第395話 【古竜悲鳴と巨神の暴虐!】龍脈から湧き出る数万の魑魅魍魎!古竜を喰らう巨神夸父の絶対的暴力に立ち向かう大軍団結集!
「ヒロト陛下ぁぁぁ~~~ッ!! た、助けてくださいぃぃッ!! りゅ、龍脈がぁぁぁぁッ!!」
念話の向こうから、古竜ドライマの悲痛極まる叫びが響き渡る。
事情を聞けば、オーダン侯爵軍との大戦争が終結した後、古竜の山脈へ帰還したドライマたちを待っていたのは、信じがたい地獄の光景であったという。山脈の奥深くに眠る龍脈が、突如として出現した戦神『蚩尤』の勢力によって完全に占領されていたのだ。
さらに恐ろしいことに、奪われた龍脈からは、異世界の禍々しい邪気を纏った無数の『魑魅魍魎』どもが溢れ出し続けているという。
その先陣を切って山脈を埋め尽くしているのは、異形の魔獣『魑魅』の群れだ。
四足で駆け回るそれらは、精霊に近い異界の鳥獣たちが莫大な邪気を浴びて禍々しく変化した存在である。長年を生きた獣ゆえに邪悪な知性を備え、その顔面は憎悪、怨嗟、妬み、怒りといった負の感情を如実に浮かべ、まるで人の面貌のごとき不気味な表情を形作っている。そしてその本性は極めて残虐であり、生きた獲物を生きたまま貪り喰らう悪夢の食性を持っていた。
その種類は多種多様を極める。
熊、狼、山犬、山猫、猪、狐、狸、鹿、猿、烏、雉、鳩……。それだけに留まらず、蛇、蜥蜴、鰐、亀といった不気味な爬虫類、さらには蟷螂、蜘蛛、百足、蠍、大蛙といった凶悪な節足動物や両生類までもが、本来の大きさを何倍にも超える巨躯となって蠢いている。草食であったはずの鳥獣すらも血に飢え、狂ったように生肉を求めて牙を剥くグロテスクな大軍勢。
そして、その魑魅の群れに混じって進軍するのは、異形の鬼神『魍魎』の群れであった。
人間の背丈を遥かに超える巨躯に、血のように赤黒い皮膚。尖った耳と額から生え揃う二本の禍々しい角。筋骨隆々たる巨漢の鬼もいれば、亡者のように痩せこけた鬼、泥のように醜く太った鬼まで様々だ。
龍脈から滾々と湧き出る魔獣と鬼の軍勢は、すでに数万の領域を易々と突破し、なおもその数を増やす一方であった。
古竜の山脈を守る誇り高き竜たちも、初めは激しい炎のブレスや凄まじい爪牙の連撃で迎撃を試みた。しかし、倒しても倒しても底なしに押し寄せる魑魅魍魎の物量と邪気の前に、次第に防衛線を下げざるを得なくなっていたのだ。
そして——その凄惨極まる無数の軍勢を陣頭で指揮しているのは、一人の恐ろしい巨人であった。
名を『夸父』という。
頭部には二匹の毒蛇を飼い慣らし、両の丸太のような腕には太い大蛇が気味悪く絡みついている。精悍にして逞しく、鋼のごとき強靭な体躯を誇るその巨神は、底知れぬ無限の体力と怪力無双を誇っていた。
「ハハハハハッ! 進め進めッ! この世界の生き物どもを肉の一片まで喰らい尽くせぇッ!!」
夸父の怒号のような号令が響き渡ると、魑魅魍魎どもは歓声を上げて雪崩のように押し寄せる。
その暴虐に見かねた一匹の若い古竜が、猛然と滑空して夸父へと襲いかかった。凄まじい速度で繰り出された鋭い竜の爪!
だが——夸父は凶暴な笑みを浮かべると、迫る竜の右爪を右手で易々と受け止め、間髪入れずに左手で隣の爪を鷲掴みにした。
「ぬんッ!!」
バキバキバキッ! ドロリッ!
巨神が腕に力を込めた瞬間、圧倒的な力任せに竜の極厚な前脚が根元からへし折られ、引き裂かれた!
