第387話 【至高の居合と潰された野望!】断ち切られた絶対の聖剣!絶望の勇者ハーミアとオーダン追い詰める弾丸の裁き!
「オニバル将軍……貴方も、何か雰囲気が大きく変わられたようですね」
八本脚の凄絶な魔馬スレイプニルに跨がり、圧倒的な闇の圧力を発するオニバルを見据え、ハーミアは警戒を極限まで高めて聖剣エクスカリバーを中段に構え直した。
だが、彼女自身も未だ気づいていない。
悪魔へと進化を遂げる前のオークエンペラー時代のオニバル相手でさえ、今の覚醒したハーミアの武力では到底届かないということを。ましてや、悪魔キマリスへと至り『至高の剣神』として君臨する今のオニバル将軍には、髪の毛一本ほども歯が立つはずがないのだ。
オニバルの身から溢れ出る無制限の圧力が、重圧となって空間そのものを押し潰す。ハーミアは己の本能が鳴らす激しい警鐘に抗えず、思わずズルリと数歩後ずさった。
(ダメだ……正面から打ち合えば確実に殺される! ならば、全神力を注ぎ込んだ一撃で上空から一気に決める……ッ!)
ハーミアは地表を強く蹴り上げ、爆発的な跳躍で一気に雲を突き抜ける上空へと飛翔した。
オニバルの頭上真上にて、彼女は光の翼を激しく輝かせ、全霊の聖光を聖剣の刃先へと集約していく。
『ホーリーアルテマボム』の完全解放体制だ。
遠くからその光景を観測していた俺の心の中に、ふと嫌な予感が過った。あの光の爆発を上空から直撃させられれば、周囲の地形ごと被害が広がるかもしれない。
聖剣の切っ先を一直線に真下のオニバルへと向け、ハーミアは重力と聖光の推進力を乗せて急降下を開始した。
「喰らいなさい……ッ! 『ホーリーアルテ——』」
その瞬間のことだった。
地上でスレイプニルの背に静かに跨がっていたオニバルが、腰に差した漆黒の日本刀の鯉口を、親指で僅かにカチリと斬った。
——シュンッ。
音すら置き去りにする、極限の居合抜刀。
オニバルは目にも留まらぬ一閃で、真上に向かって刀を振り抜いていた。
刃が空を切り裂く軌跡すら見えないまま、上空から降下していた勇者ハーミアの聖剣エクスカリバーが、切っ先から根元に向かって斜めに滑らかに切断されていた。
「な……ッ!?」
絶対の硬度を誇るはずの極上位の聖剣が、まるで豆腐でも切るかのように呆気なく切断されたのだ。予期せぬ衝撃と重量バランスの崩壊により、勇者の絶対奥義は発動を完全に阻まれ、ハーミアは悲鳴を上げる暇もなく無様に体勢を崩して大空から叩き落とされた。
ドカアァンッ!
樹海帝国軍が誇る剣聖・悪魔キマリスのオニバル将軍と、魔神パズズのバズの二人を相手回し、完全に絶望的な劣勢に追い込まれた勇者ハーミア。
最後の希望であった勇者最大の奥義をもって戦況の打破を試みたものの、自慢の聖剣を粉砕されて無残に落下した彼女に対し、オニバルは一歩踏み込むと、容赦のない蹴り脚をその胴体へ叩き込んだ。
バキィッ!!
「ぐあぁぁぁッ!?」
衝撃波と共に地表を何重にも転がり、泥に塗れるハーミア。
しかし、彼女は自身の体の激痛よりも、手に残された『無惨な残骸』を見て完全に正気を失ったように叫んだ。
「せ、聖剣が……! 私の……人類の希望である聖剣エクスカリバーがぁぁぁぁぁあああッ!?」
手元に残った柄だけの刀身を見つめ、ハーミアは茫然自失として愕然の表情を浮かべるのだった。
◇
その頃、オニバルとバズがハーミアを完璧に押さえ込んでいる隙を突き、ヴァルキリーのスクルドたちは怒涛の勢いで敵将オダーンの本陣へと迫っていた。
「オダーンッ!! 亡き我が同胞たちの無念、今ここで晴らしてやる! 覚悟しろッ!」
大空から滑空したスクルドは、槍の刃先に激しい雷撃を収束させ、オダーンの鎮座する豪華な幕営目掛けて極大の雷光を放った。
バチチチチッ!!
