第422話 【覚醒する色情の魔姫!】ウォーターカッターの猛威と激闘のヴァルキリー!絶対的絶望を凌駕する圧巻の反撃!
俺は続いて、息詰まる死闘が繰り広げられている雨師とアンナの戦場へ視線を向けた。
悪魔パイモンのアンナに対し、一本足で優雅に佇む雨師は、その豊かな髭を撫でながら余裕に満ちた薄笑いを浮かべていた。
「ふふふ……悪魔パイモンか。その力がどれほどまでのものか、少し試してやるとしよう」
「あら、試すとおっしゃいましたか? ならば……存分にお戯れいただきましょう!」
アンナが艶やかな笑みを浮かべて指を鳴らした瞬間、彼女の背後の空間が歪み、数千匹におよぶ翅蟻の大群が一斉に召喚された。空を黒く埋め尽くす凶悪な翅蟻の津波が、羽音を轟かせて雨師に向かって一気に襲いかかる。
だが、雨師は顔色一つ変えず、右手先を寄せてくる虫の群れへと静かに向けた。
「無駄だ」
ドゴォッ! と凄まじい水圧の音が響き、右手から放たれた超巨大な激流が、迫り来る翅蟻の軍勢を一網打尽にして吹き飛ばし、濁流となって地面を押し流していった。
その隙を見逃さず、アンナは影を通り抜けて雨師の右側へと瞬時に転移。手に携えた漆黒の魔槍を、雨師の喉元目掛けて鋭く突き刺した。
「もらった……!」
しかし、手応えはない。雨師の身体は一瞬にして清らかな水へと変化し、突き刺さった魔槍の柄を逆に液体となって滑るように伝い、一瞬でアンナの至近距離まで肉迫してきたのだ。
「なっ……!?」
危険を察知したアンナは即座に魔槍から手を放し、翼を大きく羽ばたかせて後方へと激しく跳び退いた。
直後、雨師の手元から禍々しい神気を孕んだ高圧の水撃が放たれる。アンナは空中を舞いながら寸前で躱したが、雨師の追撃は留まることを知らない。間髪入れずに、何発もの透明な光線のような水撃が凄まじい連射速度でアンナを襲う。
弾幕のような水撃の嵐を必死に回避するアンナだったが、ついに躱しきれず、右腕に一筋の鋭い水撃が掠めた。
ズシャッ!
悪魔特有の極めて頑丈な外皮を誇るアンナの右腕が、まるで紙切れのように易々と切り裂かれ、紫色の鮮血が宙に舞う。
雨師は一本足でふわりと着地し、右手の先から流れる水をもてあそびながら静かに語った。
「水というのはね、高圧力を加えて細く薄く成形し、そこに強大な神気を混ぜ込んで高速で放つと、あらゆる硬質の物質すら断ち切ることができるのだよ。私のこの水流は、どんな防具も意味をなさない。そう……文字通りウォーターカッターと言われていてね」
「くっ……!」
アンナは右腕の傷口を押さえ、苦痛に顔をしかめる。雨師はさらに容赦なく、無数の水流を連射して畳みかけてきた。
アンナは黒い翼を大きく広げ、大空へと一気に飛翔して高所へと逃れ、なんとか間合いを取る。
「……流石は古代の亜神。一筋縄ではいきませんね」
傷口から血を流しながらも闘志を失わないアンナの元へ、俺は一瞬で空間を跳んで割り込んだ。アンナの眼前に静かに浮遊して立ち塞がる。
「ヒロト様……!?」
驚くアンナに対し、俺は静かに声をかけた。一度傷を癒やして下がらせるべきか迷ったが、彼女の瞳にはまだ強い意志が宿っていた。
「陛下、ここは私にお任せください。私めが必ずやこの男を討ち取ってみせます。どうぞヒロト様は、他の仲間たちの支援をお引き受けください」
「……分かった。決して無茶はするなよ」
「大丈夫です。私を誰とお思いで?」
アンナはそう言うと、俺の身体に左手でそっと触れ、俺の放つ溢れんばかりの魔力と邪気を一瞬で吸い上げた。彼女の左手から禍々しい漆黒の邪気が一気に噴き出し、深く刻まれていた右腕の傷が一瞬で細胞ごと完璧に再生していく。
邪気を全身に纏い、完全復活を遂げたアンナは、宙に浮遊したまま冷徹な視線で下方の雨師を見下ろした。
それを見た雨師が、再び指先から鋭利な水流を解き放ち、空中のアンナを縦一文字に切り裂く。
シュバッ!
