第399話 【巨人の猛威と悪魔サブナックの躍動!】オーガ軍団を襲うサイクロプスの暴力!危機を打ち砕くライゴーの極絶居合い斬り!
激しい死闘を繰り広げる巨神夸父と、巨大化した悪魔ボティスことリザルド。その背後上空から、恐るべき速度で影が迫っていた。悪魔ヴィネへと覚醒したライカだ。
ライカはライゴーの妹であり、元々はライオンの獣人であったが、進化を経て悪魔となった。暗黒の毛並みを持つ黒馬に跨り、背には一対二枚の漆黒のドラゴンの翼を羽ばたかせ、手には禍々しい黒い日本刀を握り締めている。
ライカを乗せた黒馬は空を滑空し、鋭い前足の蹄で夸父の後頭部目掛けて必殺の蹴りを繰り出した!
カツンッ!
だが、直撃の瞬前に奇妙な金属音が響く。夸父の頭部に巻き付いていた二匹の毒蛇が瞬時に首を伸ばし、牙を剥き出しにして黒馬の足へ喰らいつこうと跳ね上がったのだ!
「チッ、気配が見えていたかッ!」
ライカは即座に黒馬の背を蹴って跳躍し、空中で翼を広げて後方へと退避した。竜脈を奪った巨神の知覚能力は伊達ではない。
リザルドとライカが夸父との戦闘に突入していた頃——地上では、樹海帝国軍と魑魅魍魎の戦場に突如として投入された古代の巨人族が、猛烈な暴虐を振るい始めていた。
その先陣を切ったのは、巨神サイクロプスたちだ。
中央に巨大な単眼を一つ持ち、額からは一本の太い角が生えている。筋肉の塊のような深緑色の体躯は上半身を裸に晒し、腰に獣の皮を巻き、手には大人数人分の太さがある膨大な金属製の棍棒を携えていた。
対するは、樹海帝国が誇る重装歩兵・オーガ軍団である。
オーガも人間に比べれば遥かに巨大な種族だが、サイクロプスの圧倒的な体躯の前では子供も同然。力比べにおいても、古代から生きる巨神の怪力には及ばなかった。
「グオォォォォッ!!」
サイクロプスが豪快に振り下ろした金属棍棒が、地響きと共にオーガ兵たちを殴り飛ばす!
ドガァァァンッ!
「ぐはッ!?」「ぬおおぉぉっ!」
吹っ飛ばされるオーガ兵たち。しかし、彼らが身に着けているのは樹海帝国の技術の結晶であるアダマンタイト製のフルプレートアーマーだ。衝撃こそ殺しきれないものの、防具の頑強さによって辛うじで即死や致命傷だけは免れていた。
立ち上がったオーガ兵が魔剣を構え、サイクロプスの足元へ肉薄して豪快に斬りつける! だが、サイクロプスの岩のように硬化された皮膚は傷一つ負わない。
「ガアァァッ!」
サイクロプスは鬱陶しそうに振り向くと、身を捩らせて棍棒を叩きつける。オーガ兵はアダマンタイトの盾を斜めに構えて受け流そうと試みるが、あまりの質量と打撃の威力、そして巻き起こる衝撃波の威力を完全には殺しきれず、まるで弾丸のように後方へ吹き飛ばされてしまった。
その凄惨な戦況を目撃し、オーガ軍団の頂点に立つオガ1が豪快に割って入った。
「どけッ、どけいッ! ここは俺がやる! ヒロト陛下に直談判して出撃をお願いしたのだ! こんな場所で我が軍が退けるものかぁぁッ!」
オガ1の体躯は普通のオーガより二回り以上巨大だが、それでもサイクロプスの見上げるような高さまでは届かない。
しかし、オガ1の戦闘技術は一兵卒の比ではなかった。正面から振り下ろされたサイクロプスの棍棒に対し、絶妙な角度で盾を滑らせ、凄まじい衝撃を横へと受け流してみせたのだ!
「ぬおおぉぉッ! 受け流したぞッ!」
敵の体勢が崩れた一瞬の隙を見逃さず、オガ1は全身の踏み込みを乗せて大剣を突き出した!
ズドォォォンッ!
「ガアァッ!?」
凄まじい手応えと共に、オガ1の持てる魔剣がサイクロプスの分厚い胸板へ深く突き刺さる!
だが、勝利の歓喜は続かない。オガ1の背後から、もう一頭のサイクロプスが不気味に忍び寄り、棍棒を振り上げていたのだ!
