第76話 美しき真祖ヴァンス参戦! 至高の和食宴会と膨れ上がる最強陣営、そして明かされる魔素食材の極上グルメ!
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「私が最後みたいだな。一体いつまで待てば良いのかな、不死王ルシー」
死神デステルの眷属化が無事に完了し、静寂が戻った室内に、低く甘く響く男の声が通った。
声のした方へ一斉に視線を向けると、いつの間にか窓際に三人の吸血鬼が優雅に佇んでいた。
声を上げた真ん中の男は、まるで西洋のトップモデルを思わせる凄まじい美形だった。正統派のダンディな面立ちに、モデル顔負けの長身痩躯とすらりと伸びた長い脚。
身に纏うのは、暗黒色と革素材で統一された洗練されたスチームパンク風の装いだ。ロークラウンのシルクハットの帯部分にはヴィンテージの丸型ゴーグルが装着されている。ハットの下から覗く真っ直ぐな金髪、額の中央から左目、左頬骨へと伸びる機械仕掛けの真鍮製モノクル。そして何より、吸い込まれそうなブラッディレッドの瞳と通った鼻筋が圧倒的な存在感を放っていた。
裏地がブラッディレッドの革製マントの下には、月白の美しいドレスシャツとスリーピース。ボタンの代わりに無数の革ベルトがあしらわれたブーツと服が、彼の妖艶さをさらに引き立てている。
その左右後方に控え立つ二人もまた、ファッションモデルのような凛々しい佇まいの美女たちだった。
美しくウェディングのかかった金髪に、暗黒色とブラッディレッドの革製ゴスロリドレス。胸元が大胆に開き、露出した柔らかな二の腕には漆黒のオペラグローブ。短すぎるスカートとニーソックスの間からは眩しい太ももが覗き、足元はスタイリッシュな革ブーツで固められている。
ルシーは呆れたように肩をすくめ、くすりと笑った。
「あらあら、ヴァンス、しょうがないわね……焦らして悪かったわ。ヒロトに自己紹介してくださるかしら?」
男──ヴァンスは、ハットのつばに指をかけ、優雅に一礼した。
「失礼した。私は吸血鬼真祖のヴァンスだ。他者との無用な交流を断ち、大陸南部の古城にて静かに過ごしておった。不死王、闇の王、深淵の魔女、そして死神とは古くからの顔馴染みでな。今回は不死王からの誘いを受けて参上した次第だ。……私の配下の中には、人間の生前に名高き為政者であった者も多くいてな。ヒロト殿による眷属化の補正に強い興味がある。どうか私とその配下を、仲間に加えてはいただけないだろうか」
その言葉に、同じ真祖であるヒナがソファーから躍り上がった!
「真祖! 真祖のヴァンスさん! ぜひぜひ仲間になってほしいです! 私、真祖になったはいいけど、真祖固有の能力の使い方を全然知らなくて困ってたの!」
ヴァンスは親しみやすい笑みを浮かべ、ヒナに頷いた。
「あなたが新たに真祖へ至ったという噂は耳にしておりますぞ、ヒナ殿。能力の使い方であれば、喜んで手ほどきいたしましょう」
「よし、それなら決まりだな!」
俺は即座に手をかざし、テイムスキルを発動した。
「『テイム』!」
『──吸血鬼真祖ヴァンスが眷属になりました』
メッセージが流れると同時に、ヴァンスの体に爆発的なオーラが駆け巡った。妻たちも次々とヴァンスへ自己紹介をしていく。
「ふむ……! これは驚いた。確かに全身の力が倍近くまで跳ね上がっている……!」
「でしょー! ヒロトのテイム補正は超強力なんだから!」
サクラが誇らしげに胸を張る。ヴァンスは満足そうに頷くと、後ろの二人を振り返った。
「うむ、悪くないどころか破格だな。……ちなみに後ろに控える二人は吸血鬼の『第二世代』だ。私の配下の中でも特に優秀な子たちゆえ、内政に必要な人材についてはいつでも彼女たちに相談してほしい。戦闘力も極めて高いゆえ、ヒナ殿の護衛兼手足として自由に使ってくれ。……ヒナ殿、彼女たちと同等に動けるよう、後ほど私の城で特訓とまいりましょう」
「はいっ! よろしくお願いします!」
ヒナが元気に返事をすると、二人の美女吸血鬼が凛とした声で一礼した。
「ヴァイラと申します。ヒロト様、ヒナ様、よろしくお願いいたします」
「ヴァールと申します。何なりとお言いつけください」
挨拶を終えると、ヴァンスはハットを深くかぶり直した。
「では、私は一旦古城へ戻るとしよう。必要な時はいつでもお呼びくだされ」
ヴァンスの体がスッと揺らぐと、瞬時に漆黒の霧へと変化した。その霧は窓のわずかな隙間から外へと抜け出し、空中へ飛び出ると無数の小さなコウモリ群となって夜空へ飛んでいってしまった。
……ん? ちょっと待てよ?
