだと思うよ」


どこからそんな自信が出てくるんだ。私の今日の魔法の実力を見ていたはずでしょ。それを見てもなお、自分のほうが上だと思っているわけ??


やれやれ、分かってないね、エルヴァレンは。私はエルヴァレンの身を案じて、魔法勝負をしてこなかったというのに。そんなに言うなら《月の姫》の力を使って、こてんぱにしてあげようか?


「いやいやいや、エルヴァレンの方こそ、私の水と氷に勝てると思ってるんだ? 授業のときはお手本としてだから、手加減してあげてたんだよ?」

「それは僕も同じだよ。筆記でも負けて、魔法でも負けるだなんて可哀想だと思って、あのときはあえて手加減してあげていたんだよ」

「〜〜〜っ、もう! ああ言えばこう言うよね! 今更なのはわかってるけど、魔法勝負してみたい気持ちがあったのは本当! でも、負けるために魔法勝負するわけじゃないし!」


なんで表彰台に上ってまでこんな会話しないといけないんだ。そもそも、あれ独り言だったし。エルヴァレンが変に反応するから!


そう思っていると、案の定アーレン先生に怒られた。


「エルシア、この場で喧嘩はやめとけ」

「うっ、はい。すみません」

「エルヴァレンもだぞ。エルシアに構いすぎるな」

「……なんで僕まで」


そういえば、いつものように言い合いをしてしまったが、ここは表彰台だった。同級生だけじゃなく、お母さんやお父さん、来賓の人たちまで見ている。


なんて場所でくだらないことをしてしまったんだ。しかもアーレン先生にこれが終わらないと来賓の人たちが帰れないとまで言われてしまった。


確かに言われてみると、国王陛下や王妃殿下たちも帰っていない。私たちの言い合いのせいで帰るのが延びてしまったんだ。


申し訳なく思っていると、アーレン先生がこんなことを聞いてきた。


「そういえば、二人は卒業後、どうしたいんだ?」

「僕は騎士団に入ります」


エルヴァレンが迷うことなく告げた。意外、と言うほどでもなかった。


だって、勉強もできるし、魔法もできる。剣は知らないけど、運動神経がいいのは予選を見て知っている。


私も、昨年の夏季休暇にやりたいことを見つけられなかったら、騎士になりたいとか宮廷魔法使いになりたいとか言っていたのかな。それとも、どこにも属さないで、討魔士になっていたかも。


けれど、今はやりたいことを見つけている。


「私は、コンコルディア魔導院の受付嬢になりたいです」

「……え?」

「意外だな」


エルヴァレンも先生も私の返答は予想していなかったらしい。まあ、やりたいことを決めたのは昨年だし、このことはお母さんとお父さんを除いてまだ誰にも言っていない。


むしろ、これでエルヴァレンや先生が知っていたら少し怖い。


コンコルディア魔導院の受付嬢。コンコルディア魔導院は依頼人からの依頼を受け取り、その依頼を調査して、討魔士に回すところだ。他にも騎士団や宮廷魔法使いと合同で調査を行うこともある。


依頼を受け取り、討魔士に回すということで多くの知識を必要とされ、現地調査を行うことから魔法の実力も必要とされる。文武両道を極めたものがコンコルディア魔導院の一人として働けるのだ。


そしてコンコルディア魔導院の窓口・受付にいる人のことを受付嬢と言う。


人と関わることが好きで、身近で人と関われる受付嬢は私にとって最高の職場と言える。ルオルの言葉があったからこそ、私はコンコルディアの受付嬢を目指すことにしたのだ。


「……そんなに勉強も魔法も頑張って、受付になりたいの?」

「そうだよ。と言っても、決めたのは昨年の夏季休暇だけどね。エルヴァレンに勝ちたいがために勉強は頑張ってたから問題なかったし、魔法の方もコンコルディア魔導院を目指す上では支障なさそうだったから」


私がそう言うと、そう、と簡素な言葉だけが返ってきた。え、聞いてきたのエルヴァレンだよね? 興味ないならなんで聞いてきた?


「エルシアは受付嬢か。いいんじゃないか? まあとにかく、実を言うと学校から優勝した二人に推薦状を出すようにと言われていてな。エルシアの進路なんていま聞いたから、爆速で他の先生が作ってきたんだが」


そう言って、先生は私たちに紙を渡した。紙に目を通すと、先程私が言ったコンコルディア魔導院への推薦状が書かれていた。先生、仕事早くないですか?


それはともかく。なんとコンコルディア魔導院への推薦状を貰った。実践魔導演武会で優秀な成績を残すと、希望する進路への推薦状を貰えると話には聞いていたが、こうして受け取ると嬉しい気持ちが大きい。


エルヴァレンのほうも目を通し終わったようだ。なんか表情が全然変わらないから分からないけど、多分嬉しいんだと思う。いや、嬉しくないならなんで騎士になりたいとか言ったんだという話になるから、多分嬉しいはずだ。


「6年生になって、進路が変わらなければ進路先から資料を貰って勉強するのも有りだな。まあ勉強を疎かにするなよと言いたいところだが、お前たち二人ならその心配はなさそうだしな」


来年の勉強に早速それが加わった。


私たちは表彰台から降りて、みんなの元へと向かう。来賓の人たちは続々と帰路に着くようで、空席が目立っていた。お父さんとお母さんも帰ったらゆっくりしてもらいたい。


また長期休暇になれば会えるし、今日会えなくてもそんなに悲しくはない。


駆け寄ってきたミラとエリナは私の胸元にある月冠章を見ると、おめでとうと言ってくれた。そして貰った推薦状を見せると、コンコルディア魔導院!? と驚かれた。まあ二人にも話していなかったし。



かくして、私の5年生は瞬く間に過ぎていった。またしてもエルヴァレンには勝てなかったけど、まだ来年がある。


でもそれをエルヴァレンに言ったら、「次も僕が勝つよ」と言われてしまった。


最後の最後は絶対に勝つんだから!




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