第11話 学園生活四年目 ①
三年生は飛ばしで、一気に四年生になります。
4年生となった。私たちは夏の長期休暇の時期、多くの生徒が実家へと帰省する。当然、私もそのひとりだ。
校門前では使い魔を召喚し、次々と王の島から離れていく姿が目に入る。
「トゥアラニクス」
私も使い魔召喚の詠唱をすると、ポンっと音を立てて私の使い魔であるルオルが現れた。ちなみに、ルオルの意味は《月界》だと月の巡りに寄り添うものという意味が込められている。
『セレナさま』
「ルオル、元気にしてた?」
『はい。その荷物ということは家にお帰りになるのですね』
「うん。だから乗せて欲しい」
『お易い御用です』
ルオルは私が乗れるくらい体を大きくする。初めの頃はルオルを召喚すると、物珍しさからみんな注視していたが、今では慣れたのかそこまで注目されることはなくなった。
先にルオルの背中に荷物を乗せてもらう。それに続いて、私もルオルの背中に乗ろうとすると、「きゃぁぁぁ!」という黄色い悲鳴が後ろから聞こえてきた。
私はそれを聞いて、タイミングを間違えたと心底思った。この悲鳴の原因は既にわかっている。
なにせ、長期休暇に入る度にこれなのだから、嫌でも覚えてしまうというものだ。
「ユリウスさまぁ! 是非とも休暇中は遊びに来てくださいまし! いつでも歓迎いたしますわ」
「あら、私の家の方が盛大なおもてなしをさせていただきますわ!」
「ユリウスさま、今日も素敵ですわ!」
きゃあきゃあっと楽しそうにエルヴァレンを取り巻く令嬢たち。それを笑顔で受け入れるエルヴァレンはとっくに私の中で女の子が大好きな人間として認定されている。いくら公平に扱っていたとしても、これは言い逃れができないだろう。
「こうなると思ったから、寮でミラとエリナに先に行くって言ってきたのに」
話しかけられる前にさっさと行ってしまおうと思い直し、ルオルの背中に手を付く。あとは飛び乗るだけというところで、後ろから知っている声がかかった。
「あれ、もう行くんだ。今回のテストも僕の勝ちだったね」
その瞬間、令嬢たちの視線は一気にこちらを向いた。確かに、私は令嬢たちと仲良くなった。親友と呼べるほど仲の良いエミリアだっている。
しかしそれは同じクラス、学年の令嬢たちの話だ。ここには別の学年の令嬢たちも多くいる。当然、私を知らない彼女たちは恋敵として私を鋭く見ていた。
全くもって、勘違いである。
「いちいちそんなこと言われなくても分かってるから! それに、まだ時間はあるし!」
「そうは言っても、今のところテストでは僕に及ばず2位じゃないか。でも2位も素晴らしいよね。それに魔法学園なんだから、いい加減テストだけじゃなくて魔法勝負もしない? テストでも魔法でも負けたとなれば、君も少しは落ち着くでしょ」
「なんで私が魔法でも負ける前提なの!!」
ほら、やっぱりエルヴァレンの言葉に言い返してしまい、更に令嬢たちからの視線は痛くなる。私のクラスの令嬢たちやエミリアたちはなんか哀れみの目を私に向けてくるけど。
「だって君、負けるのが分かっているから魔法での勝負はしないんでしょ?」
「違うもん! むしろエルヴァレンのためだし!」
私が本気でやったら、エルヴァレンなんてけちょんけちょんだ! 《月の姫》の力で再起不能にしてやることもできるんだから!
それなのに、エルヴァレンは呆れたように肩を竦めた。
それに苛立って、私は地団駄を踏みたくなる。
「くぅぅぅっ、その綺麗な顔にデコピンしてやる!」
苦し紛れにそう言うと、哀れみの目を向けていたエミリアが突如目をくわっとさせて、私に言ってきた。
「それは許しませんわ! ユリウスさまの綺麗な顔に傷がついてしまいます!」
「ちょっとエミリア!? 私の味方じゃないの?」
「セレナの味方でもありますが、ユリウスさまの味方でもありますの。というか、ユリウスさまが傷つけられるなんて見過ごすこと、私がするわけないでしょう」
なんてことだ。味方だと思っていたのに、エミリアはエルヴァレン側だった。分かってはいたけど。
そう思っていると、荷物を片付け終えたのか、ミラとエリナがやってきた。
「またやってるのね、セレナ。なんだか校門が騒がしいと思って来てみれば案の定、セレナがいたわ」
「本当にね。 セレナとエルヴァレンと令嬢たち。相変わらずこの三構造はすごいわね」
「ひ、人を問題児みたいにぃ……」
思わずミラとエリナに抱きつくと、二人はよしよしと慰めてくれた。
「うちの子をあまりいじめないでくださいよ。セレナは箱入りなんだから」
「エルヴァレンや令嬢たちと違って、駆け引きなんて知らないんですよ、この子」
待って。なんか思ってたのと違う。
「……はぁ、そうだったね。それを見落としてた僕が悪かった」
なんで全面的に私が哀れみの目を向けられることになるんだ。エルヴァレンのせいなのに!
私は納得が行かず、むすーっとする。すると、エルヴァレンが近づいてきて、思わず身構える。その様子にミラとエリナは苦笑いして後ろで見守っている。
「まあ、あまりここで騒ぎすぎるのも良くないしね。ここら辺でお暇させてもらうよ」
そう言うと、エルヴァレンは私のおでこにデコピンしてきた。
「いたっ……くはないけど、なんでデコピンされたの!? ちょっと、私もデコピンするからおでこ出してよ!」
私から離れていくエルヴァレンにそう声をかけるも、令嬢たちに囲まれて私は彼に近づけなくなった。
「なんで私だけデコピンされたの? くぅぅぅ、こうなったら休暇が終わって油断している隙にやり返してやるんだから」
手をぎゅっと握りしめ、私はそう決意をする。けれど、ミラとエリナにはやめといた方がいいと言われてしまった。なんで?
