第382話 【反逆の総力戦!】吸血鬼一族の参戦と精霊の天変地異!溢れる闇と光の大合唱で破滅するオダーン軍!
精霊王レイによる精霊たちの大召喚、そしてクログルの死霊大軍勢の乱入によって、それまで圧倒的だったオダーン軍との兵力差はみるみるうちに縮まっていった。
「よし……これで兵の数はかなり拮抗してきたな。だが、ここで一気に畳み込んで完全なトドメを刺すとしよう」
俺はさらに戦力を押し込むべく、直前までモリー公爵軍を相手に無双の活躍を見せてくれた精鋭たちを、この激戦区へ追加召喚した。
空間が大きく揺らぎ、姿を現したのは三人。
南の小国群最西部に位置するヴァンダール国を統べる吸血鬼真祖、ヴァンス伯爵。
ダンジョンマスターにして恐れられる魔神パズズのバズ。
そして、我が樹海帝国が誇る筆頭将軍であり、剣聖たる悪魔キマリスのオニバルだ。
俺は頼もしい三人の精鋭に向かって、ねぎらいの言葉をかけつつ指示を出した。
「ヴァンス、バズ、オニバル。激戦の直後で連戦になってしまって申し訳ないが、ここでもうひと暴れして力を貸してくれ」
その言葉に、漆黒の至高刀を抱えたオニバルが、威風堂々とした態度で深々と頭を下げた。
「滅相もございません、ヒロト陛下! 我ら全員、身も心も陛下に捧げた身。この命に代えましても、必ずや勝利を献上いたしましょう!」
続いて魔神パズズのバズも、禍々しくも力強い笑みを浮かべて頷く。
「承知いたしました。我が魔導の力、存分にふるってみせましょう」
すると、上品な貴族服に身を包んだ吸血鬼真祖のヴァンスが、顎に手を当てながら少し考え込むような仕草を見せた。
「了解いたしました、ヒロト様。……ところで、もし戦力不足を感じておられるのでしたら、私の眷属たちもここへお呼びいたしましょうか?」
「ん? あれ、ヴァンスもそんなに大量の眷属を持っていたのか?」
思わぬ提案に俺が首をかしげると、ヴァンスは当然と言わんばかりに優雅な笑みを深めた。
「ええ、私の治めるヴァンダール国の国民は、全員が私の血を受け継いだ愛しい眷属ですので」
「そうだったのか! いつもヴァンスとヴァール、ヴァイラの三人だけで凄まじい戦闘力を発揮して戦っていたから、彼女たち以外に眷属がいるなんて知らなかったよ。召喚できるなら、ぜひ頼む!」
「お任せください、ヒロト様! ――出よ、我が愛しき眷属たちよ!」
ヴァンスが右手を掲げて血のような紅い魔力を解き放つと、彼の背後に空間の裂け目が生じ、そこから次々と吸血鬼の軍勢が押し寄せてきた。
いつもの側近であるヴァールとヴァイラを筆頭に、洗練された漆黒の装束に身を包んだ吸血鬼の精鋭兵たちが、ずらりと整列する。
「ヒロト陛下! それでは出撃いたします。――真なる夜の同胞たちよ、行くぞッ!」
「「「おおおおおッ!!」」」
ヴァンスの号令一発、紅い目を妖しく光らせた吸血鬼の眷属たちは、コウモリのような翼を広げて大空へと舞い上がり、一直線にオダーン軍の陣営へと急降下していった。それに続くように、バズとオニバルも圧倒的な覇気を撒き散らしながら戦場の中央へと疾走していく。
その凄まじい激闘の光景を横目で見ながら、俺は苦笑いを浮かべた。
「……うーむ、ちょっと戦力を呼びすぎちゃったかな?」
すると、隣で優雅に佇む世界樹のレイが、可愛らしくくすくすと微笑んだ。
「いいじゃないですか、ヒロト様。勝ちに行くのでしたら、徹底的に、圧倒的に勝ちましょう?」
