第421話 【驚愕の太古神獣全面戦争!】解き放たれし『竜生九子』の凶絶なる牙!選ばれし精鋭眷属によるド派手な総力決戦!
【蚣蝮】
激しく波打つ六つ目の魔法陣からは、濁流のような水量が爆発的に増え、地表を覆い尽くしていった。
現れたのは、平らな頭部に一対の立派な角、全身を覆う強固な龍の鱗、そして逞しい四本の足と長い尾を持つ、巨大な両生類の形をした龍だ。
ゆったりと地を這う蚣蝮に対し、雨師が冷酷に手を差し伸べる。
「蚣蝮よ、圧倒的な濁流で敵を押し流せ」
【狴犴】
続いて七つ目の魔法陣からは、激しい殺気を撒き散らしながら、勇猛な虎の形をした龍が現れた。しなやかな躍動感とともに地を蹴って飛び出してきた狻猊に勝るとも劣らない存在感。
「狴犴よ、その鋭利な牙で敵を食い殺せ」
【贔屓】
八つ目の魔法陣からは、重厚な地鳴りとともに巨大な岩石の如き亀の形をした龍が歩み出てきた。あまりの重量感に地表が大きく沈み込む。
「贔屓よ、圧倒的な質量で万物を踏み潰せ」
【螭吻】
そして最後の九つ目の魔法陣から現れたのは、息を呑むような異形だった。
魚のような身体に、虎のような威厳ある頭部、そして天に向かって反り返る美しい尾。城の屋根に鎮座する鯱の原型となった姿を持つ龍だ。
躍動感たっぷりに跳ねた螭吻に対し、雨師は静かに命じた。
「螭吻よ、我が陣営を守る絶対の盾となれ」
九体の神獣が出揃い、周囲の空間は絶望的な圧迫感で満たされた。雨師は白い道士服を風になびかせ、冷やかな笑みを浮かべながら語りかける。
「竜生九子は、かつて竜になり得なかった不完全な竜の子供たちだ。だがその分、真の竜には無い特異な技能を各々が持つ。さらには幾重もの時を経てレベルを上げて鍛え上げ、今や真の竜すら凌駕する神獣へと至ったのだよ。さあ、その圧倒的な実力をたっぷりと見せるが良い!」
雨師の宣言とともに、神獣たちが一斉に牙を剥いて襲いかかってきた。だが、俺たちの陣営に動揺の配色は一切ない。
「まずは鳥対鳥の空中戦ね! フェン、嘲風をお願い!」
エルダーリッチの勇者ユイが叫ぶと、その肩から飛び立った不死鳥フェンが、全身に眩い神聖なる炎を纏って大空へと急上昇した。
『承知いたしました、ユイ様!』
迎撃に立つのは、鳥の姿をした龍・嘲風だ。嘲風は悠然と後方へ引きつつ、その鋭い眼光でフェンの動きをじっと凝縮して観察する。
フェンは旋風を巻き起こしながら嘲風へ向かって体当たりを仕掛けるが、嘲風はまるで未来が見えているかのように間一髪の差で躱してみせる。
急降下からの電撃的な襲撃も、意図的なフェイントすらも、その動きをあらかじめ読んでいるかのように完璧に見切って滑空していく。大空を舞台に、二羽の神獣による音速を超えた熾烈な高速飛行戦が繰り広げられた。
一方、地表でも激しい死闘が繰り広げられていた。
「ハァァッ!」
勇者ハーミアが、真っ先に現れた第一の神獣・囚牛へ果敢に飛びかかっていた。黄金のオーラを纏わせた聖剣の大剣を、上段から渾身の力で振り下ろす。しかし、囚牛はその頭部に生えた頑強な牛の角で、激しい火花を散らしながら聖剣を一閃で振り払ってみせた。
「へへっ、こっちは僕が相手だ! 『聖光斬』!」
勇者タクミも二番目の黒き神獣・睚眦に向かって飛び掛かり、聖剣を豪快に薙ぎ払う。睚眦は嘲笑うように体を捻って攻撃を紙一重で躱すと、鋼鉄をも容易く切り裂く爪をタクミの喉元へ突き立てた。
タクミは咄嗟に聖剣の腹で爪を受け止め、甲高い金属音とともに反撃の蹴りを放つ。一歩も引かぬ激しい打ち合いが始まった。
