第70話 【歓喜】爆発的大発展を遂げる樹海王国と、崩壊寸前の愚かな獣人国! 覇王を狙う浅知恵な武闘大会開催!?
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「スパ、そのまま続けてくれ。獣人国の現在の状況についての報告を頼む」
俺が促すと、先ほどまで絶品グルメの話題で大はしゃぎしていたケットシー族のキャル、ウェアウルフ族のウルズ、猿人族のモンタの三長老も慌てて口を慎み、身を乗り出して注目した。
隠密のスパは音もなく一礼し、冷徹なトーンで現状を語り始める。
「はっ。獣人国の領土は深淵の樹海北東部から東部にかけて広大に広がっております。先のオーク軍との苛烈な戦争により、我が国の傘下外であった一般の各集落はほぼ壊滅的な被害を受けました。現在はそれぞれの集落で復興作業を進めている最中となります。……なお、ケットシー、ウェアウルフ、猿人族の各集落におかれましては、戦争前から我が樹海王国の完全なる傘下に入っていたため、全員が無傷であり、平和かつ豊かに暮らしております」
その報告を聞き、ケットシー族長老のキャルがピンとヒゲを揺らし、誇らしげに胸を張った。
「そうだにゃ! どこよりも早くヒロト様の樹海王国の傘下に入った我が一族の決断は、歴史的大正解だったにゃ! 無傷どころの騒ぎじゃないにゃ! 戦前とは比べ物にならないくらい超・快適な天国生活なんだにゃー!」
続いて猿人族の長老モンタも、嬉しそうに白いヒゲを撫でながら深く頷く。
「いかにも、いかにも! 経済の活性化が止まらんのですよ。何より一番金がかかる『軍隊』の維持と運用を、すべて最強誇る樹海王国軍に吸収していただいたお陰で、我が領地の軍事費はなんと完全ゼロ! 浮いた膨大な予算をすべて公共事業や経済活性化の施策に回せるため、国民全員が贅沢三昧ですわい! 樹海王国から次々と流れてくる最新設備や見たこともない極上道具、美味い食材のお陰で、我が民の生活水準は爆発的に向上しております!」
ウェアウルフ族長老のウルズも、ガシガシと頭を掻きながら豪快に笑い飛ばした。
「ガハハハ! 軍費ゼロで贅沢三昧、こんな素晴らしい話が他にあるか! 特にあの温水洗浄便座の『ウォシュレット』とかいう神の道具はヤバいな! どの家庭も喉から手が出るほど欲しがっていて、注文しても3ヶ月待ちという超絶大人気商品だぞ!」
「着心地抜群のアラクネ糸で作られたお洋服も凄いにゃ! 全然破れないし、肌触りがサラサラで気持ち良すぎて、もう以前着ていたゴワゴワの粗悪な服なんて絶対に着られないにゃ!」
「酒も最高に美味いからのう! 国民みんなが買いたい物だらけで金が足りんくらいじゃ! 樹海王国から仕入れた商品は、店に並べた瞬間に飛ぶように売れて一瞬で完売するぞ!」
長老たちの絶賛は止まらない。キャルがピシッと肉球を突き出す。
「まさに、我が一族の歴史上で未だかつてない超・大発展なんだにゃー!」
だが、そこでモンタが少し困ったような表情を浮かべて溜息を吐いた。
「しかし……問題は我が領地が発展しすぎたせいで、その噂を聞きつけた過酷な環境にある本家・獣人国からの不法移民や難民が凄まじい勢いで押し寄せてきていることですわい」
「多いにゃ……毎日毎日、関所に山ほど押し寄せてきて対応に困っているにゃ」
「本当に多すぎるな」
ウルズも苦笑いを浮かべて頷いた。
彼らの話を聞いていた俺は、ふと思いついて巨大席に座るトロル族長老のトロボへ視線を向けた。
「トロボ、確かトロルの領地はオークとの戦いで大幅に人口が減少していたよね? 獣人たちの受け入れは可能かい?」
