第94話 【逃げ場ゼロの絶対絶望】深淵の魔女も不死王もその配下!? 愚かな罪を悟り平伏する妖精族の完全無条件降伏!
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妖精族の捕獲を完了した大高精度魔道具『妖精ホイホイ』の群れは、怒涛の掃討作戦を終えて静かに深淵の樹海へと帰還した。
サクラの特製魔道具によって完全に全魔法と結界術を封印された妖精たちは、世界樹の里の西側に聳え立つ『白虎の塔』内部へと安全に軟禁された。
長老の中央集落を襲撃した際、反乱を企てるエルフ残党とともに激しく抵抗した妖精族の戦死者はそれなりに多かったらしい。だが、念のため樹海全域に妖精ホイホイを数機残して自動巡回させているので、万が一どこかに逃げ延びた妖精がいたとしても、いずれ一網打尽に捕獲されるはずだ。
そして、今回エルフの不当な奴隷契約から解放された全精霊たちは、心からの歓喜に涙しながら、主たる精霊王レイの鎮座する世界樹のもとへと移り住んでいった。
一方、不干渉を誓った小人族に対しては、その後アキートとデレイズが小人族長老ホビダンとの間で迅速な外交交渉を成立させ、無血で我が国の『属国』として組み込むことに成功した。
アキートは「一切の脅迫も行っていませんよ!」と爽やかに胸を張っていたが、謁見の間で神々や神獣たちが勢揃いしたあの地獄のような光景を直接見せつけられたのだ。ビビり散らかして即座に従属を申し出るのも無理はない。
これにより、世界樹の北西に広がる小人族および妖精族の膨大な領地も、完全に俺の治める樹海王国の圧倒的な支配力と勢力圏の下に入ったのだった。
◇
白虎の塔の内部。厳重に管理された広大な軟禁エリアにて。
一人の男の妖精が、人込みをかき分けて長老フェルリの姿を見つけ、慌ただしい足取りで走り寄っていった。最初に我が国の『巨大妖精ホイホイ』によって吸い込まれた第一集落の長だ。
「長老様ッ! 一体全体どうなっているのですか!? 我々の集落は突如として現れた謎の巨大な飛行物体に一瞬で吸い込まれ……気づけばこんな場所に閉じ込められていました! ここは一体どこなのですか!?」
集落の長が大声を上げると、周囲に集まっていた数百の妖精たちが一斉にざわつき、フェルリと長の方へと視線を向けた。フェルリは深く苦々しい溜め息を漏らし、重く口を開いた。
「……あたしが邪悪なエルフどもに騙され、樹海を治める真の覇者と無謀な戦争をしてしまったのじゃ……」
「な……ッ!? 戦争ですとぁぁっ!?」
長が目を剥いて凄まじい大声を上げた。周りの妖精たちが一瞬で静まり返り、息を呑んで二人の会話に耳を傾け始める。
「そんな重大なこと、我々現場の集落には何の連絡もありませんでしたぞ!?」
「……すまんかった。相手がこれほどまでに規格外の化け物どもだとは、夢にも思わなんだのじゃ……。相手の主力は単なるゴブリンやコボルトだと高をくくり、あたしたちの強力な魔法で少し脅せば、世界樹をエルフどもへ還させられると本気で思い込んでおった……」
すると長は、不信感に満ちた表情で反論した。
「ですが長老! 集落を覆っていた深淵の魔女様の結界も、与えられていた魔道具も突如として一切が使えなくなったのですよ!? 相手が単なるゴブリンやコボルトごときであるはずがありません! 実際に長老の集落から運ばれてきた者たちに話を聞きましたが、我が妖精族の極大魔法が、相手には全く通じなかったと言うではないですかッ!」
「そうじゃ……その通りじゃよ。……皆の者、我が過ちの全てをよく聞いておくれ」
フェルリは集まった大勢の妖精たちに向き直り、震える声で事の経緯を語り始めた。
