第405話 【覚醒の猛将と雷神の怒号!】出陣する精鋭悪魔軍団!宝貝『息壌』と雷神ライゾウのミョルニルが光速の電母を追い詰める!
雷公と電母という二柱の神々を打倒するため、本陣からはさらなる怒濤の増援軍が編成されていた。
出陣するのは、悪魔ビフロンスとなったデルガ侯爵の配下に属する悪魔エリゴス——グレンシール将軍率いる精鋭軍団だ。そして、その旗下には頼もしい三名の副将軍が名を連ねていた。
ゴーゴンエンプレスの美しき蛇姫・リリア。
ラミアエンプレスの妖艶なる将・リーネット。
そして、激戦を経てリザードマンエンペラーへと堂々の超進化を果たした武人・リガリア。
このリガリアという男、実は悪魔ゼパルであるリガント将軍の長男なのだが、過去に提示された眷属化の打診を愚かにも一度は拒んでしまったという経緯があった。
しかし、その後に樹海帝国の圧倒的な威光と眷属たちの凄まじい成長を目の当たりにし、己の不覚を痛切に猛反省。なんと全軍の前で泥に塗れて土下座をし、「どうか私をヒロト陛下の末席にお加えください!」と決死の覚悟で乞うてきたのだ。
その誠意と熱意を汲み取って無事に眷属として受け入れたところ、秘められていたポテンシャルが一気に開花し、リザードマンエンペラーへと一躍覚醒進化したというわけである。
「一時は己の無知ゆえに道を誤りかけましたが……いまやこの身と命はすべてヒロト陛下のために! 敵の神とやら、このリガリアの槍で突き穿って見せましょう!」
並々ならぬ気魄を滾らせるリガリアたちを乗せ、精鋭軍団は龍脈の異変が広がる竜王山へと猛然と出撃していった。
◇
一方その頃——竜王山の現場では、惨絶な光景が広がっていた。
神速の光を操る電母と、雷雲を操る邪悪な雲使い達による容赦なき猛攻を受け、竜人族の軍勢はまさに総崩れの壊滅状態に陥っていたのだ。
電母が放つ不可避の光の切断撃と、雲使い達が繰り出す凄まじい衝撃を孕んだ鞭の乱打。その苛烈な連携により、勇敢な竜人戦士たちの実に半数以上が、反撃の隙すら与えられぬまま命を落としていた。
「くっ……全軍、引けッ! 一端引き足を取るんだッ! 立ち止まるな、走れッ!」
竜人族の長であるドルニカの断腸の思いによる撤退指示を受け、生存した戦士たちは必死に後方へと後退を始めていた。
それを見下ろす雲使いの一匹が、幼い声でケラケラと無邪気かつ残酷に嘲笑う。
「あはははっ! 見て見て電母様、トカゲの化け物たちが尻尾を振って逃げ出していくよー!」
「ふふっ、無様ね……さて、これだけ打ちのメチャクチャにしておけば、後は龍脈から次々と湧き出る魑魅魍魎たちに任せても大丈夫でしょう。私たちは次の戦場へ向かって、残りの敵を掃除しに行くわよ」
電母が二枚の鏡を優雅に掲げ、転移の光を纏おうとしたその瞬間——天を突くような太い雷鳴と共に、一人の男が立ち塞がった!
「——待ちなッ!!」
爆炎のような威圧感を撒き散らしながら降臨したのは、雷神トールことライゾウであった!
「あはっ、今度は何? なんかヘンテコで強そうなおやじが突っ込んできたよー!」
雲使いが指を指してはしゃぐと、電母は不快そうに眉をひそめた。
「何者だい、アンタは? 邪魔をするなら一瞬で首を跳ねるわよ」
ライゾウはガシガシと豪快に頭を掻くと、ニヤリと鋭い八重歯を覗かせて胸を叩いた。
「俺様の名はライゾウ! 樹海帝国が誇る雷神トール様だッ!」
言い終わるよりも早く、電母の身体がギラリと目も眩むような光を放ち、その場からかき消えた。
次の瞬間、音も無くライゾウの真横へ現れた電母は、右手に持った白い鏡から光速の刃を繰り出し、ライゾウの首筋を容赦なく横一文字に刎ね飛ばした!
ズバッ!!
「もらったわ——なにッ!?」
手応えは確かにあった。しかし、切断されたはずのライゾウの首から血は一切吹き出さず、バチバチと弾ける紫色のプラズマへと変化して消えていく。
残像だ!