トロボは太い腕を組み、力強く頷いた。
「おお! もちろん大歓迎で受け入れ可能だぞ! 広い土地なら腐るほど余っているからな!」
「住む建物の大きさの問題もあるだろうからね。巨体な象獣人や熊獣人みたいな大型種族には、トロルの領地に回ってもらったらどうだろう?」
「おお、それは名案かもしれんわい! 象獣人や熊獣人は体が大きくて我が村の家屋では狭すぎたが、トロル族の巨大な家なら余裕で快適に住めるだろうからのう!」
「よし、移民の大型種族はトロル領へ誘導する方向で手配を進めよう」
ウルズたちが納得して頷くと、静かに待機していたスパがチリンと鈴のような声を響かせた。
「え〜……皆様、報告を続けても宜しいでしょうか?」
「あ、ごめんごめん! 続けておくれ」
「ハッ。我が国に避難していたガネーシャ辺境伯の領地につきましても、現在は我が国主導で復興支援を実施中となります。こちらも住民感情を深く考慮し、オーク族は一切派遣せず、器用なコボルト族とゴブリン族の建設部隊を派遣しております。そして……こちらも凄まじい発展の噂を聞きつけ、他の破滅した集落からの難民や人材の流入が止まらない状況となっております」
それを聞いた俺は、すっと目を細めた。
「ふむ……ガネーシャの領地は、一応あちらの『獣人国』の正式な傘下だからね。我が国の莫大な予算を使ってまで、向こうの不法移民たちの面倒を見るつもりはないよ」
不死王ルシーが紫の瞳を妖しく輝かせ、冷艶な笑みを浮かべた。
「ええ、当然ですわね。見返りのない無償の慈善事業など、覇権を握る国家として何の意味もございませんもの」
ヒナも膝の上のライゾウをなでながら、パチリとウィンクする。
「うんうん! よっぽど餓死しそうな可哀想な人が目の前にいるなら助けてあげるけどねー。向こうの領主から正式な頭を下げた支援要請と相応の対価が提示されて初めて、検討してあげるくらいのスタンスで十分だよー!」
ハクがふんっと鼻を鳴らし、美しい金髪を揺らした。
「というか、そもそも獣人国内部の貧困や移民問題でしょ? そっちの無能な国王と政府が自力で解決しなさいよって話よね。下手に手を出すのは重大な内政干渉だわ」
「みんなの言う通りだね。……スパ、ちなみにその放置されている獣人国のトップ──愚かな国王どもの現在の惨状はどうなっているんだい?」
俺が尋ねると、スパは仮面の奥でくすりと嘲笑を漏らした。
「ふふ……では、無能なる獣人国王都の惨状を、念話イメージで会場にお見せいたしましょう」
スパが手をかざすと、再び暗転した空間に王都の豪華絢爛だが重苦しい城の一室が映し出された。
そこに鎮座していたのは、獣人国の国王ライガンだ。
圧倒的な威圧感を放つ雄ライオンの顔に、黄金の豊かなたてがみ。250センチを超える巨体は筋骨隆々で、茶褐色の毛衣に包まれている。全身には精密な装飾が彫り込まれた最高級の高級金属鎧を纏い、威厳たっぷりに王の玉座に深く腰掛けていた。
その左右には、側近たる二人の幹部が控えている。
右手に立つのは、豹獣人の将軍ジャガル。しなやかで精悍な体躯に、黒い斑紋が浮かぶ美しい毛皮を纏い、目にも留まらぬ身のこなしを予感させる鋭い光を宿していた。
左手に立つのは、狐獣人の宰相リキンス。赤錆色の美しい毛皮に身を包み、知性を漂わせる真っ白な高級ローブを羽織った老猾な男だ。
そこへ、重々しい足音とともに一人の怪しげな男が入室してきた。
「クロニス、よくぞ来た! 待っていたぞ」
宰相リキンスが声をかけたのは、羊の獣人クロニスだ。
