第403話 【古竜山脈の決着と竜王山の激闘!】身を辞した忠義の盾と四霊獣結界!襲来する雷公と電母に立ち向かう大自然の猛者たち!
剣神オニバルが放った必殺の奥義『伊都之尾羽張』。
空間すら歪める神殺しの凄まじい斬撃波が、逃走を図ろうとする巨神夸父の巨躯を飲み込もうとしたその刹那——!
「——夸父様ッ! お逃げ、く、だ……さ……ッ!!」
突如としてその直線上に割り込んできたのは、重傷を負っていたはずの巨人ゴリアテであった。
ゴリアテは右手の魔剣を捨て、左手に構えた巨大な大盾を全力で前に突き出し、主君である夸父を身挺にして庇い立てしたのだ。
ガキィィィィンッ!!
雷鳴のような硬質音が響き渡る。だが、神気を纏ったオニバルの黒刀『生大刀』の威力を前に、ゴリアテの大盾も、その分厚い肉体も抗う術はなかった。
ゴリアテの体は、頑強な大盾ごと綺麗な一直線を描いて上下真っ二つに切り裂かれていた。
「くっ……! すまん、ゴリアテ……ッ!」
苦渋の表情を浮かべた夸父は、忠臣が命を賭して稼ぎ出した僅か一瞬の隙を見逃さず、足元の龍脈の力を強引に暴走させて転移の光の中にその身を消し去った。
空を切った一撃を収め、オニバルは静かに納刀する。命を吹き飛ばされながらも仁王立ちのまま倒れたゴリアテの亡骸を見つめ、深く息を吐いた。
「己の命と引き換えに主人を逃がしたか……敵ながら、見事な忠義。あっぱれだ」
そのオニバルの背後から、二対四枚の竜の翼を優雅に揺らめかせながら、悪魔パイモンとなったアンナが空から舞い降りてきた。
「あらあら……逃げられてしまいましたね。流石は古代の巨神、逃げ足だけは一丁前ですこと」
アンナは呆れたように肩をすくめると、周囲を見回した。
「ですがオニバル将軍、これで邪魔者は片付きました。次はどういたしますの?」
「うむ。まずは師匠方をここへお呼びし、この荒れ狂う龍脈を完全に封印していただこう。これ以上、魑魅魍魎どもが湧き出てこられては後始末が面倒だからな」
「ええ、それが賢明ですわね」
アンナが同意の首を頷かせた直後、空間が波紋のように揺らぎ、四つの圧倒的な神威を纏った影が姿を現した。
現れたのは、四霊獣の分身体たちだ。
美しく高貴な青き龍——応龍のハク。神聖なる至高の獣——麒麟のコボミ。紅蓮の炎を纏う高潔なる鳥——鳳凰のハピ。そして万物を支える重厚なる大亀——霊亀のリザ。
ハクは優雅に長い胴体をくねらせ、アンナたちを見下ろして柔らかく微笑んだ。
「二人とも、見事な戦いぶりだったわ。ご苦労様。ここからは私たちが引き受けるわね。……あ、ちなみにヒロトは今、大自然の中央に位置する『竜王の山』での異常事態への対応で大忙しだから、ここには来られないわよ?」
「ヒロト様がご不在なのですか……? あら、それは少し残念ですわ」
アンナが少し寂しそうに微笑む間にも、四霊獣の分身体たちは素早く東西南北の四方に陣を取った。
「「「「四霊獣結界・四象封陣ッ!!」」」」
ハクたちの神聖な声が唱え合わさると、天と地を結ぶ光の柱が立ち昇り、古竜山脈の龍脈の穴を瞬く間に神聖な結界で覆い隠していった。溢れ出ていた黒い魔力と魑魅魍魎の発生が、ピタリと止まる。
「さて、残された魑魅魍魎どもを綺麗サッパリ掃討いたしましょうか!」
アンナは漆黒の魔槍を構え直し、オニバルと共に戦場に残留する雑兵の残党狩りへと向かって飛び出していった。
◇
一方その頃——古竜山脈から遥か遠く離れた『竜王の山』。
大自然の中央に鎮座するこの聖地もまた、古竜山脈とまったく同じ惨劇に見舞われていた。蚩尤軍の幹部である神『雷公』と『電母』の夫妻によって龍脈が占領され、吹き荒れる膨大な邪悪の魔力によって、凄まじい数の魑魅魍魎が次々と生み出されていたのだ。
だが、大自然の勢力も黙ってはいない。
大自然のまさに中心地である竜王山を守るため、四方の領域から救援の軍勢が続々と集結し、押し寄せる魑魅魍魎の大群と壮絶な激戦を繰り広げていた。
北部からは、スペクターエンペラーへと覚醒進化を果たしたアレオンが率いる、不気味な冷気を纏った漆黒のアンデッド軍団。