レイの頼もしすぎる後押しに俺が頷く中、混沌を極める戦場では、まさに「地獄の狂宴」が繰り広げられていた。
クログルが呼び寄せたアンデッド軍団が、オダーン軍の防衛線を次々と粉砕していく。
首無しの魔馬に跨がった重装騎士デュラハンが、無類の怪力で巨大な大剣を振り回し、迫り来る敵兵を馬体ごと一閃で叩き斬り、肉片に変えて跳ね飛ばす。
空中からはバンシーたちの凄絶な『死の悲鳴』が耳腔を突き刺すように響き渡り、それを聞いたオダーン軍の兵士たちは激しい眩暈と恐怖に襲われ、武器を落として戦意を喪失し、錯乱状態に陥っていく。
地表ではグールたちが不気味な紫の瞳を光らせ、圧倒的な身体能力で人間たちに飛びかかると、鋭い爪と牙で敵の身体を力任せに引き千切っていった。
さらに恐ろしいのはゾンビの群れだ。
剣で斬られようが、槍で身体を深々と貫通されようが、彼らはリミッターの解除された異常な筋力で前進を止めない。血走った眼光で肉体を削りながら敵にへばりつき、鋭い爪で押さえつけて首筋へ激しく噛み付く。そして噛みつかれた敵兵は、数秒も経たずに全身が黒く変色してゾンビ化し、直前まで味方だったはずの兵士たちへ牙を剥いて襲いかかるのだ。
重厚な包帯を巻き付けたマミーたちもまた、どんな攻撃を受けようとも意に介さず構わず前進。敵の武器を強靭な腕力で奪い取ると、その巨大な拳で敵の頭部を叩き潰し、掴んで遠くへ投げ飛ばしていく。
あまりの惨状に、先に戦場で奮闘していた樹海帝国軍のマシラン将軍は一瞬驚愕で目を見開いた。しかし、地獄の門の傍らで指揮を執るクログルの姿を確認するやいなや、即座に事態を察して全軍へ怒号の指示を飛ばした。
「全軍聴け! あのアンデッドたちはヒロト陛下の援軍だ! だが混戦になれば共闘は難しい! アンデッドたちがいない無人の領域へ速やかに移動し、敵の側面を叩けッ!」
マシランの格別な判断によって陣形が組み直される中、今度はアンデッドたちの頭上を通り抜けるようにして、色鮮やかな光を纏った精霊たちが大群を成して飛来した。
精霊たちもまた、アンデッドの腐臭漂う戦闘地域を自然と避け、オダーン軍の手薄な陣営へと容赦なく襲いかかる。
水の精霊ウンディーネ。
風の精霊シルフ。
土の精霊ノーム。
炎の精霊サラマンダー。
雷の精霊ボルト。
闇の精霊シェイド。
木の精霊ドリアード。
そして光の精霊ライト。
あらゆる属性を司る精霊たちが縦横無尽に大空を駆け巡るたび、戦場には超極小規模の「天変地異」が同時多発的に発生した!
ウンディーネが手を掲げれば、何もない空間から巨大な激流が溢れ出して敵陣を濁流で押し流す。
シルフが舞えば、切り裂くような暴風が吹き荒れて兵士たちを空高くまで巻き上げ、落下に叩きつける。
ノームが地を叩けば凄まじい局所地震が巻き起こり、敵兵は足場を失って転倒。そこへサラマンダーの解き放つ灼熱の炎が群れを包み込み、一瞬で灰燼へと変えていく。
空からはボルトの落とす苛烈な紫電の雷撃が直撃し、シェイドの生み出す漆黒の暗闇が視界を奪う。
さらにはドリアードが呼び寄せた太い樹木が地表から勢いよく生えて敵の全身をガチガチに拘束し、逃げ場を失ったところへライトの放つ圧倒的な閃光が網膜を焼き尽くす!
「ギャァァァァッ!?」
「ひ、ひぃぃっ! 水が、炎が……助けてくれぇぇっ!」
光と闇、そして自然の絶対的な狂威が渦巻く戦場は、完全に大混乱へと陥った。オダーン軍の兵士たちは陣形を維持することすら叶わず、なす術もなく次々と討ち取られていったのだった。




