第401話 【百腕の巨神襲来と悪魔パイモンの妖艶なる覚醒!】キラーアント軍の死闘とオニバルの神速一閃によるヘカトンケイル屠殺劇!
蚩尤軍の幹部である巨神夸父が解き放った古代巨人族の中でも、一際異彩を放つ不気味な存在——それが巨神ヘカトンケイルだ。
むせ返るような圧迫感を誇る筋肉質の上半身は完全に裸であり、その背や肩、脇腹からは、不気味に蠢く無数の腕が生え揃っていた。その数、まさに百本。ヘカトンケイルたちはその百本の腕を縦横無尽に動かし、大地から膨大な魔力で生成した巨大な大岩を、投石機を遥かに上回る凄まじい連射速度で次々と投擲し始めていた。
ドガァァァンッ! ズドォォォンッ!
大気を引き裂く重音と共に打ち出された大岩の群れが、戦場を破壊し尽くす。
最初にその猛威へ挑んだのは、空を埋め尽くすアンナの翅蟻の大群であった。
「ギシャシャシャシャッ!」
空を黒く染め上げる翅蟻の群れは、猛スピードで飛来する大岩の隙間を滑らかに縫うように擦り抜けていく。まるで黒い霧や煙の中を巨大な岩石が虚しく通り抜けていくかのような、圧倒的な密度の回避行動だ。
翅蟻たちはそのままヘカトンケイルの巨躯へ一斉に群がり、その皮膚を食い破ろうと牙を立てた。しかし、古の巨神たるヘカトンケイルの皮膚は岩石のように強固であり、容易には噛み千切ることができない。
ならばと翅蟻たちは弱点である目や、口の中、鼻の穴へとなだれ込もうと猛攻を仕掛けた。
だが——
ゴオォォォォッ!
ヘカトンケイルが不気味に吼えると、その全身から煌々と輝く神気が爆発的に噴き出した! 圧倒的な神威の領域がその身を包み込む。
「ギシャァッ!?」
神気の障壁に阻まれた翅蟻たちは、一匹としてその内に立ち入ることができず、弾き飛ばされてしまう。
後方から戦況を見つめていたキラーアントエンプレスのアンナは、冷徹に事態を分析し、素早く指先を振った。
「無駄な消耗は避けます。翅蟻たちよ、対象をヘカトンケイルから周囲で湧き続ける魑魅魍魎の群れへと変更しなさい。敵の足止めと雑兵の殲滅に注力するのです!」
指揮を切り替えると同時に、次に立ち上がったのは地上の本隊であるキラーアント兵たちであった。
漆黒の硬質で強固な外皮に覆われた兵隊蟻たち。彼らがその手に握る漆黒の魔槍は、降り注ぐヘカトンケイルの大岩すら正面から一突きで粉砕するほどの威力を秘めている。
「主上のお力とならん! 全軍、突撃ッ!」
間断なく頭上から降り注ぐ大岩の乱打など意にも介さず、キラーアントたちは一丸となって地表を黒く染め上げながら突き進む。
そしてついに、キラーアントの群れがヘカトンケイルの足元へと激しく衝突した!
「ガアァァァッ!」
ヘカトンケイルは百本の腕を扇風機の羽のようにぶん回し、群がり寄るキラーアントたちを虫ケラのように殴り飛ばし、払い除けていく。
だが、キラーアントたちの闘志は一切衰えない。叩きつけられ、地面へ叩き落とされても、手足が動く限りは即座に跳び起き、凄まじい執念でヘカトンケイルの巨躯をよじ登り、顔面へと肉薄しようと必死に爪を立てる。
一匹、また一匹と登りつめる兵兵たち。何度も、何度も、泥臭く立ち向かうその圧倒的な数の暴力の前に、流石のヘカトンケイルも大岩を生成して投擲する余裕を完全に奪われ、ただ群がるキラーアントたちを振り払うことだけに全力を費やさざるを得なくなっていった。
やがて、数千の魔槍が一点に集中する。
何十回、何百回と繰り出される魔槍の連撃が、ついにヘカトンケイルの身を包む神気を打ち破った!
「ギガァッ!?」
神気を貫いた魔槍が、ヘカトンケイルの顔面や眼球へ深々と突き刺さっていく。
しかし——戦況は完全な膠着状態へと陥っていた。
ヘカトンケイルの耐久力はあまりにも高く、討伐には多大な時間を要する。その間にも、龍脈からは新たな魑魅魍魎が次々と溢れ出し、キラーアントたちの負担は増す一方であった。
この泥沼の耐久戦を前に、アンナは美しく引き締まった眉をひそめた。
「魑魅魍魎の勢いは増すばかり……ここで時間をかけている余裕はありませんね。やむを得ません、私も進化を解き放ちましょう。……ふふ、ヒロト様に見そめられたこの姿を、できることならあまり大きく変えたくはないのですが……」
アンナは覚悟を決めると、胸の前で両手を結び、内に秘めた莫大な魔力を一気に解放した!
