第6話 他者の眷属はテイム不能!?襲来するLv.10ゴブリンを神獣ハクが一閃!初勝利と怒涛のレベルアップ!!
「はぁ……ダメだ、もう限界だ。足がまるで丸太みたいに重い……。ちょっと休憩!」
少し前進したところで体力の限界を迎え、俺は近くにあった苔むした大きな岩の上にドサリと腰を下ろした。社畜時代の運動不足に加え、中学生レベルまで縮んだ身体。体力ゲージは早くも真っ赤だ。
(ふふっ、仕方ありませんよ。さっきはあの巨大な魔猪に追いかけられて、死に物狂いで全速力で走ったのですから)
右腕からスルスルと抜け出し、俺の膝の上にちょこんと乗っかったハクが、マリンブルーの瞳を細めてクスリと笑った。
(そうそう! マジで怖かったんだから! あと一歩で踏みつぶされて挽き肉になるところだったんだぞ!)
(フフフ、ヒロト様はリアクションが大きくて可愛らしいですね)
(あ、そうだ……ハクさんって実際どのくらい強いの? さっきの3メートルくらいある巨大イノシシに勝てるかい?)
(あの程度の魔獣ですか? ええ、余裕で勝てますよ。一口で丸呑みか、空間ごと切り裂いて終わりです)
(ええぇええええっ!? だったら助けてよ! 俺、本気で死を覚悟したんだよ!?)
ハクは首を可愛らしく傾げ、どこまでも無邪気な声で返してきた。
(何をお戯れになっているのだろう、と見ていたのです。まさか、あの程度の羽虫のような魔物から全力で逃げ惑うとは夢にも思いませんでしたから)
(いやいや! 俺、レベル1だよ!? 勝てるわけないじゃん!)
(あら、そうでしたね。その時はヒロト様がレベル1だとは存じ上げませんでしたので。……ふふ、次からはちゃんとお守りしますね、ご主人様)
(頼むよ本当に……)
脱力して溜め息をつく。だが、最強の神獣が味方についているという事実は、言葉にしがたい安心感を胸にもたらしてくれた。
(ところでヒロト様。ヒロト様はなぜ、あのような場所で倒れていらっしゃったのですか? 『異世界転移』……という言葉を口にされていましたが)
(んー、ハクは『異世界転移』って知ってるかい?)
(ええ、昔からの伝承や古文書で聞いたことがありますね。この世界とは異なる次元から、異邦人が呼び寄せられる現象のことでしょう?)
(そう! 俺が生きていたのは、魔法も魔物もない『日本』っていう別の世界なんだ。ブラック企業で働きすぎて倒れたら、なぜかあの森で寝ていたんだよ)
(まあ……それはまるで、おとぎ話に出てくる人間の『勇者様』のようですね)
(勇者!? 勇者のことも知ってるの?)
(お酒好きな古い精霊たちから聞いた程度ですが。世界に『魔王』が現れた際、人間たちが最後の手段として異界から召喚するのが『勇者』だと聞いています。魔王を殺すことができる唯一の存在なのだとか)
(ふむふむ……。あ、でも俺は勇者なんかじゃないよ。戦闘スキルもないし)
(知っていますよ。ヒロト様の職業は『魔物使い(テイマー)』なのですから)
(そっか、ハクは『職業』についても詳しいんだね)
(人間や亜人が戦うために得る、魂の型のようなものです。職業に就くことで、本来使えない特別な技やスキルが引き出されるのです。上位の職業へ『転職』や『クラスチェンジ』することも可能だと聞いたことがありますよ)
(上位職! そっちも気になるなぁ……! ちなみに、その『魔王』って今もいるの?)
(ええ。『魔族の国』に君臨し、今も人間たちの国と激しい戦争を続けていますね)
(うへぇ……絶対会いたくないな)
(今のお力で出遭ったら、息を吹きかけられただけで瞬殺されて塵になりますね)
(怖すぎるだろ!!)
ヒヤリとする会話を交わしながら、俺はふと気になっていた疑問をハクにぶつけてみた。
(ハクさん。スライムのスラオや、フォレストリザードのリザ、フライングアイのアイ……こんな最弱の魔物たちを眷属にした理由、わかるかい?)
(ふふ、みんなには内緒ですが……単にヒロト様が寂しがり屋で、最初に出会った魔物を片っ端からテイムしただけでしょう?)
