第396話 【覚醒の誓いと決戦の陣容!】暴かれた過ちに泣いた勇者ハーミアの再起!異界の猛者たちと挑む龍脈奪還の全軍出撃!
蜂の亜神ペナンガルである妻のビーと、キラーアントエンプレスの妻アンナが出撃の意思を力強く示してくれる中、リビングの奥から一人の女性が静かに歩み寄ってきた。
コボミだ。
コボミは元々コボルトであったが、厳しい研鑽を経て神獣『麒麟』へと覚醒を果たした俺の愛する后妃の一人である。現在は俺との子を身ごもっている最中であり、普段は温厚で穏やかな彼女だが、珍しく決意を秘めた真剣な眼差しをこちらへ向けていた。彼女はコボ1やコボ2の妹であり、コボ4やコボ5の姉でもある。
「ヒロト陛下……少々、よろしいでしょうか?」
「ん? いいよ、コボミ。どうしたんだい?」
彼女からこのような直接的な進言や提案をしてくるのは珍しい。俺が問いかけると、コボミはしっかりと頷いて言葉を続けた。
「コボ1兄さんと、ゴブ1、オク1、オガ1から私に強い伝言があったのです。『我らにはそれぞれ無数の眷属と配下の兵がおります。数の戦いであれば、いつでも、どこへでも出撃いたします!』と、息巻いておりました」
「なるほど……そうだったか」
思わず感心してしまう。
コボ1は樹海帝国に存在するコボルト族のほぼ全てを自らの眷属として率いている。そしてゴブ1はゴブリン族を、オク1はオーク族を、オガ1はオーガ族の膨大な大軍勢を束ねる絶対的な指導者だ。
通常、大勢の兵士を徒歩で戦場へ行軍させようとすれば、莫大な移動時間と兵糧がかかる。しかし、主たる者が転移魔法で現地へ一瞬で跳び、現地で一気に『眷属召喚』を発動して配下を召喚すれば、驚異的な電撃展開が可能となるのだ。だからこそ普段は、膨大な眷属召喚能力を持つ幹部を前線へ送るのが最善の策なのだが……。
コボルト、ゴブリン、オーク、オーガの帝国正規軍を投入するのも、確かに選択肢としては大いにアリだ。
だが、俺は少し眉をひそめて懸念を口にした。
「でもさ、彼らはそれぞれ樹海帝国で暮らす大切な国民でもあるだろ? いくら軍勢とはいえ、大戦争となれば当然、犠牲だって出る。軽々しく送るわけにはいかないよ」
俺の言葉を聞いた瞬間、コボミはくすりと優しく微笑み、首を振った。
「ふふ、陛下は何をおっしゃいますか。この帝国がまだ小さかった頃、真っ先に血を流して戦ってきたのは私たちです。あの頃から全員が戦士として戦うために厳しい修行を重ね、狩りの迷宮で血反吐を吐きながらレベルを上げ続けてまいりました。さらに現在の帝国軍は、帝国が誇る最高峰のアダマンタイト製フルプレートアーマーを全身に纏い、強力な魔剣で武装しておりますのよ? 一人ひとりが一騎当千の猛者です。準備などとっくに完了しておりますわ。『今この国家の危機に出撃しないで、いつ戦うというのですか!』と、コボ1兄さんが熱く語っておりました」
なるほどな……。先ほど風伯が戦神『蚩尤』の完全復活を宣言した胸糞悪い映像を念話で全幹部に共有してしまったから、帝国中の血気盛んな者たちが一気に触発されて燃え上がってしまったらしい。
すると横から、応龍のハクが可憐な顔をほころばせながら呆れたように付け加えた。
「そういえばヒロト様、リザルド父さんも念話で『俺も行かせろぉ! 強い奴と戦わせろぉ!』って激しく叫んでおりましたよ」
「あいつ……相変わらずの戦闘狂義理父だなあ」
思わず苦笑いが漏れてしまう。
古竜の山脈の龍脈を占領した、古の戦神『蚩尤』の軍勢。
そこから溢れ出る無数の魑魅魍魎と、竜を生きながら貪り喰らう怪力無双の巨神『夸父』。その圧倒的な暴虐の前に手が出せず、古竜ドライマは固まって監視するのが精一杯の状況だ。
だからこそ、念話で俺に泣きついてきたわけだが……風伯の宣戦布告を見た配下たちが、こうして自ら出撃を志願してくれるのは実に頼もしい限りだ。
よし、腹は決まった。
出撃メンバーを選抜する。数で押し潰してくる魑魅魍魎に対し、まずはゴブ1率いるゴブリン軍団、オガ1率いるオーガ軍団、そして戦闘狂の悪魔ボティスことリザルドを投入する。
さらに、強力なキラーアントの大軍勢を率いる后妃アンナ。
そして……ここ一番の局面で絶対的な頼りになる剣聖、悪魔キマリスのオニバルだ。
せっかくなら、この前進化したばかりの悪魔サブナックのライゴーと、悪魔ヴィネのライカも初陣として連れて行くとしよう。
俺が念話で選抜した面々へ出撃の通達を出していると、オニバルから思念が返ってきた。
(主上。今回の古竜の山脈への出撃、我が弟子であるタクミにも出撃の許可をいただきたく存じます)
(タクミ……? 誰だったっけか?)
