第394話 【終戦と新たなる巨大な影!】全戦線制覇と凶兆の襲来!龍脈を巡る古の戦神蚩尤軍団との暗雲立ち込める全面戦争へ!
激動の渦が一旦去り、暴風が吹き抜けた戦場に静寂が戻ってきた。
風伯が遺していった戦神『蚩尤』の降臨という衝撃的な宣戦布告。俺は一息つくと、混乱する頭を即座に切り替え、まずは大陸全土で展開されていた合戦の状況を把握することにした。
俺は念話を開き、別戦線で奮闘していた二人の将へ声を送る。
(デステル伯爵、デルガ公爵。そちらのベヒモスをはじめとする巨大魔獣の群れとの戦況はどうなっている?)
問いかけた直後、目の前の空間がぐにゃりと歪み、転移魔法の光と共に堕天使サリエルのデステル伯爵と、悪魔ビフロンスのデルガ公爵が姿を現した。二人の身上には返り血と激戦の余韻が漂っている。
デステル伯爵は優雅に恭しく頭を下げた。
「お召しにより参上いたしました、主上。ベヒモスどもは一頭残らず解体し、その超希少な素材は大漁に確保しております」
続いてデルガ公爵が、厳かな重低音で報告を引き継ぐ。
「ベヒモス以外の取り巻きの魔獣どもは、主戦力を潰されて完全に瓦解・撤退いたしました。仕留めきれずに逃げ去った巨大魔獣も多数おりますが、軍としての体はなしておりません」
「そうか……ということは、こちらの南の王国軍および魔獣群との大戦争は終結したのだな?」
俺の確認に、デルガ公爵は力強く胸を張って頷いた。
「ハッ! 我が樹海帝国軍の完全なる大勝利にて終結いたしました」
「そうか、ありがとう。二人とも本当にご苦労だったな」
互いの労をねぎらった後、俺は続いて、タキーダ辺境伯軍の迎撃に向かっていた悪魔ナベリウスのコボ2と、悪魔ボティスのリザルドへ念話を繋いだ。
(コボ2、リザルド。タキーダ辺境伯軍および巨人族との戦況はどうだ?)
すかさずコボ2の、やや疲れの混じった念話が返ってくる。
(ハッ! 敵の主戦力であった凶獣『窮奇』と引き連れてきた悪獣の群れは、何とかすべて討ち果たしました!)
(タキーダ辺境伯軍の本隊および巨人族の残党は、戦意を喪失して完全に撤退いたしました)
リザルドの冷静な報告が続くのと同時に、二人は空間を跳んで俺の目の前へと転移してきた。
リザルドは周囲の凄絶な破壊痕と、俺たちの緊迫した雰囲気を察し、鋭い眼光を走らせる。
「主上……こちらで何か不測の事態でも問題が発生いたしましたか?」
「ああ……スパ、先ほど現れた風伯の映像と音声を、念話共有で帝国幹部全員に情報共有してくれ」
俺の指示を受け、大悪魔バエルのスパが「御意に」と静かに頭を下げ、帝国全土の幹部ネットワークへと思念映像を送信し始める。
俺は改めて、全幹部へ向けて帝王としての思念を解き放った。
(樹海帝国幹部諸君、本当によくやってくれた。南の王国との全面戦争は、我が帝国の完全勝利をもって終結した。だが事態は急変した。今からスパに念話で映像を流してもらう。全員、一言一句漏らさず良く見て現在の危機的状況を正しく認識してくれ。……確認が終わった者から、全員一度樹海帝国へ戻るぞ!)
