第397話 【圧殺の軍勢と黒き怒濤!】樹海帝国無双の大軍勢進軍!翅蟻の地獄と覚醒勇者結集による凶悪なる龍脈奪還戦!
俺は一瞬の思考の後に転移魔法を発動し、幾重にも重なる絶望的な悲鳴が響き渡る古竜の山脈の最前線へと足を踏み入れ、古竜たちの救援に駆けつけた。
「ドライマ、待たせたな! 到着したぞ」
俺の姿を視認した瞬間、古竜ドライマは涙目になりながら巨大な翼をバタつかせ、安堵と切迫感が混ざり合った声を上げた。
「お、遅いですよヒロト陛下ぁ! 龍脈から溢れ出る魑魅魍魎の数が多すぎて、我ら古竜だけではもう抑えきれません!」
「大丈夫だ、落ち着け。……まずは、我が帝国の誇る膨大な軍勢を投入する! 出でよ、ゴブ1、オガ1!」
俺が空間を切り裂いて召喚魔法を発動すると、眩い光の柱と共にゴブ1とオガ1が堂々と姿を現した。
ゴブ1は深く膝をつき、力強い声で応える。
「お呼び立ていただき、光栄の極みにございますヒロト陛下! 我が配下どもが地道な訓練と迷宮探索で積み上げてきた修行の成果、とくとご覧に入れましょう!」
続いて、並外れた巨躯を誇るオガ1も胸を叩き、獰猛な笑みを浮かべた。
「あの異形どもに負けるつもりは毛頭ございません。我が軍の力、存分に見せつけてやりましょう」
二人は間髪入れずにそれぞれの『眷属召喚』を一斉に展開した。
ゴブ1とオガ1の背後の空間が黒い歪みとなって広がり、そこから恐ろしいほど整然と整列した大軍勢が怒濤のごとく湧き出し始める!
そこにいたのは、かつての弱小な怪物たちの面影など微塵もない恐るべき精鋭集団であった。全員が漆黒に輝く樹海帝国特製のアダマンタイト製フルプレートアーマーに身を包み、鋭い魔力を放つ黒き魔剣と頑強な盾を掲げている。
進化の域に達した者たちばかりであり、最下級の通常のゴブリンやオーガなど一匹として存在しない。
ゴブリンソルジャー、ゴブリンナイト、ゴブリンジェネラル、そして圧倒的な圧迫感を放つゴブリンキング!
オーガ側も同様に、巨漢のオーガナイトやジェネラル級がずらりと居並ぶ。
ゴブ1が魔剣を天に掲げ、腹の底から叫んだ。
「全軍、出撃ィッ! 我が帝国の威光を奴らに刻み込めッ!」
オガ1もまた重低音の咆哮を轟かせる。
「行けッ! 立ち塞がる魑魅魍魎どもを根こそぎ蹂躙せよッ!」
黒い鉄の塊と化したゴブリン軍団とオーガ軍団の無数の大群が、山を埋め尽くしていた魑魅魍魎の群れへと一気に激突した!
「そして……次はアンナだ!」
俺が続けて呼び出すと、キラーアントエンプレスのアンナが美しくも凛とした立ち姿で降臨した。
「お召しいただき感謝いたします、ヒロト様。不浄なる敵どもを根こそぎ殲滅してご覧にいれましょう」
アンナが優雅に腕を掲げると、広大な召喚陣から黒く光り輝く強固な外皮を持つキラーアントの大軍勢が次々と姿を現した。手に携えた凶悪な魔槍を掲げ、兵隊蟻たちは一丸となって地表を黒く染め上げながら進軍を開始する。
さらに、アンナは両手を高く突き上げた。
「舞い散りなさい、我が愛しき子供たちッ!」
空中に巨大な魔導陣が描き出され、そこからまるで巨大な漆黒の煙が噴き出すかのように、果てしない数の小さな翅蟻の大群が空へと溢れ出た! 空を黒く塗りつぶした翅蟻の雲は、圧倒的な速度で滑空し、地上の魑魅魍魎の頭上へと襲いかかっていく!
