第87話 不眠不休の完璧なる労働力!? ダンジョン×アンデッドが創り出す、人件費ゼロの生産革命と無限の産業発展!
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アラント辺境伯との衝撃的な電撃会談を終えた俺は、今後の後始末についてデレイズとアキートの二人へ丸投げすることにした。ガラード王国に対する徹底的な戦後賠償請求の取り決めと具体的な交渉だ。
もちろん内容は全幅の信頼を置く優秀な二人にお任せだ。ガラード王国の国力を完全に削ぎ落としつつ、生かさず殺さずの絶妙な塩梅で吸い上げ続ける方針で行くらしい。
重責を果たした満足感とともにガリア町から本拠地の城へ帰還した俺は、ひとまずリビングのふかふかのソファへ身を投げ出し、優雅に寛いでいたルシーへ声をかけた。
「教えてルシー先生! ちょっとつかぬことを聞くよ」
「ん? なに? どうしたのよ急に」
ルシーは手にしていた紅茶のカップを置き、不思議そうに首を傾げた。
「アンデッドってさ、やっぱり睡眠って要らないの?」
「要らないわよ。寝る必要なんてまったくないわね」
「おお! やっぱり! ということは、当然食事も要らないよね?」
「基本的にはね。飲食も一切不要よ」
「……基本的には?」
俺が不審に思って尋ねると、ルシーは呆れたように自分の胸をポンポンと叩いた。
「だって現に私、あなたと一緒に毎日美味しそうにご飯食べてるし、夜はベッドでぐっすり寝てるでしょ?」
「あれ? そういえばそうだね……?」
「私たち上位のアンデッドは、飲食も睡眠も『娯楽や嗜好として楽しむこと』ができるのよ。でも肉体的な生存条件としては、必要不可欠ではないってことね」
「なるほどー! じゃあ身体を動かす栄養って一体どこから取ってるの?」
「栄養?」
「要するに、肉体を活動させるためのエネルギーのことだよ」
「ああ、それなら魔力よ。大気中に漂う自然の魔力を身体に取り込んで活力に変換しているの」
「じゃあ、大気中に魔力がないと動けなくなるの?」
「基本的には動けなくなるわね」
「……基本的には?」
またしても出てきた言葉に俺が食いつくと、ルシーは指を立てて分かりやすく説明してくれた。
「通常の下級アンデッドは、日中に太陽の光を避けて大気中の魔力を吸収し、夜間に活動するの。でも、ダンジョンの中なら昼夜問わず無限に湧き出てくるでしょ?」
「うんうん、そうだね。一体どういう仕組みになってるの?」
「ダンジョン内は濃度が段違いだから、魔力の吸収速度が桁外れに早いのよ。だからアンデッドたちは、活動しながら同時に魔力を急速回復できちゃうの」
「おおっ!! それってつまり、ダンジョン内なら24時間一秒も寝ないで、食事の休憩すら挟まずに永久に活動できるってことじゃん!?」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「おおお! これはとんでもなく良いことを聞いたぞ!」
ルシーは首を傾げて「何の話をしてるのよ?」と怪訝な顔をした。俺は興奮を抑えきれずに立ち上がり、熱弁を振るった。
「いいかいルシー? 普通の人間や生きている魔物は、24時間連続で働き続けるなんて絶対に不可能だ! 定期的な休憩、長時間の睡眠、栄養補給の食事、それに排泄の小休止まで必要不可欠になる。だけど、ダンジョン内に配置したアンデッドなら……24時間フル稼働で働き続けられるんだよ!」
「まあ、理論上はそうなるわね」
「これって凄まじい大革命だよ! 例えば同じ工房や工場をダンジョン内に作って、人間とアンデッドに同じ製品を作らせるとするじゃないか。人間が健康的に働ける限度が一日8時間だとすれば、アンデッドはなんと3倍の量を一気に生産できるんだよ! 単純計算で生産効率300%だ!」
「確かに……言われてみればそうなるわね」
「ちなみにアンデッドって、休日とか仕事がない時は普段何やってるの?」
「活動休止状態に入ってるわね。じっとしてるだけよ」
「じゃあ、別に休ませなくても身体が壊れたりストレスが溜まったりしないんだよね?」
「全然大丈夫よ。他にやることがないから、ただ活動を一時停止してるだけだし」
俺の脳内で勝利の方程式が完成した。
決定だ! 今後、我が国のダンジョン内に大規模な工場群を建設し、アンデッドたちに膨大な生産活動に従事してもらおう!