「グギャァァァァァッ!?」
悲鳴を上げる若い竜に対し、夸父の両腕に絡みついていた大蛇が弾丸のように飛び出し、竜の太い首筋へ噛みつくと、そのまま肉ごと喉笛を千切り取って丸呑みにした!
さらに誇り高き誇り高き巨神夸父自身も、引き裂いたばかりの新鮮な竜の腕をバリバリと咀嚼し、生きたまま喰らい始めたのだ。
「わははははッ! 素晴らしい! この世界の竜とやらは肉が引き締まっていて実に美味だなあッ!」
首と腕を失った若い竜は、激痛と恐怖に狂ったように泣き叫び、もがきながら必死に逃げ出そうとする。
しかし、夸父の絶大なる剛力がそれを許さない。
掴んだ腕を逃がさず引き寄せると、まるで熟した果実でも毟り取るかのように、生きながら竜の体をボキボキと千切っては口へと運んでいく。
やがて絶命し、動かなくなった竜の残骸を見下ろすと、夸父はつまらなさそうに吐き捨てた。
「けッ、つまらん! もう終わりか! 温い世界の蜥蜴めが!」
夸父が無造作に竜の死骸を背後へ投げ与えると、待ってましたとばかりに群がった魑魅魍魎どもが、悲鳴のような歓声を上げて竜の肉を貪り喰らい始めた。
その凄惨すぎる光景に、周囲の竜たちは恐怖に戦慄き、次第に後ずさりして距離を置くのが精一杯となっていた。
「……というような惨状なのですッ! お願いですヒロト陛下、どうかお助けくださいぃぃッ!」
ドライマからの悲鳴のような思念を聞き終え、俺はリビングで腕を組み、うーんと唸った。
「増え続ける無数の魑魅魍魎と、竜を生きたまま喰らう怪力無双の巨人かぁ……。数で対抗するなら、ビー、アンナ、デルガ、コボ2、スパあたりか……? ああ、バズも行けるな」
思わず独り言が口から漏れていたようだ。
頭の中で配下の能力を整理する。
まずは后妃であり妻の一人であるビー。
キラービーエンプレスから蜂の亜神ペナンガルへと進化を遂げた彼女は、強力なキラービーの軍勢を無限に召喚できるだけでなく、あらゆる昆虫族の魔物を従える絶対的な支配力を持つ。
同じく妻の一人であるアンナ。
キラーアントエンプレスである彼女は、獰猛なキラーアントの大群を召喚できるほか、空を埋め尽くす翅蟻の群れをも自在に召喚可能だ。
そして悪魔ビフロンスとなったデルガ公爵。
エルダーリッチだった遥か昔、闇の王と恐れられ、100万ものアンデッドを率いていた実績がある。悪魔となった今でも、その圧倒的なアンデッド召喚能力は健在のはずだ。
コボルトからケルベロスを経て悪魔ナベリウスに進化したコボ2。
眷属であるブラックドッグやヘルハウンドを召喚できるが……現在の眷属たちは樹海帝国全土に散らばって厳重な警備を担当している。ここでコボ2の眷属を総動員するのは、本拠地の防衛上さすがに不味いな。
アラクネエンプレスから大悪魔バエルに進化したスパ。
フォレストスパイダーやキラースパイダー、アラクネといった蜘蛛系魔物を召喚できるが、彼女の小蜘蛛たちは大陸全土の情報収集を担う最高重要機関だ。スパを前線へ出すのはNGだろう。
最後に魔神パズズであるバズ。
彼は空を覆い尽くすほどの凶悪な飛蝗の群れを召喚し、敵を喰らい尽くすことができる。
俺が戦術を練り上げていると、リビングの扉が開き、凛とした表情のビーとアンナが前に進み出てきた。
蜂の亜神ペナンガルとしての美しくも妖艶な気を纏ったビーが、力強く胸に手を当てる。
「ヒロト様、お任せくださいませ。いつでも我が蜂の軍勢を率いて出撃いたしますよ」
続いてキラーアントエンプレスのアンナも、覚悟に満ちた瞳で俺を見つめ、力強く頷いた。
「私も準備は万全です、ヒロト様。あのような下品な魑魅魍魎ども、我が蟻の軍勢で一粒残さず噛み潰して差し上げます!」




