第392話 【至高の聖槍下賜と勇者落涙!】覚醒スクルド&悪魔ベリトの絶望砕く双撃!凶獣コントン追い詰める極大連携!
俺とヴァンスが前線で言葉を交わし、膝をついた凶獣『渾沌』への追撃体制を整えようとしたその時であった。
バサッと聖なる翼を羽ばたかせ、上空から一線の光となって舞い降ろしてきた者がいた。先ほど全速力で退却したはずのヴァルキリーの長、スクルドである。
スクルドは俺の目の前に激しく着地すると、鎧の膝を泥に突き、切迫した表情で頭を深々と下げた。
「す、申し訳ございません……! 遠方より、陛下が解き放たれた神通力の一撃と、あの恐ろしい『渾沌』へ攻撃を通した凄絶な光景を拝見させていただきました! ……陛下、どうか、どうかこのスクルドをあなたの眷属にしてくださいッ! 私の手で、私たちの親を食らい、同胞を狂わせたあの仇を討ちたいのです!」
目の前で覚悟を煮詰めた顔で見つめてくるスクルドの真摯な眼差しを受け、俺は一度顎をさすった。
「なるほどな……仇を討ちたいというお前の強い気持ちはよく分かる。だが、一度俺の眷属になれば、この先の生涯すべてを俺の配下として捧げてもらうことになるぞ。引き返すことはできん。本当にその覚悟は出来ているのか?」
俺の静かな問いかけに、スクルドは微塵の迷いもなく力強く頷いて見せた。
「何の何の問題もありません! 『渾沌』をこの手で無惨に討ち倒すことさえできれば、私の命も魂も惜しくはありません……! 私はそのために今日まで生きてきたのです! 討伐を果たした後は、この身と忠誠の全てを陛下に捧げると誓います!」
「……いい覚悟だ。分かった。——テイムッ!」
俺の手のひらから放たれた絶対的な主従の神光がスクルドの全身を包み込む。
その瞬間、スクルドの体内で眠っていた潜在能力が爆発的に覚醒し、背中の翼から溢れ出す聖なる気配が何倍にも跳ね上がった。
「お、おおおッ!? なに、この溢れ出る圧倒的な力は……!? 全身の細胞が組み替わるように、一気に力が満ちていきます……ッ!」
驚愕に目を見開くスクルドへ、俺は満足そうに口元を緩めた。
「ふっ、それが俺の眷属になった証だ。……そうだ、お前にはこの槍を『下賜』してやろう」
俺は亜空間ストレージであるアイテムボックスの虚無を開き、中に保管されていた極大の神威を放つ一本の凶悪な一本の槍を引き抜いて、スクルドの前へと突き立てた。
その名は——聖槍なんちゃって『ロンギヌスの槍』。
地球の神話伝承において、イエス・キリストの死を確認するためにその脇腹を刺したとされる絶対殺傷の伝説の槍である。
当然、そんな地球の神話の本物がこの異世界に存在するはずもない。
これは俺が率いる樹海帝国の最先端魔法技術と神級素材の粋を集め、完全なる「神殺し」の目的のためだけに鍛え上げさせた最高峰の超兵器なのだ。
槍身から漏れ出す圧倒的な絶対無効化の神気を目にしたスクルドは、震える両手でそれを受け取り、絶句した。
「こ、これは……ッ!? 息を呑むほどの絶対的な神威……まさに本物の聖槍……ッ!」
「そうだ。その聖槍の威力を以て、あの『渾沌』を完璧に屠ってみせろ」
「はっ! 陛下より賜りしこの聖槍にて、必ずや奴の首を挙げてご覧に入れますッ!」
スクルドが歓喜と忠義に震えながら頭を下げたその時、横から悲痛な声を上げて俺の前に滑り込むように跪いた者がいた。
根元からへし折れた聖剣を抱え、ボロボロになった勇者ハーミアである。
「ひ、ヒロト陛下ッ! 私も……私をもあなたの眷属にしてくださいッ! そしてあの凶獣『渾沌』を倒すための、圧倒的な力を私にくださいッ! お願いしますッ!」
ハーミアはすがるような涙目で俺を見上げて懇願してきた。
