第55話 【死闘】無敵のアダマンタイト鎧と落下爆殺! 降臨せよ魔族四天王ルシー、戦慄の第二ラウンド開幕!!
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オーク軍が数人がかりで運んできた重厚な魔道具の檻。
その中に閉じ込められていた真っ白な小動物──樹海の守護者カーバンクルは、ゆっくりと愛くるしい目を開くと、間の抜けた声を漏らした。
「う〜……捕まってしまったのじゃ〜……」
俺は半眼になりながら、首をかしげた。
「で? そのカーバンクルが何か関係あるんですか?」
オークエンペラーは面食らったように眉をひそめた。
「ん? 貴様、この樹海の王の仲間ではないのか?」
「仲間も何も、今初めて見ましたよ」
「……ふむ」
オークエンペラーの拍子抜けしたような顔を見ながら、俺はふと頭に浮かんだ疑問を投げかけてみた。ちょっと鎌をかけてやろう。
「ところで、お前たちは『魔王軍』なのか? あの魔族四天王ルシーの配下だろう」
案の定、オークエンペラーはニヤリと醜い笑みを浮かべて胸を張った。
「いかにも! 我は魔王軍四天王の一角、ルシー様の直属部下なるぞ! 貴様、ルシー様の絶対的な威名を知っているのか!」
(……よし、これで裏の繋がりは大体察しがついたな)
「まあ、名前くらいは聞いたことがあるって程度だけどね」
俺は静かに、腰の黒刀『ムラマサ』の柄へ手をかけた。
檻の奥でカーバンクルが情けない声で叫ぶ。
「た、助けてくれーっ! 誰でもいいからここから出してくれーっ!」
ヒナが「まあ、かわいそうだわ! ヒロト、助けてあげなくちゃ!」と騒いでいるが、今の俺の集中力は極限に達していた。周りの声なんて完全無視だ! 無視!
ムラマサから溢れ出す漆黒の魔力が、溢れんばかりに俺の全身を包み込んでいく。
右足を静かに半歩前へ。
腰を沈め、膝を深く曲げる。
身体を反時計回りに捻り、刃の走る軌道を描く『半身』の構え。
──抜刀の準備、完了。
「意気高揚の詩よ! 我らが力に勝利の祝福を!」
上空でハピが美しい旋律で『意気軒昂の詩』を唱え始めた。瞬間、俺と仲間たちの全ステータスがぐんぐんと跳ね上がっていくのが肌で分かる。
目の前の敵を見定める。
オークエンペラーの全身を覆う漆黒のフルプレートアーマー。あの鈍い光沢……ただの鉄じゃない。伝説の超希少金属『アダマンタイト』製か。あんな常識外れの重量の鎧を着こなして平然としているとは、どれほどの怪力なんだ。
(……基本に忠実に、防具の関節の継ぎ目や隙間だけを完璧に狙う!)
俺は敵から一切目を離さない。
瞬き一つせず、息を殺す。
──その時!
予備動作すら一切存在しなかった。
視界の端が歪んだと思った瞬間、俺の目の前にオークエンペラーの巨躯が「現れて」いた!
(……!? 瞬歩……いや『縮地』か!? スキルの類か!)
ブウンッ!!
空気すら切り裂く凄まじい風切り音とともに、アダマンタイト製の超極太の大剣が、俺の脳天を目掛けて袈裟斬りに振り下ろされる!
「くっ……!」
間一髪、右側へ滑るように身体を回避させる!
「させない! 私、ヒロト様の盾!」
速攻で左前に割り込んできたのは人化状態のリザだ! 彼女は構えたアダマンタイト製の巨大タワーシールドを斜めの角度で突き出し、振り下ろされた大剣の威力を極限まで受け流す!
ギャギャギャッ!!
凄まじい火花が散り、大剣が逸れる!
リザはそのまま止まらず、盾の側面を相手の胸板へ向けて「盾撃」の体当たりを放った!
ズゴンッ!!
しかし、オークエンペラーは左手一本でリザの巨大な盾をガシッと受け止めた。まさに不動の岩山。びくともしない!
(速い! ならば──まずはその盾を押さえている左手の指の関節を斬る!)
俺は腰のムラマサを一閃! 抜刀と同時に横薙ぎの閃光となって敵の左指へ刃を滑り込ませた!
ガキィィィンッ!!
金属同士が叩きつけられる重い衝撃音が響き、あろうことかムラマサが弾き飛ばされた!
「……硬っ!? いい鎧着てんな!」
「ハハハッ! ルシー様より賜りし秘蔵のアダマンタイト甲冑だ! たかが人間のなまくらでキズなどつくものか!」
オークエンペラーは咆哮し、左手でリザの盾を横へ力任せに払い飛ばすと、右手の大剣を再び旋風のごとく振り回してきた!