古竜の山脈の龍脈を強奪した戦神『蚩尤』の軍勢に対し、無数の猛攻を仕掛けるゴブリン軍、オーガ軍、キラーアント軍、そして空を覆う翅蟻の大群。
だが、これで終わりではない。続いて投入するのは一騎当千の圧倒的な個の戦力だ。
まずは、さらなるレベルアップと進化が急務である覚醒勇者たち。
俺は勇者タクミと、先ほど眷属とした勇者ハーミアを召喚した。
「二人とも覚醒勇者としてはこれが初顔合わせだが、今は互いに協力して目の前の魑魅魍魎どもを倒しまくってくれ。実戦で進化を果たせたらあの巨神『夸父』に挑んでも構わないが、進化前は絶対に無理をするなよ。いくら覚醒したとはいえ、亜神相手ではまだ荷が重いはずだ」
オニバルの弟子として修行を積んできたタクミが、鋭い眼光で頷いた。
「畏まりました、ヒロト陛下! 一日も早く進化を果たし、戦力となれるよう全力を尽くします!」
ハーミアもまた、黒い誓いの色を瞳に宿して深々と頭を下げた。
「はい、お申し付けの通りに。この命に代えても成果を挙げてみせます」
最後に、敵の牙城である『夸父』に対抗する本命の戦力を喚び出す。
悪魔ボティスのリザルド、剣聖たる悪魔キマリスのオニバル、悪魔サブナックのライゴー、悪魔ヴィネのライカの四人を一気に召喚した。
リザルドはギラギラとした狂気を爆発させ、大剣を肩に担ぎ上げた。
「ハハハッ! 待ちかねたぞ! あの図体のデカい巨人は俺に任せろッ!」
オニバルは静かに腰の刀に手を当て、冷静に佇む。
「……あのような暴虐、許しはしません。必ずや『夸父』を討ち取ってご覧に入れます」
初陣となるライゴーは拳を握り締め、力強く意気込んだ。
「主上のご期待に応えられるよう、持てる力を全て出し切って暴れてみせます!」
ライカもまた艶やかな笑みを浮かべ、指先から魔力を滾らせた。
「ふふ、進化によって得た我が新たなる力を、とくとご覧くださいませ」
俺は四人の頼もしい背中を見つめ、オニバルに指示を出した。
「オニバル、夸父を討ち倒して龍脈を奪還できたらすぐに念話で連絡をくれ。龍脈はハクの四霊獣結界で即座に封印する」
「御意にございます、主上」
「よし、みんな頼んだぞ!」
竜王ドラシルの守る龍脈の戦況も気にかかる。俺は一刻も早く城へ戻って指揮を執るため、転移魔法を発動して樹海帝国皇帝城のいつものリビングへと舞い戻った。
◇
戦場では、まずアンナが放った翅蟻の大爆発的な大群が、津波となって魑魅魍魎の群れへと呑み込んでいた。
一見するとただの黒い煙のように見える大群だが、その実態は恐ろしい殺戮兵器だ。一匹一匹は小指ほども御せない小さな魔物である翅蟻だが、その顎と牙は信じがたいほど鋭利で強靭。
「ギシャシャシャシャッ!」
黒い煙に包み込まれた魑魅魍魎たちは、次の瞬間には凄惨な悲鳴を上げることとなった。
翅蟻どもは群がり、相手の全身にへばりつくと、凄まじい速度で肉を噛み千切り始める。
顔を、目を、鼻を、頬を削り取るように噛み千切る。
首を、胸を、腹を、手足を、皮膚ごと肉を削ぎ落とすように噛み千切る。
「グギャァァァッ!? ガ、ガアァァァッ!?」
どれほど巨大な魔獣であろうと、全身に何百万という猛烈な激痛が走り、無数の小さな傷口から血が吹き出す。
黒い煙が通り過ぎた後に残されていたのは、両目を潰され、鼻や唇を失って絶叫することすら叶わず、もはや立つことすらできずに地べたを蠢く『かつて魑魅魍魎だった塊』であった。辛うじて息をしているだけの肉の残骸だ。
その直後、整然と進軍してきたゴブリンとオーガの重装歩兵部隊が、魔剣を一閃させてそれらの留めを無慈悲に刺していく。
あまりの圧倒的な光景に、前線を率いるゴブリンキングのゴブ1すらも、苦笑いを浮かべながら剣の血を払った。
「おいおい……これじゃあ戦いっていうより、ただの作業だな。翅蟻が進む方向へ突っ込んでも獲物が残ってねえぞ! 全員、翅蟻の黒煙が向かうルートを避けて左右から迂回して進軍しろ!」
翅蟻の群れは、一直線に龍脈の深部へと猛烈な勢いで突き進んでいく。その後に続く黒い鎧の軍勢もまた、凄惨な蹂躙の行進を加速させるのであった。