(うっ……正解! 一人でこの森にいるのが怖すぎてさ……。でも、みんなこんな弱小魔物で、俺の眷属になって良かったのかなって)
ハクは優しい笑みを浮かべ、俺の腕に頬をすり寄せた。
(内緒になさる必要なんてありませんよ。スラオたち自身、自分たちがこの『深淵の樹海』の最底辺に位置する『餌』だと痛いほど自覚していましたから。いつ強力な魔物に喰われるか、毎日ビクビクと怯えて生きていたのです。それがヒロト様に名前をもらい、自らの意思を得て、生き生きと輝いている……。あんなに誇らしげなフォレストリザードなんて、私、生まれて初めて見ましたよ。みんな、ヒロト様に心から感謝しているのです)
(そっか……そう言ってもらえると嬉しいな)
(それに、ヒロト様の規格外なスキルのせいで、眷属になっただけでステータスが『2倍』になっているのですから! 喜ばないはずがありません)
(よし! 次はみんなのレベルアップだな! 俺のスキル【眷属経験値UP】で、獲得できる経験値も常時2倍になるみたいだし)
(経験値が2倍!? まあ……なんて恐ろしいスキルでしょう! レベル1の彼らのような最弱種がレベルを上げたらどうなってしまうのか……私、とっても興味がありますわ)
(それに、条件を満たせば『進化』もさせられるみたいなんだ)
(『進化』……! まあ! 私のような伝説種でも、さらなる高みへ進化できるのかしら……?)
(ハクさんなら絶対できるよ! 相当強い敵を倒さないとダメかもしれないけどね)
(ふふっ、決まりですね! 皆でレベルを上げて、立ち塞がる敵をどんどん薙ぎ倒していきましょう!)
ハクとそんな未来の希望に満ちた会話を弾ませていた──その時だった。
──ザザッ、ガサガサッ!!
すぐ横の茂みが激しく揺れ、不快なダニのような気配が迫る。
「ヒロト様ッ!」
ハクが警戒の音声を上げるのと同時に、草むらを押し分けて『それ』が飛び出してきた。
「ギシシシシッ!!」
醜悪な緑色の皮膚。頭部には不気味に生えた二本の短い角。
身長は百四十センチほど、小学生くらいの小柄な体躯。日本の寺院にある十二神将の足元に踏みつけられている『邪鬼』そっくりの醜い容貌だ。大口からは黄色く濁った牙が覗き、吊り上がった赤い目と尖った耳が凶虐性を物語っている。
手に握られているのは、錆びついた粗末なショートソード。
全身に汚れた布切れを巻きつけた──『ゴブリン』だ!
「ゴブリン……! よし、『テイム』!!」
俺は即座に右手を突き出し、テイムを試みた。
しかし──脳内に響いたのは、これまでと異なる冷たい警告音だった。
『──失敗:他者の眷属であるため、テイムできません──』
「なっ……他者の眷属!?」
驚愕で思考がフリーズした。野良の魔物じゃない!?
その隙を見逃さず、ゴブリンは凶悪な笑みを深め、ショートソードを振り上げて一直線に突進してきた!
「ギギャアアアッ!!」
「うわああっ!?」
パニックを起こした俺は後ろへ下がろうとして、自分の足に引っかかり、無惨にお尻から転倒した。
目の前に迫る、刃こぼれした死の刃。振り下ろされる鉄の塊──!!
(ヒロトに手を出すなあああッ!!)
間一髪、閃光のような影が走った。
樹上から弾丸のように飛び降りたリザが、ゴブリンの剣を握る腕へガツンと鋭い牙で噛みついたのだ!
「ギギャッ!?」
激痛にゴブリンがショートソードを取りこぼす。
そして次の瞬間──俺の右腕から放たれた白銀の光が、空間そのものを置き去りにして奔りました。
(──不敬ですよ、下等種族が)
ハクの冷ややかな一言。
白銀の閃光がゴブリンの首元を通り抜けたと思うやいなや──音もなく、ゴブリンの首から上が綺麗に切断され、宙を舞った。
ドサリ……。
胴体が地面に倒れ伏し、緑色の血液がドクドクと溢れ出す。初バトルは、ハクの一閃による瞬殺という呆気ない幕切れだった。
直後、俺の頭の中に、脳汁が溢れ出すような高らかなシステムファンファーレが連打された!
