第398話 【巨人軍団降臨と激震の巨神戦!】龍脈から目覚める古の巨人族!悪魔ボティス・リザルドと巨神夸父の天動地鳴の大激突!
前線を破壊し尽くす翅蟻の大群に歩調を合わせるように、ゴブリン軍団の右翼を率いるゴブ1は、無駄な混戦を避けるべく滑らかに右へ旋回しながら進軍した。
「左へ迂回だ! 翅蟻の喰い残した獲物の首を確実に刈り取れ!」
同じく左翼を展開するオーガ軍団のオガ1も重厚な指示を飛ばす。
黒いアダマンタイトの鎧を鳴らし、巨大な魔剣を一閃して魑魅魍魎の首を片端から叩き斬りながら、手際よく左へと旋回していく。絶命した魔獣や鬼の死骸を、確実に息の根を止めて踏み越えていく圧倒的な軍隊の行進だ。
そして、ゴブリンとオーガの何倍もの数を誇るキラーアントの大軍勢が、その後に続いて地表を埋め尽くす。手に握った魔槍を一突きごとに心臓へ突き刺し、漏れ出た残党の死角を完膚なきまでに掃討していく。
その凄惨なる死の行軍の後方から、覚醒を果たした二人の若き勇者が凄まじい速度で駆け抜けてきた。
前方の凄惨な蹂躙劇を目撃した勇者タクミは、呆れたように苦笑いを浮かべた。
「おいおい冗談だろ……敵の大軍勢のはずなのに、先行部隊にすっかり倒し尽くされて残骸しか残ってないぞ!」
並走する勇者ハーミアも、焦りを露わにしながら鋭い目つきで前を見据える。
「急がないと、私たちが戦う相手がいなくなってしまうわ! 速度を上げて!」
二人は魔力を足裏に集中させ、風を切って走る速度をさらに引き上げた。
さらにその遥か後方からは、重厚な圧迫感を放つ一陣の騎馬隊が悠然と佇みながら進んでくる。
剣聖たる悪魔キマリスのオニバルは、神獣の血を引く巨大な漆黒のスレイプニルに跨り、堂々たる将の風格で馬を進めていた。
その右脇を固めるのは、青い毛並みを輝かせる霊馬に乗った悪魔サブナックのライゴー。
左脇を固めるのは、暗黒の気を纏う黒馬に跨った悪魔ヴィネのライカ。
そして彼らの頭上遥か高みを、圧倒的なスピードで滑空していく影があった。全身から溢れ出る狂気と闘志を滾らせ、巨神『夸父』を目がけて一直線に飛んでいく悪魔ボティスのリザルドだ。
「待ってろよォォォ! 夸父ッ! その首、俺が貰うぞッ!」
上空へ遠ざかっていくリザルドの背中を見上げ、ライカは馬の手綱を強く握り直した。
「私たちも急がないと、リザルド元帥一人に手柄を全部持っていかれてしまいますわ!」
しかし、隣を走るライゴーは冷静に周囲の気配を探りながら言った。
「焦るな、ライカ。魑魅魍魎の掃討はゴブ1さんやオガ1さんたちの軍の仕事だ。俺たちの本命はあくまで敵の頭目である夸父ただ一人。一直線に本陣を目指せばいい」
重厚な鎧の音を響かせながら、中央のオニバルが静かな重低音で口を開いた。
「なに、そう焦るな。手柄を焦るなら、リザルド元帥のように翼を広げて飛んでいくといい。……この後方の警戒は、俺一人でも充分すぎるほどだ」
オニバルの言葉に、ライカは少し不思議そうに首をかしげた。
「警戒……ですか? 敵の軍勢は全滅寸前だというのに?」
「戦というものは、常に何が起きるか分からんものだ。万が一にも龍脈の奥から新たな別動隊が出現し、我らが前後から挟撃されるような事態となれば、一転して危険な状態に陥る。だからこその警戒だ」
「なるほど……流石は軍師の役割もこなすオニバル様ですね」
ライカは深く納得して頷いた。オニバルは続けてライカを見据え、指示を出した。
「夸父の本当の実力はまだ未知数だ。ライカ、貴様は先行してリザルド元帥の手助けをしてこい。ただし、初手と止めのトドメはあくまでリザルド元帥に譲るのだぞ。出しゃばりすぎず、あくまでアシストに徹するのだ」
「承知いたしました!」
ライカは背中から漆黒のドラゴンの翼を豪快に広げると、乗っていた青い霊馬ごと空間を蹴り、一気に空へと高く飛翔していった。
◇
古竜の山脈、龍脈の深部。
龍脈を占拠し、不敵な笑みを浮かべていた『蚩尤』軍の幹部である巨神『夸父』は、眼下に広がる信じがたい地獄絵図に初めて眉をひそめていた。
龍脈の莫大な魔力を利用し、異界から魑魅魍魎を無制限に湧き出させていたはずだった。しかし、樹海帝国が誇る圧倒的な軍事力と恐ろしい殲滅スピードの前に、数万の魔獣や鬼たちは文字通り虫ケラのようにすり潰されていく。
「むむむ……奴らめ、案外やるではないか。魑魅魍魎どもでは役不足だったか……。流石はあの人間どもを統べる樹海帝国の手下と言ったところか」
夸父は舌打ちを漏らすと、太い腕を振り上げ、龍脈の直上に新たなる巨大な血色の魔方陣を展開した。
「龍脈の絶大なる力を借り受け、深淵の闇より我が配下なる古の巨神たちの復活を求む! 出よ! 我が精鋭たる巨人どもよ! 矮小な虫ケラどもに巨大なる圧倒的暴力を見せてやれッ!」
ゴオオォォォォッ……!!