だが、俺は一秒の躊躇もなく、冷ややかに言い放った。
「断る!」
「えぇぇぇッ!? な、なんでですかッ!? 今の流れって、『はぁ……しょうがないなぁ』とか言いながら、私を眷属に引き入れて超凄い聖剣とかをプレゼントしてくれる約束のパターンじゃないんですか!? ここで私が『渾沌』を倒して手柄を立てないと、勇者としての私の伝説が成り立たないんですよッ!?」
ハーミアが悲鳴のような抗議の声を上げるが、俺は冷めた視線を送るだけだ。
「そんなお前の都合なんて知らん。そもそもお前たち人間側から見れば、俺は世界を滅ぼす魔王で、すべての悪の根源なんでしょ? どの面下げてその悪の根源に平然とお願いごとをしてるんだか。言っておくが、お前が裏で言ってたこともやってたことも、俺は全部見てたからな。それに……お前は元々俺の眷属だったのに、あまりにも礼儀作法がなってないし調子に乗るから、俺に愛想を尽かされて眷属をクビになった立場だろうが。少しは反省して、大人しくそこで指を咥えて見てなさい」
「ふぇ……ふぇぇぇぇぇんッ!! あんまりですうううッ!」
完全に論破され、にべもなく突っぱねられたハーミアは、地べたにへたり込んで子供のようにおいおいと泣き出した。
俺は情けなく泣き叫ぶ勇者を完全に無視し、赤いスレイプニルに跨がる悪魔ベリトのヴァンスの方へと向き直る。
「ヴァンス、俺と『渾沌』が戦っていた時の光景と、障壁を破ったカラクリは見ていたかい?」
ヴァンスは至高の悪魔らしい優雅な動作で胸に手を当て、力強く胸を張った。
「はい、念話の共有映像でバッチリと観察させていただいておりました。物理攻撃と魔法攻撃の完全同時着弾……隙はありません」
「なら俺から言うことは何もないな。新しく眷属になったスクルドと完璧に息を合わせて、あの『渾沌』をボコボコにしてやってくれ」
「ははっ! 謹んでお言命、拝領いたしました!」
その会話の最中、胸の深手を強引に暗黒の波動で塞ぎながら、凶獣『渾沌』が地響きと共にゆっくりと起き上がってきた。顔面の孔から撒き散らされる怒りの波動が、周囲の大気を激しく振動させる。
ヴァンスは背中の漆黒のドラゴン翼を大きく広げ、隣に立つスクルドへ視線を送った。
「スクルドと言ったな。お前はその下賜された聖槍を使い、あらゆる物理攻撃と突撃を担当しろ」
スクルドは聖槍『ロンギヌス』を力強く握り直し、凛とした声で応える。
「了解いたしました、ヴァンス殿! 物理の連撃は私にお任せを!」
「よし——行くぞッ!!」
二頭の神馬が駆け抜けるような爆音と共に、悪魔ベリトとなったヴァンスと、聖槍を抱いたスクルドが同時に天へと飛翔した!
ドォォォォンッ!!
スクルドが上空から光の超神速で突撃し、聖槍『ロンギヌス』による烈火のごとき突きと薙ぎ払いを怒涛の勢いで繰り出す!
そしてそれとコンマ一秒の狂いもなく完全同期させて、ヴァンスの手から凄絶な威力の悪魔の極大魔法が火を噴き、殺到した!
ドカァァァンッ! バンッ! ズドァァァンッ!
最初の数回こそ、互いの攻撃速度の微妙なズレによって『渾沌』の障壁に阻まれる場面もあった。しかし、凄まじい戦闘センスを持つ二人だけに、わずか数回の交戦で完璧な超連動の呼吸を掴み取っていく。
物理無効を選べばヴァンスの極大魔法が直撃して肉体を焼き削り、魔法無効に切り替えればスクルドの聖槍が深々と胸や腹を穿つ!
「グガァァァァッ!? ギギャァァァッ!?」
不可侵を誇っていた凶獣『渾沌』の悲鳴が戦場に響き渡る。
スクルドの聖槍が凶悪に突き刺さり、ヴァンスの漆黒の魔法が炸裂する度に、かつて世界を恐怖に陥れた四大凶獣の肉体は、みるみると無惨な傷口で切り刻まれ、絶望的な敗北へと追い詰められていくのだった。