「エルヴァレンのあれは、素直になれない年頃特有のやつというか」
「そうそう。セレナが分からくても仕方がないやつだから。というか、私たちから見ても、エルヴァレンのあれは子どもっぽいというか。とにかく、やり返すのはやめといた方がいいわ」
二人揃って嗜まれてしまえば、私は仕方がなく口を閉じる。次のテストでは負けないんだから!
それはそうと、ミラは今年もリオと一緒に帰省するんだろうか。なんとミラとリオは家の方向が一緒らしく、それを知ったミラはリオと共に実家に帰省しているのだ。
「ミラは今年もコラプスと?」
「そうなの。もうすぐリオ君も来るはずだから、ここで待ってるのよ」
「告白しちゃえばいいのに。あんなにグイグイアピールしてるのに、勿体ないよ」
そう言うと、ミラはぽぽぽと顔を赤らめた。恋する乙女を体現している。
「ま、まだいいの! 私のことより、エリナとセレナはどうなのよ。好きな人いないの?」
突然始まった恋バナで、是非とも話をしていたいが、ルオルを待たせっぱなしなのは申し訳ない。私はここで2人に帰ることを告げた。
「私は好きな人いないよ。ところで、そろそろ家に帰ろうと思うんだ。ルオルのこともずっと待たせているし」
そう言うと、ミラとエリナは快く頷いてくれた。
「わかったわ。でも、この話は学園帰ってきてからたくさんするわよ!」
「私とセレナはミラと違って、そんなに話すこともないと思うけれど」
「そうそう。ミラの話は気になるけど」
エリナと目を合わせ、うんうんと頷く。残念ながら、話のネタになるようなものは何もないのだ。
ここで私はルオルの背中に飛び乗り、2人に手を振った。
「それじゃあ、ばいばい! また休暇明けに」
「また会いましょう、セレナ」
「風邪ひかないようにね」
エリナのお母さんみたいな発言には苦笑いしつつ、私はルオルに高度をあげるように伝える。途中、エルヴァレンと目が合ったが、私はべーっと舌を出して、前を向いた。
《月界》でこんなことをしたら、みんなびっくりするだろうな。というか、《月界》に帰ったら前の私と変わりすぎて、それこそびっくりするかも。
ルオルの背中に乗った私は風を受けながら、王の島《アルク=レグナ》から離れていく。ここで私はルオルに認識阻害の魔法をかけた。
やはりルナ=ネヴァルは珍しいらしく、空飛ぶ鯨として過去に家に帰った時は少し騒ぎになったのだ。それ以来、王の島を出るときはこうして認識阻害の魔法をかけている。
『姫さまは相変わらず、ユリウスさんと仲がよろしいのですね』
気持ちの良い空の旅を楽しいんでいるところに、ルオルから信じられない言葉が聞こえてきた。
「仲良くないから! ルオルも見てたでしょ、エルヴァレンとのやり取り。あれをどう見たら仲がいいことになるの」
『とても楽しそうにしていらしたと思ったのですが。ユリウスさまと一緒にいる姫さまは普段よりも生き生きとしているように見えます』
「気のせいだよ、気のせい」
ルオルは私が《月の姫》だと知っている。だからこうして、二人きりの時は私のことを『姫さま』と呼んでくる。名前でいいと言ってるんだけど、頑なに首を縦に振らないんだよね。
それと、ルナ=ネヴァルはやはり《月界》と関わりのある子だった。《月界》にいる子たちと違い、純粋な《月界》の生物という訳ではないが、月の光を浴び続け、《月界》の生物に近い存在となったらしい。
じゃあ他の子たちも月の光を浴び続ければそうなるのかと思ったが、ルオルだけが特別な個体だったみたいだ。そこに私が名付けと称して祝福を与えたから、今のルオルは《月界》の子たちと限りなく同じ存在になっているし、普通の使い魔よりも数段格が上らしい。
私の召喚に応じたのは私が《月の姫》で、居心地が良かったかららしい。そりゃあ、《月界》に近しい存在なら、《月の姫》である私と相性がいいはずだ。
『姫さまは毎日が楽しそうです。その理由の一つとして、やはりユリウスさんが関係していると思いますよ』
「えー、勘違いだよ。だって、テストで負けると人をおちょくるんだよ? エルヴァレンといるより、ミラやエリナたちといる方が楽しいよ」
魔法で勝負しないのは本当に私の親切心だと思って欲しい。だって今の私、たぶん冗談抜きでこの国の誰よりも強い魔法使いだという自信がある。
授業では属性ごとに分かれてのものが多いし、クラス全体でやるとしても授業内で紹介される魔法を使ってみようみたいな感じで派手に魔法を使う機会がないため、魔法での実力は知られていない。
でもまあ、昔と違って魔法での勝負に対してそこまで忌避感はない。なんかエルヴァレンのせいで若干好戦的になりかけている節もある。
ああ、《月の姫》が好戦的な性格になってしまっているとは、どうしたものか。んー、でもそんなバリバリ戦闘しようぜ的な感じじゃなくて、魔法勝負? いいよ、やってやる! みたいな感じだからまだ大丈夫なはず。
『何はともあれ、姫さまが楽しそうなら良かったです』
「そうかなぁ。楽しいのは事実だけど」
私はルオルの背中に横になり、ゆっくりと目を閉じた。
『着いたら起こしますので、寝ていてください』
「いつもありがとう」
エルヴァレンのせいで疲れた私は眠気に抗うことなく、ルオルの背中で惰眠を貪った。
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