第410話 【牛魔ハーゲンティ爆誕と雷公包囲網!】美麗なる悪魔女将軍の強襲!竜王山決戦決着と難民殺到の波乱!
落雷の激しい雷雲を突き抜け、青空が広がる超高空へ逃れた雷公だったが、その抜けた先にはすでに絶対の壁が立ち塞がっていた。
「逃がさんと言ったはずだぞ、邪神めッ!」
巨大な両翼を広げた竜王ドラシルが、雷公の出現位置を完璧に予測して待ち構えていたのだ。
ドラシルがその巨大な顎を開くと、高密度の光エネルギーが集約され、太いレーザービームのような純白のブレスが雷公を目掛けて一直線に放たれた!
ドゴォォォォォォンッ!!
「くっ……どこまでも湧いて出てくるかッ!」
雷公は全身を雷そのものへと変化させ、間一髪でレーザーの軌道から光速で退避する。
上空には超巨大な竜王ドラシル。そして下方の雷雲からは、追撃の手を緩めぬグレンシー、リリア、リーネットの悪魔三人衆が迫り寄る。
さらにそこへ——右手に『真っ赤な槌』を担ぎ、左手に『息壌』の布袋を掲げた雷神トール・ライゾウが、黄金の雷霆となって横合いから降臨した!
「観念するんだなッ! 雷公ッ! 貴様の逃げ場はどこにもねえぞッ!」
四方を完璧に塞がれ、絶体絶命の包囲網を敷かれた雷公は、不快そうに嘴を鳴らしたものの、次の瞬間にはフッと冷徹な嘲笑を浮かべて肩をすくめた。
「ふむ……これは流石に分が悪いな。ここは素直に負けを認めるとしよう。だが——笑うのはまだ早いぞ? 我らの計画は実に順調だ。十分すぎるほどの時間を稼がせて貰ったからな。ククク……また会おう樹海の者たちよ。次はこうは行かんぞ」
雷公が胸元の秘宝を光らせた瞬間、彼の全身が空間の歪みとともに強烈な転移の光に包まれた。
ライゾウがミョルニルを振り下ろすよりも早く、雷公の気配は完全に消失し、それと同時に戦域を覆っていた巨大な雷雲も、逃げ延びた電母の気配とともに嘘のように霧散していったのだ。
「チッ……土壇場で転移術式か! 逃げ足の速い野郎だぜッ!」
悔しそうに足踏みをするライゾウの元へ、空間が揺らぎ、四柱の神聖なる存在の分身たちが降り立った。
応龍ハク、麒麟コボミ、鳳凰ハピ、そして霊亀リザである。
四霊獣の分身体たちは即座に竜王山の頂へと降り立ち、秘術たる『四霊獣結界』を無駄なく展開。龍脈の狂乱を完璧に抑え込み、固く封印することに成功したのだった。
こうして、夸父を退けて古竜山脈の龍脈を封印し、雷公を撃退して竜王山の龍脈を封印するという、帝国にとっての二大危機は見事に去ったのである。
◇
同時刻——樹海帝国城の、豪華な調度が揃えられたいつものリビング。
俺はふかふかのソファに深々と腰掛け、愛する妻たちと念話の回線を繋ぎながら、戦場の過酷な推移を静かに見守っていた。
俺のすぐ隣に座り、お菓子を口に運んでいた異世界転移者でありダンジョンマスターの吸血鬼真祖・ヒナが、感心したように溜息を漏らす。
「はー、みんなどんどん進化していくねー。なんだか私、置いていかれちゃいそうなんだけどー」
その向かいで優雅に紅茶を味わっていた、同じく異世界転移者で深淵の魔女であるサクラが、苦笑いを浮かべながら同意した。
「そうねぇ。悪魔や亜神の領域に達した配下たちは、今や一軍を容易く滅ぼせるほどの強力な力を手にしているわ」
すると、元は人間でありながら今や美しき天使へと進化を遂げたアリアが、不思議そうに二人を見つめて口を開いた。
「でも、ヒナもサクラも……やろうと思えばいつでも次の段階へ進化できるのでしょう?」
サクラは愛猫のミサキを撫でながら、少し困ったように眉を下げた。
「進化自体はいつでもできるのだけれどね……長年『魔女』として生きてきたからかしら。別の種族に変わるとなると、どうにも踏ん切りがつかないのよ」
ヒナはぽっこりと膨らんだ自分の愛おしいお腹を優しく撫でながら、照れくさそうに笑う。
「私はねー、やっぱり今妊娠中だから、進化の衝撃で胎児に何か影響があったら嫌だなーって思って控えちゃってるのよねー」
そう、いま俺の傍らにいる妻たちは、揃って俺の子供を身籠っている産休中なのだ。
異世界に転移してきてから幾年もの間、俺の最高戦力として常に最前線で共に戦い抜いてきてくれた妻たちが今は休養を取っている。だからこそ、今回は他の眷属たちに前線を頼る戦術をとっていたのだ。
リビングの隅で静かに佇んでいた不死王のルシーが、落ち着いた声で会話に交ざってきた。
「私たちが産休で前線を離れているからこそ、眷属たちが危機感を覚えて死力を尽くし、その結果として覚醒進化を果たす者が一気に増えたのだろうね。怪我の功名という奴さ」
妻たちの和やかな会話に胸を撫で下ろしていたその時——空間が黒い火花を散らし、アラクネエンペラーから悪魔バエルへと超進化を果たしたスパが緊急出現した。
スパは膝をつき、緊迫した面持ちで報告を口にする。
「ヒロト陛下! 緊急事態にございます! 我が帝国が庇護する小国群の境界線に、南の王国から逃れてきた膨大な数の難民たちが庇護を求めて殺到しておりますッ!」
俺は身を起こし、鋭い視線をスパへ向けた。
「南の王国で何か大きな異変があったな……。確か南の王国には、アンナの眷属である翅蟻たちが潜入して監視を続けていたはずだ。まだ現地に監視用の翅蟻は残っているか?」
すると、俺の問いに答えるように、キラーアントエンプレスから悪魔パイモンへと進化を遂げたアンナがスーッと影から姿を現した。
アンナは重々しく首を縦に振る。
「はい、まだ現地に無数の翅蟻が残っております。……報告によりますと、現在南の王国全域において、地獄の蓋が空いたかのように『魑魅魍魎が大発生』している模様ですッ!」
「大発生だと……!?」
平穏が訪れたはずの部屋に、新たな大乱の予感が重重しく立ち込めるのだった。