「始まりは、巨大なオークの軍勢がこの樹海を襲撃したことじゃった。エルフの里がオークどもに占領され、行き場を失ったエルフの残党が我々の集落へ逃げ込んできた。あたしたちはそれを哀れみ、手厚く保護したのじゃ」
長が頷く。
「エルフとは太古からの深い付き合いもありますし、何より世界樹の超希少な素材を手に入れるための重要な太いパイプです。エルフの保護自体は当然の判断だと思いますが……」
「問題は……その『世界樹』についての認識そのものじゃった」
「……? 世界樹は古の昔より、エルフ族が管理し所有する物。何が問題なのか分かりませんが……」
「まあ、最後まで黙って聞くのじゃ」
フェルリは集まった妖精たちの顔を一人一人見つめながら、重重しく言葉を紡いだ。
「あの時、湿原の覇者たる蛇王の勢力、ダークエルフ、そしてコボルトとゴブリンの連合軍がオークの大軍勢を打ち破った……あたしたちは最初、そう思い込んでいた。やがて蛇王とダークエルフは自領へと引き揚げ、残されたのはコボルトやゴブリンの群れ……そして、それら異形の怪物どもを裏で統べる『人間の王』じゃと、エルフから吹き込まれたのじゃ」
「人間の王……ッ!」
長は吐き捨てるように、忌々しげに呟いた。
「長よ、お主のその不快感はよく分かる。あたしもその時は全く同じ思いじゃったからの。『我々の隙を窺って同胞を浚い、領地を勝手に荒らし、草花や魔物を無断で採取する忌々しい人間どもが、言葉巧みに蛇王やダークエルフを言いくらめ、世界樹を不当に奪い取った』……エルフの言葉を鵜呑みにしたあたしたちは、そう信じ切っていたのじゃ。世界樹は我々妖精とエルフが守ってきた聖域。人間などに渡してたまるか、とな」
「その通りです! 人間ごときに世界樹を渡すなど、絶対にあり得ません!」
集まった妖精たちが口々に賛同し、大きく頷いた。だが、フェルリは悲痛な顔で首を横に振った。
「……その前提こそが、致命的な大間違いだったのじゃよ」
「え……? 大間違い……?」
「あたしは世界樹を正当な持ち主であるエルフたちに還させるため、エルフの里に君臨する人間の王のもとへ直接出向いた。そこでそのお方は自らを『樹海の王』と名乗られた」
「樹海の王などと! なんと不遜な人間だ!」
「あたしは激怒し、『世界樹をエルフに還して、人間はさっさと出て行け!』と叩きつけた」
「それは当然の主張でしょう!」
妖精たちが口々に叫ぶ。しかし、フェルリは涙を流しながら叫び返した!
「それがッ! あたしたちの完全な、万死に値する大勘違いだったのじゃよッ!」
そこへ、男の妖精が割り込んできた。
「なるほど、そういう背景ですか! 大丈夫です長老、世界樹は我々妖精とエルフの誇りです! この閉じ込められた空間から何とか逃げ出し、あのお方──『深淵の魔女』様に助けを求めましょう! 魔女様にお願いすれば、人間など一瞬で追い払ってくださいます!」
フェルリは激昂して大喝した!
「話を最後まで聞けと言っておろうがッ!! 我々の『主張』そのものが、最初から根底から間違っていたと言っておるのじゃッ!」
「え……ッ!?」
「世界樹は……誰かの『所有物』などではないのじゃッ!」
「物ではない……? ならば一体何だと言うのです!?」
「お主ら……精霊王様が代替わりされたことを知っておるか?」
妖精たちが首をひねる中、長が答えた。
「気配が変わったのは薄々感じていましたが……それが何か関係あるのですか?」
「新たな精霊王様は……なんと『世界樹』そのものなのじゃッ!!」
「「「せ、世界樹様が精霊王ぉぉぉッ!?!?」」」
全妖精に激震が走った! フェルリは静まり返る群衆へ向けて叫ぶ!