ここはダンジョン城だから窓に外へ通じる隙間なんて無いはずだし、そもそもこの城は世界樹の地下深くに建っているはずだ。地上へ続くトンネルを通らずにコウモリで飛んでいけるはずがない。
不思議そうに窓の外を見つめている俺に、サクラがクスクスと笑いかけた。
「あはは! ヒロト、騙されちゃダメよ。ヴァンスは格好つけるのが大好きな『演出家』なの。あれ、実際はただの広域空間転移魔法よ!」
「やっぱり!? おかしいと思ったよ! 幻影か何かだったのか!」
ルシーも楽しそうに同意する。
「ええ、視覚を欺く幻術の一種ね。相変わらず見栄っ張りなんだから」
俺は苦笑しつつも、溜まっていた息を吐き出した。
「よし……! これでようやく、待ちに待った内政人材の調整会議ができるぞ! ヒナ、デルガ、サクラ、デステル、ヴァイラ、ヴァールの5人にアキートを加えて、至急必要な人員の配置を進めてくれ。ヒナは吸血鬼の特訓もあるから、ダンジョン関連の管理を中心に頼むよ」
するとサクラが「はーい!」と元気に手を挙げた。
「ヒロト、私に『ダンジョンサブマスター』の権限を付与してくれれば、ダンジョンの管理や拡張は私が全部代行できるわよ!」
「おおっ! そんな便利な権限設定もできるのか! サクラ、ぜひお願いするよ! それと、ダンジョンマスターの基礎スキルについてヒナがまだ知らないこともあると思うから、一度しっかり教えてやってくれ」
「任せて! ビシバシ教えちゃうわよー!」
「サクラさん、ありがとう! よろしくね!」
ヒナは嬉しそうにサクラに抱きつき、サクラも「よしよし〜」とヒナを撫でまわしている。
その時、ポンと可愛い音がしてブラロロが姿を現した。
「ヒロト様、皆様。大変お待たせいたしました、夕食の準備が完全に整いました!」
「最高のタイミングだ! よし、みんなにも新メンバーを紹介しよう!」
俺は念話を起動し、城内に一斉送信した。
(──幹部全員、至急食堂へ集合!)
◇
広大な食堂には、樹海王国の全幹部たちが一堂に会した。
今夜の夕食会は、新メンバーのお披露目と親交を深めるための大宴会だ。
幹部たちが順番に自己紹介をし、デルガやサクラ、デステルたちが挨拶を交わす中……ふと見ると、さっきコウモリになって格好良く去ったはずのヴァンスが、何事もなかったかのようにちゃっかり席に座って料理を頬張っていた。演出好きにも程があるだろ!
「おおおッ……!? この『寿司』と『天ぷら』という東方の食べ物はなんと美味いのだ……! 職人を我が城に持ち帰りたいほどだぞ!」
ヴァンスがマグロの握りを口にして絶賛すると、サクラが手元の醤油差しを傾けながら笑った。
「ヴァンスの古城は海沿いだから魚は獲れるでしょうけど、マグロやサーモンは無理でしょ! それに一番大事な醤油とワサビがないじゃない!」
「むむむ……確かに。これは定期的にこの城へ食べに来るしかないな!」
サクラは続いて運ばれてきた味噌汁を一口飲み、目を丸くした。
「ねえヒロト、この醤油と味噌、自家製でしょ!? DP交換で手に入る既製品より格段に風味が良くて美味しいわ! やっぱりこの世界で食材から育てて調味料を作ると、素材に微量な『魔素』が含まれるから味が激変するのね!」
「えっ! 食材に魔素が含まれると美味しくなるのか!?」
「そうよ! DP交換の牛肉より、この世界の豊かな魔素を吸った草を食べた牛の方が、絶対に脂の乗りと旨味が凄いのよ!」
すると、厨房から顔を出した料理おばさんが嬉しそうに胸を張った。
「ヒロト様、実はダンジョン牧場で育てている家畜たちが、いつの間にか魔物化しておりましてねぇ。体内に小さな魔石ができていたんです。体に害がないことを確認してそのまま調理しているんですが、旨味が段違いに跳ね上がっているんですよ!」
「そうだったのかー! 俺はてっきり、料理おばさんの料理の腕がさらに上がったのかと思ってたよ」
「ほほほ! もちろん私の腕も爆発的に上がっておりますよ!」
料理おばさんの豪快な笑いに、食堂全体が大きな笑い声に包まれた。
食事が終わると、宴はそのまま賑やかな大飲み会へと突入した。
サクラは昔馴染みだったらしく、龍王リザルドや聖獣カインと肩を組んで「久しぶりじゃのう!」「我の偉大さを語ってやるのじゃ!」と大盛り上がりで酒を汲み交わしている。
ヒナはヴァンス、ヴァイラ、ヴァールの三人に囲まれ、ノートを手に真祖の能力や血の魔法について真剣にメモを取っていた。
そしてルシー、デルガ、デステルの最凶アンデッドトリオは、ドワーフおじさんがこの城で醸造した特選酒の樽を囲んでいた。
「おおおおおッ……!! この『日本酒』という透明な酒は絶品ですぞ! 魂が震える至高の一杯だ!」
「でしょ!? どんどん持たせて! 今日は朝まで飲み明かすわよー!」
ルシーが豪快に杯を干し、デルガとデステルがそれに続いて歓声を上げる。仲間たちが心から楽しそうに笑い合っている姿を見て、俺の胸は温かい満足感で満たされた。
(……ふぅ、俺も一杯いただくか)
中学生のような若い身体に若返っているせいか、どうやらこの世界での俺は酒があまり強くないらしい。ちなみにこの世界では15歳で成人扱いだそうだ。
「酎ハイ一杯で……もう限界だな……」
心地よい酔いと満腹感に包まれながら、俺はソファーでぐっすりと瞼を閉じた。
怒涛のスカウトと建国騒ぎが一段落した。明日からは、新しい仲間たちと共にいよいよ真の国造りが始まる──。
また明日ね……。
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