第68話 【開戦】世界樹と精霊はエルフの所有物!? 愚かな勘違いで攻め込む妖精族と絶対覇王の冷徹なる迎撃決定!
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最高幹部たちが居並ぶ静寂の中、俺は席に腰掛けたまま、影からすべてを見渡す影の隠密・スパへと視線を向けた。
「スパ、周辺勢力の最新状況について報告を頼む」
黒い装束を纏ったスパは無駄のない動作で一歩前へ出ると、その冷徹かつ静かな声で報告を始めた。
「ハッ。深淵の樹海北西部におきまして、小人族および妖精族の領地を確認いたしました。猛威を振るっていたオーク軍との大規模な戦争も落ち着きを見せ、被害を受けた各集落の復興を進めている模様です。また……妖精族の領地には、かつてオーク軍に追われて逃げ延びたエルフの避難民が多数身を寄せております」
「なるほど……オーク軍に追われたエルフたちは、そこに逃げ込んでいたんだね」
俺が頷くと、スパは仮面の奥の瞳を妖しく光らせた。
「はい。彼らの企みと詳細な会話内容につきましては、私の影潜入によって記憶した念話イメージを会場へ再生いたします。皆様、ご覧ください」
スパが細い指先をかざすと、会議室の中央に青白い魔力の光が広がり、立体的な映像と音声が鮮明に浮かび上がった。
そこは深淵の樹海北西部に隠された、幻想的な妖精の集落だった。
「妖精族長老、フェルリ様……! オーク軍の悪夢のような襲撃も、ようやく収まりましたね」
そう胸を撫で下ろすのは、身なりの良いエルフの男だ。
その目の前で空中にフワフワと浮遊しているのが、妖精族の長老フェルリだった。
体長はわずか10センチほど。可憐な少女の姿をしているが、その醸し出す雰囲気には長い年月を生きてきた老練さがある。薄い生地で作られた美しいワンピースを纏い、背中からは繊細な蝶の羽が生えている。サラリと伸びた長い金髪に透き通るような青い目、手には小さな魔導杖を握りしめていた。
「うむ。流石は我が一族に代々伝わる『深淵の魔女』様の結界じゃ。オーク軍の怒涛の猛攻すら、完全にシャットアウトして守り抜いてくれたわい」
フェルリが自慢気に胸を張ると、すぐ横から武骨な男の妖精が飛来した。
「遠い昔、100万もの『闇の王』の軍勢すら攻めあぐねたと伝わる絶対不可侵の結界だからな! オーク軍ごとき雑魚の力では、指一本触れられまいよ」
声を上げたのは妖精族の将軍、フェアルだ。
身長はフェルリと同じく10センチほど。引き締まった黒髪に漆黒の瞳を持ち、背中にはカブトムシのような頑丈な甲殻の羽。全身を黒革の精巧な鎧で固め、身の丈ほどもある小さな槍を鋭く構えている。
「おお、フェアル将軍!」
「おう、エルフさん。元気そうで何よりだね」
「はい! オーク軍の脅威が樹海から消え去り、我らが高貴なるエルフの里へ戻れると思えば、自ずと力も湧いてくるというものです!」
エルフの男が嬉しそうに頷くと、フェアル将軍は槍を肩に担ぎながら不敵に鼻で笑った。
「だがな、報告によると……エルフの里には、オーク軍を全滅させた別の勢力がそのまま居座っているらしいぞ?」
「ほう……。オーク軍は湿原の蛇王軍と、あの忌々しい欠陥種であるダークエルフどもが蹴散らしたと聞き及んでおります。ですが、用が済んだ蛇王軍やダークエルフはとっくに自分たちの領地へ引き上げたはず。残っているのは、大した力もない雑魚勢力に過ぎないでしょう」
「そうか。ならば、現在エルフの里を不法占拠しているのは何者だ?」
「フン、どうせ小汚いコボルトどもでしょうな」
エルフが吐き捨てるように言うと、長老フェルリが小さな杖をチチチと振った。
「いや……風の知らせによると、コボルトやゴブリンを従える『王』を自称する者がおるらしいぞ」
「そう言えば……オーク軍と戦うため、我らにも共闘の誘い状を寄越してきた生意気な奴がいたな」
