第14話 学園生活五年目 ①
5年生となり、私は明日ある実践魔導演武会のせいで寝れずにいた。
「う〜ん、寝れない……」
ゴロゴロと自室で寝返りを打ち、独りごちる。明日に備えて早めに自室に引き上げたため、ミラとエリナはとっくに寝てしまっているだろう。
何か考えれば考えるほど、頭が冴えていく。話し相手として《月界》の白い兎たちやルオルを呼んでも、さらに眠れなくなるだけだと分かっているため、一人ベッドで寝返りを打つ。
「明日で、私の進路が決まってくる……」
実践魔導演武会とは生徒の進路に大きく関わる行事だ。授業参観としてお母さんとお父さんも見に来る。この日のために頑張ってきた生徒も少なくない。
かくいう私も去年の夏季休暇中にやりたいことを見つけたため、今回の実践魔導演武会では目的を持って取り組むことができる。ミラやエリナだってそうだ。
ミラは討魔士になるために、エリナは宮廷魔法使いになるために、その未来の一歩として実践魔導演武会に臨む。
「それにしても、まさか寮の三人一組が明日の予選の班だとは。お互いを知っているから、チームとしてはやりやすいけど」
実践魔導演武会は予選と本選に分かれている。予選ではチーム戦で、本選は予選を勝ち進んだチームのみが出場でき、個人トーナメント戦の魔法バトルだ。
本選の形式は毎年変わらないが、予選だけは毎年形式が変わるため、今年は何があるか分からない。分からないからこそ、私たちは実践魔導演武会を万全で臨むために5年生に進級してから、3人でずっと特訓をしてきた。
実践魔導演武会が近くなると、放課後は競技場や図書館などが5年生でほぼ埋めつくされていた。
魔法の練習や勉強に死に物狂いで取り組んだ。何人か目が血走っていたのは少し怖かった。
けれど、私たちも競技場や図書館に籠り、誰よりも有効な魔法を覚えようと躍起になっていた。んー、まあ正直、私は魔法知らなくても、こうなれ〜みたいな感じで咄嗟に願えば現実となる反則技を持っているのだが、それは些か反則すぎると思い、しっかりと練習もしたし、勉強もした。
元からエルヴァレンに負けたくないと勉強は必死に取り組んでいたおかげで、ミラとエリナにもたくさんの魔法を教えることができた。私が卒業後、進みたい進路も本来なら学園で魔法も勉強も超優秀じゃないと難しいのだが、エルヴァレンへの対抗意識により、4年生の夏季休暇に進路を決めても問題なく進めそうではあった。
それでも、この実践魔導演武会は自分の実力を示す最高の機会だし、ミラとエリナと頑張ってきた証を見せたいとも思う。
お母さんやお父さんだけでなく、多くの来賓が明日は来る。ハスフェル王国の国王陛下や王妃殿下、王国の騎士団総長、筆頭宮廷魔法使い、各貴族の重鎮などなど、多くの偉い人が私たちを見にやって来るのだ。
この実践魔導演武会は自分を売り込む絶好の機会。そう、先生たちは言っていた。
「……なら、本気で売り込まないとね」
見に来るであろう筆頭宮廷魔法使いが思わず勧誘してしまうくらい、私の力を示してやる。進みたい進路は宮廷魔法使いじゃないから、勧誘されても断るけど。
「でも、実践魔導演武会って、男女別なんだよねぇ」
結局、私とエルヴァレンは本気で魔法勝負をすることは学園ではないのかもしれない。授業や試験での魔法勝負と言っても、エルヴァレン相手の実戦授業は今のところ数回のみ。
しかもそれはお互い本気ではなく、どっちかと言うとクラスにお手本のようなものを示す模擬実戦のようなものだった。
先生がお手本をやればいいのに、上級生や下級生も含めて一番優秀な魔法使いと言える炎を操るエルヴァレンと、希少な氷属性まで操り、唯一エルヴァレンに対抗できるとされる私がよく模擬試合のようなものをしていた。
お互い淡々と魔法をぶつけ合うが、勝敗をつけるような模擬試合ではなく、こんな魔法の戦い方があるよとなぜか私たちが教えてあげるような感じで見せていたのだ。先生がお手本を見せればいいのに、私とエルヴァレンの魔法を見るとお前たちが適任だと丸投げされてしまったのだ。
だから私はエルヴァレンが人間の中でもとても強い魔法使いだということを知っているし、悔しいことにその強さは彼の弛まぬ努力の末に編み出されたものだということも知っている。
