第374話 【熱狂の激突!】災厄ベヒーモスの圧倒的脅威!四聖獣&四精鋭の超絶連携と不死身の闘志!
俺が急ぎ駆けつけたステラドの戦場は、一歩間違えれば防衛線が完全に崩壊し、帝国全土が焦土と化していてもおかしくない絶対絶命の窮地であった。
救援の遅れによって生じた壊滅の危機——それを繋ぎ止め、持ちこたえてくれたのは、他ならぬスクルドたちヴァルキリー部隊の決死の参戦だった。
「スクルド! 駆けつけてくれて本当にありがとう、助かったよ!」
俺の感謝の言葉に対し、上空で純白の翼を休ませていたスクルドは、どこか愛おしそうに、そして誇らしげに凛とした笑みを浮かべた。
「いえいえ、ヒロト様。お礼など勿体ないお言葉です。オダーン軍は樹海帝国のみならず、我々にとっても不倶戴天の敵。戦う理由は十分すぎますわ」
俺は力強く頷き、広大な戦場を見渡しながら指示を出した。
「大災厄ベヒーモスと、押し寄せる凶悪な魔獣の大群は俺たち樹海帝国の精鋭部隊が全て引き受ける。スクルドたちは、後方に控えるオダーンの本隊を叩いてくれ!」
それを聞いたスクルドは、戦意に満ちた美しくも凄絶な微笑をたたえた。
「そのお心遣い、感謝いたしますわ。……ヴァルキリーの戦士たちよ! 魔獣どもはヒロト様たちに任せ、我らは全軍をもって無道なるオダーン軍へ突撃する! 踏み荒らされた誇りを取り戻すのだッ!」
「「「オォォォォッ!!」」」
天空を埋め尽くすヴァルキリーたちが一斉に咆哮を上げ、魔獣たちとの激闘を樹海帝国の精鋭へ滑らかに引き継ぎながら、背後で構えるオダーン軍の本隊目掛けて白銀の疾風となって突き進んでいった。
そして戦場の中央では、絶望的な質量を誇る巨獣との死闘——ベヒーモス対樹海帝国軍の決戦が始まろうとしていた。
ボロボロになりながらベヒーモスの角を力任せに押し留めていた魔導ロボットの頭上へ、降り立った堕天使サリエルのデステル伯爵が声をかける。
「マシラン、良く頑張ったな。あとは我らに任せて下がれ」
コクピットのハッチを開け、荒い息を吐きながらマシラン将軍が答えた。
「デステル伯爵! 来るのが遅いですよ……! ですが、本当に助かりました。あとは頼みます!」
限界まで稼働していたマシランの魔導ロボットは、まさに満身創痍という言葉が相応しい状態だった。最高級金属アダマンタイトで形成された頑丈な装甲は、ベヒーモスの絶大な力を持つ角、破滅的な牙、そして強靭な爪によって至るところに穴が開き、削られ、無残に欠け落ちていた。
間一髪で前線を離脱したマシランの元へ、俺は速やかに駆けつける。
「マシラン! 救援が遅れて本当にすまなかった。命懸けで防衛線を持ちこたえさせてくれて、心から感謝する」
「陛下……! 温かいお言葉、勿体なく存じます。何とか凌げたのは、スクルド様たちヴァルキリー部隊の加勢があったおかげです」
「うむ。ヴァルキリーたちには手薄になったオダーン軍本隊の相手を任せた。マシラン軍と魔法兵団は、負傷者を下げつつスクルドたちの後方支援に回ってくれ」
「はっ! 承知いたしました!」
マシランは直ちに負傷し戦闘不能となった兵士たちを安全な後方へ撤退させ、なおも動ける者たちを再編してスクルドたちの援護へと指揮を執り始めた。
さて——問題の化け物、ベヒーモスの攻略だ。
マシランの魔導ロボットという重石が外れ、完全に自由となった超巨大魔獣ベヒーモスは、その破滅的な巨躯を激しく揺らし、地鳴りのような咆哮を轟かせて暴れ始めた。
あらゆる魔法を無効化し、物理攻撃すら寄せ付けない超硬度の皮膚。凶悪に研ぎ澄まされた巨角と、岩盤すら容易く噛み砕く鋭い牙と爪。
この災厄のごとき存在を迎え撃つのは、樹海帝国が誇る最精鋭たちだ。
まず、かつて不死王ルシーの紹介で帝国へ下り、元死神から覚醒を遂げて堕天使サリエルとなったデステル伯爵。不気味だった骸骨の顔は、神聖さと冷酷さを併せ持つ絶世の天使へと変貌している。艶やかな長い黒髪に、射抜くような真真紅の瞳。着ている黒いローブはそのままに、手足は人間としての肉体を取り戻し、黒い革手袋と黒いブーツを身に纏う。何より見る者を圧倒するのは、背から雄々に広がる三対六枚の漆黒の翼だ。その手には、あらゆる生命の魂を刈り取る死神の『大鎌』が禍々しく輝いていた。
次に、元蛇王国の精鋭であり、リザードマンから覚熟を経て悪魔ゼパルへと進化したリガント将軍。全身を真っ赤な悪魔の鎧で包み、背には一対二枚の赤き翼を羽ばたかせ、手にした巨大な赤い大剣を鋭い中段構えで構えている。
さらに、リガント将軍の息子であり、リザードマンエンペラーへ至ったリガール副将軍。右目は鋭い黒目、左目には魔眼が憑依していることで怪しく光る赤目のオッドアイだ。魔眼の飛行スキルによって悠然と宙を舞い、父譲りの大剣を上空で構え直す。
そして、ゴブリンエンペラーへと進化を遂げた小柄な闘神、ゴブ2副将軍。エンペラー種特有の常軌を逸した驚異的な身体能力で地表を蹴り、巨大な大剣を携えて頭上高く飛び上がっていた。
「グオォォォォンッ!」
四聖獣の一角である朱雀が上空から極大の炎を吐き出し、ベヒーモスの周囲一帯を白熱する火の海へと変える。しかし、ベヒーモスはその超絶的な熱量にすら一切動じることなく、極炎の渦を悠々と押し分けて前進を続けた。
そこへ、空中へ超高密度の跳躍を見せたゴブ2が、巨大な大剣を上段から一気に振り下ろす!
ドゴォォォンッ!
だが、ベヒーモスはその一撃を避けることすら試みず、圧倒的な速度で太い前足の爪を振るい、ゴブ2の身体を叩きふせた!
「ぐあっ……!?」
空中では姿勢制御にも限度がある。回避運動を取ることができなかったゴブ2の小さな身体に、ベヒーモスの巨大な爪がまともに直撃した。
凄まじい衝撃音とともに弾き飛ばされたゴブ2は、地面を何重にもバウンドしながら激しく激突する。手足はあらぬ方向へ折れ曲がり、胸元には爪による痛々しい深傷が刻まれ、激しい鮮血が大地を赤く染めた。
「ゴブ2ッ!?」
思わず叫びそうになった俺の目の前で、信じがたい光景が広がった。
折れ曲がっていたゴブ2の手足が、メリメリと不気味な音を立てて瞬時に元の位置へと組み直されていく! 深く切り裂かれた胸元の傷口からも、肉芽が爆発的な速度で盛り上がり、一瞬にして傷跡すら残さず治癒していったのだ。
これぞ、あらゆる種族の頂点に立つエンペラー種が保有する、怪物めいた『驚異的超回復力』!
立ち上がったゴブ2は血を吐き捨てると、不敵な笑みを浮かべて再び大剣を強く握り直したのだった。