「チッ、抜けろッ!」
オガ1は慌てて突き刺さった大剣を引き抜こうとした。しかし、サイクロプスの強固すぎる大胸筋が死体のように収縮し、刃をしっかりと噛み込んで離さない!
「ぬぅぁぁぁッ!」
迫る背後の気配に対し、オガ1は強引にサイクロプスの腹を前蹴りで踏みつけ、力任せに大剣を肉から引き抜いた!
だが、その僅かなタイムロスによって背後からの防御が完全に遅れてしまう。
ドガッッ!!
「ぐはぁぁッ!?」
振り下ろされたサイクロプスの棍棒が、オガ1の右肩を容赦なく打ち砕いた。アダマンタイトの鎧が歪み、右肩の骨が粉砕する嫌な音が響く。手に握っていた大剣がガラガラと地表へ転がり落ちた。
さらに追い打ちをかけるように、サイクロプスが間髪入れず二撃目の棍棒を振るう!
「舐めるなよッ!」
オガ1は激痛に顔を歪ませながらも、残された左手の盾を掲げて間一髪で受け流す。
彼が持つエンペラー種特有の『超回復』の力が発動し、破壊された右肩の肉と骨がミチミチと音を立てて爆速で再生を始めていく。
だが、死角からさらに二体のサイクロプスが進み出てきて、オガ1を包囲するように立ち塞がった。
「チッ……これは流石に不味いな」
三体のサイクロプスが絶え間なく叩き込んでくる棍棒の猛攻に対し、武器を失ったオガ1は防戦一方に追い込まれる。左手の盾だけで巨大な質量を受け続けるのには限界があり、次第に完璧な防振りが崩れ、棍棒の威力がかすり始めていく。
そして——ついに決定的な直撃がオガ1を襲った。
ズドォォォンッ!!
「がはっ……!!」
側面に回り込んだサイクロプスの棍棒が、オガ1の無防備な右脇腹へまともに直撃! 衝撃で体が「く」の字に折れ曲がり、オガ1の巨躯が数メートルにわたって泥を巻き上げながら叩き飛ばされた。
「ガアァァッ!」
好機と見たサイクロプスが大きく跳躍! 倒れ伏すオガ1の頭上から、止めと言わんばかりに両手で構えた棍棒を一直線に振り下ろす!
絶体絶命——その瞬間!
斜め上空から一筋の青い閃光が飛び込んできた!
ドスッッ!!
「ギガァッ!?」
霊馬・青い馬の鋭い前足が、空中から落下してきたサイクロプスの中央にある巨大な一つ目を正確無比に踏み潰したのだ!
悲鳴を上げる巨神の頭上へ、新たに覚醒を果たした悪魔サブナックのライゴーが降臨していた。
「ぬんッ!!」
シャキィィィンッ!
ライゴーは抜刀術の神速の一閃を繰り出す。空中で刃が煌めいた瞬間、跳躍していたサイクロプスが棍棒を握る右腕が、肘の根元から綺麗に切断されて宙を舞った!
鮮血が噴き出す中、ライゴーは優雅に着地を決める。
「ふう……オガ1さん、なかなか苦労されているようですね」
地面に片膝をつきながら立ち上がろうとしていたオガ1は、苦笑いを浮かべながら息を吐いた。
「ふっ……ライゴーか、助かったぞ。少しだけでいい、そいつらの相手をして時間を稼いでくれ」
ライゴーは手に持った漆黒の刀を静かに鞘へと収めながら、不敵に口角を上げた。
「ちょっとの時間があれば、この程度の巨人ども、全員まとめて殲滅しちゃいますよ?」
オガ1はニヤリと力強く笑い返した。
「ハハッ! それならそれで願ったり叶ったりだ!」
片膝をついていたオガ1が完全に立ち上がる。エンペラー種の圧倒的な超回復能力によって、破壊されていた右肩も潰された脇腹も、瞬く間に元通りの健常な状態へと治癒していた。
ライゴーは身を翻すと、腕を斬られて痛みに狂うサイクロプスの懐へ一瞬で踏み込み、逆手の一閃でその分厚い首筋を真っ二つに切り払った!
巨大な胴体が地響きを立てて倒れる。
「ではオガ1さん、後をお願いしますね!」
ライゴーは次の敵を求めて再びドラゴンの翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がった。
残された青い馬もまた、嘶きを上げながらオガ1の傍らに寄り添い、周囲から群がり寄ってくる魑魅魍魎の群れを強烈な後ろ蹴りで景気良く蹴り飛ばしていくのだった。