『──敵個体の討伐を確認──』
『──【眷属経験値UP】発動:獲得経験値2倍──』
『──サトウ ヒロト がレベルアップしました!(Lv.1 → Lv.2)──』
『──スラオ がレベルアップしました!(Lv.1 → Lv.3)──』
『──レイ がレベルアップしました!(Lv.1 → Lv.3)──』
『──リザ がレベルアップしました!(Lv.1 → Lv.3)──』
『──アイ がレベルアップしました!(Lv.1 → Lv.3)──』
「うおっ……! レベルアップのアナウンス……! 全員一気に上がったぞ!」
身体の底から、温かいエネルギーがフツフツと湧き上がってくるのを感じる。これがレベルアップの感覚か!
「リザ、ハクさん! ありがとう、助かったよ!」
(ふふ、ヒロト様。戦闘中にボーッとされていては危ないですよ? 今回は私がいたから良かったものの)
(うっ……ごめん、気をつけるよ。あ、そうだ! アイ、今のゴブリンのステータスって鑑定できてたかい?)
(うんっ! バッチリ見てたよ! 送るね!)
アイから送られてきた黄金のウィンドウに、討伐したゴブリンの情報が表示された。
━━━━━━━━━━━━━━━━━
【名前】なし
【種族】ゴブリン
【性別】♂
【レベル】10
【HP】0/95(死亡)
【MP】10/10
【スキル】なし
【その他】ゴブリンキングの眷属
━━━━━━━━━━━━━━━━━
「レベル10……! やっぱり野良のゴブリンより遥かに強かったんだ!」
そして最下部の危険すぎる一言──『ゴブリンキングの眷属』。
「……マズいぞ。近くにゴブリンたちを統率する『ゴブリンキング』っていうボスクラスの魔物が潜んでるんだ!」
背筋に冷たいものが走る。集団で襲われたら、いくらハクが強くても不覚を取りかねない。
俺は転がっていたゴブリンのショートソードを拾い上げた。手にズシリと重い鉄の感触。とりあえず、人間用の武器をひとつゲットだ。
「アイ! 上空へ上昇して周りを警戒してくれ! 敵の集団が近づいてきたらすぐに教えて!」
(はーい! 任せて、ヒロト!)
アイがパタパタと白い翼を羽ばたかせ、木々の隙間から上空へ舞い上がっていく。
(ヒロト様、このゴブリンの死体はどうなさいますか?)
(魔物って……身体の中に『魔石』っていうコアがあるんだよね?)
(ええ、心臓の近くに結晶化された魔力の塊が存在しますね)
(じゃあ、魔石だけ取り出そう! 死体そのものは……あ、待てよ! 人間の街に行けば『冒険者ギルド』の討伐証明部位になって、お金に換えられるかもしれない! ハクさんの『異次元収納』にしまっておけるかい?)
(収納自体は容易いですが……うーん、私が直接魔石を掘り出すのは、ちょっと手が汚れそうで嫌ですねぇ……)
ハクが少し嫌そうに身をくねらせると、肩からスラオが「ぼくがやるー!」とポヨンと躍り出た。
(ぼく、魔石、とる! たべるついでに、とってくる!)
スラオは千切れたゴブリンの首の切り口からズリズリと体内へ侵入すると、数秒後、青く透き通った体内に親指大の濁った赤色の結晶──『魔石』を包み込んで戻ってきた。
(スラオ、すごい! ありがとう!)
(えへへー! 褒められたー!)
スラオが吐き出した魔石と、ゴブリンの死体&生首を、ハクが『異次元収納』の黒い歪みの中へと格納していく。
(ヒロト様。地面に飛び散った肉片と血痕も処分しておかないと、匂いを嗅ぎつけて他の凶暴な魔物が集まってきてしまいますよ)
(なるほど……! スラオ、この血痕と肉片も『消化吸収』で綺麗にできるかい?)
(はーい! ぼくにおまかせー!)
スラオがズリズリと地面を滑り、飛び散っていた血液や肉片を完璧に吸い上げていく。数十秒後には、そこには何事もなかったかのような美しい足元だけが残されていた。
ステータスチェック、索敵、解体、清掃、そしてアイテム収納──。
眷属たちの連携によって、完璧な『戦闘&後処理システム』が完成しつつある。
「よし……! レベルも上がったし、この調子でゴブリンキングの群れを返り討ちにしながら、南の人間の国を目指すぞ!」
俺は拾ったショートソードを力強く握り直し、頼もしい眷属たちと共に、さらなる冒険へと踏み出した!
タイトルに第○話を追加しました。
いつも読んでいただきありがとうございます。
下段ポイント評価を選択後、
ポイントを選んで「評価する」ボタンを
押していただけると嬉しくなって、
モチベーションが上がるので、
宜しくお願い致します。
4/28 0:39 誤字修正しました。