鋭い切断音が響いたが、切られたはずのアンナの姿は一瞬で濃密な黒い霧へと霧散し、水流は何の抵抗もなく空を切って通り抜けた。水撃が遥か彼方の空へ消え去ると、黒い霧は再び瞬く間に収束し、アンナの妖艶な姿へと元通りに再構成される。
「ふふっ……流石のウォーターカッターも、液体や固体でないものは斬れませんでしょう?」
アンナは唇に淫靡な微笑みを浮かべた。艶かしい舌が、まるで独立した生き物のように自身の赤い唇を妖しく舐め回す。
その卑猥な指先からは、濃密な闇の糸が何本も伸び出し、まるで触手のように蠢いて空間を侵食し始めた。真の悪魔パイモンとしての本性を解き放った姿だ。
雨師はその異様かつ圧倒的なプレッシャーを感じ取り、眉をひそめて呟いた。
「ほう……一瞬で雰囲気が変わったな。なるほど、只者の悪魔ではないというわけか」
これなら大丈夫そうだ。俺はアンナの背中に向かって声をかけた。
「アンナ、焦らず時間をかけていいぞ」
「はい、ヒロト陛下。極上の苦悶を味わわせて差し上げますわ」
俺たちは風伯と雨師の待ち伏せにあった。
雨師は竜生九子を召喚し俺たちを襲う。
11人の仲間がそれぞれ敵と戦っている。
風伯VSライゾウ、雨師VSアンナはお互いに決定力に欠けるようなので、放っておいても大丈夫そうだ。
竜生九子(囚牛、睚眦、嘲風、蒲牢、狻猊、蚣蝮、狴犴、贔屓、螭吻)と仲間たちはどうだろう?
俺は神眼アイのスキル『鳥瞰』をさらに広げ、戦場全体の様子を観察した。
真っ先に目に入ったのは、苦戦を強いられているヴァルキリーの4人——スクルド、ヒルド、スコグル、フリストの戦いだった。
ヴァルキリーの4人は竜生九子達に劣勢を強いられていた。
ヴァルキリー達は南の王国出身。故郷を蹂躙した存在への凄まじい執念を燃やし、必死に食らいつき、劣勢挽回の手段を探っている。
しかし実力差は如何ともし難く追い込まれていく。
元有翼人スクルドの魔槍は、蒲牢の強固な鱗に突き刺そうとするが、傷ひとつ付けられず。
「なっ……何という硬さ……!?」
スクルドが衝撃に目を見開いたその瞬間、蒲牢の巨大な口がカバッと開いた。
グオォォォォォンッ!!
蒲牢の咆哮がスクルドを硬直させる。至近距離で音波を浴びたスクルドは、全身が金縛りに遭ったかのようにピキリと固まってしまった。
その隙に蒲牢が体当たりでスクルドを突き飛ばす。
ドガァァンッ!
「キャァァァッ!?」
スクルドの身体が弾丸のように吹き飛ばされ、荒野の岩山へと激しく激突する。崩れ落ちる岩石の煙の中から、血を吐きながら立ち上がろうとするスクルドの姿が見えた。
仲間たちがそれぞれの死闘を繰り広げる中、戦場の緊迫感は最高潮へと達しようとしていた。




