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月界最強の姫は人間界に遊びに行く〜魔法学園で規格外扱いされるが隣の公爵子息にだけ勝てない件〜  作者: おもち
第一章

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第10話 学園生活二年目



入学して1年が経ち、2年生になった。1年間色々あったが、未だに私はエルヴァレンに勝てたことがない。悔しいけど、まだ学園生活は5年もある。気長に行こうと最近では思っている。


リリアーヌともたまに話をするくらいには良好な関係を築けている。いつだったか、彼女は領地に雨が降り、土にも元気が戻ってきていると嬉しそうに話してくれた。


私も祝福が上手くいったことに感じて、素直に良かったと言葉を零した。彼女は雨に恵まれたおかげで領地経営のほうは何とかなりそうだと口にしていた。


色々ありつつも、ミラとエリナと楽しく過ごせていると思っている。ちなみに、ミラはリオに未だアピール中だ。


隣のクラスということもあり、頻繁に会うことは無いが、ミラのアタックの強さとエルヴァレンたちの友人ということもあり、私とエリナもリオとはそれなりに交友関係を気づいている。


「おはよう、セレナ。あら、今日は髪を結んでいないのね」

「エミリア、おはよう。なんか今日はもういいかなって思って。使い魔召喚の授業のときも髪を下ろしてたくらいじゃ、邪魔にならないでしょ。それに昨日はたまたま髪を結んだだけだよ」


そしてなんと、私は貴族の令嬢たちと仲良くなっていた。


きっかけは特になかったように思う。強いていえば去年のリリアーヌとの一件以来、少しずつ令嬢たちが声をかけてきてくれたのだ。あの時はびっくりしたけど、嬉しかった気持ちの方が強かった。


その中で特に私はアスティエル侯爵家のエミリアと仲良くなっていた。


入学したての私なら想像もつかないと思う。未だにエルヴァレンを慕っている子たちからは鋭い視線を送られるけど、この一年でそういうものと思われ始めている節があるせいか、貴族令嬢たちと仲良くなることができた。


とても嬉しい誤算である。


そんなこんなで授業が始まり、私は楽しみにしていた使い魔召喚の授業を受ける。今だけはエルヴァレンからばかにされてもスルーできる自信がある。 いや、やっぱりばかにされたら言い返すかも。


「使い魔とは魔力に応じて応えてくれる意思のある存在だ。主従関係はあるものの、使い魔は道具ではない。互いの魔力と在り方を理解し、共に生きる契約者だ」


アーレン先生が黒板に文字を書きながら使い魔召喚について説明していく。もちろん、楽しみにしていた私は真面目に話を聞いている。


「ゆえに、一度契約した使い魔は原則として生涯に一体のみ。これが破棄されるのはどちらかが死ぬときだけだ」


黒板に文字を書き終え、アーレン先生はくるりと向きを変え、私たちの方を向いた。


「それと選ぶのは魔法使い側じゃない。選ぶのは使い魔の側だ。本人の魔力によって召喚に応じる使い魔は変わってくる。呼べるかどうかは才能と言うよりも相性が関わってくるな」


