第416話 【いざ南の王国へ!】敵の真の策謀を打破せよ!選ばれし精鋭眷属と因縁の勇者たちによる電撃侵攻作戦!
今のところ、南の王国から押し寄せる魑魅魍魎の波は北部境界線までは到達していない。だが、それらが早かれ遅かれ我が樹海帝国へ向かって雪崩れ込んでくるのは火を見るより明らかだった。
しかし、ふと俺の頭の中に懸念が浮かぶ。
……いや、待てよ? これは寧ろ、国民を恐怖で追い散らして意図的に難民化させ、我が樹海帝国に甚大な経済的・物流的負担を強いるという敵の策略なのではないだろうか?
そのために敵は、あらかじめ民を直接殺戮し尽くすのではなく、魑魅魍魎で脅かして難民として国外へ吐き出されるのをじっと待っているかのようにも見えた。
もしそれが敵の真の狙いなのだとすれば、まんまと上手くやられたと言わざるを得ない。
確かに俺たちは、突如発生した大凄惨な難民問題の対応に追われ、貴重な時間をかなり取られてしまった。
かつて戦った四凶の精鋭・雷公が去り際に残した『時間は随分稼がせて貰ったよ』という不穏な捨て台詞も、ずっと胸の奥に引っかかっている。あいつらは難民騒ぎを囮にして、南の王国の最南端で何か良からぬ企みを完遂させようとしているのだ。
「……だが、それもここまでだ」
難民救済のインフラと受け入れ態勢は、バズとヒナとサクラの3人に完璧に任せることができた。ならば、俺たちが指をくわえて待っている理由はどこにもない。いっちょう、敵の本拠地である南の王国へ直接乗り込むとしよう。
突入メンバーは、いつでも前線で動ける「妊娠していない妻たち」を中心に選抜することにした。
カチャッと静かな音を立てて、テーブルの上に淹れたての香ばしいコーヒーカップが置かれた。
「コーヒーを淹れました、旦那様」
メイド服を優雅になびかせたブラリリが、静かに微笑みながら控える。
「ありがとう、ブラリリ」
ここは樹海帝国城のゆったりとしたリビング。周囲には俺の愛する妻たちが勢揃いし、俺の決断をじっと待っていた。
俺は温かいコーヒーに一口口をつけ、妻たちを見渡しながらはっきりと告げた。
「これより、南の王国へ乗り込む」
その言葉を聞き、腕を組んでいたルシーがニヤリと肉食獣のような笑みを浮かべた。
「ふふっ、やっと動くのね。待ちくたびれたわ」
「ヒロト、決して無理はしないでね。私も分身体を出して一緒に行くわ」
気品あふれる応龍ハクが心配そうに身を乗り出してきたが、俺は優しく首を振った。
「ハク、気持ちは嬉しいけど諦めてくれ。妊娠中の身体で、いくら分身体とはいえ過酷な戦闘を行ったら本体にどんな悪影響が出るか分からないからね」
「そうね、ハク。今は大切なお腹の赤ちゃんを最優先にするべきだわ」
紫の髪を撫でながらサクラも同調し、ハクは少し悔しそうにしながらも大人しく引き下がった。
すると、白骨の美しさを漂わせるエルダーリッチのユイが、力強く一歩前へ出た。
「ハク様たちの代わりに、私が一緒に行くわ。私の魔法ならどんな魑魅魍魎が相手でも遅れは取らないもの」
「うん。突入メンバーの妻は決めたよ。ユイとグレイア、そしてアンナだ」
俺の指名に、三人が力強く頷いた。
ユイは異世界転移者であり、圧倒的な死霊術と攻撃魔法を操るエルダーリッチの勇者だ。その肩には、燃え盛る使い魔の火の鳥・フェンが静かに羽を休めている。
グレイアは、ダークエルフ国を統率する誇り高き女王であり、卓越した弓技と精霊魔法を誇るダークハイエルフだ。
そしてアンナは、かつてキマダラキラーアントエンプレスから悪魔パイモンへと超進化を遂げた強者。元は魔王軍四天王・謀略のジョローニの凄腕の部下だったが、俺との戦いを経て屈服し、眷属となった経緯を持つ。
アンナは鋼鉄をも凌駕する外皮に覆われており、単体での近接戦闘力も絶大だが、何より無数のキラーアント眷属を一瞬で召喚して軍勢を形成できる。さらに、極小の翅蟻の群れを放って忍者のように隠密情報収集を行うことも可能な、極めて頼りになる存在だった。
「妾も行けるぞ! 龍脈の知識なら誰よりもあるのじゃからな!」
ウィーラが小さな身体を乗り出して主張してきたが、俺は苦笑しながらその頭を撫でた。
「ウィーラには西部の難民対応と、バズの迷宮へ龍脈を接続する重大な仕事があるだろう? 頼むよ」
ウィーラは何か言いたそうに口を尖らせたが、ぐっと言葉を飲み込んで無言で引き下がる。
その横で、亜神ペナンガルであるビーもウズウズとした様子で視線を送ってきた。
「ビーも大自然南部の防衛線と難民保護の指揮があるからね。頼んだぞ」
ビーも納得したように深く頷いた。そこへ、ルシーが眉をひそめて質問を投げかける。
「ねえヒロト。相手は蚩尤一族の魑魅魍魎どもや四凶の残党、果ては亜神どもまでいるのよ? 妻たち3人だけじゃ、いくらなんでも戦力的に不足じゃないかしら?」
「そうだね。だから、小国群中央の難民キャンプから一気に敵陣深部へ奇襲を仕掛けるにあたって、圧倒的な火力を誇るライゾウと……それから、敵と深い因縁があるスクルドたちを連れていくよ」
精霊代表ライゾウは、雷の精霊から雷神トールへと至った樹海帝国屈指の破壊神だ。現在はアリアから託された宝貝『息壌』を保持しており、攻防において隙がない。
有翼人から進化を遂げたヴァルキリーのスクルドは、かつて南の王国の元国王親衛隊隊長であり、蚩尤一派の手によって惨殺された第2王子の婚約者でもあった。彼女率いるヴァルキリー部隊は、南の王国に対して誰よりも強い決着の意志を抱いている。
さらに、俺はニヤリと笑って追加のメンバーを告げた。
「あとは、同じくこの地に深い因縁を残している勇者ハーミア、ついでに勇者タクミも連れていこう」
勇者ハーミアは、アマゾネス国の元王女であり、純粋な正義を信条としていた乙女だ。しかし過去、四凶の『渾沌』に言葉巧みに騙され、南の王国の民を自らの手で大量殺戮させられるという絶望を味わい、その悲劇の中で覚醒勇者となった哀しき経歴を持つ。彼女にとっても、これは過去のトラウマを払拭するための戦いになるはずだ。
そして勇者タクミは、ユイと共にシルミル教国によって異世界から勇者召喚された青年だ。魔王討伐後に用済みとして抹殺される予定だった運命を知り、俺が魔王を封印した後に樹海帝国へと亡命してきた過去を持つ。
「よし、精鋭メンバーは揃ったな。敵がどんな策を弄していようと、俺たちの全力で粉砕して見せる!」
頼もしい眷属と勇者たちの瞳に激しい闘志の炎が宿るのを確認し、俺たちは決戦の地・南の王国へ向けて一歩を踏み出すのだった。