だって、私は《月の姫》だから、人間が保有できるはずのない莫大な魔力量を持っていても制御はできるけど、彼は生粋の人間だ。
人間界の中で彼の魔力量は間違いなく上位を誇る。それをあの歳で完璧に制御しているというのだから、彼の努力は嫌でもわかる。それに4年生の夏季休暇中に湖に落ちた私の服を繊細な魔力操作であっという間に乾かしてくれたのだ。
相変わらず、筆記試験で勝てたこともないし、その度に『また2位だったんだね。僕の勝ち』などと鼻で笑われるが、私はエルヴァレンの努力を否定するつもりはこれっぽっちもない。
まあ、あの性格は直した方がいいと思うけどね。あれで女の子たちが目をハートにして寄っていくんだから、不思議で仕方がない。
どんな女の子に対しても平等で公平に扱う。それが彼女たちにとっては最高の紳士に見えているのかもしれないが。
「こんな機会じゃなきゃ、本気での魔法勝負はないと思ったんだけどなぁ」
実践魔導演武会は男女別だと言うのだから仕方がない。それに魔法での勝負はズルみたいで私の方がしないとエルヴァレンに言い続けてきたのだ。
ここで今更魔法で勝っても、なんかズルした気がしてなんかやだ。ここまで来たんだから、魔法じゃなく、純粋に勉強で勝ちたい。魔法学園の生徒だけれども。
「……結構勉強しているつもりなのに、エルヴァレンに届くにはまだ足りないのか」
《月の姫》も頭は良いはずなのに。確かに、何百年も世界を見守ってきただけで、頭を使う場面なんてなかったが、元の素質は充分あるはずだ。
「エルヴァレンの努力は人をも超える、か……」
いつだったか、他のクラスメイトが張り出された試験結果を見て、『やっぱり、天才は何しても天才だな。羨ましいぜ、努力しなくとも1位を取れるなんて』と言っていた。幸いにも、あの場にエルヴァレンはいなかったが、私はそのセリフが聞き捨てならなかった。
『努力をしていない……? エルヴァレンはここにいる誰よりも努力家だよ。それは隣でずっと見てきた私が誰よりも知っているから。彼は努力の天才なんだよ。じゃなきゃ、ずっと首位を守ることなんてできない』
思わず言ってしまっだが、後悔はしていなかった。いや、ミラやエリナ、リオにレオン殿下までにも揶揄われたのだから、少し後悔している。
けれど、それ以上に彼らの発言はエルヴァレンの今までを侮辱しているようで、許せなかった。確かにエルヴァレンは天才かもしれないけど、それを上回るほどに彼は努力している。
それは一年生の頃から隣で見てきた私が誰よりも知っているのだから。
それをミラたちに言うと、なぜか微笑ましい視線を送られた。
『なんだかんだ言って、エルヴァレンのことはセレナが一番よく知っているということね』
いや、それは何だか違う気がしたけど。
とにかく、そんな努力の天才であるエルヴァレンと面と向かって勝負できるのは実践魔導演武会だけだと思ったから、少し勿体ないと思ってしまったのだ。
「あーもう、これ以上考えてたらほんとに眠れなくなっちゃう。目でも閉じてたら眠くなるよね……?」
遅くまで起きていると明日に支障が出るかもしれない。ミラとエリナの足を引っ張りたくないし、私は目を閉じて眠ることに専念した。
気がついたら、爆睡していたみたいだけど。
* * *
頑張って寝たおかげで、私はいつものように目覚めのいい朝を迎えることができた。制服を着て、首飾りをしっかり付ける。
共有スペースに行くと、ミラとエリナも起きて準備していた。
「おはよう」
二人に声をかけると、ミラとエリナも「おはよう、セレナ」と返してくれた。
「セレナは髪、どうするの?」
長い金髪を一つ結びにしていたエリナに問われる。ミラは肩より少し長いくらいなので、いつもみたいに櫛で梳かして終わりのようだ。
「私もエリナみたいに髪結ぼうかな。邪魔にならないように」
「あら、それならハーフアップにしちゃえば? 可愛いし、軽く結ばれてるから動くのに支障はないはずよ」
鏡の前に行き、櫛で髪を梳かしていると、ミラにそう言われた。いいと思うが、実践魔導演武会に可愛さは必要なのか?
