第425話 【覚醒の猛攻と神威降臨!】破滅の旋律を打ち破る勇者たち!帝国の真眷属による圧倒的殲滅と魔神蚩尤の現世降臨!
激動の戦況の中、態勢を狂わされて倒れ込んだ勇者タクミに、容赦なく襲いかかる凶悪な脅威。
黄色い牛の龍である囚牛が、鋭利に研ぎ澄まされた巨角を低く構え、狂暴な怒気とともにタクミの胸元を目掛けて一直線に刺し穿たんと迫る。
「くっ……しまっ……!?」
死を覚悟したその瞬間、側方から凄まじい風切り音とともに聖なる閃光が割り込んだ。
「させるかぁぁぁっ!」
横合いから飛び込んだ勇者ハーミアが、全身の力を絞り出して聖剣を全力で振り抜く。重厚な金属音が荒野に激しく響き渡り、囚牛の鋭利な角をすんでのところで弾き返した。
間一髪で危機を脱したタクミは、地面を転がりながら勢いよく立ち上がり、息を荒らげてハーミアに問いかけた。
「助かった、ハーミア!……クソッ、脳を直接揺さぶられるようなこの不気味な曲が、俺たちの空間認識を完全に狂わせている原因か!?」
「ええ、多分そう! 視界と身体の感覚がズレてしまって、うまく攻撃を見極められないの!」
ハーミアが歯を食いしばりながら叫ぶのを聞き、タクミはパッと表情を明るくさせると、急速にバックステップを踏んで囚牛の間合いから一旦大きく距離を取った。
「なんだ、そういうことか! じゃあ、最初から聞こえないようにしちまえば問題ないじゃん!」
「え……? だけど、この戦場でそんな手段が……」
ハーミアが困惑の声を上げる中、タクミは迷わず自身の『アイテムボックス』を発動させた。空間の歪みから取り出したのは、なんと一箱の高級ティッシュペーパーだ。
タクミは素早い手つきでティッシュを適量むしり取ると、それを指先で器用に押し固めて小さな球状にし、勢いよく両耳の穴へと固く押し込んだ。
「これで良し!」
その間にも、獲物を逃すまいと囚牛が巨体をうねらせ、凶悪な爪を頭上から斜め一文字に振り下ろしてくる。
ハーミアは即座に身を引いて躱そうとしたが、脳裏を支配する狂悪な音波の残響によって足元が激しく蹌踉けてしまう。
「きゃっ……!?」
「させるかよっ!」
間髪入れずに飛び込んだのは耳栓を完了させたタクミだった。音波の影響を断ち切ったタクミは寸分の狂いもない動きで聖剣を打ち下ろし、囚牛の凶爪を豪快に弾き返すと、そのまま軸足を鋭く旋回させて渾身の重体当たりと猛烈な前蹴りを叩き込んだ。
ドガァァンッ!
「グボォォッ!?」
巨体を吹っ飛ばされ、荒野の泥土を滑っていく囚牛。
タクミは素早く残りのティッシュをむしり取って小さく丸めると、手際よくハーミアの手に押し付けた。
「ハーミア、これを千切って丸めて両耳にしっかり詰めるんだ! 音さえ遮断すれば、あんな奴ただのデカイ牛だ!」
「あ……なるほど、その手があったなんて!」
ハーミアはすぐさま言われた通りティッシュを固く耳に詰め込む。
恐らく、たとえ耳栓をしたところで、戦闘技術で劣るハーミア一人では古代の神獣囚牛に打ち勝つことは難しかっただろう。しかし、音波のバフとデバフを封じ込めた今、本来の連携を取り戻した二人の勇者の前ではもはや敵ではなかった。
タクミが果敢に踏み込み、襲い来る囚牛の鋭い角を聖剣の腹で器用に使用して受け流し、隙を極限まで晒させる。
「これで終わりだぁぁぁッ!」
その絶妙な隙を見逃さず、背後から跳躍したハーミアの聖剣が黄金の閃光を描いて一閃。鋭い斬撃が囚牛の太い首筋を真っ二つに切り落とした。
巨頭が宙を舞い、大量の鮮血が荒野を赤く染め上げる。
一方、救援として主より遣わされた帝国最強の戦力——堕天使サリエルのデステル伯爵、悪魔ビフロンスのデルガ侯爵、悪魔ベリトのヴァンス伯爵の三人は、壊滅寸前であったヴァルキリーたちの救援へと急行していた。