「なんと……」
「その王の正体は、どうやら『人間』らしいのじゃ」
フェルリが事実を告げると、エルフの男は盛大にハッタリの効いた嘲笑を響かせた。
「ハハハハッ! 人間ごときが王だと!? 笑止千万! 大したことなどあるはずもありませんな!」
フェアル将軍もカブトムシの羽を不快そうに震わせながら同調する。
「なるほどな……ズル賢い人間が蛇王軍とダークエルフを持ち上げ、オーク軍を代わりに倒させてそのまま棚ぼたで居座っているというわけか。いつの時代も人間というのは浅ましく卑怯な生き物だな。どうせまた上手いこと言って、蛇王やダークエルフを言葉巧みに騙しハメたに決まっている!」
エルフの男はぎりっと歯を噛み締め、怒りを露わにした。
「遠い昔から、世界樹は我ら高貴なるエルフの至高の宝! あんな汚らわしい人間の手から一刻も早く取り戻さねばなりません! フェルリ様、もし世界樹奪還の手助けをしてくださるのなら、報酬として『10年分』の世界樹の高級素材を進呈いたしましょう!」
「じ、10年分じゃと……!? ほう……! それは実に魅惑的な提案じゃな。うむ、交渉成立じゃ!」
フェルリ長老は欲深い瞳をキラリと光らせて頷いた。
フェアル将軍が槍を握り直し、殺気を孕んだ笑みを浮かべる。
「婆ちゃん、さっそく全軍を率いてエルフの里へ攻め込むか?」
「いや待て。万が一、蛇王やダークエルフが裏で糸を引いておったら厄介じゃからの。まずは小人族経由で面会を申し込み、王とやらに直接乗り込んで詰問してやろう。交渉が決裂していざとなれば、この儂が極大魔法をぶっ放して全員まとめて吹き飛ばしてやるわい!」
エルフの男は深く頷き、さらに要求を重ねた。
「それと……どのような卑劣な手を使ったかは知りませんが、あの神聖なる精霊たちまでもが人間に捕らわれているとのこと。精霊もまた、エルフの所有物! 精霊王と結んだ古の約定によって定められた絶対の権利なのです! 精霊たちもすべて取り戻したい!」
「精霊王との約定のことなら儂も知っておる。良かろう、それも全部奪い返してやるわい。その代わり、報酬はたんと弾んでいただくぞ?」
「ええ、もちろんでございますとも! 感謝いたします、フェルリ様!」
そこでスパの念話映像がプツリと途切れ、静寂が会議室に戻ってきた。
再生されたあまりにも勝手すぎる会話の内容に、俺の周囲の空気が急速に冷え込んでいく。
「……酷い話だね。世界樹と精霊たちが、まるで自分たちの『物』扱いだ」
俺が呆れ果てて吐き捨てると、ヒナが真っ赤な目を怒らせ、膝の上のライゾウを力任せに抱きしめた。
「なによアイツらーッ! 超むかつくーッ! 妖精もエルフも、みんなまとめてボコボコにやっつけちゃおうよーッ!」
「そうだそうだーッ! 噛み殺してやるぞーッ!」
ライゾウも鋭い牙を剥き出しにしてガウガウと吠え立てる。
普段は静かな精霊王レイが、すっと前に出た。その神聖なる瞳には、静かだが激しい怒りの炎が宿っている。
「世界樹……エルフの物、違う。絶対に、違う」
ハクがレイの肩を優しく抱き寄せながら、氷のように冷たい視線を空間に向けた。
「そうよ、レイ。世界樹はエルフの所有物なんかじゃないわ。レイの大切な『本体』だもの。あんな身の程知らずの羽虫ども、二度と口を聞けないように叩き潰してあげましょう」
「あの生意気なエルフども……今度こそ種族ごと根絶やしにしてやる!」とダークエルフ女王のグレイアが魔力を爆発させれば、「我ら蛇王軍を騙された馬鹿扱いするとは……万死に値する!」と蛇王リザルドも咆哮を上げる。
あまりの侮辱と理不尽な主張に、最高幹部たちが一斉に殺気を爆発させ、豪華な会議室は一瞬にして怒号と激震の嵐に包まれるのだった。
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