西部からは、グリフォン族の長でありグリフォンエンペラーへと昇格したリグルが率いる、天空を舞うグリフォンとヒッポグリフの飛行軍団。
南部からは、ミノタウロス族の長にしてミノタウロスエンペラーのミロイドが率いる、圧倒的な剛力を誇る重装歩兵のミノタウロス軍団。
東部からは、同じくスペクターエンペラーへと進化したコボ4が率いる、亡霊の眷属で構成されたアンデッド軍団。
そして中央部では、異変の発生直後から真っ先に刃を交えていた竜人族の長・ドルニカ率いる精鋭の竜人戦士たち。
さらに上空では、この地の主である竜王ドラシルと巨竜たちが、巨躯を踊らせて空を覆う魑魅魍魎と激しい流血の空戦を繰り広げていた。
しかし、龍脈の底なしの魔力を背景に、敵の数は一向に減る気配を見せない。
雲の上から戦況を見下ろしていた神・雷公は、鳥のような嘴を鳴らしながら、不満そうに太鼓を鳴らした。
「ふむ……圧倒的な数を背景にして押し込んではいるが、イマイチ決定力に欠けるな。一気に踏み潰せぬものか」
空中へ浮遊する雷公の姿は、実に異様であった。
青い肌に鳥の嘴を持ち、上半身は痩せ型ながらもしなやかな筋肉が引き締まっている。背には一対二枚の蝙蝠の翼が生え、足先は猛禽類の鋭い鉤爪となっていた。腰には緩やかな白いズボンを履き、その周囲には幾つもの太鼓が円を描いて浮遊している。右手には巨大なノミ、左手には重厚な木槌が握られていた。
その隣で、煌びやかな羽衣を風になびかせて宙に浮いていた妻の電母が、美しい笑みを浮かべた。
「そうね……なら、私が少しばかり手を出して散らしてきてあげるわ」
電母。雷公の妻であり、輝く羽衣を纏って天を舞う神だ。その両手には、それぞれ怪しい光を放つ二枚の鏡が握られていた。右手に持つのは白光を放つ鏡、左手に持つのは紅蓮の赤光を放つ鏡である。
「『雲使い』たち、私に続きなさい!」
電母が可憐な声で呼びかけると、彼女の周囲を飛び回っていた小さな影たちが一斉に歓声を上げた。
子供ほどのサイズをした可愛らしくも不気味な鬼たち——雲使いだ。彼らは羽衣を身に纏い、手に持った魔法の鞭を振るうことで、空に立ち込める凶悪な雷雲を自在に生成し、操る力を持っている。
「「「アイアイサーッ!!」」」
雲使い達が鞭を振るうと、竜王山の空が禍々しい暗雲によって覆い尽くされていく。
地上では、竜人族の長であるドルニカが、血煙を上げながら魑魅魍魎の群れの中央で猛威を振るっていた。
「チッ! こいつら、撃っても殴っても次から次へと地底から湧き出てきやがるッ!」
ドルニカは鬱陶しそうに叫ぶと、正面から飛びかかってきた魍魎の頭部を、鋼の如き巨大な拳で容赦なく叩き潰した!
ドガァンッ!
その直後、死角である背後からイノシシの姿をした巨大な魑魅が、猛烈な突進でドルニカの背中へ激突した!
バチィィンッ!
しかし、けたたましい金属音が響くだけで、ドルニカの身体は微動だにしない。竜人族の誇る鋼鉄よりも硬質な龍の鱗は、妖怪の体当たりなどかすり傷一つ負わせることはできないのだ。
「甘いんだよッ!」
ドルニカはバッと振り向くやいなや、丸太のような太い脚で豪快な後ろ回し蹴りを叩き込んだ!
ドスッッ!!
「ギャッ——!?」
強烈な一撃を受けたイノシシの魑魅は、頭部を木っ端微塵に吹き飛ばされて崩れ落ちた。
ドルニカだけでなく、彼が率いる竜人族の戦士たちは圧倒的な個の武力を誇り、次々と魑魅魍魎を撃破している。だが、無限に湧き出る敵の物量に押し込まれ、ジリジリと間合いを詰められつつあった。
「ぬぁぁぁッ!」
一人の竜人戦士が、正面から襲いかかってきた魍魎とガチリと手四つで組み合った。力比べで押し込むと、竜人戦士はそのまま無防備となった魍魎の腹部へ向けて、渾身の前蹴りを叩き込む!
グシャッ!
めり込む足先。魍魎は苦悶の声を上げて吹き飛ぶが、その背後からはさらに三匹、四匹と同族が押し寄せてくる。
戦場全体が底知れぬ泥沼の乱戦へと陥っていく中、空に立ち込めた黒雲から、いよいよ神々の残虐な閃光が解き放たれようとしていた。