「いいと思うわ。一つに結んじゃうのもいいけど、セレナの髪、せっかく綺麗なんだし。それに、セレナが首元を晒したら騒ぎになりそう」
「あー、確かに。ここぞと言う時まではあまり首元を晒す髪型はしない方が良さそうね」
どうやらミラが髪を結んでくれるみたいで持っていた櫛を奪われたが、聞こえてきた二人の会話に本気で首を傾げる。なんで私が首元を晒したくらいで騒ぎになるというのだ。
まあ、好き好んで首元は晒したりしないが、二人の言い方だと何か良くないことが起きるような言い方だ。怖すぎる。
「私、これから髪結ばない方がいいの……?」
「そんなことはないわよ。ただ、セレナは自分の容姿に少し無頓着だから、心配なだけ」
「そうそう、エリナの言う通りよ。ほら、さっさと準備終えて、競技場に向かうわよ。セレナは髪結ぶから前向いててね。朝ごはんも食べないといけないし」
話は切り上げられ、私は話が見えないまま、ミラに髪を結んでもらった。手先が器用なミラはあっという間に私の髪を結び終えた。
「ありがとう、ミラ」
「全然いいわよ。エリナは準備終わった?」
前髪を直しつつ、制服の襟元やスカートにシワがないかなどを確認していると、エリナも準備が終わったようで私たちは最終確認として今まで勉強してきた魔法を見直すことにした。
「予選がどんな試験内容になるか分からないけれど、本選に進まないと始まらないわ」
「そうよね。でも、毎年予選の内容が違うんじゃ、対策の立てようがないわ」
ミラとエリナは魔法の復習をしつつ、予選の試験内容を考えているようだった。私も教科書を読み直しながら、それに耳を貸す。
「何か共通点とかあれば、また変わってくるんだけど……」
「三人一組というのも何か理由があるのかしら……?」
二人は頭を悩ませて、予選突破の鍵を探しているようだ。けれど、私は正直あまり考えても仕方がないんじゃないかと思っていた。
予選、本選と2回に分けて行われるのは人数が多すぎるからというのが理由の一つとして挙げられると思う。だって、5年生は150人もいるのだから。
けれど、それだけじゃなくて先生たちは私たちの咄嗟の判断力や思考力を試そうとしているのではないかと考えていた。
予期せぬ自体に遭遇しても、冷静に対処できるかどうか。
予選の試験内容が毎年変わるのは生徒に対策させない為で、臨機応変さを試したいのではないかとずっと考えていたのだ。
けれど、ミラとエリナがああやって考えているところにわざわざ水を刺すようなことはしたくないし、私みたいに考えてしまわないで模索し続けることも大切だと感じているため、私は敢えて2人にはこの考えを話していなかった。
まあそれと、人間はこういうのが好きそうだと勝手に予想しているからでもある。
だてに《月界》から何百、何千年も見守っていない。人間はこういう楽しいことが好きなのだと見ていて知っているのだ。
かくいう私も、こういう楽しいことは好きなのだけれど。
「―――よし、そろそろ移動する時間ね」
そんなことを考えているうちに事前に決めていた移動時間になったみたいだ。ミラがいち早くそれに気づき、私とエリナはその言葉で顔を上げた。
「三人で協力して、絶対に本選に進むわよ!」
「もちろん! 本選に進んでからが本番なんだから!」
そう意気込む二人に私も声をかける。
「今まであんなに頑張ってきたんだし、いつも通り頑張ろう。私たち三人なら、絶対大丈夫だよ」
私たちは拳を付き合わせ、えいえいおー! と円陣を組んだ。
―――さあ、実践魔導演武会の始まりだ。
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