全身を不気味な黒いローブで包み、こめかみには漆黒の鋭い巻き角が生えている。
「お呼びいただき、ただちに参上いたしました、ライガン陛下」
クロニスが深く頭を下げると、玉座のライガンが重厚な声を響かせた。
「よく来た。単刀直入に言う。……獣人国北部の食糧難がいよいよ限界突破し、深刻化してきた。国が所有する緊急備蓄の食糧に手を付けることなく、この難局を乗り切るための画期的な献策はないか?」
クロニスは口元に薄っすらと怪しい笑みを浮かべた。
「ふむ……まずは、あの深淵の樹海王国へと『食糧支援』を申し出てみてはいかがでしょうか?」
宰相リキンスが即座に苦虫を噛み潰したような顔をする。
「バカな! 先のオーク軍との大戦において、我が国はあいつらからの共闘要請をにべもなく断っておるのだぞ! 今更虫が良すぎる支援要請など、良い返事が返ってくるはずがなかろう!」
「ふふふ、良い返事があればラッキーですし、断られたところで我が国に何の痛手もありませぬよ」
将軍ジャガルが腕を組み、ニヤリと笑う。
「まあ……ダメ元で言ってみる分には害はないか」
「ええ。何より……あの哀れでお人好しな聖獣『カーバンクル』のカインが、なぜか樹海の王の傍らに捕らわれているようですからな。人間の王が支援を拒否したとしても、カインに直接すがりついて同情を誘えば、あいつのことだ、泣きついて何とか食糧を融通してくれるかもしれません」
「なるほど……! あの甘ちゃんぬるま湯のカーバンクルを利用するか! それは十分に可能性があるな!」
リキンスが膝を打った。
クロニスは黒いフードの奥で不気味に目を光らせる。
「樹海王国の内部情報や戦力の欠片でも見えれば御の字……くらいの軽い気持ちで突っ込ませれば良いのです。……そして、我が真の本命は『次の策』にございます」
「ほう……? 申してみよ」
「──【世界武闘大会】の開催にございます!」
「武闘大会だと!?」
ライガンのライオンの瞳がカッと見開かれた。
「左様! 広く周辺諸国へ盛大に告知を出し、各国の腕自慢や強者たちの選手派遣を募るのです! 全国から押し寄せる天文学的な数の観客からの入場料、入国税、さらには街の飲食店、宿泊施設、土産物の爆買いによって、我が国には天幕を突き破るほどの莫大な富が転がり込みます! その圧倒的な資金と利益をもって、北部の食糧問題など一瞬で解決すれば良いのです!」
ジャガルが眉をひそめて尋ねる。
「……だが、そんな急ごしらえの大会に、わざわざ遠くから人が集まるか?」
クロニスは勝ち誇ったように胸を張った。
「くくく……ご安心召されよ。私には、あの伝説の【剣聖アバンニ】様に強いコネと伝達ルートがございます!」
「「なに……ッ!? あの【剣聖アバンニ】だと!!?」」
ライガンとリキンスが同時に目を見張った!
「左様! 人類の最高峰であり、世界最強の一角たる『剣聖アバンニ』が参戦するとなれば、全世界から熱狂的な観客と名だたる強者どもが津波のように押し寄せることは間違いございません!」
ライガンは豪快に玉座の肘掛けをドカンと叩き、獰猛な狂笑を上げた!
「素晴らしい! 完璧な妙案だ! よろしい、ただちにその作戦を進めよ! 樹海から食糧を毟り取り、武闘大会で世界中の富を我が手に集めるのだ!!」
映像はそこでプツリと途切れ、現実の会議室へ戻った。
画面が消えた瞬間、樹海王国の最高幹部たちの間から、呆れ果てたような、そして獰猛な嘲笑がフッと漏れ聞こえたのだった。
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