第414話 【驚愕の龍脈×迷宮パイプライン!】小蜘蛛の大監視網が暴く南の王国の絶望と、完璧なる全土防衛陣形!
俺はバズの言葉に大きく頷くと、リビングで様子を見守っていたもう一人の重要な人物へと声を張り上げた。
「ちょっと待ってくれ。ウィーラ! こっちに来てくれ!」
呼ばれて奥のソファーから軽やかな足取りで近づいてきたのは、愛らしい姿に反して底知れぬ魔力を秘めた龍脈の魔女・ウィーラだ。彼女もまた、俺の愛する妻の一人である。
「なんじゃ、ヒロト。妾に何か用か?」
ウィーラは気が遠くなるほど長い年月、現在魔法国となっている領域の龍脈をたった一人で守り続けてきた歴史を持つ。その膨大な龍脈も、現在はハクたちの手によって四霊獣結界で頑丈に封印されている状態だ。
俺はまっすぐに彼女の瞳を見つめて言った。
「ウィーラが守っていたあの龍脈を貸してほしいんだ。バズの迷宮の中に引き込んで組み込みたい」
ウィーラはクスクスと可愛らしく微笑み、小さな手をひらひらと振った。
「なんじゃ、そんなことか。あの龍脈は別に妾の私物というわけでは無いからのう。妾はただ、昔あそこに囚われて守らされていたに過ぎん。妾に神託を下した転生神もとっくの昔に滅びておるし、おぬしが使うというなら何の遠慮も問題も無いのじゃ。好きに使うがよいぞ」
「助かるよ、ウィーラ!」
俺はウィーラにも、南の王国から押し寄せる膨大な難民問題の解決にダンジョンを活用する計画と、さっきサクラと話し合って決めた「龍脈による無限DP獲得作戦」の全貌を分かりやすく説明した。
そして、バズとウィーラには小国群の西部に位置する、現在絶賛難民を受け入れ中の迷宮『千尋の洞窟』の共同管理を任せることにしたのだ。
「まずバズ、お前の現在の迷宮から、管のように細い一本の洞窟通路をウィーラの龍脈がある場所まで地中深くへ伸ばすんだ。龍脈の核に迷宮が到達し、それを取り込むことができれば、そこから莫大なDPがどんどん取得できるようになる。そうなれば、サクラやヒナのように片側三車線の巨大な地下高速道路トンネルを掘るだけの余裕が生まれるはずだ。トンネルの規格や作り方は、ヒナとサクラにアドバイスを聞いて同じように作ってくれ」
バズは一瞬で表情を輝かせ、重厚な黒い翼を羽ばたかせて力強く胸を叩いた。
「ハッ! 承知いたしました、ヒロト陛下! その手があったとは……! 直ちに細管トンネルを龍脈へ向けて穿ち、莫大なDPを確保してみせます!」
「頼んだぞ。その後は、現在現地で難民対応にあたっているアマゾネス国のヒポリュテと念話で密に連携を取りながら進めてほしい。以前、モリー公爵軍との激戦の末にその戦場跡地に作った迷宮難民キャンプは、安全面を考慮してすべて地下深層の広大な迷宮空間へと移動させる。そして、これから南から流れてくる増え続ける難民は全員漏れなく受け入れるんだ。人数が増えた分だけ、獲得したDPで迷宮をどんどん縦横に拡張していけばいい。食料に関しては、帝国一の穀倉地帯であるガラード地域から、南西地域を経由して速やかに輸送する。ガラード地域から南西地域まではヒナのダンジョン転移で一瞬で送り、南西地域から難民キャンプまではバズのダンジョン転移で滑り込ませれば、広大な大陸を跨ぐ輸送時間が極端に短縮できるはずだ!」
こうして、南の王国から津波のように逃れてくる何十万もの難民問題は、ダンジョンの無限とも言える許容量と空間跳躍を活用することで見事に解決の道筋が立ち、頼もしい妻たちとバズへ丸投げ……いや、全面的に一任することに成功した。
さて、次に手を打つべきは、崩壊しつつある南の王国の惨状と、背後で糸を引く蚩尤一派の不気味な動向確認だな。
俺は部屋の影から静かに佇んでいた悪魔バエル・スパへと視線を向けた。
「スパ、南の王国の全体的な詳細状況はどこまで掴めたかい?」
アラクネエンプレスから悪魔バエルへと超進化を遂げたスパは、アラクネ時代から引き継いだ特殊能力である「無数の小蜘蛛」を用いた密密な監視網を張り巡らせる権能を持っている。
樹海帝国全土を網羅するその恐怖の監視網は、現在進行形で南の王国の深部へと忍び込ませていた。
スパは恭しくお辞儀をしながら、少し悔しそうに報告口調となった。
「申し訳ございません、陛下。我が配下の小蜘蛛たちが南の王国の北部境界線を突破し、潜入を開始した段階であり、まだ全土の完璧な状況把握には至っておりません」
「まあ、そう焦るな。広大な一国の全域となれば、そう簡単に展開できるわけもないさ」
「恐縮です。ですが陛下、全体図は見えずとも、大まかな異変の『傾向』だけは明確に掴めました」
「傾向……? 一体何が起きているんだ?」
俺が身を乗り出すと、スパは鋭い眼光を光らせて言葉を続けた。
「どうやら南の王国の中央部最南端……その極点付近から、凄まじい密度の魑魅魍魎たちがコンコンと湧き出ている模様です。そこを中心点として、波紋のように巨大な悪意と妖怪どもが北上し、各地へ雪崩れ込んでいるようでございます」
「なるほどな……。そこに南の王国の龍脈が存在していて、蚩尤やその配下の残党どもが陣取っている可能性が極めて高いな」
「左様かと。そして……その龍脈の中心点に近づけば近づくほど、周囲の都市は原型を留めぬほど荒れ果て、徘徊する魑魅魍魎の数も異常なまでに跳ね上がります。そのため、我が小蜘蛛たちの侵入すら困難を極めており、全容解明には相応の時間を要する見込みです。魑魅魍魎の中には小動物クラスの怪異も多数存在し、虫を喰らう者も多いため、潜入させた小蜘蛛が発見・捕食されて途絶するケースが急増しております」
「そうか……。無理をして全滅しては元も子もない。時間がかかるのは仕方がないさ。配下の被害をできるだけ最小限に抑えつつ、慎重に調査を進めてくれ」
「御意にございます。なお、南の王国全土にはまだまだ救いを求める大勢の国民が取り残されております。今後、南からの難民の波はますます爆発的に増加していくことでしょう。現在、かつてタキーダ辺境伯軍やオーダン侯爵軍が我が国へ侵略して攻め込んできた際の『主要進軍ルート』に沿って、大量の民が逃げ延びてきております」
「なるほど、かつての軍用道路なら道が整備されているから避難しやすいわけか。サクラとヒナにその情報を共有して、その主要ルートの出入り口付近にダイレクトで受け入れ用の迷宮口を開設してもらうとしよう」
スパは薄く微笑み、胸を張った。
「ふふっ、そちらの手配につきましては、すでにサクラ様とヒナ様へ伝達済みでございます」
「おおっ! さすがスパ、仕事が早いな! ありがとう。……よし、難民を救助するのと同時に、蚩尤たちの襲撃に備えた帝国の『第一防衛線』もその主要ルート上に前倒しで展開した方が良さそうだな」
「はい! 隙なく迎撃陣形を構築いたします!」
スパの力強い言葉に頷きながら、俺は南の王国の最南端でうごめく凶悪な気配を打ち破るべく、次なる決断へと意識を研ぎ澄ませるのだった。