黒い死の羽を広げたデステルは、元獣人のフリストを死の淵まで追い詰めていた虎の形の龍・狴犴へと死神の如く肉迫する。
デルガ侯爵は、元人魚のスコグルを巨体で叩きのめした巨大な龍・蚣蝮を見下ろし、禍々しい闇の魔力を両手に集束させた。
そしてヴァンス伯爵は、元有翼人のヒルドを業火で包み込み圧倒する炎の獅子龍・狻猊に向け、漆黒の極大魔法を発動する。
絶望の淵から救われたフリスト、スコグル、ヒルドの三人は、すぐさま体制を立て直し、未だ最悪の死闘を繰り広げているスクルドを激しい咆哮で痛め付ける巨大龍・蒲牢の元へ一斉に向かった。
「そこを退け、下等生物が」
冷徹なデステルの声とともに、巨大な漆黒の大鎌が一筋の黒光りとなって閃いた。
一瞬の静寂。狴犴は反撃どころか牙を剥く暇すら与えられず、その頑強な首を綺麗に切り落とされ、絶命した。
続いてデルガ侯爵が、不敵な笑みを浮かべながら古代闇魔法を解き放つ。
「無に還るが良い……『シャドゥコンプレッション』」
激しい闇の魔力が渦を巻き、巨大な蚣蝮の巨体を全方位から瞬く間に包み込んでいく。
デルガが天高く掲げた右手の指を、優雅に旋回させながら力強く握り締めると——ズチチチッ! と空間ごと圧殺されるおぞましい破壊音が響いた。
蚣蝮の巨体は闇の魔力によって極限まで圧縮され、血の一滴すら残さずペチャンコに潰れてそのまま消滅したのだ。
そしてヴァンスが放ったのは、地獄の業火『キラーインフェルノ』。
本来、炎の獅子龍である狻猊は、あらゆる火属性の攻撃に対して絶対的な耐性を持ち、むしろ相手の炎を取り込んで自身の威力を増幅させるはずだった。
……はずだったのだ。
しかし、ヴァンスが解き放った『キラーインフェルノ』の禍々しい黒い炎は、概念そのものが異なっていた。
「ぬぬ……!? なんだこの炎は……!?」
狻猊の纏う神聖な炎の身体を呑み込んだ黒炎は、耐性など一切無視して狻猊自身の炎を瞬く間に鎮火・喰らい尽くすと、その肉体ごと黒く激しく燃え上がらせたのだ。
「グアァァァァァッ!?」
叫び声すら上げる間もなく、一瞬にして完璧な消し炭へと変わり、風に吹き散らされた狻猊。
瞬く間に己の担当する敵を片付けたデステル、デルガ、ヴァンスの三人は、休む間もなくそれぞれの戦域で今なお戦闘を続けている仲間の元へ影のように飛び寄る。
デステルは大空で火の鳥フェンと激しい死闘を繰り広げていた鳥の龍・嘲風の背後へと一瞬で転移し、冷酷に大鎌を振り抜いてその首を容易く切り落とした。
デルガはエルダーリッチの勇者ユイの魔法を弾き続けていた絶対防御の亀の龍・贔屓の眼前に現れ、甲羅の隙間から内部を直接破壊する強力な闇の魔法を解き放ち、内部から破裂させて崩壊させた。
ヴァンスはグレイアと影転移の攻防を繰り広げていた鯱の龍・螭吻を、絶対的な上位魔法の奔流によって跡形もなく一瞬で殲滅してみせた。
神獣『竜生九子』が、樹海帝国の誇る怪物たちによって次々と惨殺され、戦場は一変する。
空中からその圧倒的な凄惨劇を目撃していた風伯は、苦々しい表情で唾を吐き捨てた。
「チッ……ここまでか! くだらん悪魔どもの分際で……!」
だが、その時だった。
突如として、天と地が激しく揺動し、全空間の空気が目に見えて歪み始めた。
言葉を失うほどの圧倒的な威圧感が、戦場にいるすべての者を押し潰さんばかりの重圧となって周囲を包み込む。
爆発的に膨れ上がり、大気を焦がすほど濃厚な絶対的神気。
空間が破裂するように裂け、地底の底から響き渡るような恐ろしい声が世界を揺らした。
「我は蚩尤——!!」
天地を統べる太古の魔神、蚩尤が、ついにその圧倒的な姿を現世へと降臨させたのだった。