さらにヴァルキリーたちが陣形を組んで襲いかかる。
スクルドは光を纏わせた大槍を深く構え、地を鳴らす蒲牢に向かって弾丸のごとく突き進む。
ヒルドは両手から解き放った紫電の雷撃を、燃え盛る獅子・狻猊へ向けて叩きつける。
スコグルはトライデントから激しい水撃を放ち、両生類の蚣蝮へ浴びせかけたが、水を司る蚣蝮には水魔法が一切通じず、冷や汗をかく。
フリストは鋭利な爪を光らせ、虎の龍・狻猊の襲撃を正面からガチッと受け止めて激しく押し合う。
「うりゃあ! これでも喰らいなさい!」
ユイが巨大な亀の龍・贔屓に向けて強烈な極大聖魔法を解き放ち、グレイアは黒髪をなびかせながら、守護を司る螭吻へ向けて無数の影の触手を伸縮自在に伸ばしていく。
仲間たちが完璧な連携で竜生九子の猛攻を食い止める中、前線で一際強い存在感を放つ二人が動き出した。
「じゃあ俺は、あの鳥頭の風伯を行かせてもらうぞ!」
雷神トールのライゾウが、その手に伝説の雷槌ミョルニルを握り締め、紫電を纏って風伯へと一気に肉薄する。
「では、私はあの雨師の首を頂戴するといたしましょう」
悪魔パイモンのアンナも、漆黒の槍を巧みに操りながら、静かに佇む雨師へと躍り出た。
「……ふむ、俺は高みの見物と決め込んでいていいのかな?」
俺は腰の神刀ムラマサに手を置いたまま、神眼アイから伝授されたスキル『鳥瞰』を発動させた。視界が上空へと広がり、戦場全体を完璧に俯瞰して把握する。
南の王国の最奥、蚩尤が潜む本拠地へと向かう道中、まんまと風伯と雨師による周到な待ち伏せに遭った格好だ。雨師が召喚した伝説の竜生九子により、戦場はかつてない激戦と化している。
だが、頼もしすぎる11人の仲間たちは、それぞれが的確に敵をマークして完璧に対処していた。
ライゾウと風伯の戦いでは、ライゾウがアリアから託された宝貝『息壌』を惜しげもなく解き放つ。
腰に下げた布袋から、無限の質量を持つ特殊な砂・息壌が怒濤の勢いで噴き出した。砂は空中であっという間に超硬度の巨大な土の槍へと姿を変え、凄まじい質量攻撃となって風伯へと迫る。
しかし、風伯は不敵に笑いながら左手の車輪と右手の扇を振り抜いた。
「ハハッ、甘いな!」
猛烈な超暴風が巻き起こり、迫り来る息壌の槍を丸ごと吹き飛ばして粉砕してしまう。さらに風伯の周囲には、極小の風の刃を孕んだ強風のバリアが狂乱するように纏い始めていた。息壌の砂すら、その暴風の壁を突き破ることができない。
「四罪の鯀が持っていた宝貝・息壌だな。先の電母との戦いは影からバッチリ見させてもらったよ。ふふっ、その程度の力ではこの俺の風は突破できん!」
風伯が勝ち誇ったように扇を鳴らすが、ライゾウはニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
「へっ、俺の武器が息壌だけだなんて思ってもらっちゃ困るぜ!」
ライゾウは右手に握りしめた絶対なる神具・雷槌ミョルニルに莫大な雷威を込めると、風伯の胸元を目掛けて思い切り投げつけ放った。
ゴオオッ! と空気を引き裂く音を立て、激しく回転するミョルニルが光の弾丸となって風伯へ肉薄する。
だが、風伯も即座に体を完全に『実体のない風』へと変化させ、間一髪でミョルニルの軌道からすり抜けて見せた。
「ふむ……風伯とライゾウの戦いは、まだまだ互いに手探りの状態だな」
上空から全体の戦況を見守りながら、俺は次の手を見極めるべく、静かに観察を続けるのだった。