真のライゾウは、光速で移動した電母の背後へとすでに回り込んでいた。雷そのものの化身であるライゾウにとって、速度において彼女の後塵を拝することなどあり得ないのだ。
「フッ……なるほどな。速度だけなら俺様と互角ってわけだ」
竜王山の龍脈を不法に占領した蚩尤軍の神格、雷公と電母。
彼らが龍脈の莫大な魔力を用いて無限に産み出し続ける魑魅魍魎の群れと、それを阻止せんと立ち上がった樹海帝国の精鋭軍団。地表では双方の力が拮抗し、血で血を洗う泥沼の膠着状態が続いていた。
しかし、電母という圧倒的な超常の存在が戦場へ降臨したことで、竜人族は一方的に蹂躙され、戦界は破滅へと傾きかけていたのだ。
その最悪の局面を打破すべく、いま満を持して雷神トール・ライゾウが完璧な対抗策を携えて立ち塞がったのである!
ライゾウは懐から、アリアから預かった天使の宝貝『息壌』の小さな布袋を取り出した。
「さあて……お遊びはここまでだぜ!」
ライゾウが全身から黄金の神気を一気に注ぎ込むと、息壌の布袋の口がカッと見開かれ、そこから無尽蔵の土と砂利が凄まじい勢いで噴出し始めた!
ゴオオォォォォッ!!
それは瞬く間に広大な竜王山の戦域全体を覆い尽くし、あらゆる光を遮断する絶対不透過の超極大砂嵐となって旋風を巻き起こした。
異変を感じ取った電母は、即座に全身を光へと変化させて光速移動で離脱を図ろうとする。
しかし——
「えっ……!?嘘……移動が……できない……!?」
電母の瞳に動揺が走る。周囲を完全に埋め尽くした息壌の特殊な土粒子が、あらゆる光の通過を遮断・屈折・吸収してしまうため、光に変化して空間を移動するという彼女の絶対の能力が完全に封殺されてしまったのだ!
それどころか、上下左右の視界すらも濃密な砂嵐によって奪われ、一寸先すら見通せない闇の中に閉じ込められてしまう。
「ハッ! 捉えたぜッ!」
闇の中で不敵に笑うライゾウの右手には、黄金と深紅の強烈な稲妻を纏った神の武器『真っ赤な槌』が猛然と輝いていた。
意思を持つ宝貝・息壌は、主であるライゾウの進行方向を遮らぬよう上下左右へと滑らかに道を空け、同時に電母の正確な位置を振動でライゾウへと伝える。
「逃がさねえぞッ!」
光速の雷となって息壌の嵐を駆け抜けたライゾウは、完全に無防備となった電母の背後から、唸りを上げるミョルニルを渾身の力で振り下ろした!
「電母様ッ! 危ないッ!」
間一髪のところで察知した雲使いの一匹が、悲鳴を上げながら電母の背中を全力で突き飛ばした。
ドゴォォォォンッ!!
「ぎゃあああああああッ!?」
電母の身代わりとなった雲使いの小さく不気味な身体は、ミョルニルの絶大な一撃を受けて木っ端微塵に叩き潰され、激しい雷炎に包まれて一瞬で影も形もなく燃え尽きた。
「雲使いッ! おのれ……ッ!」
激毒の叫びを上げた電母は、上下の感覚すら失いそうな息壌の嵐の中を、まるで水中で必死に泳ぐかのように飛翔し、なんとかこの地獄の領域からの脱出を試みる。
ライゾウの直撃を免れていた残り二柱の雲使い達が、必死の面持ちで電母の両手を引き、後ろから背中を押して彼女を嵐の外へと逃がそうと全力を尽くす。
だが——神気と宝貝が織りなす完全なる連携から、逃れられるはずもない!
「遅ぇよッ!」
追撃の雷となって肉薄したライゾウが、再びミョルニルを天高く掲げ、電母の脳天目掛けて容赦なく振り下ろした!
「くっ……当たるかッ!」
電母は死力を尽くして体を捻り、脳天への直撃だけは直前でかわしてみせた。
だが——!
ズドォォォンッ!!
「つぅぅぅっ……!?」
直撃は免れたものの、左肩へミョルニルのかすり傷と猛烈な衝撃波が叩き込まれた。骨が砕けるような鈍い音と共に、電母の美しい顔が苦悶に歪む。
「何故……何故光に変身している私の身体を傷つけることができるのよ!?」
血を吐きながら叫ぶ電母に対し、ライゾウはミョルニルを肩に担ぎ、冷徹な眼光で見下ろした。
「甘く見るなよ。お前がどれだけ光になろうが概念になろうが、神の武器であるこの『真っ赤な槌』の神威からは絶対に逃れられんのだよ!」
「神の武器ですって……!?」
衝撃を受ける電母の前に、傷ついた二柱の雲使いが庇うように躍り出た。
「電母様! 私たちが命に代えても時間を稼ぎます! 私たちの生み出すこの濃密な雷雲の中に隠れて、早く脱出してくださいッ!」
忠義に燃える雲使い達が鞭を打ち鳴らし、息壌の嵐のただ中で必死に黒い雷雲を膨らませようと抵抗を開始するのだった。