ドゴォォォォンッ!!
溢れ出た深紅と漆黒の魔力が暴風となって渦巻き、アンナの全身を光の繭となって包み込む。
光が弾けたとき、そこに立っていたのは悪魔パイモンへと覚醒進化を果たしたアンナの艶やかな姿であった。
悪魔パイモン。
その姿は、進化前のキラーアントエンプレスの美しさを残しつつも、より洗練されたものへと昇華していた。美しく妖艶な女性の顔立ちはそのままに、頭部からはかつて存在した二本の触角が消え去り、代わりに神聖かつ禍々しい二本の羊の巻き角が美しく生え揃っている。その額には、宝石が散りばめられた絢爛豪華なティアラが眩い光を放ち、かつて四本あった腕は、滑らかな二本の美しい腕へと統一されていた。
そして背中に生えていた四枚の羽は、より力強く荘厳な二対四枚の漆黒の竜の翼へと変貌を遂げている。
その手に掲げられた漆黒の魔槍は、より深みのある暗黒の魔力を滾らせていた。
「ふふ……これで、邪魔者を一網打尽にできますわ」
二対四枚の漆黒の竜の翼が力強く羽ばたき、アンナの身体が一瞬で上空へと飛翔した。
音速を超えて飛来する大岩を優雅に揺らめくようにかわし、ヘカトンケイルの頭上へ肉薄する。
「消えなさい」
アンナが遥か上空から、手にした魔槍を遠目から豪快に袈裟懸けに振り下ろした!
ズバァァァンッ!!
目に見えぬ暗黒の斬撃波が空間を引き裂き、ヘカトンケイルの背から生えていた百本の腕のうち、十本ほどが一瞬でまとめて根元から削ぎ落とされた!
「グアアァァッ!?」
悲鳴を上げるヘカトンケイル。まさにその時——地表から恐るべき圧迫感を放つ影が一本の疾風となって割り込んできた!
「——極絶居合・断空ッ!」
シャキィィィンッ!!
一瞬の静寂ののち、凄まじい衝撃波が戦場を突き抜けた。オニバル将軍である!
剣聖たる彼の一閃は、ヘカトンケイルの巨躯を神気をごと真横に一刀両断に切り裂いていた。僅かな沈黙の後、ヘカトンケイルの上半身がずれて滑り落ち、重厚な地響きを立てて崩れ落ちる。
オニバルは静かに刀を鞘へと納めると、上空のアンナを見上げて言った。
「見事な一撃だ、アンナ。随分と腕を上げたな」
アンナは優雅に舞い降りると、少しだけ頬を膨らませて不満そうに溜め息をついた。
「もう……オニバル将軍。もう少し早く助けに来てくだされば、ヒロト陛下に愛していただいていた愛しい姿を変えずに済みましたものを……」
オニバルは厳格な顔を少しほころばせ、苦笑いを浮かべた。
「いや、姿が変わったと言っても大差はあるまい。むしろ、以前よりも遥かに妖艶で美しくなったと思うがな……陛下もきっと喜ばれるはずだ」
「あら……? ふふ、そう仰っていただけると少し安心いたしましたわ」
オニバルのお世辞にアンナは機嫌を良くし、艶やかな唇に笑みを浮かべた。そして、未だ龍脈の奥で不気味な威圧感を放ち続けている巨神の気配を見据える。
「さあ、無駄話はここまでにしておきましょう。早く『夸父』を討ち倒し、愛しいヒロト陛下の元へ帰りましょう」
「ああ、そうだな。遅れをとるわけにはいかん」
オニバルとアンナは、互いに競い合うようにして残るヘカトンケイルの群れへと突撃していった。
アンナの振るう漆黒の魔槍が音速を超えて打ち出され、ヘカトンケイルの巨大な頭部を一撃で突き壊して粉砕する!
その横からオニバルの神速の一閃が走り、別のヘカトンケイルの分厚い首筋を容赦なく斬り捨てる!
悪魔パイモンとなったアンナと剣聖オニバルの圧倒的な連着の前に、最強を誇った百腕の巨神たちは、なす術もなく屠られていくのだった。




