第391話 【無敵障壁の打破と真紅の悪魔!】神刀ムラマサとスラオの極大連携!復讐に燃える悪魔ベリトの乱入劇!
俺は神経を極限まで研ぎ澄ませながら、念話で背後のスラオと腰の神刀ムラマサへ意図を伝えた。
(スラオ、俺がムラマサで居合いの物理斬撃を放つ。お前はそれに寸分の狂いもなく、全く同じタイミングで最大級の魔法攻撃を叩き込んでくれ)
すかさず、亜神バアルゼブルにして大悪魔ベルゼブブのスラオから、冷徹で禍々しい声が頭の中に響く。
(了解いたしました、主上。我が持つ中で最も惨虐なる最凶の魔法を、引き裂く刃と共に放ちましょう)
(よし……いくぞ)
俺は右足を静かに半歩前へと踏み出し、腰を若干落とした。
両膝を柔らかく曲げ、左手を鞘に添えながら右腕で神刀ムラマサの柄を力強く握り込む。
全身の重心を後ろ足の爪先にそっと移動させ、神経という神経を集中。それでありながら筋肉の余計な力みは一切削ぎ落とし、流れる水のように軽くリラックスして脱力する。
対する凶獣『渾沌』は、こちらの異様なまでの気迫の膨れ上がりなど意に介さぬ様子で、ぬうっと巨躯を揺らして歩を進めてくる。
俺は一瞬たりとも居合の間合いを見誤らぬよう、微動だにせず、瞬き一つせずに渾沌の不気味な足元を注視し続けた。
そして——渾沌がゆっくりと足を踏み出し、俺の絶対不可侵の居合の間合いへと……完璧に入った。
「そこだッ!!」
電光石火の爆発的な踏み込み!
ギィンッ!!
鞘から引き抜かれたムラマサの刃が紫電の如く光を撒き散らし、空間を音もなく切り裂く。紫電一閃!
それと完全に重なる一瞬の狂いもない絶対のタイミングで、スラオの手から身の毛もよだつほど不気味で禍々しい漆黒の呪炎が解き放たれた!
暗黒の地獄の底よりも深く、触れた者の魂ごと消滅させる最凶の呪いの炎。
その二重の極大威力が殺到した瞬間、渾沌の周りの空間は、物理か魔法かの選択を迫られ、瞬時に透明な薄紫色へと切り替わった。
ボツゥンッ……!
スラオの放った漆黒の呪炎は、魔法攻撃無効の空間障壁に触れた瞬間に虚しくかき消えた。
しかし——!
「破れたなッ!!」
魔法を無効化する属性を選択したことで、物理無効の障壁を展開できなくなった渾沌の巨躯を、俺が放った神刀ムラマサの極限の斬撃が容赦なく一刀両断に切り裂いた!
ズザァァァンッ!!
間一髪、死の危険を察知した渾沌が狂ったように後方へ飛び退いたため、完全な真っ二つとまではいかなかった。だが、その胸元には骨に達するほどの深々とした横一線の傷が刻み込まれていた。
不思議なことに、血の一滴すら流れてはこない。傷口の奥には、ドロドロとした深淵の暗黒が渦巻いているだけだ。
出現以来、無敵の絶対障壁で一切の攻撃を受け付けなかった渾沌の歩みが、ここで初めて完全に止まった。
ドスンッ……!