そこでアーレン先生は生徒一人一人に簡易召喚陣を配布した。受け取った私はその簡易召喚陣をじっくりと眺める。


手のひらくらいのサイズしかないのに、これで私の生涯のパートナーとなる使い魔を呼べるようになるとは驚きだ。


使い魔は基本、本人の得意属性と同じ属性の使い魔が召喚される。私の場合は水系統の使い魔が召喚されることになるはずだ。


「召喚に必要な詠唱は『トゥアラニクス』だ。じゃあ得意属性を調べたときみたいに前から順に1人ずつここに来て召喚してみろ」


指名された子は簡易召喚陣を持って前に行く。緊張しているようだが、トップバッターで緊張しないわけがないと思い、頑張れと念を送る。


私の記憶が正しければ、彼は風属性が得意属性だったはずだ。ということは風系統の使い魔が召喚される。一体どんな使い魔が召喚されるのかと私は興味津々で彼を見る。


彼は緊張しながらも、ゆっくりと詠唱をした。


「トゥアラニクス!」


その瞬間、彼が持っていた簡易召喚陣は燃え、代わりに彼の使い魔が召喚された。ちなみに簡易召喚陣が燃えると、きちんと使い魔を召喚できた証である。


「召喚した使い魔はフェル=リィか。魔力や気配を感知するのが得意な種類だな。緑の羽が綺麗な鳥だな。後でしっかり名前を付けてやれ」


アーレン先生の説明通り、彼が召喚した使い魔はフェル=リィと呼ばれる種類で、澄んだ高い鳴き声と鮮やかな緑の羽が特徴の使い魔だ。魔力や気配に敏感で、魔法使いをサポートするのに向いていると言われている。


「あ、ありがとうございます!」


彼は嬉しそうに使い魔を撫でて席に戻って行った。それを見て、つい「いいなぁ」と言葉が零れてしまう。


すると案の定、エルヴァレンが片眉を上げて口を開いた。


「君は、一体どんな使い魔を召喚するんだろうね」

「さあ? 先生も相性って言ってたし。でも、どんな子でも絶対に可愛いに決まってるよ」


自信満々に答えると、エルヴァレンは首を傾げて、私の言葉を繰り返した。


「可愛い……?」

「なに、何もおかしなこと言ってないでしょ。一生涯のパートナーなんだから」

「いや、別におかしいなんて誰も言ってないよ。勝手な被害妄想はやめてくれる?」

「エルヴァレンが変な反応するからでしょ!」


次々と召喚されていく使い魔たちを見て、やっぱり可愛いじゃんと思う。それに加えて、エルヴァレンが召喚する使い魔はエルヴァレンに似ないで可愛い子がいいと勝手に思う。


エルヴァレンは炎が得意属性だから、炎を纏った使い魔が召喚されるんだろうけど、はてさて一体どんな子なのか。本当に、エルヴァレンに似ない使い魔であって欲しいと思う。


決して口には出さなかったはずなのに、なぜか私の考えていることはエルヴァレンにはバレ、びよーんと頬を引っ張られた。


「へ、ひゃにするの!」

「いや、馬鹿にされてる気配がしたから、つい」


彼は私の頬を引っ張ると、そのまま手を離した。伸びていた頬を元に戻り、思わずそこの部分を手でさすってみる。


の、伸びてないよね? 片頬だけ伸びるとかさすがに嫌。


そう思っていると、エルヴァレンは呆れたように口を開く。


「伸びてないよ。というか、一応女の子相手にそんな本気で引っ張んないよ。いくら相手が君だとしてもね」

「……なんでだろ、なんかすごく素直に受け取れない。―――今までの行いのせいかな?」


ボソリと呟くと、彼はとてもいい笑顔をした。


「え? 本気で引っ張ってほしいって? 僕との勝負にも負けているのに、そんな癖まで持ってたの?」

「ちょっと、人を変な癖持ちにしないでよ」


いくらなんでも頬を引っ張られて喜ぶ趣味はない。流石に《月界》でもなかったし、人間界に降り立ってもそんな趣味は持ち合わせていない。


ちょっと不貞腐れながらも、みんなの使い魔召喚を見ていく。ミラは炎属性のカラド=バルという炎を纏った大きめの猫みたいな使い魔で、エリナは風属性のルーエンという豹のようなスラリとした体躯を持つ使い魔だった。


2人とも可愛いし、かっこいい使い魔で、2人とも猫に由来する使い魔であるからか、仕草が猫に近い。


エミリアも炎属性で、ティルザという猫のような使い魔だった。ただ、ミラの使い魔のように炎を纏っている訳ではなく、溶岩地域に住むということで熱さに強い黒い毛並みをしていた。


