第429話 【開戦の旋律!】迫り来る魔神蚩尤と絶望の全軍侵攻!集う最強の仲間たちと命を賭した総力戦の幕開け!
砂漠の果てでハーミアの『魃』への進化を見届け、灰色の霧を打破する確かな勝算を得たその歓喜の瞬間だった。
俺の脳内に、拠点の防衛を任せている大悪魔バエルのスパから、今までにない切迫した緊急念話が直接飛び込んできた。
(ヒロト陛下! 大変です、我が樹海帝国の本拠地に蚩尤達が突如として直接侵攻してきました!)
激震が走る。俺は思考を研ぎ澄まし、即座に返信を打ち返した。
(落ち着けスパ! 状況はどうなっている!? 敵の規模は!?)
(かなり……かなり不味い状況です! 例の悪夢のような灰色の霧を全面に展開しながら進軍してきておりまして、無数の魑魅魍魎の群れだけではなく、凶悪な悪獣ども、さらには神獣『竜生九子』の生き残り、風伯、雨師、雷公、電母、夸父、そして雲使いまで勢揃いしております……! 敵の総力が一気に押し寄せてきています!)
(チッ……完全にこちらを潰しにきたか。まさに総力戦だな)
この規模の襲撃となれば、後方の非戦闘員や生産職の眷属たちを戦火に巻き込むわけにはいかない。俺は直ちに意思を固めると、全域念話を発動した。
(ゴブ1、コボ1、オク1、オガ1、アンナ! お前たちは周囲の眷属を率いて、直ちに迷宮へ全軍退避しろ!)
念話を受け取ったコボ1たちから、即座に了解の意が返ってくる。圧倒的な防衛性能を誇る巨大迷宮であれば、たとえ神々の大軍勢が押し寄せてこようとも、籠城して防衛線を維持できるはずだ。
(その間に俺たちが主力戦力を整え、速やかに救援へ突入する! それまで何としても持ちこたえろ!)
良し、指示は終わった。俺たちも打って出るぞ!
俺は前回の大戦で出撃した精鋭メンバーを、巨大な世界樹の広場前へと緊急召集した。空間が歪み、一瞬にして凄まじい威圧感を纏う戦士たちが一堂に会する。
揃ったのは、我が樹海帝国の誇る最強の陣容だ。
主君である俺、樹海帝国皇帝ヒロト。
雷光を纏う雷神トールのライゾウ。
黒き死の翼を持つ堕天使サリエルのデステル伯爵。
闇の絶対圧縮を操る悪魔ビフロンスのデルガ侯爵。
黒炎の極大魔法を放つ悪魔ベリトのヴァンス伯爵。
そして、全軍の指揮を執る軍略の天才、悪魔ボティスのリザルド元帥。
さらに、死の淵から蘇ったエルダーリッチの勇者ユイと、その傍らで紅蓮の炎を散らす使い魔の火の鳥フェン。
弓を構えるダークハイエルフのグレイア女王。
異形なる空飛ぶ死神、亜神ペナンガルのビー将軍。
戦意を滾らせるヴァルキリーのスクルド、ヒルド、スコグル、フリストの四人。
聖剣を握り締め、力強く頷く勇者タクミ。
なお、日照り神『魃』へと劇的な進化を遂げた勇者ハーミアは、膨大な熱量による周囲への影響を考慮し、現在は砂漠地域にて召喚の瞬間を静かに待機させている。
一列に並び立った重鎮たちが、次々と不敵な笑みを浮かべた。
「ククク……さあ、この前の不覚と屈辱、倍にして雪辱を果たしてくれようぞ!」
悪魔ボティスのリザルド元帥が腰の剣に手をかけ、猛々しく咆哮する。
「おうよ! 霧のカラクリさえ分かってしまえば恐れるものなど何もない! 今度こそあの牛頭の化物どもを叩き潰してやるぜ!」
雷神トールのライゾウがバチバチと全身から狂暴な紫電を撒き散らし、拳を握りしめる。
「うむ。あの忌々しい灰色の霧さえ無ければ、我ら悪魔の真の力でねじ伏せるまでよ」
悪魔ビフロンスのデルガ侯爵が重厚に頷けば、悪魔ベリトのヴァンス伯爵もまた黒炎を手元で揺らめかせながら賛同した。
「その通りだ。我が黒炎の餌食にしてくれる」
堕天使サリエルのデステル伯爵は言葉を発さず、静かに大鎌の柄を握り直し、冷酷な殺気を刃から漂わせている。
全員の戦意が最高潮に達し、まさに転移陣へと踏み出そうとしたその時だ。
「ちょっと待って! 私たちも一緒に行くわ!」
空間が大きく揺らぎ、鮮やかな光とともに四人の美女が姿を現した。世界樹の前へと直接転移してきたのは、応龍のハク、麒麟のコボミ、霊亀のリザ、そして鳳凰のハピだ。
俺は慌てて手をかざし、制止の声を上げた。
「待て待て! ハク、みんな! お前たちの腹には俺の大切な赤ん坊がいるんだぞ!? 万が一のことがあったらどうするんだ、ここは大人しく待っていてくれ!」