一瞬首を傾げると、オニバルは誇らしげに語った。
(ユイと一緒に日本からこの異世界へと召喚された勇者の一人でございます。現在、我が軍に在籍しておりますが、拙者の下で死線を超える凄まじい修行を重ねた結果、ついに『覚醒』の領域へと至りました)
(ああ! そういえばそんな奴もいたな! よし、分かった。実戦でどれほど育ったか見せてもらうとしよう。出撃を許可する)
覚醒勇者か……。
そう言えば『覚醒勇者』と言えば、あの偽りの正義に踊らされ、先ほど真実を知って精神を崩壊させて泣き崩れていたハーミアは今どうしているんだろうか?
確か、ステラド地域を守備するマシランの部隊に引き取らせたはずだが。
俺は即座にステラドを守るマシランへ念話を飛ばした。
(マシラン、今ステラドに覚醒勇者のハーミアはいるか?)
(はっ、ヒロト陛下! 風伯が姿を消した後、激しく困惑し泣き崩れていたハーミアを回収し、我が軍の保護下に置いております)
(そうか。奴は己の罪を反省している様子か?)
(反省……と申しますか、どのような心境かは分かりかねますが、引き取って以降は取り憑かれたように真面目になり、死に物狂いの凄惨な訓練を延々と続けております)
(そうか……ならば、今回の出撃に加えてみるか)
俺はリビングから転移魔法を発動し、一瞬でステラドのマシランの駐屯地へと移動した。
「マシラン、ハーミアをここへ呼べ」
「はっ! ただちに!」
マシランがすぐに奥からハーミアを連れてきた。
かつての傲慢な勇者の面影は消え失せ、髪は乱れ、全身傷だらけになりながらも、その瞳には鬼気迫る情念と暗い炎がメラメラと揺らめいていた。
俺は真っ直ぐにハーミアを見据えて問いかけた。
「ハーミア、お前は……あの『蚩尤』の軍勢と戦いたいか?」
ハーミアは勢いよく俺の前で膝をつき、地べたに頭を擦り付けながら血を吐くような声で叫んだ。
「もちろんですッ!! 私を騙し、無辜の民百万人を殺させ、私の人生と正義を玩具のように踏みにじった奴らを絶対に許せない……ッ! お願いですヒロト陛下、私に戦う機会をくださいッ! 奴らをこの手で殺せるなら、どうなったって構わないッ!」
「だが、今の貴様の実力では、蚩尤の配下である『風伯』や『雨師』といった亜神どもには束になってかかっても勝てないぞ。……だから、俺の『眷属』にしてやる。命を賭して戦い、さらなる進化を遂げ、蚩尤の亜神どもをその手で叩き潰してみせろ」
ハーミアは目を見開き、感極まったように震えた。
「あ……ありがとうございますッ! この恩、この命、全て捧げますッ!」
「いいか、俺の眷属になるということは、絶対的に俺の命令に従うということだ。二度と独断専行は許さん」
「はいッ! 喜んで誓いますッ!」
俺はハーミアの額に手をかざし、眷属化の契約と魔力を注ぎ込んだ。
ドクンッ……!!
漆黒と黄金が入り混じる膨大な魔力がハーミアの全身を駆け巡る。
「あぁぁぁ……ッ! この……この凄まじい力と感覚……! 全身から爆発的な力がみなぎってきます……ッ!」
ハーミアの瞳から暗い絶望が消え、圧倒的な忠誠と闘志の光が宿った。
「よし、準備は整ったな。——行くぞ、古竜の山脈へッ!」