「エルフの里と呼ばれていたあの場所は、元々は世界樹様と精霊たちが平和に暮らす聖域……『世界樹の里』なのじゃ! 新たな精霊王様は『エルフの里』という言葉を激しく忌み嫌っておられる! 今後二度と口にするでないぞ! 我々妖精とエルフは太古の昔、無邪気な精霊たちを力ずくで捕らえ、あの聖域を暴力で奪い取った! そしてエルフどもは長年にわたり、精霊たちを奴隷以下として残酷にしごき倒してきた! 我々妖精族はエルフの側に立ち、その虐殺と奴隷化の手助けをずっとしてきたのじゃッ! そして……新精霊王たる世界樹様は、あのお方──《《樹海の王》》の愛する『妻』となられたのじゃよッ!! 世界樹様自らが樹海の王へ、不当に奪われた『世界樹の里』の奪還と、虐げられた全精霊の解放を依頼されたのだッ!」
そこへ、フェルリの孫であり妖精族将軍のフェアルが歩み寄り、重々しい声で後を継いだ。
「……本当の『悪者』は、我々妖精族だったのだよ。世界樹様と精霊たちから聖域を奪い、長年にわたりエルフと共に精霊たちを虐げ、身勝手な利益のために世界樹様を切り刻んで身体の一部を売り払ってきたのだ……」
「……ッ!」
集落の長は言葉を失い、蒼白になった。男の妖精が必死に叫ぶ。
「だ、だがエルフが主犯でしょう!? 我々が保護していたエルフ残党はどこへ行ったのですか!? 奴らを全員差し出して、樹海の王に許しを請いましょう!」
フェアルは虚ろな目で首を振った。
「保護していたエルフ残党は……一人残らず全滅させられたよ」
「つ……全滅……っ!?」
長が必死に知恵を絞り、冷や汗を流しながら提案する。
「なんとかしてここから脱出し、『深淵の魔女』様に匿っていただきましょう! かつて『闇の王』が率いる100万の大軍勢から我らを救ってくださった魔女様なら、どんな恐ろしい勢力が相手でもなんとかしていただけるはずです!」
しかし、フェアルは苦笑いを浮かべて首を振った。
「……それも絶対に不可能だ。なぜなら、あの伝説の『深淵の魔女』様もまた、樹海の王の『妻』となられているからな。我々を捕獲したこの恐ろしい魔道具も魔女様の作。そして……かつて我々を脅かしたあの『闇の王』すらも、今や樹海の王の忠実な配下に過ぎないのだよ」
「えええぇぇぇぇッ!?!?」
「な、なんてことだ……! そ、それほどの化け物じみた勢力に、我々は戦争を仕掛けたというのか……っ!?」
妖精たちが泡を吹いて倒れそうになる中、フェアルはトドメの一撃を放った。
「さらに言えば……死を統べる『不死王』、世界を司る『四聖獣』すらも樹海の王の配下だ。……そして恐ろしいことに、これほどの神々やレジェンドたちですら、樹海の王が従える全軍勢の『ごく一部』に過ぎないのだよ……」
「「「………………ッ!!!!」」」
白虎の塔の全エリアが、完全なる死の静寂に包まれた。
全員が絶句し、もはや言葉すら出てこない。
精霊王、深淵の魔女、闇の王、不死王、四聖獣──世界の歴史に名を刻むレジェンドの一人でも敵に回せば、妖精族など一瞬で種族ごと絶滅する。
その神々全員を同時に敵に回し、しかもそれが相手の全戦力のほんの「ごく一部」に過ぎないという事実。
もはや想像の限界を超えた絶対的な戦力差。逃げ場など、この世界のどこにも存在しないのだ。
フェアルは俯き、静かに言い放った。
「どこにも逃げ場などない。……それに、自分たちの冒した大罪を省みず、償いもせずに逃げ出してどうするのだ?」
「つ、償うと言っても……一体どうすればいいというのだ……っ!」
長が泣きそうな声で縋り付くと、長老フェルリは静かに両目を閉じた。
「我々は……傷つけ続けてきた精霊たちと世界樹様に、全霊をもって罪を償う必要があるのじゃ」
「償うと言っても……我らには何ができるのです……?」
「それを決めるのは我々ではない。精霊王様と精霊たち、そして……偉大なる『樹海の王』ヒロト様じゃ。我々にできることは唯一つ。ただひたすらに頭を垂れて赦しを請い、正式に配下へ加えていただき、命ある限り与えられた役目を全力でこなしていく……それ以外に、我々の生き残る道など存在せんのじゃよ」
誰一人として、反論する者は存在しなかった。
世界の真実を知り、己の罪と絶望的な戦力差を悟った妖精族は、ただ静かに涙を流し、絶対の覇王ヒロトへ全霊の服従を誓う準備を始めるのであった。
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