何しろ食費もかからなければ、居住用の個室も要らない。もちろん給料も発生しないから、人件費は実質『完全ゼロ』で無限の工業生産が可能になるのだ!
俺はさっそくこの「ダンジョン内アンデッド超効率生産システム」の構想を、サクラ、ヒナ、ルシー、デルガ、デステル、ヴァンスの主要メンバーに熱く語った。
これを聞いたサクラとヒナは、まさに目から鱗が落ちたといった表情で目を見開いた。一方、元国王のデレイズを含むアンデッド四人は「それが何か凄いの?」と言いたげな顔で淡々と聞いていた。
ヒナは頬をふくらませて呟いた。
「うわぁ……話だけ聞くとめちゃくちゃブラックで酷そうな労働環境だけど……本人たちにとって食事も睡眠も本当に必要ないなら、別に平気なのかなぁ? 食べなくても寝なくても平気だし……」
「ヒナだって元を正せばアンデッドみたいなものでしょ?」
俺がからかうように言うと、ヒナはぷくーっと顔を膨らませて猛反発してきた。
「むーっ! 一緒にしないで! 私は美味しいご飯も食べたいし、ふかふかの布団で寝たいよ! しっかり休みも欲しいしーっ!」
「あはは、分かった分かった! ヒナにはちゃんと有給休暇も美味しいご飯も与えるから怒らないでよ」
ヒナの頭を撫でて宥めると、サクラが優しく苦笑した。
「なんだかちょっと可哀想な気もしますけれど、当人たちに何の苦痛も問題もないのであれば、国家の産業として素晴らしい取り組みかもしれませんね」
「そうだね! 本人の意思を確認して、特に食事や睡眠、休憩を望まない個体には、24時間フル稼働で技術や生産に励んでもらおう!」
するとルシーが自信満々に胸を張った。
「下位のアンデッドは味覚そのものが存在しないから、食事なんて与えられても困るだけよ。単純作業や単純錬金なら、24時間働き詰めでも何の文句も出ないわね。それに、上位の技術を持ったアンデッドの中には、邪魔が入らずに一生作業に没頭していたいマッドサイエンティストみたいな奴がいっぱいいるわよ」
デルガも威厳ある声で深く頷いた。
「うむ。職人魂を持ったスペシャリストのアンデッドは、物作りや研究作業そのものがどんな娯楽よりも大好きなのだ。一度作業に取り憑かれると、放置しておくだけで何十年でも休まず素晴らしい傑作を作り続けておるからな」
「ふむふむ! それは重畳、重畳! 最高の職場環境じゃないか!」
今後、我が樹海王国が産み出す工業製品や加工品は、他国の追随を許さないほど圧倒的に価格を下げられる。
あるいは据え置きの価格で市場を独占し、恐ろしいほどの莫大な純利益を叩き出せるのだ。
なんといっても人件費ゼロ、原材料の調達コストもダンジョン素材でゼロなのだから!
その後、商人ギルドの会頭ショー、鍛冶ギルド長ドワスト、錬金術ギルド長グラビスを急遽呼び出し、今後の生産体制の拡充について協議した。
物作りに従事する職人を追加・補充する場合は、デルガ、デステル、ヴァンスに相談し、適性のある優秀なアンデッドを順次現場へ投入することで満場一致の合意を得た。
そんな歴史的な産業革新の激論を交わしながら、みんなで和気藹々と夕食のテーブルを囲む。
ふと周りを見渡すと、ルシー、デルガ、デステル、ヴァンスの四人は、何事もなかったかのように美味そうに極上の肉料理を平らげ、酒を豪快に酌み交わして楽しそうに談笑していた。
(……ん? 飲食も睡眠も要らないって言ってた割に、誰よりも全力で飯と酒を楽しんでないか……?)
何かが盛大に矛盾しているような気がしなくもなかったが、まあみんなが幸せそうだし、良しとしよう!
豪華な食事を終え、俺はベッドへと潜り込んだ。
じっくり体を休めておこう。明日はいよいよ、獣人国の国王ライガンとの重大な首脳会談が待っているのだから──。
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