第420話 【驚愕の太古神獣召喚!】突如現れた風伯と雨師の凶絶なる牙!伝説の『竜生九子』が立ちはだかる決戦の火蓋!
前線拠点の城壁都市を奪還し、不落の防衛体制を整えた俺は、いよいよ蚩尤軍の本拠地を打倒すべく念話で精鋭メンバーを呼び寄せた。
俺の前に集結したのは、10人と1匹の絶対的戦力だ。
エルダーリッチの勇者ユイと、その肩で神聖な炎を揺らめかせる火の鳥フェン。
静寂な気品と鋭い眼光を併せ持つダークハイエルフのグレイア。
全身に紫電を迸らせる精霊代表・雷神トールのライゾウ。
過去のトラウマを乗り越え、決意を秘めた勇者ハーミアと勇者タクミ。
神聖なる純白の羽を大きく広げるヴァルキリーのスクルド、ヒルド、スコグル、フリスト。
そして、無数のキラーアントを従え絶対の忠誠を誓う悪魔パイモンのアンナ。
俺は頼もしい仲間たちの顔をぐるりと見渡した。
「この拠点の防衛は召喚した四将軍に任せて、俺たちはさらに先へ進むぞ!」
俺の力強い声に、全員が引き締まった表情で力強く答える。
「「「はい! 承知いたしました!」」」
吸血鬼真祖であるヒナの地下迷宮転移が発動し、視界が一瞬で眩い光に包まれる。俺たちは地表に溢れ返っていた魑魅魍魎たちの包囲網を完全に跳び越し、南の王国中央部のさらに南側——敵の広大な後方地域へと一瞬で躍り出た。
「さあ、ここから一気に最南端へ進むぞ!」
できる限り魑魅魍魎の群れに遭遇しないよう、隠密ルートを選んで疾走する。だが、敵の本丸に近づくにつれて気配の密度は加速度的に跳ね上がり、どうしても戦闘を回避できなくなってきた。
ライゾウの落雷とユイの広域魔法で敵を粉砕しながら突き進んでいた——その時だ。
突如として荒野にゴォッと不気味な旋風が巻き起こり、空間が大きく歪んだ。渦巻く風の最奥から、異形なる存在が凄まじい威圧感とともに舞い降りてくる。
「ハハハ! 樹海帝国皇帝ヒロト! やっと来たか!」
現れたのは四凶の凄腕・風伯だ。
鹿のように長い胴体に、鮮やかな豹柄の毛並み。孔雀の頭部には奇妙な二本の鋭い角が生えており、尻尾は毒蛇のそれという悪夢のような異形の姿。黒い道士服を身に纏い、頭には黒い道士の帽子を戴き、左手に武骨な車輪、右手に優雅に広げた扇を携えている。
「風伯か……だいぶ待たせたようだな」
俺は神刀ムラマサの柄に手をかけ、鋭く睨み据える。風伯は扇をあおぎながら高らかに笑い声を上げた。
「ははは! 随分と遅かったのでな、こちらも色々と準備させてもらったぞ。お前たちが難民の対応やザコどもと戯れている間に、魑魅魍魎たちは今や南の王国全土へ完全に広がった。そして……」
風伯が言葉を途切れさせると、そのすぐ隣で暗い湿気を孕んだ濃厚な霧が急速に立ち込め始めた。霧は見る見るうちに収束し、恐ろしい神気を放つ新たな人影へと形を変える。
「俺は雨師、名を萍翳という。お前たちが時間をくれたおかげで、最高の戦力を整えさせてもらったぞ」
そこに立っていたのは、豊かな髭を蓄えた壮年の男——雨師だった。
清潔な白い道士服を纏い、頭には黒い道士の帽子。左手には奇妙な皿状の盂を掲げ、一本足で不気味に立ち尽くしている。背中には神々しくも禍々しい二枚の一対の神鳥の翼が生え、右手の先からは清涼ながらも禍々しい水が絶え間なく溢れ出ていた。
雨師の右手から滑り落ちる水は生き物のように地表をのたうち回り、地面に色鮮やかな魔法陣を描き出していく。その数は瞬く間に九つに達した。
九つの魔法陣から、空気を押し潰すほどの凄絶な神気が怒濤となって吹き出す。
「十分な時間があったからな……これ以上ないほどの強化を施させてもらった。古代の神威を今ここに示そう」
雨師は静かに目を閉じ、朗々と呪文を唱え上げた。
「古に天を征した、伝説の竜が生んだ九匹の子よ。地を切り裂き、水を渡り、火を喰らい、空を駆けよ。そして伝説の竜を越えよ。此の地に蘇れ——『竜生九子』!」
雨師の叫びとともに、右手から流れる水が九つの魔法陣を強く黄金色に輝かせた。古代の封印が解かれ、圧倒的な圧迫感が俺たちの皮膚を刺す。
【囚牛】
最初に、一つの魔法陣を構成していた水が怪しく黄色く変色した。空間にどこか寂涼とした壮大かつ静かなメロディーが木霊する。魔法陣の中からぬっと現れたのは、黄色く細長い牛の形をした四つ足の龍だ。頭部には太い二本の牛の角が生え、全身は眩い龍の鱗で覆われている。
雨師が冷酷に命じる。
「囚牛よ、奴らを底なしの絶望に落とせ」
【睚眦】
続いて二つ目の魔法陣が禍々しい漆黒へと染まった。激しい怒気とともに、巨大な龍の口がガバッと開き、殺意に満ちた凄惨な眼光が俺たちを射抜く。刀身のような鋭い爪を持つ四つ足の龍——睚眦が不敵に口元を歪めて邪悪に笑った。
「睚眦よ、敵を骨ごと破壊せよ」
【嘲風】
三つ目の魔法陣からは水が瞬時に狂乱の嵐へと変化した。荒れ狂う暴風の中から、翼を羽ばたかせる鳥の形をした美しい龍——嘲風が天空高くへ飛翔する。
「嘲風よ、立ちふさがる者どもを吹き飛ばせ」
【蒲牢】
四つ目の魔法陣からは、地響きのような低く重厚な咆哮が響き渡った。ガッチリと大地を掴む四つの足はあまりに太く逞しい。咆哮の衝撃波だけで周囲の巨岩が粉々に砕け散る。無骨なる龍・蒲牢が吠えた。
「蒲牢よ、その咆哮で魂ごと吼えろ」
【狻猊】
五つ目の魔法陣からは、狂おしいほどの熱気が立ち昇り、黒煙が周囲を包み込んだ。煙の中から躍り出たのは、全身が激しく燃え盛る真っ赤な獅子の姿をした竜——狻猊だ。その眼光はすべてを焼き尽くす殺意に満ちている。
「狻猊よ、万物を灰燼へと燃やし尽くせ」
太古の伝説として語り継がれる『竜生九子』の怒濤の召喚。残り四体の神獣が姿を現そうとする中、あまりの暴虐な威圧感に、勇者タクミやハーミアは息を呑んで聖剣を強く握りしめた。
だが、俺たちの陣営に一切の恐怖はない。ライゾウが凶悪な笑みを浮かべ、ユイが杖を掲げ、ヴァルキリーたちが槍を構える。
「竜生九子か……面白い。まとめて叩き潰してやる!」
神話の化け物どもを相手に、俺たちの絶対なる無双の戦いが今、幕を開けようとしていた。