龍脈から滾々と溢れ出る膨大な魔力が魔方陣へと流れ込み、地響きと共に大空を穿つような巨大な影が次々と姿を現した。
一つ目の獰猛な巨神、サイクロプス!
二つ目の角を持ち山のごとき巨躯を誇る、ギガンテス!
百本の腕を不気味に蠢かせる異形、ヘカトンケイル!
そして、全身を重厚な鉄の鎧で固めた古代の絶対王者、巨神ゴリアテ!
古代の戦場を震撼させた伝説の巨人軍団が、地揺らしながら立ち立ち並ぶ。
「我が誇り高き眷属の巨人たちよ、行けぇッ! 敵を一人残らず踏みつぶせッ!」
夸父の怒号のような命を受け、巨神たちは地響きを立てて戦場へと進撃を開始した。
魑魅魍魎の背後から迫る圧倒的な巨人の群れ。
まさにその時——上空の暗雲を突き破り、音速を超えた漆黒の影が夸父の頭上へと垂直降下してきた!
「見つけたぞォォォッ! 蚩尤の犬ッ! 夸父なぁぁぁッ!!」
急降下してきたのは悪魔ボティスことリザルドだ!
元蛇王国の国王であり、バジリスクから幾重もの進化を経て悪魔へと至った彼は、全身を漆黒の鎧で固め、手に握った漆黒の大剣から莫大な殺気を放っている。頭部からは二本の禍々しい角が伸び、鋭い牙を剥き出しにしながら、一対二枚の蝙蝠の翼を羽ばたかせていた。
夸父の巨躯は、普通のリザルドの二倍以上の身長を誇る。
だがリザルドは一切の怯みもなく、全身の筋力を極限まで振り絞り、大剣を夸父の脳天目掛けて一直線に振り下ろした!
「ハッ、小癪な蜥蜴がッ!」
夸父は重厚な足取りで一歩踏み込むと、凄まじい反応速度で右手を出した。リザルドが両手で大剣を握るその腕ごと、丸太のような巨手で鷲掴みにしたのだ!
「チッ……ッ!」
腕を封じられたリザルドは、即座に大剣の柄から手を離すと、空中で体を反転させ、夸父の極太の右腕を力任せに両足で蹴りつけて後方へと離脱した。
「死ねいッ!」
離脱した瞬間、夸父の太い左の拳が空を切り、凶悪な砲弾となってリザルドへ襲いかかる!
「甘いッ!」
リザルドは空中で翼を羽ばたかせて間一髪でその拳をかわし、再び上空へと静かに浮遊した。
全身から漆黒の邪気がドロリと湧き出だし、ドロドロとした濃密な闇の気配がリザルドの全身を包み込んでいく。
「ふん……図体がデカいからって、俺より有利だと思うなよ?」
ゴゴゴゴゴゴッ……!!
リザルドの全身が莫大な魔力を吸い上げ、風船のように一気に膨れ上がっていく! 骨が鳴り、肉が再構築され、ほんの数秒のうちに——リザルドの体躯は夸父と全く同じ巨大な悪魔の姿へと巨大化した!
見下ろす視線が対等になったリザルドは、凶暴な笑みを浮かべながら喉を鳴らした。
「ガハハハハッ! これで同じ大きさだ! 存分に殴り合おうぜッ!」
誇り高き巨神夸父は、鼻で笑いながら冷たく吐き捨てた。
「ふん。図体を合わせたところで、中身が伴わねば意味がないわ!」
「喋る舌から引き抜いてやるッ!」
巨大化したリザルドが、身の丈を超える巨大大剣を横一文字に豪快に薙ぎ払った! 空気が引き裂かれ、凄まじい衝撃波が巻き起こる!
だが、夸父の戦闘勘は極限まで研ぎ澄まされていた。
「ぬんッ!」
夸父は逃げるどころか、死角となる剣筋の内側へと豪快に踏み込んだ! 大剣が最大の威力を発揮する前に、リザルドの左手首をガチリと受けて制殺する!
そしてそれと同時に——踏み込んだ勢いを全て乗せた右のカウンターフックが、唸りを上げてリザルドの左こめかみへと炸裂した!
ドガァァァァァンッッ!!
「ぐあぁぁっ!?」
あまりの衝撃に、巨体となったリザルドの身体がくの字に折り曲がり、山肌へと猛烈な勢いで叩き飛ばされた! 激しい土煙が上がり、山の一部が崩落する!
叩きつけられた衝撃で頭を振りながら、リザルドはペッと血を吐き捨てた。
「くぅ……ッ、なかなか効くパンチじゃねえか……ッ!」
「死ねぇッ!」
追撃の手を緩めない夸父が、天高く跳躍! 組んだ両手をハンマーのように振り上げ、倒れ伏すリザルドの脳天目掛けて一直線に振り下ろしてきた!
「させるかよッ!」
リザルドは泥泥になりながら横へと間一髪で転がり、回避した!
ズドォォォォォンッッ!!
夸父の振り下ろした両拳が地表を撃ち抜き、周囲数キロの地面が爆発したかのように陥没し、巨大なクレーターが組み上がった。
土煙が舞う中、夸父はすぐさま鋭い眼光でリザルドを向き直し、腰を落として身構える。
リザルドもまた素早く巨体を起こすと、大剣を中段に深く構え直し、ギラギラとした肉食獣の瞳で立ち塞がった。
両者の間に流れるのは、一触即発の圧倒的な殺気。命をかけた巨神同士の死闘が、ここに本格的な幕を開けたのだった!