「させるかぁっ!」
スパの粘着性に満ちた無数の蜘蛛の糸がオークエンペラーの右腕へ絡みつく!
間髪入れず、コボミの巨大な蛸足が地面から伸び、全身を締め上げる!
さらにハクが白蛇の美しき姿『ホワイトラミア』へと変貌し、太い太ももと尻尾でオークエンペラーの首筋を絞め上げた!
「ぬおおおぉぉッ! 鬱陶しいわぁぁッ!!」
ドガアァァンッ!!
オークエンペラーが全身の魔力を爆発させてコマのように高速回転! 絡みついていた糸も蛸足もハクの身体も、まとめて強烈に吹き飛ばした!
「いったあぁぁぁいっ!?」
ハクが地面を転がり、悲鳴を上げる!
「【エリアハイヒール】っ!」
レイが間髪入れずに広域回復魔法を放ち、ハクのダメージを瞬時に消し去る。
オークエンペラーは大剣を肩に担ぎ、俺たちを嘲笑った。
「おいお前たち、同じ魔物ならば魔物らしく、素直に魔王様の配下に入れ! 人間に与するなど片腹痛いわ!」
「「「「「「「絶対に嫌だぁぁぁーーーっ!!!」「」」」」」」
ハク、レイ、コボミ、スパ、ハピ、ヒナ、リザが一瞬の迷いもなく大声で拒絶した。
ハクがドヤ顔で言い放つ。
「私たちはねぇ、ヒロトと結婚するのよ! おじさんの部下になんてなるわけないでしょ!」
「我が真の姿を見せる……【エルダードラゴン】!」
リザが眩い光とともに巨大な竜へと変身! 息を吸い込み、至近距離から灼熱のドラゴンブレスを放つ!
だが、オークエンペラーは大剣の一閃でなんとブレスそのものを真っ二つに斬り払ってみせた!
「なっ……!?」
その隙を突いて、コボミが空間を跳んで背後へ出現! 鋭利な魔法ナイフを無防備な首筋へ突き刺す!
ガチィンッ!!
刺さらない! 物理攻撃も魔法的切断も、全てがはじき返される!
オークエンペラーの容赦ない裏拳が叩き込まれ、コボミの華奢な身体が弾丸のように吹っ飛ぶ!
「コボミ!」「くっ、死角から……!」
スパが影から飛び出し、鎧の関節の隙間へ鋭い爪を突っ込もうとするが、これも見えない魔力障壁と金属の硬度によって押し戻された!
「ハハハッ! 鎧の隙間なら効くと思ったか? 無駄だ無駄ぁ!」
オークエンペラーの強烈な前蹴りが襲いかかるが、スパはギリギリでバックジャンプして回避する。
俺もムラマサを振るい、首、脇腹、膝裏とあらゆる関節へ一撃を叩き込むが、全て大剣の完璧なガードで弾かれてしまう。まさに難攻不落の要塞だ。
スラオが腕を伸ばし、至近距離から極大の炎弾を叩きつける!
ドドォォンッ!!
爆炎が鎧を包み込むが、炎が晴れると何事もなかったかのように大剣が横一文字に振られた。スラオが吹き飛ばされる!
「【雷撃】よ、落ちよ!」
上空のライゾウから凄まじい落雷が叩き込まれるが、アダマンタイトの鎧が全て受け流し、オークエンペラーは微動だにしない。
「我らが力を!【プロミネンス】!」「【ヴォルテックスブレード】!」「【アクアバレット】!」「【グランクラッシュ】!」
イフリート、フェンリル、ネレイス、レイアの4大精霊が一斉に極大魔法を放つが、爆煙が収まった後に立っていたオークエンペラーの鎧には、小さなキズ一つついていなかった。
「……うーん、参ったな。どうしよっか」
俺が思わず苦笑いを浮かべると、オークエンペラーは高らかに笑い声をあげた。
「ハハハ! いよいよ打つ手無しか! おとなしく我が軍門に下るがいい!」
ズガンッ!
再び『縮地』で距離を詰めてくるオークエンペラー! 大剣が横方向に空間を切り裂く!
俺は全速力で後ろへ跳び、間一髪で斬撃をかわす。
その頭上から、ドバババッ!と風を切る凄まじい羽音が響き渡った!
「俺様……参上ぉぉぉぉッッ!!!」
「なっ!?」
空から急降下してきたのは、なんと巨躯のバジリスク形態・蛇王リザルトだ!
蛇王は勢いそのままに、オークエンペラーの背中を両足の巨大な鉤爪でガッチリと掴み捕らえた!
