第411話 【南の王国の崩壊と難民津波!】大悪魔パイモンとバエルの陰の躍動!ダンジョンポイントを活用した驚愕の救済策!
静まり返った樹海帝国城のリビングに、不穏な緊張感が漂う。
俺はソファの背もたれに深く身体を預け、影から現れた悪魔パイモン・アンナへ鋭い視線を向けた。
「南の王国で魑魅魍魎が大発生していると言ったな……。現地の防衛機能はどうなっているんだ?」
俺の問いかけに対し、アンナは美しくも冷徹な顔立ちをわずかに曇らせ、丁寧に頭を下げながら説明を始めた。
「南の王国の兵士たちのほぼすべては、先日我が樹海帝国へ進軍してきた際、我が軍の圧倒的な武力によって完膚なまでに撃退されております。そのため、現在の南の王国における各都市の防備は絶望的なまでに不十分となっており、突如現れた魑魅魍魎たちを撃退する能力が残されておりません。何とか精鋭の衛兵たちが命がけで進撃を食い止めている大都市も僅かに存在しますが、村や町レベルの地方都市では一切の対応が不可能な状態です。その結果、人々は魑魅魍魎の手が迫る前に家財道具一式を急ぎまとめて難民化し、雪崩を打ったようにひたすら北へ、北へと避難を続けております。恐らく、小国群へ庇護を求めて流れてくる難民の数は、時間が経つほど爆発的に増えることでしょう」
想像を遥かに超える地獄絵図に、俺は眉をひそめた。
「そこまでの惨状とはな……。それは南の王国全体の都市で起きている話なのかね?」
「申し訳ございません、それは私にも分かりかねます。私の眷属である翅蟻たちが潜入しているのは、以前陛下がお忍びで訪問された南の王国の西部地域のみでございますので……」
「あぁ、そうだったな。よし……アンナ、スパと至急手分けをして、南の王国全体の詳細な状況を影から監視してくれ。何が起きているのか正確な情報が必要だ」
「畏まりました。直ちに配下を全土へ跳ばします」
アンナは優雅にお辞儀をすると、闇へと溶け込むように姿を消した。
俺は顎に手を当て、頭の中で大陸の地図を急速に広げた。
「さて……我が樹海帝国で、南の王国と直接境界線を接している地域はどこだったか。ヴァンスが治める国に有翼人国、アマゾネス国、それから大自然の南部と西部か」
すると、傍らに控えていた悪魔バエル・スパが、一歩前に進み出て恭しく補足を入れた。
「陛下、補足させていただきますと、南と接する小国群に関しましては、現在その殆どすべてが我が樹海帝国の『属国』となっております」
「えっ!? そうだっけ?」
思いがけない報告に、俺は思わず素の声を上げてしまった。
「ヴァンスの国とアマゾネス国、有翼人国……それから、以前南の王国のモリー公爵軍と一緒に戦った時に味方してくれたサルダス国、サウナバ国、サムルド国の三カ国。これらが帝国の傘下にあるのは知っているが……他の無数の小国たちは、一体いつの間に属国になったんだ?」
スパは不敵な笑みを口元に浮かべ、胸を張った。
「アマゾネス国の女王ヒポリュテが、あの地域一帯の小国群をすべて平らげたのでございます」
「おや……こんな短期間で小国群を制覇したのか。ヒポリュテも凄まじい手腕を発揮したものだな」
俺が感心して頷くと、スパは苦笑いを浮かべながらかぶりを振った。
「いえ、ヒポリュテが武力で圧倒したわけではございません。度重なる戦争や混乱の割を食い、疲弊しきっていた小国群の各指導者たちが、生き残るために自らヒポリュテへ助けを求め、挙って『我が国を属国にしてください』と涙ながらに嘆願してきたのです」
「……なるほどな。だが、アマゾネス国だけにそれほど膨大な他国の民や難民を養い、支援できるほどの余分な物資や食料があったのかい?」
アマゾネス国は質実剛健な武闘派国家だが、他国を経済的に救済するほどの富を蓄えているイメージはなかった。
その疑問に対し、スパは待っていましたと言わんばかりに瞳を輝かせた。
「ふふふ、それこそがヒポリュテの知謀にございます。彼女は以前、陛下が入手して与えられた『千尋の洞窟』をフル活用したのです。先の戦いでモリー公爵軍をダンジョンの地上部分で完全に殲滅した際、膨大な量のDP——ダンジョンポイントを獲得いたしました。ヒポリュテはそのDPを惜しみなく注ぎ込み、難民たちを受け入れるための強固な建屋と、大量の食料を一瞬で生成・準備したのです!」
「なんと……! DPを難民救済のインフラ整備に使ったのか!」
「左様でございます! さらに素晴らしいことに、その戦場跡地を難民キャンプ化したことで、難民たちがその場に留まり生活するだけで、ダンジョンには日々継続的に大量のDPが蓄積されていきます。その貯まったDPを活用し、日々最低限必要な食料を安定して供給し続けているのです。加えて、難民キャンプと化したダンジョンの地下深層には『狩り用のダンジョン』を新規構築し、難民の中の力自慢や元兵士たちに冒険者としての職を与え、自給自足のサイクルまで作り上げました」
スパの解説を聞き、俺は思わず膝を打った。
「成る程なぁ! ダンジョンの機能をフル活用して難民を受け入れるとは、実に見事なアイデアだ。素晴らしい応用力じゃないか。よし、今回の南の王国から押し寄せてくる難民たちの受け入れも、そのシステムをベースにして進めるとしよう」
こうして、樹海帝国内から蚩尤軍の刺客たちを追い払うことには成功したものの、帝国には「南の王国からの爆発的な難民流入」という新たな試練が容赦なく襲いかかってきた。
東方の蚩尤軍に対する防衛体制を固めつつ、日毎に増加する一方だという難民の大津波を塞ぐことなく受け入れ、処置しなければならない。
それに加え、底知れぬ気味悪さを残す南の王国の動向も実に不気味だ。
雷公が捨て台詞のように言い残していった——『計画は順調だ。時間は随分稼がせて貰ったよ』という言葉の意味は何なのか。背後で蚩尤らが何を企んでいるのか、嫌な予感が胸を締め付ける。
だが、今は考えるよりも動く時だ。
目の前に迫る最も喫緊の課題——『難民問題』の完璧な解決に向け、樹海帝国は新たな防衛と救済の陣形を展開し始めるのだった。