ハクたちが妊娠している身であることを懸念する俺に対し、鳳凰のハピがふふんと胸を張ってみせた。
「ふふ、大丈夫よヒロト。私たちは本体ではなく『分身体』で出撃するんだもの。これなら何が起きても安全でしょ?」
「とは言うものの……相手は太古の魔神蚩尤とその軍勢だぞ? 分身体とはいえ、精神的なショックやどんな悪影響があるか分からないからなぁ」
心配で眉をひそめる俺の前に、霊亀のリザがスッと歩み寄り、膝を突いた。
「私は陛下の絶対なる盾。分身体の総力を挙げ、何があろうと死力をもって陛下をお護りいたします」
「相手はあの凶悪なる蚩尤……! 仲間たちが命を懸けて戦っているというのに、この地にじっとしてなどいられないのです!」
麒麟のコボミも可憐な瞳に強い意思の光を宿し、決意を露わにする。そして応龍のハクが俺の胸に歩み寄ると、その両手を優しく握りしめて真っ直ぐに見つめてきた。
「大丈夫よ、ヒロト。たとえ戦場で分身体が破壊・消滅したとしても、本体や魂に悪影響は一切無いの。それに……お腹の赤ちゃんは分身なんてしないんだから、何の危険も無いわ! だから、絶対に行くわよ!」
「むむ……そうなのか……?」
押し切られそうになっている俺の横で、さらに空間が歪み、美しくも禍々しいオーラを纏った不死王ルシーが姿を現した。
「ふふ、行かせてあげなさいな、ヒロト。愛するあなたや仲間たちが戦っているというのに、ここで指を咥えて待っているなんて、私たちには到底耐えられないもの。私も本当なら今すぐにでも駆けつけたいくらい心配だわ」
「えっ……ま、まさかルシー、お前まで出撃する気か!?」
俺が驚いて問いただすと、ルシーはどこか悪戯っぽく微笑み、優雅に首を横に振った。
「私は非常に残念なのだけれど、私の特性上『分身体』を作り出すことが出来ないから、一緒には行かないわよ。あなたやお腹の子に万が一があったら困るものね」
「そ、そうだよな……良かった」
ほっと胸を撫で下ろす俺に、ルシーは畳みかけるように続けた。
「その代わり、私の配下の中から最高戦力であるアスタロトをあなたのお供として行かせますわ」
「お、おう! 大悪魔アスタロトなら百人力だ、問題ないな!」
ルシーの呼びかけに応ずるように、漆黒の魔気を撒き散らしながら大悪魔アスタロトが恭しく転移してきた。アスタロトは俺の前に深く跪き、忠誠を誓う。
「陛下……このアスタロト、陛下の御身と樹海帝国の威信のために、持てる全能力をもって死力を尽くしましょう」
「頼むぞ、アスタロト! 期待している!」
よし、これで戦力は完全に整った——そう思って全軍に踏み出しの合図を出そうとした瞬間、遥か後方から凄まじい大声が響き渡った。
「ちょっと待ったぁぁぁあアアアッ! 師匠! 私も、私めも連れていってください!」
爆音と共に滑り込んできたのは、悪魔サブナックのライゴー副将軍だった。さらにその直後、ライゴーの後ろの空間が激しく割れ、悪魔キマリスのオニバル将軍と悪魔ヴィネのライカが堂々と姿を現す。
「師匠! 剣聖たるこのオニバル、我が剣技のすべてをあの魔神どもに叩き込むべく、同行いたします!」
かつてオークエンペラーであり、今や至高の剣豪となったオニバルが、背の巨剣を引き抜かんばかりの気迫で叫ぶ。
さらにそれだけでは終わらない。強烈な魔力の波動とともに、悪魔エリゴスのグレンシー将軍、悪魔アンドロマリウスのリリア副将軍、そして悪魔リリスのリーネット副将軍の三人が、優雅かつ猛烈な威圧感を放ちながら現れたのだ。
「義兄さん! 私たちだって黙って見てなんていられません! 絶対に一緒に行きます!」
悪魔リリスのリーネットは、その愛くるしい瞳を涙で潤ませて潤潤とさせながら、すがりつくような熱い視線で俺をじっと見詰めてくる。
「みんな……!」
仲間たちの溢れんばかりの熱意と忠誠心が、俺の胸を強く打ち鳴らした。この最強の陣容、この熱き絆があれば、どんな神や魔神が立ち塞がろうとも負けるはずがない!
「分かった! 全員、俺について来い! 蚩尤どもに、我が樹海帝国の本当の恐ろしさを教えてやるぞ!!」
俺の叫びとともに、全員の咆哮が世界樹の空を激しく突き破った。