レオン殿下はゼルディアという雷を纏う鷲のような使い魔を召喚した。召喚した途端、教室の天井を大きく旋回したかと思うと、レオン殿下の肩に着地した。


使い魔は大きさを自由に変えられるため、今ではレオン殿下の肩に乗るくらいのサイズとなっている。


「次、エルヴァレン。前に出てきて召喚しろ」

「はい」


そんなこんなで隣のエルヴァレンの番となった。当然のように貴族令嬢の視線を掻っ攫っていく彼は迷いのない足取りでアーレン先生の前まで行く。


彼が召喚する使い魔は一体どんな子なのか。再びの疑問を浮かべ、私は成り行きを見守る。


「―――トゥアラニクス」


彼がそう詠唱すると、簡易召喚陣は燃え上がり、同時に彼の使い魔が召喚された。


彼の得意属性が分かったときと同じくらい、炎が燃え上がり、熱気が伝わってくる。


「ほう、イグナ・フェンか。炎の狼とは、これまた強い使い魔だな」


エルヴァレンが召喚した使い魔はイグナ・フェンという炎を纏いし狼だった。炎属性の使い魔の中でもスピードと破壊力があり、戦闘においては魔法使いの相棒となる使い魔だ。


しかも、イグナ・フェンはとても賢いことで有名らしい。だからこそ、戦闘時には二手に分かれて敵を追い詰めていく戦法も取れるという。


相性の善し悪しで使い魔召喚は決まる。この場合、イグナ・フェンはエルヴァレンの魔法使いとしての強さを選んだのか、それとも賢さを選んだのか。


どちらにしても、私から見てもエルヴァレンとイグナ・フェンは良き相棒となるように見える。


まあ、イグナ・フェンがエルヴァレンの賢さを見抜いての召喚だったら、なんかまた負けた気がしなくもないけど。


そんなことを思いつつ、私もアーレン先生に呼ばれたので簡易召喚陣を持って先生のところまで行く。得意属性のときはエルヴァレンとすれ違い、足を僅かに止めてしまったが、今は使い魔召喚が楽しみすぎて、ちょっと視線が合っただけですぐに足を動かしていた。


アーレン先生の前に行き、私は高ぶる気持ちを抑えるために静かに深呼吸をする。


「自分のタイミングで使い魔を召喚しろ」


先生にそう言われ、私は今だと思うと、詠唱をした。


「トゥアラニクス!」


簡易召喚陣は燃え、私の前には召喚した使い魔が現れた。


「わあ!」

「なっ……!?」


使い魔を見た瞬間、私は喜びの声を上げたが、なぜか先生は驚きの声を上げていた。なんで?


「かわいいっ! 鯨?」


元のサイズはどれくらいの大きさなんだろう。今はこの場所に合わせて、私の両手くらいのサイズでフヨフヨ浮いている。


というか、鯨なんて使い魔いるんだ。教科書には載ってなかった気がするけど。


そう思っていると、アーレン先生は驚愕に染まった顔をしながら私が召喚した使い魔を見て呟いた。


「ルナ=ネヴァル……」


それがこの子の種類なのだろうか。使い魔に両手を差し出すと、そこにちょこんと乗ってきた。かわいい。


「珍しい……というか俺は初めて見たな。いや、そもそも召喚に応じたもの初めてじゃないか?」

「この子ですか?」

「ああ。エルシアが召喚した使い魔はルナ=ネヴァルという種類なんだが、今までどんな魔法使いの召喚にも応じなかったことで知られている。だから召喚に応じて現れたのが未だに信じられない」


へぇ、そうなんだ。珍しい種類の子なんだね、君。なんか僅かに月の気配というか《月界》にいる子たちに近いものを感じたけど、どんな子なんだろう。


「先生、この子は何が得意とかあるんですか?」

「さあ、分からん。使い魔の種類として記録はあるが、召喚に応じた記録がないからな」


なんか投げやりな返答だな。


しかも、先生が珍しいとか言うから、教室内の視線が私とこの子に突き刺さってくる。ルナ=ネヴァルは私の手のひらの上でニコニコしているが、私は若干気まずい。


「なんかエルシアはアレだな。珍しいものを引き当てるのが上手いな。得意属性の氷もそうだし、使い魔もそうだ」

「あ、あはは……」


才能ではなく、相性で決まる使い魔召喚。だからこそ、余計に私とルナ=ネヴァルの相性が良いという裏付けになる。


なんか、本当にエルヴァレンに去年言われた珍獣って言葉が蘇ってきたよ。


教室中から珍しい視線を受けながら、私は自分の席へと戻った。




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