指示を終えた俺は、転移魔法を発動し、樹海帝国皇帝の城にあるいつものリビングへと一瞬で帰還した。
リビングへと足を踏み入れれば、待機していた愛する妻たちが一斉に出迎えてくれる。
応龍のハク、麒麟のコボミ、鳳凰のハピ、霊亀のリザ。
帝国の絶対的な守護柱である『四霊獣』の四人が、真剣な面持ちで揃って俺の元へと駆け寄ってきた。
長であるハクが、流麗な髪を揺らしながら急を告げる。
「ヒロト様、おかえりなさいませ! ……実は先ほど、何者かがウィーラの管理する龍脈に対して不審な急襲攻撃を仕掛けてまいりました。幸いにも我が四霊獣結界を突破できず、敵は早々に逃げ帰りましたが……先ほどスパ様から共有された映像の『蚩尤』の勢力と深い関係があるかもしれません」
「何だって!? 一体どんな奴が龍脈を狙ってきたんだ?」
俺が眉をひそめて問うと、ハクは美しい瞳を細めて回想するように語った。
「凄まじい濁流と水の魔法を自在に操る、人の形をした亜神でございました」
「名前は名乗っていたかい?」
「いいえ、名前までは名乗りませんでした」
「そうか……」
思考を巡らせる。間違いなく、先ほど復活した戦神『蚩尤』の配下の一人だろう。
水の魔法を自在に使う亜神か……。
すると、横で腕を組んで思案していた悪魔ベルフェゴルのサクラが、ポツリと口を開いた。
「ハクの話とさっきの風伯の映像を照らし合わせる限り、その襲来してきた亜神の正体は……多分『雨師』ね」
「雨師?」
俺が聞き返すと、サクラは人差し指を立てて詳しく説明してくれた。
「ええ。日本の神話で言うところの風神と雷神に匹敵する、古代中国の著名な神様よ。風を司る神『風伯』と、雨を司る神『雨師』は常にペアで扱われることが多いの」
「ほう……なるほどな。……ちなみにサクラ、中国の神話には雷神のポジションはいないのか?」
「いるわよ。『雷公』と『電母』という、雷と稲妻を司る夫婦の神様がいるわ」
「ふむぅ……蚩尤に風伯、雨師、雷公、電母か……。とんでもない神話級の神々が勢揃いだな」
俺たちが今後の対策について思案を深めていた、まさにその時であった。
(ヒロト陛下ぁぁぁッ!! 大変ですッ!! 竜王の龍脈が敵に奪われましたッ!!)
脳内に直接、竜王ドラシルからの切迫した悲鳴のような念話が飛び込んできた!
竜王の龍脈……!? そうか、竜王が根城にしているあの広大な山脈にも龍脈が存在していたのか!
(ドラシル、落ち着け! 一体誰に奪われたんだ!?)
(強烈な雷の魔法を自在に操る亜神ですッ! 圧倒的な雷撃で龍脈の防衛陣形を破られましたッ!)
(今、現地はどうなっている!?)
(その雷の亜神とその部下たちの軍勢に対し、我々竜族の総力を挙げて死闘を繰り広げている最中ですッ!)
(くそっ、ちょっと待ってろ!)
俺は一旦ドラシルとの念話を保留にし、隣にいるサクラへ鋭い視線を向けた。
「サクラ! この大陸に、他に龍脈が存在する場所はどこだ!?」
サクラは記憶を高速で反芻し、指を折り曲げながら答える。
「ええっと……シルミルの召喚の間が龍脈の巨大な結節点と繋がっていたはずよ。あとは古竜の山脈。それから、今回滅んだ南の王国の地下にも存在する可能性があるわね」
「シルミルの召喚の間と、古竜の山脈か……!」
俺は即座に意識を切り替え、召喚の間を守護しているシレオマへ念話を飛ばそうとした。
しかしその前に、横にいたハクが優しく微笑みながら静かに首を振った。
「ヒロト様、ご安心ください。召喚の間にも私の分身体と四霊獣結界を極厚に張り巡らせて封印してあります。今のところ敵の侵入も異常も感知しておりません。大丈夫ですよ」
「あ、そうだったね。ハクの手配は完璧だったな」
念話の向こうから、シレオマの安堵した声も届く。
(ハク様の結界のおかげで、召喚の間周辺は何の問題もなさそうです)
(助かった、ありがとう。……敵の狙いはどうやら大陸中に眠る『龍脈』そのもののようだ。いつどこで襲撃があってもおかしくない。警戒を極限まで強めてくれ)
(承知いたしました!)
シレオマとの念話を終え、俺は息をつく間もなく、最後の拠点である古竜の山脈を守るドライマへ念話を繋ごうとした。
(ドライマ! 古竜の山脈の状況は……)
最後まで状況を確認し終える前に——念話の向こうから、情けない泣き声が爆音で響き渡った。
(ヒロト陛下ぁぁぁ~~~ッ!! た、助けてくださいぃぃッ!! りゅ、龍脈がぁぁぁぁッ!!)