しかし、オダーンの本陣周りには即座に強固な防御結界が展開され、ドーム状の光の膜にスクルドの雷撃が弾け飛んだ。
結界の奥から、冷や汗を流しながらも必死に威圧を張るオダーンの怒号が響く。
「くそっ、スクルドか! 婚約者の王子の仇討ちのつもりか……ええい、者共! 奴らを生かして返すな! 押し潰せぇぇぇええッ!」
指示と共に本陣を覆っていた結界が解除され、オダーンを防衛するために控えていた屈強な近衛隊の戦士たちが一斉に押し寄せてきた。
近衛隊のの中には、翼を持つハーピーや有翼人の精鋭部隊も含まれており、空中にてスクルドたちと激しい激突が繰り広げられる。さらに飛べない地上の重装騎士や魔法兵たちは、地上から矢の雨や攻撃魔法の嵐をスクルドたちへ放ち、その進行を阻もうと必死の抵抗を試みていた。
「邪魔をするなッ!!」
スクルドの振るう長槍の先が閃光を描く度に、迫り来る近衛隊の戦士たちが首を跳ね飛ばされ、次々と撃ち落とされていく。
しかし、死を恐れぬ圧倒的な数の暴力の前に、なかなか本陣奥深くに隠れるオダーンの元へと辿り着くことができない。
その乱戦の様子を安全な後方から観察していたオダーンは、冷徹に舌打ちを漏らした。
「ふむ……ここまでか。ハーミアの奴も役に立たん。撤退するぞ!」
オダーンは手勢を見捨て、自らは素早く馬に跨がると、本陣の裏手から脱出を図って逃亡を開始した。
だが、スクルドはその狡猾な逃走劇を最初から完璧に織り込み済みだった。
「ここまで来て……この私から逃げ切れると思うなッ! ——ヒルド! 頼んだぞッ!!」
スクルドの鋭い叫びが戦場に響く。
ヴァルキリー隊の中で、ヒルドだけは乱戦に加わらず、密かに大きく迂回してオダーンの逃走経路である裏手に回り込んでいたのだ。
スクルドの想定通りの展開。もしオダーンが前線の混乱に乗じて逃亡を図った場合、確実に息の根を止めるため、スクルドはヒルドに樹海帝国から与えられた古代兵器『小銃』を預け、必殺の狙撃手を配置する手はずを整えていたのである。
岩陰から銃口を向けたヒルドの『小銃』が、鋭い火花を散らして火を吹いた。
スパァンッ!!
「ぐあッ……!?」
一瞬の乾いた破裂音と共に、遠距離から放たれた極大の貫通力を持つ弾丸が、馬上で逃走を図っていたオダーンの頭部を正確に貫通した。
頭を撃ち抜かれたオダーンは、凄まじい衝撃によって馬上から力なく崩れ落ち、泥の地面へと激しく叩きつけられる。
すかさずヒルドは引き金を連引し、容赦のない追撃の弾丸を連続して叩き込んだ。
ズドンッ! ズドンッ! ズドンッ!
ヒルドの放つ『小銃』の弾丸は、倒れ伏したオダーンの顔面、喉元、心臓、そして腹部を寸分の狂いもなく次々と貫いていく。
肉体を穿つ凶悪な銃声が響く度に、死体となったオダーンの身体は衝撃でビクンッと大きく跳ね上がった。
やがて、銃声が完全に止み、静寂が訪れる。
頭部と急所を完全に破壊されたオダーンは、二度と動くことのない無残な肉塊となり、その凶悪な野望と共に息絶えたのだった。