檻の中のカーバンクルが目を丸くする。
「じ、蛇王!?」
蛇王はニヤッと醜悪な笑みを浮かべた。
「おや、樹海の王かい? 捕まっていたのか。道理で最近見かけないと思ったぞ。お前の代わりに、この儂が叩き潰しに来てやったわ!」
「くっ……悔しいのじゃ〜〜っ!」カーバンクルが地だたらを踏む。
蛇王はそのまま羽を羽ばたかせ、上空へ連れ去ろうと飛び立とうとする──のだが。
「……ぬぐぐぐっ……お、重い……!? 上がらん……!」
羽をバタバタと必死に動かすが、体が少し浮くだけで一向に上へ登れない。アダマンタイトのフルプレート+巨漢オークの重量は伊達じゃなかった!
「私も手伝う!」
エルダードラゴンと化したリザが素早くオークエンペラーの足を掴み、蛇王と一緒にフルパワーで羽ばたいた!
オークエンペラーが「貴様ら離せぇっ!」と暴れ散らかすが、2頭のドラゴン級の力には抗えない。体がじわじわと宙へ浮き上がる!
それを見たヒナが目を輝かせた。
「あ、それすっごくイイ! みんなで運んじゃおう!」
ヒナは背中から可愛らしい蝙蝠の羽を生やし、俺とコボミは【魔眼の飛翔】を全開にする。
ヒナ、俺、コボミ、ハピ、ライゾウまでもが一斉にオークエンペラーの体へ取り付き、総出で空高くへ持ち上げていく!
「な、何をする気だ貴様らぁぁぁッ!?」
「せーのっ……で放り投げるんだよ!」
雲に届くほどの超高空まで引き上げたところで、俺たちは声を揃えた。
「「「「せーーーのっ!!!!」」」」
全員で一斉に手を離し、オークエンペラーを地上へ向けて全力で投げ落とした!
さらに地上では、スラオと地精霊レイアが魔法を全開にしていた。
落地点の柔らかい土を、魔法で『ダイヤモンド並みの硬度のコンクリート岩盤』へと急速変化させる!
「いっけぇぇぇぇーーーっ!!」
ドガァァァァァァァンッッ!!!!
地鳴りのような爆音とともに、ガリア樹海全体が激しく揺れ動いた!
高空からの超質量落下。固められた岩盤へ激突したオークエンペラーの巨体が、巨大なクレーターを作り出す!
煙が晴れていく。
アダマンタイトの鎧自体はやはり強固で、凹み一つついていない。
──だが! 中身(生体)への衝撃は全く別だ!
「ぐ……あ……ガハッ……!」
オークエンペラーは四つん把いになり、両手を地面についたまま、激しい脳震盪で首を弱々しく振っていた。衝撃で頭部の鉄仮面がグラグラと揺れ、外れかけている。
俺は上空から一気に滑空して飛び降りると、ムラマサの刃を鉄仮面と兜のほんのわずかな隙間へ正確に滑り込ませ、一閃した!
バキンッ!
鉄仮面が弾け飛び、中に隠されていた素顔が露わになる。
そこにあったのは、凄惨に焼きただれたオークの顔だった。黒焦げの皮膚、数々の痣、そして酷い古傷の痕……。
「グアァァァァッ! 見られたなァァッ! 許さん、許さんぞぉぉっ!」
顔を見られた恥辱と激痛で、オークエンペラーが狂乱して暴れ出そうとする!
「スラオ! 頼む!」
「ういーっす!」
俺の首元に巻きついていたスラオが、細い触手のようにスーッと体を伸ばした。
そして、叫ぶオークエンペラーの開いた口の中へ一直線に滑り込む!
体内に侵入したスラオは、オークエンペラーの内臓の真ん中で【爆炎魔法】を極小範囲で全開解放した!
ドキュン……ッ!
外には響かない、体内で肉が破裂する鈍い爆発音。
オークエンペラーの目が白目を剥き、巨躯がピクピクと痙攣する。スラオはそのまま体内で魔石を探し出し、ヌルッと口から這い出て手に魔石を握りしめて戻ってきた。
ドサッ……!
巨漢オークエンペラーの身体が、完全に崩れ落ち、沈黙した。
頭の中に、心地よいシステム音が鳴り響く。
『経験値が一定に達しました』
『レベルアップが完了しました』
『進化条件を満たしました──』
「……ふぅ。はぁ……手強い相手だった。やっと倒せたよ……」
俺がムラマサを鞘に納め、肩の力を抜いた──まさに、その時だった。
ゾクッ……!!!!
背筋を凍りつかせるような、圧倒的かつ禍々しい『死の魔力』が、辺り一面の空気を一瞬で支配した。空間そのものが悲鳴を上げるように歪み、紫色の亀裂が走る。
「……あら? 一体この状況は何なのかしら?」
ゆったりとした、妖艶で恐ろしい声が響き渡る。
亀裂から姿を現したのは、溢れんばかりの魔力を纏った美しい女性の姿──魔王軍が誇る『魔族四天王』の一角、ルシーその人であった。
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