第431話 【神威激突!】晴れわたる暗霧と全軍怒濤の総力戦!立ち塞がる魔神蚩尤と神速の一閃
灼熱の熱気によってドス黒い灰色の霧は一瞬で干上がり、蒸発した水分の後にほんの僅かな神気だけが漂う。
これまで優位を誇っていた敵陣営に、明確な揺らぎが生じた。雨師は目を見開き、信じられないといった様子で叫ぶ。
「何があった……!? どうして我が神聖なる霧が晴れたのだ!?」
「その疑問ごと、干上がらせてあげるわ!」
日照り神『魃』へと進化した勇者ハーミアが、一本足で地を蹴り、驚愕する雨師に向かって一直線に飛び掛かった。
だが、その突撃を遮るように瞬く閃光が走り、猛烈な光線がハーミアの視界を眩ませる。
「お前の相手は私がしよう」
そう言って立ち塞がったのは、鏡を手に掲げた電母だった。右手に携えた宝鏡から、空気を焼き切る激しい光線が直射でハーミアへと放たれる。
しかし、ハーミアの全身からは常軌を逸した極度の熱量が放出されており、その周囲の空間は激しく歪み渡っていた。
ズドドッ!
放たれた光線はハーミアの直前にまで迫るものの、異常な熱で屈折した空間によって進行方向を大きく折り曲げられ、彼女の身体に触れることすらできずに明後日の方向へと穿たれていく。
「良い度胸ね! 電母、お前は私が倒す!」
ハーミアは不敵に微笑むと、右手をかざして電母へと襲いかかった。
その横では、凄まじい魔気を滾らせた悪魔ボティスのリザルド元帥が、巨躯を誇る古代の神・夸父に向かって突き進んでいた。
「ハハハ! 俺は夸父を貰うぞ!」
「ふん、悪魔の元帥か。相手に不足無し!」
夸父はニヤリと不気味な笑みを浮かべると、両腕に滔々と毒気を吐く巨大な大蛇を巻き付け、重厚な構えをとった。
さらに、バチバチと紫電を弾けさせる雷神トールのライゾウが、因縁の相手である風伯と対峙する。
「さあ、この前の続きと行こうじゃないか!」
「ふふふ……小僧、前回のようにはいかんぞ。今回は本気で相手してやる」
風伯が鋭い風刃を纏いながら嘲笑い、二頭の神が再び激突の火花を散らし始めた。
ドゴォッ!
その直後、雷光とともに神速の領域で出現したのは雷公だ。悪魔キマリスのオニバルの目前へ一瞬で接敵する。
「貴様の相手は俺がしよう!」
雷公は右手に破壊の鐫、左手に雷を呼び寄せる木槌を構え、凶悪な笑みを浮かべた。
「良かろう……我が剣の錆となれ!」
元オークエンペラーであり剣聖であるオニバルは、まったく動じることなく右足を深く半歩踏み出し、腰をしっかりと落として半身に構えた。そして右手で静かに刀の鯉口を切り、親指を添える。
研ぎ澄まされた完璧な居合斬りの構えだ。
これを合図とするように、我が樹海帝国の仲間たちは、溢れかえる魑魅魍魎や悪獣、そして激しく咆哮をあげる神獣『竜生九子』——囚牛、睚眦、嘲風、蒲牢、狻猊、蚣蝮、狴犴、贔屓、螭吻たちの群れへと一斉に飛び込み、壮絶な乱戦の火蓋が切って落とされた。
そして、圧倒的な神威を放ち続ける絶対の魔神・蚩尤と対峙するのは、俺たちだった。
俺の周囲に残ったのは、麒麟のコボミ、霊亀のリザ、鳳凰のハピ。
霊亀のリザは俺の右手前に重厚な大盾を構え、絶対防御の姿勢をとる。麒麟のコボミは右後ろでしなやかな肉体を低く沈め、中腰で警戒の眼光を放つ。鳳凰のハピは俺のすぐ右後ろに位置し、大悪魔アスタロトがそのさらに後方で強大な魔力を練り上げていた。
さらに、俺の右手には激しい神気を放つ応龍のハクが神聖なる爪と鱗の形となって絡みつき、完全な応龍の籠手として一体化している。
ハクとこうして身体を重ねて戦うのは久しぶりだ。胸の奥から熱い意気が湧き上がってくる。
現在の俺の身体には、右手にハク、左手には精霊王であり世界樹のレイが宿り、左目には全てを見通す神眼のアイ、左腰には神刀ムラマサ、そして全身には亜神バアルゼブルであり大悪魔ベルゼブブのスラオが漆黒の鎧となって纏っている。
ハクとの融合は久しぶりだが、それ以外は俺の最高の全力を叩き出すいつもの完全戦闘構成だ。
俺は静かに右足を半歩前に出し、深く腰を落として半身で構える。そして右手でムラマサの柄を握り、鯉口を切って親指を添えた。オニバルと同じ、一撃必殺を込めた居合斬りの構え。
瞬き一つせず、眼前に立つ蚩尤のわずかな動静すら逃さぬよう、神眼の力で注視する。
その時、後方から美しく透き通るような鳳凰のハピの歌声が響き渡った。
七色の輝きを伴った神秘的な詩が、怒濤の戦場に美しいBGMのように広がっていく。ハピの詩が奏でられるにつれ、仲間全員の全ステータスがぐんぐんと上昇していくのが目に見えて分かった。同時に敵側のステータスを削り落としていくが、その弱体化の影響を受けたのは周りの雑魚である魑魅魍魎たちだけのようだ。蚩尤ほどの神ともなれば、簡単には歌の効果が通じないらしい。
ハピのこの戦場の歌を聞くのも久しぶりだ。昔はこの歌を背に受けるだけで、体が震えるほど戦意が向上したものだった。……まあ、今だって腹の底からやる気と昂揚感が満ち溢れているがね。
巨大な牛の頭部を持つ蚩尤は、四つの眼で俺を冷たく見下ろした。
「さて……雑談と準備は出来たか、人間?」
蚩尤は不気味に蠢く六つの腕に、それぞれ伝説の神兵である剣、戈、矛、戟、酋矛、夷矛を握り直した。膝をわずかに曲げているが、隙だらけにも見える棒立ちに近い構えだ。しかし、そこから放たれる圧倒的な神威が空間を歪ませている。
俺はニヤリと口端を上げ、刀の柄を固く握りしめた。
「さあ、来い……!」
刹那。
ドゴォアンッ!!
思考すら置き去りにする衝撃。
次の瞬間、蚩尤の巨躯はすでに俺の眼前に存在していた。
空間を跳躍したと錯覚するほどの神速。最高度の警戒を敷いていた霊亀のリザのガードすらあっさりとすり抜け、六つの神兵が同時に俺の死角へと振り下ろされようとしていた。