あまりの威力を受け止めきれず、渾沌は片膝を地面につき、巨躯を激しく震わせる。
そして、顔面にある口の位置に穿たれた深淵の闇の孔から、世界を呪うかのような苦痛に満ちた絶叫と呻き声が漏れ出した。
「グガァァァァ……ッ!?」
その惨状を見下ろしながら、俺は思わず感嘆の息を漏らした。
「スラオの呪炎の威力を恐れて、とっさに魔法無効を選んで俺の斬撃を受けたか。……それにしてもスラオ、あの漆黒の炎は一体何なんだ?」
背後に佇むスラオが、至高の笑みを浮かべて粛々と答える。
「我が主に捧ぐ最凶の魔法——『漆黒の呪炎』にございます。かすめるだけでも対象の魂を根こそぎ灼き尽くす至高の業火にございますよ」
「うはぁ……めちゃくちゃ怖い魔法だな。まあ何にせよ、これで奴の無敵障壁を通す攻略法が判明したぞ。これなら俺以外の眷属たちでも十分に倒せそうだな」
俺がそう呟くと、手に握る神刀ムラマサが、鞘の中でカチカチと不満そうに振動しながら脳内へ声を上げてきた。
(待て待て待てい主上ッ! スラオの『漆黒の呪炎』と俺のただの居合い斬りを並べて比べて、物理の方が威力が低いみたいに言われるのは納得がいかんぞ! あの漆黒の呪炎は超神話級の最凶魔法だ! 普通の居合斬りより魔法の方が圧倒的に殺傷能力が高いと判断されて防がれただけに決まってるだろ! 次は俺の真の必殺技『天之尾羽張』で勝負だッ!)
(はいはい、分かったから落ち着けって)
こうして、神刀ムラマサとスラオの完璧な同時連携攻撃によって、ついに凶獣『渾沌』を討ち破るための明確な手段が解明されたのだった。
『渾沌』は、自らの周囲に『物理攻撃無効』と『魔法攻撃無効』の二種類の特殊空間障壁を展開することができ、襲い来る攻撃の属性に応じてコンマゼロ秒でそれを瞬時に切り替えている。
だが、どれほど切り替えが速かろうと、物理攻撃と魔法攻撃を『完璧に完全同時』に叩き込めば、片方の防御しか選択できず、必ずもう片方の攻撃が素通りしてヒットするのだ。
俺、オニバル将軍、魔神バズ、そして唖然と立ち尽くす勇者ハーミアが、傷つき膝をつく『渾沌』を包囲して詰め寄る。
と、その時だった。
天を切り裂く爆音と共に、一騎の紅蓮の影が大空から疾風のごとく舞い降りてきた!
(ん……? あの威容は……あ! 吸血鬼真祖のヴァンスじゃないか! えぇっ、悪魔に進化してるよ!?)
真紅の豪華な礼装を纏い、ドラゴンの翼を羽ばたかせ、赤いスレイプニルに跨がった姿で降り立ったのは、悪魔ベリトへと覚醒を遂げたヴァンスであった。
ヴァンスは赤いスレイプニルから飛び降りると、立ち塞がるように手を挙げて俺へ直訴した。
「主上! ちょっと待ってください! 俺の大事な眷属たちが、あの『渾沌』の汚い狂気に弄ばれ、散々な目に遭わされました……! どうかこの手で、奴に眷属たちの鬱憤と仇を討たせてください! 俺はそのために、長年親しんだ吸血鬼の肉体を捨てて悪魔ベリトへと進化したのですッ!」
メラメラと怒りの炎を瞳に宿すヴァンスの並々ならぬ覚悟を見て、俺はニッコリと頷いた。
「分かった。ここはヴァンス、お前に任せるよ」
「感謝いたします、我が皇帝陛下ッ!」
ヴァンスが歓喜の叫びを上げる横で、神刀ムラマサが悲鳴のような叫び声を念話で叩き込んできた。
(えええぇぇッ!? 主上、俺とスラオの威信をかけた勝負はどうなるんだよッ!?)
(いやいや、ムラマサ。お前も知っての通り、次に『漆黒の呪炎』か『天之尾羽張』のどちらかがヒットしたら、あの傷ついた『渾沌』は一発でオーバーキルされて死んじゃうだろ? ヴァンスは相当怒ってるし、せっかくだから眷属の仇を自分自身の手で討たせてやろうよ。それにさ、眷属にトドメを刺させた方がレベル上がって経験値稼ぎになるじゃん)
(ぐぬぅぅぅ……理詰めで言われると何も返せん……ッ! だが次は絶対に俺の『天之尾羽張』を使わせてくれよなッ!)
不服そうに引き下がるムラマサを宥めつつ、俺たちは一歩下がり、覚醒を遂げた悪魔ベリト・ヴァンスの凄絶なる復讐劇の開幕を見守るのだった。




